売買契約では、買主を保護するための「瑕疵担保責任」という概念があります。これは中古車の販売店のみならず、車を売却しようとする個人にも適用されます。
ここでは、瑕疵担保責任とは何なのか、中古車の売買にはどう関係してくるのか、万が一「瑕疵」がある車を売ってしまったらどうなるのかについて説明していきます。
また、瑕疵担保責任を悪用する悪徳業者への対策方法や自分が車を売る際に責任を問われないようにするための注意点も紹介します。
車の買取にかかる瑕疵担保責任について
売買契約をめぐる民法の法律用語で「瑕疵担保責任」というものがあります。現在は「契約不適合責任」という言葉に変わっていますが、大まかな意味は同じです。
以下では、この概念が車の売買契約においてどのように関係してくるのか詳しく解説していきます。
瑕疵担保責任について
まず、瑕疵担保責任という言葉の意味を解説していきます。
瑕疵担保責任は法律用語で、現在は「契約不適合責任」という言葉に取って代わられています。
車の売買契約書を取り交わす上で無視できない重要な概念なので、詳しく説明していきます。
もし売主がその欠陥について説明せずに車を売却したことによって買主が不利益を被った場合、売主にはその不利益を賠償する責任が生じるということになります。
「瑕疵」という言葉は、一般的には「傷や故障」を意味しますが、法律用語としては「品物の欠陥」のことを指します。
売買契約に基づいて購入した商品が購入後に瑕疵があると明らかになった場合、売った側は買った人に対して契約解除または損害賠償などの責任を負います。
日常生活でも購入した品物に傷や故障があれば、売った側が品物を交換するのはよくあることです。これは中古車の売買でも該当し、販売店が個人に車を売った場合も、また個人が中古車買取店に車を売却した場合も当てはまります。
ここまで「瑕疵」の意味を説明しましたが、瑕疵担保責任は品物を売った人が、その品物の瑕疵(欠陥など)について負う責任のことです。
売買時にその瑕疵の存在について黙っていたり、隠したりしていると、売り手は契約解除や損害賠償の責任を負います。
ただ、この「瑕疵担保責任」という言葉は、2020年4月の民法改正によって「契約不適合責任」に変わりました。大まかな意味は同じですが、当事者の負う責任の範囲なども若干変更されています。
もとの瑕疵担保責任の概念と比較しながら、契約不適合責任についても解説していきます。
瑕疵担保責任あるいは契約不適合責任の概念は、「買主」つまり品物を購入した人の権利や利益が守られるという点にあります。
売る側から欠陥(瑕疵)のある商品を売りつけられても、泣き寝入りにならないようにするための法的概念です。
安物であれば、多少の欠陥や不具合があってもあまり気にならないかもしれません。しかし、中古車のような大きい買い物の場合、欠陥・故障・不具合があれば修理のための時間や費用などの負担が大きくなります。
こうした損失が、瑕疵担保責任の概念によって守られるのです。
もともと、品物に欠陥(瑕疵)があれば、買主は契約解除や損害賠償を求めることが可能でした。しかし、瑕疵担保責任の概念が2020年4月に「契約不適合責任」に変わってからは、これに加えて追完請求や代金減額請求が可能となっています。
追完請求とは、分かりやすく言えば、欠陥品によって費やした損失を代替物などによって埋め合わせることを求めるものです。売った側がこれに応じなければ、代金減額請求も行えるという内容になっています。
ここまでの内容を踏まえて、改めて中古車買取における瑕疵担保責任あるいは契約不適合責任について解説します。
買取店が車を買い取った後に瑕疵(欠陥や不具合)を発見した場合、買取店は売主に対して契約解除や損害賠償を求めることができます。
つまり、車を売却しようとしている人が買取査定で安く見積もられるのを恐れて、その車の欠陥(瑕疵)について黙っていたり、嘘をついたりしたとします。それが買取後に発覚した場合、売主は瑕疵担保責任を問われることになるのです。
瑕疵担保責任が問われる場合、その瑕疵は買主が品物を購入するよりも前から存在していたことが条件になります。
当たり前の話ですが、買主が購入した後で、その品物を壊して傷などがついたとしても売主に責任はありません。
ただし、中古車売買の話で言えば、購入直後に故障した車の「故障の原因」になったものが購入前から存在したものだったかどうかが問題になることもあり、単純な話ではないことも多いです。
ちなみに、以前は売買契約の締結後から納車までの間に発生した瑕疵については責任が問われませんでした。しかし、瑕疵担保責任の概念が契約不適合責任の概念に変わったことで、その期間に発生した瑕疵についても売主が責任を負うことになりました。
瑕疵担保責任にも「時効」が存在します。
法律的な意味の時効とは、ある権利が行使されないまま一定の年月が経過した場合、その「権利が行使されていない状態」を正当な状態として認めるという考え方です。
一般的な「もう時効だから許される」という考え方とは少し異なります。
これを、瑕疵担保責任の概念に当てはめてみましょう。
欠陥商品を購入した買主が一定期間売主に対して損害賠償請求などを行わずにいると、「損害賠償を行っていない状態」が法的に正当な状態として認められるということになります。
より具体的には、買主が購入品に「瑕疵」があると知った時点から1年以内に損害賠償請求や契約解除をしなければ時効となります。また、買主が瑕疵の存在を知らないまま10年が過ぎても、やはり時効です。
ただし、瑕疵担保責任の概念が契約不適合責任に変わってからは少し変わりました。実際の損害賠償を行わなくとも、売主に対して1年以内に「通知」をしていれば、損害賠償や契約解除の手続きはその後でもいいこととなりました。
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瑕疵がある車を売却した場合はどうなる?
ここまでで、瑕疵担保責任という概念の意味と、中古車売買にどのように関係するのかを解説してきました。
次に、「瑕疵」がある車を買取業者に売却してしまったケースについて、その瑕疵の存在を知っていた場合とそうでない場合に分けて見ていきましょう。
車に「瑕疵」があることを知らずに売却した場合、これまでは売り手が瑕疵担保責任を負うとされてきました。
この条件はかなり厳しく、その瑕疵の存在を知っていたかどうかに関わらず責任を負わされる「無過失責任」が原則だったのです。
このことから、瑕疵担保責任は怖いルールだという認識が長らく根付いていました。
例えば、中古で購入した車を売却したら、前の持ち主が起こした事故によって故障が発生したという場合でも責任を負わされてしまうということです。
しかし、2020年4月の法改正で瑕疵担保責任が契約不適合責任に変わってから、その内容も変わりました。
現在、売主が責任を負うのは納品するまでの間に売主が知っていた瑕疵(欠陥など)に限るとされています。そのため、現状では上述の例の場合だと、車の売主は前の持ち主が起こした事故を原因とする故障については責任を負わないことになります。
車に瑕疵があることを知っていて売却した場合、売主は買主に対して瑕疵を隠して販売したとして瑕疵担保責任を負うことになります。
これは、瑕疵についてあえて黙っていた場合も「瑕疵はない」と嘘をついた場合も同様です。
また、新設された契約不適合責任では、買主の利益の保護がさらに強くなっていると同時に売主の責任もまた重くなっています。損害賠償請求や契約解除の他に、追完請求や代金減額請求も求められることがあります。
瑕疵担保責任をめぐるトラブルと対策について
ここからは、瑕疵担保責任をめぐるトラブルの事例やその対策について、主に販売店から個人が購入したケースを例に挙げて解説していきます。
トラブルの実例としては、購入直後から不具合が頻繁に起きていて、いくら修理しても直らない、といったケースが挙げられます。
特に、従来は買主が「契約の目的を達成できない」ことを要件として瑕疵担保責任が問われていましたが、契約不適合責任の観点では「そもそも契約内容に適合しない」と認められることで責任を問われます。
この他のトラブルの実例としては多岐に渡り、車の走行距離の詐欺や隠された事故歴、故障の隠蔽などです。
「4WDと聞いて購入したが実際には2WDだった」といったケースも該当します。
車の買取に関しては悪質な業者も存在します。
例えば、一度は買取査定を行って買い取った車を、後になってから欠陥が見つかったとして減額してくるケースです。
こうした場合に業者側が盾に取るのが、売主が責任を負う瑕疵担保責任(契約不適合責任)です。
他には、車を売却して何カ月も経ってから、瑕疵が見つかったからと契約の解除を求めてくるようなケースもあります。買い取った車が期待した価格で売れないと分かったため、難癖をつけて返してしまおうというわけです。
悪徳業者から身を守るためには、消費者契約法が役立ちます。同法の第10条は、消費者(買主)の利益を一方的に害する条項は無効としています。
もしも契約書に売主の過失の有無に関係なく、一方的に契約を解除できるような文言があればそれが該当します。
そのため、瑕疵担保責任や契約不適合責任を盾にして契約解除を主張してくる業者に遭遇したら、この法律を根拠に反論することをまず考えましょう。後は弁護士などに相談するのが一番です。
瑕疵担保責任をめぐるトラブルに巻き込まれた場合は、消費者センターや国民生活センター、日本自動車購入協会の「JPUC車売却消費者相談室」などにどう解決すればいいか相談しましょう。
これらの機関では、消費者トラブルなどの相談を受け付けています。また、電話相談だけでは具体的な解決策が見えてこないようであれば、売買契約書などを用意して法テラスや弁護士などに相談するのも選択肢の一つです。
瑕疵担保責任を問われないようにする方法について
ここまでで、瑕疵担保責任という法的概念が中古車売買のシーンでどのように関係してくるかを解説してきました。
最後に、車を買取業者に売却する際、売主が後で瑕疵担保責任を問われないようにするための方法について説明します。
車を売却するにあたって後で瑕疵担保責任を問われないようにするために、買取査定を受ける前に車の状態を事前にチェックしましょう。
注意すべき箇所は、エンジンルーム、タイヤ、ボディ、内装、走行距離、修復歴などです。
プロの査定士なら、素人が見ても気付かないような「瑕疵」にも、すぐに気付くでしょう。しかし、絶対とは言えないので、前もってこちらで車の状態をチェックしておき、査定時にきちんと情報提供することが大切です。
査定を受ける際、その車に故障や不具合など「瑕疵」にあたるものがあれば、隠したり嘘をついたりせずに全て伝えてください。
メンテナンスノートも用意し、過去のトラブルや修復歴も正直に申告しましょう。
瑕疵の存在を申告すると、査定額が下がりそうで抵抗があるかもしれません。しかし、軽い気持ちで隠してしまうと、後で損害賠償や契約解除、最悪の場合は訴訟沙汰に発展する可能性もあるので、注意しましょう。
中古車買取の手続きでは、売買契約が成立した段階で交付される契約書にも、しっかり目を通しておきましょう。
通常、契約書には瑕疵担保責任の範囲や期間、その他の重要な事項が明記されていますので、よく読んでからサインするようにしてください。
しかし、専門的な内容の長文を熟読して読み通すのは困難だと感じるかもしれません。その場合は、あらかじめ契約書の概要を調べておき、瑕疵担保責任も含めて重要だと思われる項目について、買取店の担当者から直接話を聞いて確認してもよいでしょう。
後で瑕疵担保責任を問われないように万全を期すなら、買取業者との会話を録音するという手もあります。
録音しておけば、約束事や説明内容が後で異なる場合に証拠として利用することができます。特に「言った・言わない」の問題に発展した場合に有効です。
ただし、プライバシーの問題でもある上、相手の了承を得ずに録音を行うことは違法行為となることがあります。くれぐれも盗聴行為はせず、録音する場合は事前に相手方の許可を得るようにしましょう。
悪徳業者を避けるためには、信頼できる買取店を選ぶことも大切です。口コミや実績、社会的信頼性などをポイントにして、買取店を探すとよいでしょう。
査定時の車の状態や契約書の内容は素人には分かりにくいので、査定から見積もりを提示するまでの間に、不明な点は気軽に尋ねられる業者だと信頼できます。回答をはぐらかしたり、早く契約するように迫ってきたりするような業者は避けましょう。
複数の業者に査定を依頼することも重要で、2社~5社程度の複数の買取店と並行して査定のやり取りを進めてましょう。その中からより信頼できそうで、なおかつ高値で買い取ってくれるところがあれば申し分ありません。
また、「JADRI」という団体に加盟しているかどうかを基準にして買取店を絞り込むのも有効です。JADRIに加盟している業者は、買取後の再査定を禁止しているので安心して利用できます。
万が一、瑕疵担保責任を問われた場合のために、クレームガード保証をつけておく方法もあります。
クレームガード保証とは、瑕疵担保責任に問われる事態になった場合に、売主が損害を受けないようにするための保証です。
この保証に加入していれば、車を売却した後のクレームに保証範囲内で対応してもらうことが可能となります。
取り扱っている買取業者は査定の際に加入をすすめてくることがあるので、売却する車の状態に不安があれば利用するとよいでしょう。
ただし、保証が適用される範囲には限りがあるので注意しましょう。加入前に保証となる対象の範囲や期間、補償内容についてきちんと確認しておくことが大切です。
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