この記事では、万が一の自動車事故に備えたい方へ向けて、車両保険における全損と分損の特徴や補償額の違いについて解説します。

補償額アップや保険料の節約に使える特約を何点か紹介するため、補償内容を最適化したい方はぜひ参考にしてください。

車の損傷具合により全損と分損に区別される

車両の状態は、損傷の規模と修理費用によって「全損」「分損」の2つに分れます。

全損は車両が激しく損傷して修理が難しい状態を意味し、分損は損傷が軽微で再走できる可能性が高い状態を意味しています。

全損と分損で事故後に負担する費用や車両保険の補償範囲が異なります。

事故後は車両を修理工場に持っていき、状態を判断してもらいましょう。

車の全損とは?

車の全損とは?
全損には「物理的全損」と「経済的全損」の2種類があります。全損と言っても、それぞれ状態が異なるため、事故後の処理をスムーズにできるように違いを知っておきましょう。

ここからは、車両事故における全損について紹介します。

物理的全損:修理不可能な損傷

物理的全損は、車両の損傷が激しく、修理が不可能と判断された状態のことです。

物理的全損になった車の対処方法としては、主に以下の3つが挙げられます。

  • 廃車手続きを行って処分する
  • 廃車買取業者に買い取ってもらう
  • 車両保険を使用して保険会社に車両を引き取ってもらう

保険会社によりますが、基本的に全損で車両保険を使用すると「車両の譲渡」が要件に含まれます。そのため、保険を使うなら廃車手続きは必要ありません。

保険を使用するにも関わらず、個人で先に廃車手続きや解体を行うと、保険の要件を満たせない場合があるので注意しましょう。

経済的全損:時価額を修理費用が上回る

経済的全損とは、修理費用が車両の価値を上回る状態のことです。

経済的全損になった車の対処方法としては、主に以下の4つが挙げられます。

  • 費用は高額だが修理に出す
  • 廃車手続きを行って処分する
  • 廃車買取業者に買い取ってもらう
  • 車両保険を使用して保険会社に車両を引き取ってもらう

経済的全損は修理する余地が残っているため、取れる選択肢は物理的全損より多くなります。

経済的全損で車両保険の使用を考えている場合、補償の上限額は特約の付帯がない限り「車両の時価額」が適用される点に注意が必要です。

時価額とは、事故当時の車両と同条件の車を購入するために必要な平均取引価格のことです。全額補償されるわけではないので覚えておきましょう。

車が盗難された場合も全損扱い

車両の盗難は物理的全損と同等の扱いです。したがって、車両保険の使用で車両の時価額分が補償されます。

盗難で全損と判断されるには、警察へ盗難届けを提出し、正式に盗難事件と認定されなければなりません。

また、盗難後に車両が発見されることがあります。既に車両保険の保険金を受け取っている場合、保険金を返却すれば車両の返却が可能です。

ただし、盗難車の取り扱いは保険会社ごとに異なるため、車両の返却を受け付けていない場合もあります。

車の分損とは?

車の分損とは?
分損とは、事故による損傷が軽微で修理費用が車両の価値におよばない状態のことです。

分損と判断された場合は修理にだして車両を復元しましょう。ただし、以下の点に注意しなければなりません。

  • 等級ダウンによって増える保険料の総額が補償額と同等の可能性がある
  • 修復歴が残る場合は車両価値が減少する
  • 保険の使用に免責金額が発生する

保険の使用時は事故内容に応じて等級が下がり、保険料が増加します。もし、保険料の増額分が修理費用を超える、または近い金額の場合は保険を使わないほうがよいでしょう。

また、修復歴が残る修理は将来車両を売却するときに査定額が減少する可能性があります。修復歴とは、車体の骨格パーツを修理した履歴のことです。修復歴は査定においてマイナス評価なため、買替えするときに不利になることを覚えておきましょう。

前述した「免責」とは、車両保険の使用時に事故の過失分を自己負担額として差し引かれる制度です。保険の契約時に保険金と免責金額は設定します。

例えば、修理費用10万円で保険金が10万円補償されたとしても、免責金額が5万円なら半分は自己負担しなければなりません。分損の保険金は、免責金額も考慮しましょう。

分損では車の買替費用は保険の対象外

車両保険は全損と分損で補償範囲が異なります。

分損は修理費用の相当額を、全損は車両の時価額に相当する金額が補償されます。

分損で時価額分の補償は受けられないため、基本的に修理費用の補填として使用するのがよいでしょう。ただし、保険金の使い道は自由なため「修理費用にあてなければならない」といった義務はありません。

修理費用分を買替え費用の補填にあてても問題はなく、そのまま保険金をとっておくことも可能です。

車の時価額が50万円で修理費用が60万円の場合は全損ですか?
この条件は「経済的全損」に該当します。修理費用が時価額を超えているため、車両保険を使用した場合の補償額は50万円が上限です。そのため、基本的には買替えの検討をおすすめします。
なんらかの特約を付帯しているケースに限っては、修理費用までカバーできる可能性があります。例えば「車両超過修理費用特約」は、車両の時価額を超えた一定額までなら、修理費用が補償されます。また「全損時諸費用特約」を付帯していれば、全損限定で補償額から一定金額まで補償額をアップできます。特約の適用で修理費用を十分カバーできるなら、修理にだしても問題ありません。
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車両保険の補償額の決め方

車両保険の補償額の決め方
車両保険の補償額は、契約時の設定金額が全額もらえるとは限りません。保険金の算出には車両の時価額が用いられるため、車両の減価償却に比例して補償額も減少します。

なお、時価額の見直しは毎年の保険契約時に行われます。

全損の場合は、保険料の増加額と補償額のバランスに注意しなければなりません。長く使っている車や元々の車両価格が安い場合、保険料の増加分が補償額に近づくことがあります。こういった事例では、車両保険を使用してもメリットは少ないでしょう。

補償額の設定は、上限額までなら一定範囲まで調整可能です。補償額を時価額に近づけるほど保険料が高くなります。

ただし、設定金額は補償上限額を超えられません。補償上限額を上げるには、別途特約の付帯が必要です。

例えば、「車両超過修理費用特約」「全損時諸費用特約」は、要件を満たせば時価額以上の補償を受けられます。ただし、特約の付帯には保険料がかかるので注意しましょう。

利用できる補償は過失責任によって異なる

利用できる補償は過失責任によって異なる
車両保険を利用できる範囲は、自身の過失割合分のみです。

例えば、単独事故ならすべて自身の過失ですが、相手がいる場合は事故内容に応じて過失割合が生じます。そのため、保険を使用する際は過失割合を考慮しなければなりません。

ここからは、事故における過失について紹介します。

過失が自分にある事故の場合

事故で自身に過失がある場合、過失割合に応じた補償を受けられます。

例えば、単独事故や一定の過失がある接触事故は、車両保険の対象です。単独事故なら補償上限額を、接触事故なら自身の過失割合分まで補償してもらえます。

ここで注意したいのが、補償額でプラス収支にはできない点です。車両保険の補償額は、自身の損失から相手の賠償分と免責金額を差し引いた残りの分を補償します。

たとえ設定補償額におさまる損害であっても、賠償や免責を差し引いた損害分以上の金額は支払われません。その代わり、設定補償額が多いほど実質的な負担額を0円に近づけられます。

過失が自分にない事故の場合

もらい事故・盗難・災害など自身の過失がない事故は、車両保険や相手の賠償で被害相当額をまかなえます。

もらい事故は過失割合が「10:0」のため、こちらが相手の賠償に応じる必要はありません。また、盗難や災害による全損は、車両保険で時価額分の補償を受けられます。

ただし、過失が自分にない事故に関しては、以下の点に注意しましょう。

  • もらい事故は示談交渉を保険会社にお願いできない
  • 車両保険の使用で等級は下がる

もらい事故は自身が加入している保険を使用しないため、過失割合や示談交渉を保険会社に依頼できません。そのため、弁護士に依頼する必要があります。

また、盗難や災害など自身に責任がない被害であっても、車両保険の使用で等級が下がる点は変わりません。損害額の補償は受けられますが、その後数年間は保険料が上がります。

全損・分損どちらにも利用できる特約

全損・分損どちらにも利用できる特約
車両保険は事故の損害を補償してくれるものですが、補償額の仕組み上、修理や買替えの費用におよばない場合があります。より確実に損害をカバーするなら特約の付帯がおすすめです。

ここからは、全損・分損どちらにも利用できる特約について紹介します。

車両新価特約

車両新価特約(新車特約)とは、新車購入から一定期間内に全損または購入相当額の半分以上の修理費がかかる事故を起こした場合に適用できる特約です。

本来、車両保険は事故時点の時価額分が補償されますが、この特約があれば購入価格に相当する金額が支払われます。

また、保険の使用による買替えでは、時価額と実際の購入にかかる費用が異なる場合があります。補償額が買い替え費用に及ばない事態に陥った場合も車両新価特約は有効です。

車両新価特約が適用される期間

車両新価特約の有効期間は保険会社ごとで異なります。初度登録の年のみ有効な場合もあれば、数年間有効な保険会社も存在します。

期間が短いと付帯するメリットが少ないため、効果を最大限発揮するには有効期間が長いタイプに加入するのをおすすめします。

車両新価特約は盗難には適用されない

車両新価特約の適用には要件があります。それは主に以下の通りです。

  • 初度登録から一定期間内の新車であること
  • 車両保険に加入していること
  • 全損または修理費用が購入価格の半分を超える事故であること
  • 車両全損時諸費用特約と併用はできない
  • 盗難や飲酒運転による事故は補償対象外

車両新価特約に限らず、特約は適用になんらかの要件が求められます。

追加するほど保険料の負担額が大きくなるため、付帯する特約はリスクとのバランスを考慮しましょう。

新車を購入した際は車両新価特約を契約した方がいいですか?
新車は事故の損害額が大きいため、特約を付帯することで事故のリスクに備えられます。万が一事故を起こしたときに費用を捻出できないときや事故が起こる可能性が高いと予想できる場合に効果が期待できます。
例えば、運転に自信がない方や免許を取得したばかりの方におすすめといえるでしょう。
ただし、特約はほかにも多数存在します。自身の生活環境や経済事情に合わせて、適切な特約を検討しましょう。

補償を充実させるそのほかの特約

補償を充実させるそのほかの特約
車両保険に付帯できる特約は、車両新価特約以外にも多数存在します。

ここからは、より手厚い補償内容にしたい方に向けて、あると便利な特約を4つご紹介します。

弁護士費用特約

弁護士費用特約とは、事故における弁護士への依頼や法律相談でかかる費用を補償する特約です。

例えば、前述したもらい事故の場合、被害者側は保険会社に示談交渉をお願いできません。こちらは適用できる保険がないため、弁護士費用は自己負担です。

弁護士特約は、このように弁護士への依頼や相談が必要な場合に、その費用を補償してもらえます。また、本特約があることで、金銭的負担を気にせずに弁護士を利用できるメリットもあります。

他車運転危険補償特約

他社運転危険補償特約とは、自身が契約者ではない車両の運転で事故を起こした場合に補償してもらえる特約です。

例えば、友人から車を借りた場合やレンタカーの利用が代表的といえるでしょう。

借りた車両で事故を起こすと、本来の所有者が結んだ車両保険の等級ダウンや車両の弁償を巡って、トラブルが起こる可能性があります。そんな時に対象車両の時価額を補償し、なおかつ下がる等級は運転者の車両保険のみにすることができます。

車両の所有者とのトラブルを避けたいなら、この特約の加入をおすすめします。

対物差額修理費用補助特約

対物差額修理費用補助特約とは、相手車両の修理費用が時価額を超えた場合に、超えた分に自身の過失割合を適用した金額を補償してもらえる特約です。相手の経済的全損をカバーする特約ともいえるでしょう。

通常、対物賠償において車両の時価額を超えた損害分は、賠償する義務がありません。それは法律で定められているからです。しかし、実際の示談交渉で相手が金額に納得しない可能性もあるため、この特約が存在します。

保険会社によっては自動付帯されている場合もあるので確認しておきましょう。

事故後の示談交渉の長期化や心理的負担を減らしたい方におすすめの特約といえるでしょう。

個人賠償責任特約

個人賠償責任特約とは、自動車以外の日常生活で、契約者またはその家族が他人に対して人的損害や物損を起こした場合に補償してもらえる特約です。

例えば、子どもが店舗の備品を壊してしまった場合や、自転車で人とぶつかったといった事故が挙げられます。

個人賠償責任特約は自動車保険に付帯できるため、車両の購入と同時に契約が可能です。

ただし、この特約は火災保険や傷害保険など別の保険にも付帯できるため補償内容が似た保険の加入や特約の重複契約には注意しましょう。

保険料を抑えるための特約

保険料を抑えるための特約
特約の中には、補償を手厚くするものだけでなく、補償を薄くして保険料を減額するものも存在します。

このような特約は保険料の負担を減らしたい方や余計なリスクヘッジは要らないといった方におすすめです。

ここからは、保険料を抑えられる特約を2つご紹介します。

運転者限定特約

運転者限定特約とは、自動車保険の補償対象者を絞り込み、代わりに保険料を安くする特約です。

例えば、補償対象を本人のみに設定すれば、配偶者や子どもが起こした事故は補償対象外になります。

自動車保険の中には、契約者本人だけでなく、契約者の配偶者や両親など家族も対象に含まれる場合があります。補償対象の広さが保険料に含まれているなら、車両を使わない家族分の保険料は無駄な出費ともいえるでしょう。

本特約は家族が運転免許を持っていない場合や独身の方におすすめです。

運転者年齢条件特約

運転者年齢条件特約とは、補償対象者の年齢を限定して、代わりに保険料を安くする特約です。基本的に、対象年齢を絞り込むほど保険料は安くなります。

例えば、家族構成に20代30代の子どもがいない場合、その範囲の年齢条件を外すことで無駄な保険料を削減できます。一方、同じ車両を複数の家族で運転する場合は全年齢のままのほうがリスクに備えられます。

この特約の付帯は、家族構成や運転者の年齢層が限定されている場合におすすめです。

特約を適用すると保険の等級は下がりますか?
特約の中には適用によって等級が下がらないものが存在します。例えば、弁護士費用特約、無過失事故特約、被害者救済費用特約などです。
ただし、全ての特約が該当するわけではありません。特約があっても等級が下がるケースのほうが多いため、基本的に保険の使用は等級が下がるものと覚えておきましょう。

まとめ

①車の損傷には、買替えが必要な「全損」と、軽微な修理で済む「分損」がある
②修理できる場合でも、修理費用が車両の価値を超える場合は全損にあたる
③車の盗難も全損に含まれる
④事故の補償は過失割合によってもらえる金額が異なる
⑤特約を付帯すると、補償額のアップや保険料の削減ができる

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