車両が激しく損傷する全損事故は、損傷の軽微な分損に比べて損害規模が大きくなります。
車両保険の使用で時価額に応じた保険金をもらうこともできますが、代わりに等級が下がります。等級のダウンは保険料負担額が増加するため、車両保険の使用は慎重に判断しなければなりません。
この記事では、全損事故で車両保険を使用する際の等級について解説します。
車が全損した時に車両保険を利用すると等級が下がる
車の全損で修理や買替えに車両保険を使うと、契約内容に応じた保険金を受け取れます。
しかし、車両保険には「等級」と呼ばれる保険料割引制度が存在し、保険を使うと今後負担する保険料が上がるかもしれません。
保険金は買替えにかかる費用に相当する金額がもらえるため、資金面で助かる方も多いでしょう。ただし、必ずしも保険の使用にメリットがあるとは限らないため、使用は慎重に判断しましょう。
目次
車両保険の等級とは?
等級とは、契約者の事故歴や事故実態で保険料の割引率や割増率を定めるための区分です。等級は1〜20まであり、初めて車両保険の契約を結んだときは6等級からスタートします。
等級制度のことは、別名「ノンフリート等級別料率制度」とも呼びます。
ノンフリート等級とは、車の所有台数が9台以下の契約のことです。9台以上の場合は「フリート等級」の契約になります。そのため、基本的に車両保険の等級はノンフリート等級を指すと認識して問題ないでしょう。
ここからは、車両保険の等級制度について詳しく紹介していきます。
車両保険は、年間を通して使わなければ、翌年の等級が自動的に1つ上がります。高い等級ほど保険料の割引率が高いため、20等級を目指して保険の使用をためらう人も少なくありません。
一方、事故や故障で車両保険を使うと、等級が下がります。下がり幅は「1等級ダウン」「3等級ダウン」「ノーカウント」の3種類です。2等級ダウンは存在しません。
ここで注意してほしいのが、等級のダウンは事故の発生由来ではなく車両保険の使用に起因することです。たとえ車両が全損事故を起こしたとしても、保険を使わなければ等級が下がることはありません。
こちらの損害が少ない、または軽微な修理で済む事故には、保険を使わないほうがメリットが大きい場合があります。
保険料の割増引率には「事故あり係数」と呼ばれる区分があります。
事故あり係数とは、事故を起こしてから一定期間、無事故の等級と別区分の保険料が適用されることです。
事故あり係数の条件は以下の通りです。
- 事故で車両保険を使う
- 前契約で事故を起こしてから一定期間の間に車両保険を契約する
保険料は無事故より事故あり係数の区分のほうが高いため、等級ダウンだけでなく事故あり係数による保険料の増加にも注意しましょう。
また、事故あり係数は等級が7等級以上の契約で適用される制度なので、無事故期間が長い人は車両保険の使用に注意しましょう。
事故あり係数が適用される期間を「事故あり係数適用期間」と呼びます。
期間の長さは、事故で下がった等級に比例します。例えば、今年度の等級が14等級で、事故の保険使用により等級が3つ下がった場合、期間は3年継続します。
また、事故あり係数の適用期間は最大で6年です。期間中に再度事故を起こして保険を使えば、期間が加算されます。
車両保険における全損とは?
軽微な損傷の場合、わざわざ車両保険を使わなくて問題ありませんが、損害額が大きいと保険を使わざるを得ない可能性があります。
ここからは、車両保険における「経済的全損」と「物理的全損」について紹介します。
経済的全損とは、修理費用が車両の時価額を上回る状態のことです。例えば、車体のフレーム部分の修理は代替パーツの確保と修理が難しいため修理費用が高額なことがあります。
車両保険の補償額は「修理費用」と「時価額」のどちらか低いほうに適用されるものです。そして、全損の場合は経済的全損と物理的全損に関わらず、原則として時価額が適用されます。
時価額とは、事故当時の車両価値のことです。購入時の価格ではなく、現時点で同条件の車両を購入する場合の価格が適用されます。
つまり、車両保険の保険料は車両の減価償却に比例するということです。
現時点で事故を起こした場合の保険料を知りたい場合は、保険会社に問い合わせてみましょう。
物理的全損とは、車両が修復できないほど激しく損傷した状態のことです。修理工場で事故車両が修復不可能と判断されると物理的全損に該当します。
物理的全損で車両保険を使用する場合、保険の使用前に車両を廃車として処分するのは避けましょう。
全損の場合、保険金の受け取りに車両の譲渡が条件に含まれることがあるため、解体や廃車手続きをしてしまうと保険が使用できない可能性があります。
保険を使えば自身で廃車手続きを行う必要がないため、間違って手続きを済ませないようにしましょう。
ただし、相手の賠償を受けられる場合や「車両超過修理費用特約」を付帯しているなら修理も選択肢に入ります。
車両超過修理費用特約は、経済的全損でも一定額までなら修理費用を補償してもらえる特約なので確認してみましょう。
車両保険の利用で下がる等級について
車両保険を利用すると等級は下がりますが、事故の内容によって下げ幅が異なります。その種類は3つあるので、紹介していきます。
3等級ダウン事故とは、車両保険の使用で等級が3つ下がる事故内容です。例としては以下が挙げられます。
- 電柱やガードレールとの接触、衝突(単独事故)
- あて逃げ
- 車両同士の接触事故
- 墜落、転覆
等級ダウンは保険料の増加につながるため、軽微な損害で使用するとかえって損をする可能性があります。上記の事故が起きた場合、保険の使用は保険料の増加と補償額のバランスを加味したうえで、慎重に判断しましょう。
ここで注意してほしいのが、単独事故は車両保険の補償対象外にされる場合があることです。車両保険には「一般型」と「エコノミー型」の2種類がありますが、エコノミー型は対象範囲が狭く、単独事故はカバーできません。
加入する車両保険のタイプによって補償範囲は異なるため、いざというときに補償されるよう契約内容は事前に確認しましょう。
1等級ダウン事故は、車両保険の使用で等級が1つ下がる事故内容です。例としては以下が挙げられます。
- 落書き、いらずら
- 飛来物、落下物との衝突
- 台風、竜巻、洪水、高潮による浸水
- 火災、爆発
- 盗難
等級が1つ下がる事故は主に災害や障害物による損害が主な要因です。こちらに過失がない盗難や災害であっても、等級ダウンの対象に数えられます。
ただし、事故相手がいてこちらに過失がない「もらい事故」の場合「車両無過失事故特約」を付帯することで、等級のダウンを免除できます。
ノーカウント事故とは、車両保険を使用しても等級が下がらない事故内容です。例としては以下が挙げられます。
- 人身事故を起こして人身傷害保険や搭乗者傷害による補償を受けた
- 事故で個人賠償特約を使用した
- もらい事故で車両無過失事故特約の適用を受けた
主にノーカウント事故は、事故に対して車両保険以外の保険や特約による支払いを受けた場合が該当します。
前述した「車両無過失事故特約」を適用した場合も、区分はノーカウント事故です。
同じ等級でも「事故あり係数」と「無事故」では保険料の割引率は異なります。
事故あり係数は、無事故よりも割引率が低く、事故の内容次第で数年間は継続します。
もし年間を通して無事故だった場合は、無事故の区分と同じく等級が1つ上がります。事故あり係数の期間中も割引率がアップするのは無事故の場合と同様です。
全損事故で車両保険を利用する際に知っておきたいこと
全損事故で車両保険を使用する場合、適用要件と保険の使用で起こる変化を把握しておく必要があります。
事故後の対応次第では、保険を使用できなかったり、保険料が高くなるかもしれません。
ここからは、車両保険の加入や使用を検討している人が、全損事故で保険を利用する際に知っておいたほうがいいポイントを紹介します。
車両保険は、事故が起きた際の損害に相当する金額を補償する仕組みです。例えば、分損は修理費用、全損なら車両の時価額に応じた保険金を受け取れます。
補償額で注意したいのが、金額の基準は「買替えにかかる費用」ではなく「事故車両の時価額に相当する金額」で決まる点です。
保険金の使い道は受け取った人の自由ですが、必ずしも買替えにかかる費用を全額まかなえるとは限りません。
また、全損事故でかかる費用は、新しい車の購入代金以外にも発生します。想定される費用は以下の通りです。
- 新しい車の購入代金
- 事故車両の廃車手続き費用
- 事故車両を廃車にするための解体費用
- 事故車両を移送するためのレッカー代
- 持ち車がないときの代車費用
- 事故相手への賠償や建物の弁償(対人・対物の損害を与えた場合)
車両保険で受けられる補償は、車両の時価額分に限られます。上記の費用は、別の保険に加入していない限り、基本的に自己負担になるので注意しましょう。
車両保険の使用は原則として等級ダウンが発生するため、使用後は保険料が高くなります。
事故内容や現在の等級によって今後の負担額が異なるため、保険を使用するべきタイミングか分からなくなる人も多いでしょう。
そのような場合は、保険を使用した場合にかかる今後の保険料を試算するのがおすすめです。現在の等級と保険の使用で下がる等級の保険料の差額を算出して、その差額がもらえる保険金に見合うかを判断します。
例えば、相当使いこまれた中古車は時価額が見込めないため、補償額に対する保険料の増加額の割合が高くなります。一方、新車の場合は車両価値が高いため、補償額に対する保険料の増加額の割合は低いといえるでしょう。
・飲酒運転
・無免許運転
・運転手に重大な過失がある
・テロの被害に遭う
・故意に事故を起こした
・地震または地震による津波
・事故ではなく故障とみなされる
上記のような違法行為や、こちらの過失が大きいと判断された場合は保険を使用できません。
全損事故で車両保険を使ったほうがよいケース
全損事故で車両保険を使用すべきかは、ケースバイケースです。
ここからは、車両保険を使ったほうがよいケースを紹介していきます。
車両保険の補償額が保険料の増額分を十分に上回っている場合、車両保険の使用がおすすめです。
この場合は基本的に等級ダウンで上がる保険料を全損の補償額が上回ることはないでしょう。
しかし、車両価値が低いと今後増加する保険料の総額が補償額と近くなる可能性があります。
補償額が保険料の増加額を十分に上回っていると判明したら、車両保険を使うメリットは大きいです。
新車を購入した年に事故を起こした場合、車両保険の使用をおすすめします。
新車の事故は受け取れる保険金が多いため、今後の保険料が上がったとしても釣り合いは取れるでしょう。
ただし、初めて車両保険に加入した年は6等級スタートなので、今後高い等級に昇るまで通常より時間がかかります。
車両保険に特約を付帯すると、等級ダウンの免除や補償額アップなど、様々な恩恵を受けられます。
例えば「全損時諸費用特約」は、全損で車両保険を適用する際、車両保険の10%程度を上限に補償額を上乗せできます。
また、前述した「車両無過失事故特約」は、もらい事故限定で等級ダウンが免除されます。
このように、付帯した特約の要件を満たしている場合は、車両保険を使用したほうがよいでしょう。
また、特約の中には車両保険に自動付帯されているものもあります。例えば「全損時諸費用特約」は、別途申請して付帯しなくても、自動的に備え付けられていることがほとんどです。ただし、特約が存在するかは保険会社ごとで異なるため、気になる場合は保険会社に問い合わせるとよいでしょう。
全損事故で車両保険を使わないほうがよいケース
全損事故は分損と比べ、車両保険で多くの保険金を受け取れます。しかし、損害額と事故内容によっては、車両保険を使わないほうがいいかもしれません。
ここからは、車両保険を使わないほうがよいケースを紹介していきます。
車両価値が極端に低い場合に車両保険を使っても、買替え費用をまかなえない可能性があります。
例えば、年式の古い車や元々の購入価格が安い中古車の場合、十分な補償額は期待できないでしょう。
車両保険の補償額は時価額を基に算出されるため、そもそも車両価格が低い車は補償も薄くなります。また、等級のダウンで保険料が上がることも考慮すると、保険の使用で損につながる可能性もあります。
車両が古くて事故前から買替えを検討していた場合、車両保険を使わずに廃車として処分または買取査定にだすのがおすすめです。
全損した車両は、スクラップやパーツ単体として廃車買取業者に買い取ってもらえます。買取価格はあまり見込めませんが、廃車手続きに費用がかからないうえ、等級を気にせずに処分が可能です。
車両保険の等級は車の買替えで引き継がれます。保険料の増加は車の維持コストを圧迫するため、今後の生活に影響を与えたくないなら買取査定にだしましょう。