全損事故や分損事故が起こると、車両保険を使うべき事故内容か見計らう必要があります。補償額や等級は車両状態や契約状況によって異なるため、判断が難しいと感じる人も少なくないでしょう。

この記事では、全損事故で保険料が上がる仕組みや、車両保険の使用を判断するポイントを解説します。

保険金の受け取りと保険料の据え置きの2択で迷っている方は、ぜひ参考にしてください。

車の全損事故を起こすと保険料が上がる可能性がある

車の全損事故を起こすと保険料が上がる可能性がある
事故で損傷した車両の修理や買替え費用は、車両保険の使用で補填できる可能性があります。

車両分の損害は、原則として車両保険か相手の賠償でしかカバーできません。しかし、車両保険の使用には保険料が上がるデメリットが存在します。

保険料の負担額は通常、「等級」と呼ばれる区分によって割引が適用されるものです。車両保険を使うと等級とともに割引率が下がり、結果として保険料の負担額が増加します。

全損事故は車両保険を使用せざるを得ないケースが多いため、保険料の増加額と補償額のバランスから、使用を慎重に判断しなければなりません。

車両保険の等級制度とは?

車両保険の等級制度とは?
等級とは、契約期間中の事故の有無によって、保険料に割増引率が適用される区分のことです。等級が高くなればなるほど保険料は安くなりますが、事故を起こすと等級が下がってしまうので注意が必要です。

ここからは、初めて車両保険に加入または使用を検討している方に向けて、等級制度の基礎知識を紹介します。

保険料は等級によって異なる

等級は契約者の事故歴や事故実態で保険料の割増引率を定めるための区分です。1~20等級まであり、初めて車両保険の契約を結んだときは6等級からスタートします。

等級ごとで毎月の保険料に数千円〜数万円の差が生じるため、基本的に保険加入者は最高等級である20等級を目指します。

等級制度のことは、別名「ノンフリート等級別料率制度」とも呼びます。ノンフリート等級とは、車の所有台数が9台以下の契約を結ぶことで、9台以上の契約は「フリート等級」に該当します。

フリート等級は、主に法人契約の車両に対して使われる区分なため、一般の自家用車はノンフリート等級の認識で問題ありません。

無事故だと等級が上がって保険料が安くなる

車両保険は年間を通して使わなければ、翌年に等級が1つ上がります。等級が高いほど保険料の割引率が高いため、高い等級に昇るまで保険の使用をためらう人も珍しくありません。そのため、軽微な損傷の修理なら車両保険の使用を控えることもあります。

等級が下がる条件は車両保険の使用であって、事故の発生で下がるわけではありません。たとえ車両が大破する事故でも、保険を使わなければ翌年の等級は上がります。

事故で車両保険を利用すると等級は下がる

車両保険の使用は、一部の例外を除いて等級が下がります。下がる等級の数は事故内容次第です。

また、等級が下がると保険料の割引が減ってしまいます。特に3等級ダウン事故は保険料が大幅に高くなる可能性があるため、保険の使用は慎重に判断しなければなりません。

等級は1年に1等級しか上がらないため、3等級ダウン事故で元の等級に戻すには3年かかるということです。

事故ありと事故なしの等級で割増引率は異なる

車両保険には、等級とは別に「事故あり係数」「無事故係数」と呼ばれる区分が存在します。

事故あり係数とは、事故などで車両保険を使用した場合に一定期間適用される割増引率です。通常の等級は無事故係数にあたります。

事故あり係数の保険料は無事故係数よりも高めに設定されています。そのため、同じ等級でも事故ありと無事故で保険料が異なる点は注意しましょう。

事故あり係数で保険料が算出されている期間を「事故あり係数適用期間」と呼びます。期間中に再度事故を起こして保険を使った場合、期間は最大6年まで加算されます。

事故あり係数が適用される期間は決まっていますか?
事故あり係数が適用される期間は、下がった等級と同じ年数です。例えば、20等級から3等級下がった場合、17等級から19等級までの3年間は事故あり係数が適用されます。その後、4年目になって20等級になった際に無事故係数に戻ります。

等級がどれぐらい下がるかは事故の内容による

等級がどれぐらい下がるかは事故の内容による
車両保険の使用で、必ずしも等級が下がるとは限りません。等級が下がるかどうかは、事故の内容次第です。

等級の下げ幅は「3等級ダウン事故」「1等級ダウン事故」「ノーカウント事故」の3つに区別されます。

ここからは、上記3つの事故内容について紹介します。

3等級ダウン事故

3等級ダウン事故とは、車両保険の使用で等級が3つ下がる区分です。例として主に以下のケースが挙げられます。

  • 電柱やガードレールとの接触、衝突(単独事故)
  • あて逃げ
  • 車両同士の接触事故
  • 墜落、転覆

3等級ダウン事故は保険料の大幅な増加につながるため、軽微な損害での車両保険の使用は控えたほうがよいでしょう。今後、3年間に渡って負担する保険料の増額分が、補償される修理費用を上回る可能性があります。

上記の事故は日常の運転でも起こる可能性が高いため、世間一般で認識される事故内容の大体は、3等級ダウンに該当すると認識して問題ないでしょう。

1等級ダウン事故

1等級ダウン事故は、車両保険の使用で等級が1つ下がる区分です。例として主に以下のケースが挙げられます。

  • 落書き、いらずら
  • 飛来物、落下物との衝突
  • 台風、竜巻、洪水、高潮による浸水
  • 火災、爆発
  • 盗難

3等級ダウン事故は、単独事故や接触事故など、自身にも過失が発生しやすい事故が主に該当しますが、1等級ダウン事故は、災害や障害物など過失が問われにくい損害が主体です。

基本的に等級のダウンは、過失の有無に関係なく適用されます。こちらに過失がない盗難や災害の損害でも、保険料が上がる点には注意しましょう。

ただし、接触事故でこちらに過失がない「もらい事故」の場合は「車両無過失事故特約」の付帯で、等級のダウンを防止できます。

ノーカウント事故

ノーカウント事故は、車両保険を使用しても等級が下がらない区分です。例として主に以下のケースが挙げられます。

  • 人身事故を起こして人身傷害保険や搭乗者傷害保険による補償を受けた
  • 事故で個人賠償特約を使用した
  • もらい事故で車両無過失事故特約の適用を受けた

ノーカウント事故は、事故に対して車両保険以外の保険や特約による支払いを受けた場合が該当します。

前述した車両無過失事故特約を適用した場合も、区分としてはノーカウント事故です。

車両保険の特約の中には、特約単体で使用できるものが存在します。例えば、事故で弁護士に相談や示談交渉を依頼する費用を補償する「弁護士費用等特約」や、上記の「車両無過失事故特約」が該当します。

これらの特約は車両保険を使わないため、適用しても等級が下がりません。ただし、特約のみの契約はできず、必ず車両保険に加入していることが条件です。

自然災害による全損事故で車両保険は適用できますか?
自然災害は車両保険が適用できるものとそうでないものがあります。車両保険が使用できる災害は、台風、土砂崩れ、雹(ひょう)、豪雨です。一方、地震、地震による津波、噴火が原因の全損は補償対象外です。
ただし、地震を補償する「車両全損一時金特約」を付帯している場合は、補償対象外の自然災害に対して、一時金が支払われます。
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車両保険を利用する際の注意点

車両保険を利用する際の注意点
車両保険は、補償額や使用後の影響を理解しておかないと、思わぬトラブルが生じる可能性があります。

ここからは、車両保険を利用する際に気をつけるべき注意点を5つ紹介します。

等級が低いと新規契約や継続契約ができない可能性がある

度重なる車両保険の使用で等級が極端に低いと、ほかの自動車保険の契約の継続に悪影響を及ぼす可能性があります。例えば、等級が2等級の場合、少なくとも2回以上保険を使用したことが分かります。

等級のダウンで注意したいのが、もらい事故や盗難など、過失がない事故による保険の使用です。車両保険は自身に過失がない損害を補償してもらえますが、事故内容に応じて等級は下がります。

被害者側からすれば、悪いことをしていないのにも関わらず、等級が下がるのは納得がいかないことでしょう。そのため、過失のない事故で等級が下がるのを防ぐには、特約の付帯をおすすめします。

例えば「車両保険無過失事故特約」なら、もらい事故で一定の要件を満たせば、車両保険を使用しても等級が下がりません。

安全運転を心がけることはもちろんですが、特約やほかの保険で不当に等級が下がらないよう注意することが大切です。

受け取れる保険金は免責金額を指しい引いた額である

損傷が軽微で修理費用が低い事故は「分損」と呼ばれる区分に該当し、免責金額が発生します。

車両保険における免責とは、補償額から自身の過失分を差し引くことです。そのため、分損では補償額から免責金額を差し引いた金額が最終的な保険金になります。

保険の契約時、補償上限額と同時に免責金額も設定します。

分損の補償額を算出する際、基本的に保険金よりも免責による自己負担額が優先です。例えば、免責金額の設定が5万円で修理費用が3万円の場合、補償は受けられず3万円を自己負担しなければなりません。

ただし、同条件で修理費用が7万円の場合、免責金額の5万円は自己負担で、残りの2万円が補償されます。

全損には免責金額がないため、設定した補償額をそのまま受け取れます。分損は保険金に免責金額が発生するので覚えておきましょう。

事故により下がった等級は保険会社を変えても継続される

現在の車両保険を解約して別の保険会社で再契約しても、基本的に等級はそのまま引き継がれます。

等級の情報は保険会社同士で共有されており、前契約の満期日から13カ月間は保存されます。そのため、5等級以下の方が等級をリセットしたい場合、最低でも14カ月は空白期間を設けなければなりません。

また、7等級以上の状態で前契約の満期日から更新せずに8日以上経つと、等級がリセットされて6等級に戻ってしまいます。保険会社の乗り換えを行う際は、速やかに契約手続きを済ませましょう。

等級の変動は翌年に反映される

等級の変動による保険料の増減は、翌年の契約更新時に反映されます。

例えば、契約開始月に事故で車両保険を使用した場合、翌年の更新月まで保険料は据え置きです。

ただし、翌年から一定期間は等級ダウンと事故あり係数で保険料が増加する点に注意しましょう。

全損した車の所有権は保険会社に移行される

車両保険を使用する要件に、車両の譲渡が含まれることがあります。これは、全損事故で車両の時価額が適用される場合に起こり得ます。

車両の譲渡が適用要件の場合、たとえ経済的全損でも修理は選択できません。そのため、事故車両を解体や廃車手続きで処分してしまうと、保険を使用できない可能性があります。

そもそも所有権が保険会社に移行する契約なら、自身の手で廃車手続きを済ませる必要はありません。

車両保険の使用は適用要件の内容を事前に確認した上で判断しましょう。事故後の流れが分からない場合は、保険会社のロードサービスや相談窓口に問い合わせるのをおすすめします。

免責額の自己負担がない事故について

免責額の自己負担がない事故について
前述した通り、分損には免責金額が発生します。免責は実質上、補償額が下がることを意味するため、最終的に受け取れるのは自己負担分を差し引いた金額です。

車両保険を使用するか検討する際は、免責金額が発生するかも判断材料に含めなければなりません。そこで、ここからは免責額の自己負担がない事故について紹介していきます。

全損事故

全損事故は免責が発生しません。そのため、自己負担分なしで補償額を全額受け取れます。

車両保険における全損とは、以下の状態を意味します。

  • 損傷が激しく修理が不可能な状態(物理的全損)
  • 修理は可能だが修理費用が車両価値を超える状態(経済的全損)
  • 盗難により車両を紛失した

全損の補償額は、事故車両の時価額に基づいて算出されます。時価額とは、事故車両と同条件の車を入手するための平均取引価格です。

車両保険の契約後、車両の減価償却に比例して、補償上限額も合わせて減少します。そのため、必ずしも購入時の金額が補償されるわけではありません。

全損事故は、免責金額を含めない車両の時価額分が保険金として受け取れるということです。

相手に過失がある事故

接触事故の場合、もらい事故でない限りこちらと相手で過失割合が発生します。免責金額は相手の損害賠償分から優先して充当されるため、賠償金次第で自己負担額を相殺可能です。

ただし、こちらの過失割合が大きい場合は、相手の賠償分では足りず、自己負担を必要とする可能性もあります。

車が全損して買い替える際に車両保険は利用できますか?
車両保険は修理に使う保険です。そのため、買い替えの場合は全損時に受け取れる「保険金」を使いましょう。ただし、保険金のみでは買い替え費用をカバーできない可能性が高いでしょう。

車両保険を利用するかの判断ポイント

車両保険を利用するかの判断ポイント
車両保険の補償額は事故車両の時価額に基づくため、必ずしも使用にメリットがあるとは限りません。条件次第では実質的に損を被る可能性もあります。

ここからは、車両保険を利用するか判断するためのポイントを2つ紹介します。

①損害額と上がる保険料を比較する

車両保険の使用後は原則として保険料が増加します。そのため、事故内容や現在の等級によっては保険を使用するべきタイミングがいつなのか、悩む方もいるでしょう。

保険の是非を判断するには、使用した場合にかかる今後の保険料を試算し、補償額と比較するのがおすすめです。

現在の等級と保険の使用で下がる等級の保険料の差額を算出して、その差額がもらえる保険金に見合うかを判断します。

例えば、購入費用の高い新車は車両価値が高いため、保険料が増加したとしても十分な補償額が見込めます。一方、年式の古い車はそもそも時価額が低いため、保険料の増額分に対して十分な補償額が確保できません。

車両保険を使用する際は、十分な費用対効果が見込めると判断できる場合に限定しましょう。

②車両保険を適用した後の等級を考える

車両保険の使用で下がる等級と事故あり係数による保険料の増加も考慮しましょう。

例えば、3等級ダウン事故は保険料の大幅な増加につながる可能性があるため、補償額次第ではかえって損を被ります。また、保険の使用で等級が極端に低くなる場合、今後加入する保険の新規契約や更新に悪影響をおよぼすかもしれません。

車両保険を使用する際は、使用後の等級が今後の生活に差し支えないか判断しましょう。

【注意】保険金の受け取りには交通事故証明書が必要

車両保険の要件に「交通事故証明書」の提出が含まれる場合があります。

交通事故証明書とは、警察に事故の届出を提出した後、交通安全運転センターにて交付できる書類です。

交通事故証明書は、保険会社側が取付けを行うパターンと、自身で交付して提出しなければならない場合があります。

保険会社ごとで取り扱いが異なるため、事前に確認しておきましょう。

まとめ

①車両保険を使用すると、原則として保険料が上がる
②車両保険の保険料は等級制度による区分で決まる
③保険を使えば等級が下がり、保険を使わなければ等級は上がる
④車両保険を使うなら、低等級や免責金額に注意しよう
⑤補償額と保険料を比較して、補償額が保険料を十分上回るなら車両保険の使用がおすすめ

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