この記事では、個人事業主の車売却における譲渡所得の仕組みと節税方法を詳しく説明します。
個人事業主が車を売却する場合、車の売却は事業所得とは別に「譲渡所得」として計上しなければなりません。
事業所得とは異なる区分で扱われるため、その計算方法や仕分け方法について理解しておく必要があります。
適切な方法を知り、ミスや申告漏れがないようにしましょう。
個人事業主の事業用車を売却すると課税対象となる
ここからは、個人事業主が車を所有・売却する際の税制を紹介します。
個人事業主が所有する車を売却し、利益がでた場合は「所得税」を納めます。法人の場合、車は会社の資産のため売却で利益を得た場合は「法人税」が発生します。
個人事業主はあくまで個人で車を売却し、結果的に所得が増えることから所得税が生じると考えましょう。
個人事業主が車を売却した場合、その売却益は「譲渡所得」として処理され、計算方法は以下のように求められます。
また、車を所有して5年以上経ってから売却する「長期譲渡」の場合には、この基本式から出た金額の半分が譲渡所得としてみなされます。
個人事業主の売った車の売却益は「譲渡所得」扱いになる
個人事業主が車を売却する場合、その売却益は事業所得ではなく譲渡所得として扱われます。
譲渡所得とは、資産の譲渡によって得た所得のことです。
資産とは、土地や建物、株式や債券などの「有価証券」、金や宝石などの「貴金属」、書画や骨董などの「美術品」、船舶や機械器具などの「動産」のことです。
車も動産の一種ですから、譲渡所得の対象になります。
譲渡所得には「短期譲渡所得」と「長期譲渡所得」という2種類があります。
短期譲渡所得とは、資産を取得してから5年以内に売却した場合に生じる所得です。
長期譲渡所得とは、資産を取得してから5年を超えて売却した場合に生じる所得です。
区分は、税率や控除額に影響します。
短期譲渡所得の税率は、一般的な総合課税と同じで累進課税方式により決まり、年収が高いほど税率が高くなります。最高税率は45%(所得税・住民税計)で、特別控除がありません。
長期譲渡所得の税率は、総合課税に分類され、譲渡所得の半分が課税対象となります。
また、長期譲渡所得には特別控除があります。資産ごとに定められた金額を売却益から差し引ける制度です。車の場合は50万円が特別控除額となります。
譲渡所得は、次の式で計算します。
売却価額とは、車を売った時に受け取った金額です。もし、相場よりも安く売った場合や贈与した場合などは、時価(通常売買される価額)で計算します。
取得価額とは、車を買った時に支払った金額で、減価償却費を差し引いた額で求められます。
減価償却費とは、車の価値が経年劣化や使用によって減少することを考慮した金額です。減価償却費は事業所得の計算上必要経費として計上できますが、譲渡所得の計算上は取得価額から差し引くことになります。
必要経費とは、車の売却にかかった費用で、車検や広告、仲介などが挙げられます。
これらの費用は、売却価額から差し引けるのです。
特別控除とは、前述したように長期譲渡所得に適用される制度で、車の場合は50万円が特別控除額です。売却益から差し引けます。
課税・非課税の違いは、生活に必要な車なのかどうかです。例えば、普段の買い物に使う車ならば非課税ですが、生活に必要でない旅行用車両や事業目的の通勤車は課税対象です。
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車売却の仕分けでよく使われる6つの勘定科目
車を売却するときには、会計上の仕訳を正しく行わなければなりません。
仕訳とは、売却によって発生した収入や支出を帳簿に記録することです。
仕訳の仕方は、法人か個人事業主か、消費税の処理が税込か税抜か、売却で利益が出たか損失が出たかによって異なります。ここからは代表的な勘定科目を紹介します。
事業主借とは、個人事業主が自分の事業にお金を入れるときに使う科目です。
車を売却した場合、売却代金を自分の口座に入れるときに事業主借を使います。
例えば、車を100万円で売ったときに、その100万円を自分の口座に入れたら、事業主借に100万円を記入します。これは、事業からお金を借りたことになります。
事業主貸とは、個人事業主が自分の事業にお金を出すときに使う科目です。
車を売却した場合、売却代金を自分の口座から出すときに事業主貸を使います。
例えば、車を100万円で売ったときに、その100万円を自分の口座から出して事業用の口座に入れたら、事業主貸に100万円を記入します。これは、自分から事業にお金を貸したことになります。
車両運搬具とは、車やバイクなどの固定資産(長期間使用する資産)の科目です。
車を売却した場合、車両運搬具は売却時の帳簿価額を記入します。
帳簿価格とは、購入時の価格から固定資産が使用年数に応じて価値が下がる分の費用である減価償却費を引いた価格のことです。
例えば、新車で200万円で購入した普通車が6年で帳簿価格100万円になったら、車両運搬具に100万円を記入します。
減価償却累計額とは、固定資産が使用年数に応じて価値が下がった分の累計額の科目です。
車を売却した場合、減価償却累計額は売却時までに発生した減価償却費を記入します。
例えば、新車で200万円で購入した普通車が6年で帳簿価格100万円になったら、減価償却累計額に100万円を記入します。
預託金とは、自分が他人に預けたお金の科目です。
車を売却した場合、預託金はリサイクル預託金を記入します。
リサイクル預託金とは、車を購入するときに支払うお金で、車を廃棄するときに返ってくるお金のことです。
例えば、新車で200万円で購入した普通車にリサイクル預託金が2万円かかったら、預託金に2万円を記入します。
現預金とは、現金や銀行口座などの短期間で現金化できる資産の科目です。
例えば、車を100万円で売ったときに、その100万円を事業用の口座に入れたら、現預金に100万円を記入します。
個人事業主が車を売却した時の仕分けパターン4つ
個人事業主が車を売却するときには、会計上の仕訳を正しく行わなければなりません。
仕訳の仕方は、消費税の処理が税込か税抜か、売却で利益が出たか損失が出たかによって異なります。
消費税込の直接法とは、車の帳簿価格から減価償却費を引いた金額を車両運搬具として記入する方法です。
利益がでたということは、売却価格が帳簿価格より高いということです。この場合、売却代金を現預金に、売却時の帳簿価格を車両運搬具に、リサイクル預託金を預託金に、利益分を事業主借に記入します。
例えば、以下のような条件で車を売ったとします。
- 新車で200万円で購入した普通車が6年で帳簿価格100万円になった
- リサイクル預託金は2万円
- 車を120万円(税込)で売った
- 売却代金は現金で受け取った
- 売却代金にはリサイクル預託金分は含まれていない
この場合、以下のように仕訳します。
借方 | 貸方 |
---|---|
現預金:120万円 (売却代金) | 車両運搬具:100万円 (売却時の帳簿価格) |
預託金:2万円 (リサイクル預託金) | |
事業主借:18万円 (利益分) | |
合計:120万円 | 合計:120万円 |
消費税込みの間接法とは、車の帳簿価格から減価償却費を引かずにそのまま車両運搬具として記入する方法です。減価償却費は別途減価償却累計額として記入します。
利益がでた場合も、直接法と同じく売却代金を現預金、リサイクル預託金を預託金、利益分を事業主借に記入しますが、車両運搬具と減価償却累計額の金額が異なるため注意が必要です。
例えば、先程の例と同じ条件で車を売った場合、以下のように仕訳します。
借方 | 貸方 |
---|---|
現預金:120万円 (売却代金) | 車両運搬具:200万円 (購入時の帳簿価格) |
減価償却累計額:100万円 (売却時までの減価償却費) | 預託金:2万円 (リサイクル預託金) |
事業主借:18万円 (利益分) | |
合計:220万円 | 合計:220万円 |
消費税込みの直接法で損失がでたということは、売却価格が帳簿価格より低いということです。
この場合、売却代金を現預金に、売却時の帳簿価格を車両運搬具に、リサイクル預託金を預託金に、損失分を事業主貸に記入します。
例えば、以下のような条件で車を売ったとします。
- 新車で200万円で購入した普通車が6年で帳簿価格100万円になった
- リサイクル預託金は2万円
- 車を80万円(税込)で売った
- 売却代金は現金で受け取った
- 売却代金にはリサイクル預託金分は含まれていない
この場合、以下のように仕訳します。
借方 | 貸方 |
---|---|
現預金:80万円 (売却代金) | 車両運搬具:100万円 (売却時の帳簿価格) |
預託金:2万円 (リサイクル預託金) | |
事業主貸:22万円 (損失分) | |
合計:80万円 | 合計:80万円 |
消費税込みの間接法で損失がでた場合も、直接法と同じく売却代金を現預金に、リサイクル預託金を預託金に、損失分を事業主貸に記入します。
ただし、車両運搬具と減価償却累計額の金額が異なるため注意が必要です。
例えば、先程の例と同じ条件で車を売った場合、以下のように仕訳します。
借方 | 貸方 |
---|---|
現預金:80万円 (売却代金) | 車両運搬具:200万円 (購入時の帳簿価格) |
減価償却累計額:100万円 (売却時までの減価償却費) | 預託金:2万円 (リサイクル預託金) |
事業主貸:22万円 (損失分) | |
合計:180万円 | 合計:180万円 |
個人事業主が車の売却で節税するポイント
個人事業主が車を売却するときには、節税のために注意すべきポイントがあります。
ここからは、車を売却するときに経費として認められるものや、税金を減らす方法について見ていきます。
家事按分とは、自宅や自家用車などの私的な資産を一部事業に使っている場合に、その使用分を経費として計算する方法です。
例えば、自宅の一部を事務所として使っている場合には、家賃や光熱費などの一部を経費として申告できます。
車が事業用として登録されている場合は、家事按分をしなくても全額経費として計上可能です。ただし、以下の条件を満たす必要があります。
- 車検証や自動車税納付書などに事業名が記載されている
- 走行距離やガソリン代などの記録がある
- 私的な使用が少ない
自動車税は、車を所有することによって発生する税金です。4月1日時点での車の所有者が、その年度分の自動車税を払わなければならないため、4月1日以前に車を売却すれば、その年度分の自動車税は免除されます。
例えば、2023年4月1日時点で普通車を所有していた場合には、自動車税として約5万円を払わなければなりません。
しかし、2023年3月31日までに普通車を売却すれば、2023年4月1日~2024年3月31日までの分の自動車税を払わなくて済みます。
下取りは新しい車を購入する際に古い車をディーラーに引き渡すことで、買い取りは古い車を専門業者に売却することです。
この2つを比較すると、買い取りのほうが節税に有利です。
下取りの場合、古い車の価格が新しい車の価格から差し引かれて消費税額が減る特徴がありますが、買取の場合は車のグレードや装備などを詳細に査定してくれるため、高値で売却できる可能性が高まります。
車の売り時はいつ?タイミングを誤ると損することも!
車を売却するときの注意点
車を売却するときの税金の考え方は法人と個人事業主で異なります。
ここからは、形態ごとの注意点を3つ解説します。
個人事業主が車を売却する際は、法人と税金の考え方が異なる点に注意しましょう。
法人では車を会社の資産として扱っているため、売却時に得た利益は法人税として扱われます。一方、個人事業主が車を売却して得た利益は譲渡所得とみなされます。車を売却すると個人にお金が入るため、所得が増えたと判断され、所得税の支払が発生します。
なお、個人事業主が車の利用用途を生活に必要なレベル(買い物や通院など)の場合は非課税になります。ただし、高級車の場合は「生活に必要」の範疇を超えているため、税金の支払いが発生するでしょう。
リサイクル預託金とは、自動車リサイクル法に基づいて、新車購入時に支払うお金です。廃車時に返還されますが、その際に資金管理料金という手数料が差し引かれます。また、資金管理料金には消費税がかかります。
例えば、リサイクル預託金が10万円で資金管理料金が1万円だった場合、廃車時に返還される金額は9万円ではなく8万9千円です。この差額の1,000円が消費税です。
この消費税は、自動的に差し引かれるので注意しましょう。
車を売却するときには、様々な税金や手数料が発生し、複雑な計算をしなければなりません。
特に個人事業主の場合は、経費や所得の計算方法が複雑で、ローン残債や自動車税の還付なども考慮しなければなりません。
計算が難しいと感じたら、専門家である税理士に相談することをおすすめします。税理士は有料ですが、正確な計算や節税対策を提案してくれます。
トラブルやミスによる損失を防ぐためにも、利用する価値があります。