座り心地を調整するために、いわゆるバケットシートの一種である「レカロシート」を車に装着することができます。しかし、このレカロシートを使うと車検に通らないことがあります。

車検に通すには、保安基準を踏まえてシートレールを設置したり、背面にプロテクターをつけたりしなければなりません。また、構造変更申請の手続きが必要になることもあります。

レカロシートの装着は、さまざまな注意が必要なので詳しく解説していきます。

レカロシートは車検に通るのか?

レカロ社で製造・販売しているバケットシートは、通称「レカロシート」と呼ばれています。こうしたバケットシートはレカロ社に限らず、さまざまなメーカーから販売されていますが、これらを装着した車は車検に通るのでしょうか?

車に本来装着されているシートと交換可能な、こうしたシート類を「社外シート」と言います。基本的にレカロ、ブリッド、スパルコなどのメーカーで製造している社外シートは車検に通ります。

ただし、シート本体やシートレールの強度・素材の証明書類が必要になるかもしれません。

バケットシートは、身体をしっかり固定してスポーツ走行をするのにうってつけのアイテムです。しかし、それを装着したことで車検に落ちては意味がありません。

レカロシートとは?

レカロシートとは?
レカロシートを製造販売しているレカロ社は、もともとは馬車メーカーでした。自動車産業に関わるきっかけとなったのは、ポルシェ社から「軽量でサポート力のあるシート」の生産を依頼されたことです。

レカロ社は、アルミを使用した素材にクッションや表皮を貼り付けるというやり方を採用しました。これがレカロシートの原型となり、現在では特にモータースポーツ用の自動車専用シートとしてよく使われています。

また、レカロシートはドライバーの運転時の負担を大きく軽減するという特徴もあります。

レカロシートは「バケットシート」の一種

レカロシートは、モータースポーツなどで使われる「バケットシート」の一種です。特にレカロ社で製造販売されているものがこう呼ばれています。

バケットシートは、一般的な乗用車のシートよりも座った人の体を包んで支える性能(ホールド性)が高いのが特徴的です。そのため、スポーツモデルの車で使われる機会が多いです。

さらに、バケットシートには、背もたれが座面と一体になった「フルバケットシート」と、背もたれの角度が調整でき、リクライニング機能もある「セミバケットシート」の2種類があります。

フルバケットシート

フルバケットシートは、座った人の体を包み支える機能性に特化したものとなっています。ホールド力が高いことから競技用シートとして捉えられることが多く、一般の乗用車に使用するとそのままでは車検に通らないことも多いです。

特にフルバケットシートで注意しなければならないのは、道路運送車両法の保安基準のうち第22条の内容です。これによると、シートの後面部分は、衝突などの事故に遭った際に座っている人を衝撃から守る構造でなければならないと記されています。

しかし、競技用のフルバケットシートはカーボンなど骨格部分がむき出しであるなどの理由でこの基準を満たさないこともあり、車検に通らないこともあります。この場合、後部座席に乗っている人の安全が問題になることもあります。

サーキット専用の車両なら、性能重視でフルバケットシートを使うことが可能です。しかし、一般の乗用車への装着は保安基準に照らし合わせながら慎重に行う必要があります。

セミバケットシート

セミバケットシートは、フルバケットシートよりもホールド力が低く、リクライニング機能がついているのが特徴的です。特にリクライニング機能は保安基準にも関わってくるので、セミバケットシートは車検にも通りやすくなっています。

もちろんホールド力が低いと言っても、一般的な乗用車のシートと比べれば、包み込んで支える機能は高いです。そのため、車検に通りやすいと同時にバケットシートならではの座り心地と安定感を併せ持っていると言えます。

セミバケットシートを装着して車検に出す場合は、保安基準に適合しており、安全面でしっかりしたものをつけましょう。座る人の体型や車種に合わせて、快適に使用できるものを選ぶのがポイントです。

車検の基準とレカロシートの関係

車検の基準とレカロシートの関係
ここまでレカロシートについて詳しく説明してきましたが、車検時の基準と照らし合わせた場合、レカロシートはどんな点が問題になりやすいのでしょうか?

まずは、車検がどんな基準に基づいて行われているのか説明していきます。

車検の基準は道路運送車両法の保安基準

車検の検査で基準となるのは、道路運送車両法で定められている保安基準です。

これは、車の走行時の安全を確保することと、また環境保全を目的として設けられており、車検はこれに基づいて行われます。

車検の現場では、車の車高や全高などのサイズ、部品の装着の仕方、それらの動作、そして排ガスなどが全て基準に適合しているかどうかをチェックします。

これらのうち、ひとつでも適合しなければ不合格となり、いわゆる「車検に落ちる」「車検に通らない」といった事態になります。

車検に通らない原因としてよくあるのが不正改造です。例えば、マフラーを取り付けたことで騒音の上限を超えてしまった場合やフロントガラスに貼ったフィルムの可視光線透過率に問題があったりした場合は不正改造になります。

車検に落ちるようなレカロシート(バケットシート)の取り付け方をしていると不正改造になってしまいます。その具体的な内容を次で説明します。

レカロシートと道路運送車両法の関係は?

車のシート、すなわち座席が道路運送車両法で定められている保安基準に適合するか否かのポイントは、安全性の確保の有無にあります。

レカロシートをつけた車が車検に通るかどうかも、この点において決まることになるでしょう。

また、具体的な可否のポイントは、車両タイプやシートの種類によって異なります。

例えば、セミバケットシートはリクライニング機能があり、後部座席がある車でも乗降に支障がないので車検に通りやすいです。しかし、フルバケットシートはリクライニング機能がなかったり、背面がむき出しだったりして、後部座席がある車両では保安基準上問題があると見なされます。

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レカロシートの問題点は?

レカロシートの問題点は?
レカロシートをはじめとするバケットシートがなぜ安全面で問題になるかというと、乗員の命に関わるからです。

走行中の車が別の車や障害物などに衝突すると、何トン分かに相当する重力がかかるので、この時にシートの強度・安全性に問題があれば死傷する恐れがあります。

例えば、シートに不備があった場合、シート自体の破損や、シートごと社外に放り出されるかもしれません。シートが保安基準を満たしていない場合、こうした事態も十分ありえます。

レカロシートは保安基準適合を証明する書類が必要

令和4年4月現在、レカロシートを使用している車は、車検時に保安基準適合試験成績書(強度証明書類)の提出が必須です。この書類は、シートとシートレールの製造番号が分かれば、レカロ社のコールセンターから送付してもらえます。

このようなルールになったのは平成29年7月のことです。道路運送車両法の施行規則の一部が改正され、その前は車検に合格していたシートも、以降の車検では上記書類なしでは車検に通らなくなりました。

もともと、レカロシートは保安基準に照らし合わせた場合グレーゾーンとされていたのですが、車両の安全面への配慮からより線引きが厳格化されています。この改正によって、レカロシート以外のグレーゾーンのさまざまなパーツも、上記書類が必須となりました。

これはレカロシートが特に危険ということではありません。チェックが厳格になっただけで、ルールに従って装着したものであれば問題なく車検に通ります。

フルバケットシートは要注意

先述した通り、フルバケットシートはセミバケットシートと比べて車検に通りづらいので要注意です。リクライニング機能がないため、後部座席の乗車の乗降で支障をきたすことがあります。

これはシートとシートレールの保安基準適合試験成績書があるか否かとは別の話です。車種や車の構造によって構造変更が必要になる場合もあるので、特にフルバケットシートを装着する場合は前もって専門家に相談しましょう。

レカロシートが車検に通らない4つのパターン

車検に通らない4つのパターン
レカロシート(バケットシート)を装着した車が車検に通らない典型的なパターンがいくつかあります。

例えば、リクライニング機能の有無、背中のガードの有無、シート自体に問題がある場合や、シートレールのメーカーが異なっている場合、特殊なシートベルトを使っている場合などです。

これらが問題視されるかどうかは、車両のタイプや構造変更の承認がなされているかによって違います。また、検査官によって判断が異なることもあります。

①シートとシートレールのメーカーが同一でない

シートとシートレールは自動車の構造上ワンセットです。しかし両者のメーカーが異なっていたり、いずれかが非正規品やコピー品だったりした場合は基本的に車検には通りません。

そのため、レカロシートを装着している場合は、レカロ社製のシートレールを使うのがベストです。

また、レカロ社以外のメーカーで製造しているシートレールにも車検に対応しているものがあるので、それを使ってもいいでしょう。

ただし、レカロシートと異なるメーカーのシートレールをワンセットにして車検に通すには、少なくともシートは正規品である必要があります。こうしたシートレールは、メーカーから保安基準適合試験成績書(強度証明書類)を取り寄せることも可能です。

②リクライニング機能がない

道路運送車両の保安基準では、乗っている人が乗り降りするために必要な幅は「600mm」と定められています。

ここで問題になるのは後部座席の乗り降りで、スムーズな乗降が可能な4ドア車と違って、2ドア車は「600mm」の幅の確保に注意しなければなりません。

2ドア車で乗車定員が3人以上の場合、運転席と助手席のシートにリクライニング機能が備わっていないと、スムーズな乗降のための600mm幅の確保ができなくなります。フルバケットシートは保安基準を満たさず、車検に通らないということです。

フルバケットシートを装着して車検に通したい場合は、後部座席を取り払う必要があります。その上で構造変更の申請をするといいでしょう。

③シートの背中が保護されていない

道路運送車両の保安基準上、シートの背中については、「衝突等による衝撃を受けた場合に乗車人員を保護する構造でなければならない」と決められています。

競技用のフルバケットシートは背面がむき出しになっているものがあるため、車検に通らないかもしれません。

ただし、シートの背中が問題になるのは、後部座席の乗員の安全を確保するためでもあります。そのため、前項のリクライニング機能と同様に、条件次第では車検に通ることもあります。

例えば、運転手と助手席の2座席しかない2シータータイプの車であれば、後部座席についての心配はいりません。あるいは、後部座席を除いて構造変更を行えば、通る可能性はあります。

④3点シートベルトが使われていない

車をサーキット仕様にしたい方は、バケットシートに加えて4点式シートベルトを装着したいと考えるかもしれません。

4点式シートベルトは、シートに体が強く固定されるのが特徴で、サーキットドライビングでは必須アイテムです。

しかし、一般道では純正の3点式を使うのがルールです。4点式は、確かにサーキットでは使用が義務化されているほどメジャーですが、普通の乗用車では保安基準を満たさないことになります。

保安基準上、シートベルトには自動巻き取り装置が必須で、上半身を簡単に動かせることが条件となっています。この点がサーキットとは基準が逆で、運転時に体の自由が利かないと、後退する時の後方確認に支障をきたすのです。

レカロシートを車検に通す方法は?

車検に通す方法は?
レカロシート(バケットシート)のうち、特にフルバケットシートが車検に通りにくいことをここまでで説明しました。では、それを踏まえてバケットシートを装着した車を車検に通すにはどうすればいいのか、改めて確認していきましょう。

専門家と相談してシートを選ぶ

バケットシートを車に装着する段階で、車検に通るかどうかを一度専門家に相談したり確認してもらうのが一番いい方法です。

「バケットシート」と一口に言っても、車検に通るかどうかはシートの仕様や車のタイプによってまちまちです。例えば、後部座席がある車ならそこに座る人の安全が確保されていなければなりませんが、2シーターならまた話は違います。車検に通るかどうかは、このようにさまざまな条件を加味して考えなければなりません。

さらに実際の車検の現場では、検査員一人一人の判断が異なってくることもあります。そうした判断のパターンは素人には想像がつかないので、事前に専門業者などの判断を仰ぐようにしましょう。

保安基準に適合している証明書類を用意する

バケットシートを取り付けた場合、シートレールと適合する組み合わせでないと車検には通りません。

適合しているかどうかを判断するには、保安基準適合試験成績書(強度証明書類)が必須です。この書類がない場合は、メーカーに問い合わせることで入手できます。シートやシートレールについている製造番号をチェックして、各社のコールセンターから書類を申請しましょう。

原則的には、シートとシートレールは同一メーカーでなければならず、一方が非正規品やコピー品でも車検には不合格となります。ただし、シートレールについては例外としてレカロ社以外のメーカー品でも通るものがあるので、装着前に確かめましょう。

構造変更の申請をする

もし2ドアあるいは3ドアの車で運転席と助手席の両方をフルバケットシートにしたい場合は、後部座席を取り外しましょう。そして、構造変更の申請を行って乗車人数を2名までとすれば、車検にも通るようになります。

シートの背中にプロテクターを付ける

シートの背面が、カーボン、FRPなどからなるシェル素材がむき出しのものは、万が一の衝突時に後部座席の乗員に危険が及ぶ恐れがあります。

道路運送車両法の保安基準上、この点での安全を確保しなければなりません。

このような、シートの背面がむき出しになっているタイプのバケットシートは、車検対策として専用のシートバックプロテクターを装着することで車検対策となります。

オプション装備品としてシートメーカーで販売しているので、確認してみてください。

ただし、これも不要な場合があります。2シーターの車で後部座席がなかったり、あるいは後部座席そのものを取り外して構造変更の手続きを行っていたりすれば、プロテクターを装着する必要はありません。

まとめ

①レカロシートは「バケットシート」の一種
②レカロシートは道路運送車両法上の保安基準を満たせば車検に通る
③車検時には保安基準適合証明が必要
④シートの背中がむき出しのもの・リクライニング機能がないものは車検に通らない
⑤シートとシートレールが同一メーカーでないものや4点式シートベルトが使われているものは車検に通らない
⑥レカロシートを車検に通すには、背面へのプロテクターの貼り付けや構造変更が必要

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