新車試乗レポート
更新日:2022.05.06 / 掲載日:2022.05.06
レクサス初のBEV専用車 RZ を検証する【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●レクサス
多くの方がご存知の通り、レクサスは発足以来、トヨタのプレミアムブランドに位置づけられて来た。昨年、そのレクサスに新しい役割が与えられた。それはトヨタグループの電動化を推進する役割だ。
昨年12月トヨタは「2035年までに生産する全てのレクサス車をBEVに切り替える」と発表した。現在、バッテリー価格は需給の逼迫によって高騰しており、現状に照らせば、安価なクルマのBEV化は難しい。新たな技術的ブレークスルーがない限り、当分の間BEVはプレミアムな商品に限られる見通しと言えるだろう。
実際先駆者として知られるテスラも、かねてからアナウンスしてきた低価格モデルの発売を凍結し、販売中のモデルも次々と値上げを行っている。テスラはプレミアムBEVビジネスの開拓者であり、そこで成功している以上、わざわざビジネスとして明らかに厳しい普及価格BEVに進出する意味がない。テスラの動きを見てもわかるように、ある程度勝算が見込めるBEVはやはりプレミアムクラスということになるのだ。
トヨタグループでテスラ式のプレミアムBEVを担うとすれば、当然レクサスに白羽の矢が立つことになる。それがレクサスに与えられた役割の意味である。すでにUX300eがBEVモデルとしてデビューしているが、UXはパワートレインとしてICEとBEVの両方をラインナップするマルチパワートレインモデルであり、今回お披露目されたRZがBEV専用の「e-TNGAシャシー」を採用するレクサス初のBEV専用モデルということになる。

エンジニアリングから見れば、RZは、トヨタとスバルが共同開発したトヨタbZ4Xとスバル・ソルテラのコンポーネンツを活用して作られたミドルサイズSUVである。bZ4XにはFFとAWDの2つの駆動方式が存在し、FF用にはフロントに150kWのモーターが、AWDモデルには前後にそれぞれ80kWのモーターが搭載される。
RZはbZ4XのFF用の150kWフロントモーターとAWD用の80kWリヤモーターを備えたAWDであり、現在の所トヨタグループのフロント用/リヤ用の出力合計では最強ユニットを搭載したBEVということになる。
今回トヨタのテストコースに招かれて、秋に発売が予定されているこのRZのプロトタイプに試乗した。最も確認したかったポイントは、豊田章男社長がBEVの評価を覆しただけの何がこのRZにあるのかだ。
正確な引用ではないが、これまで豊田社長は、「われわれは、トヨタのクルマ、レクサスのクルマというブランドの味を作るために腐心してきた。けれども、これまでトヨタが製作してきたいくつかのプロトタイプは、乗ってみてもそういう味がなかった。それは我々が何としても避けたいクルマのコモディティ化を想起させる」とBEVに対して厳しい評価を下してきた。
しかしレクサスの公式動画の中で、このRZに試乗した豊田社長は破顔し、歓声を上げ、楽しさを全身で表現した。それは何なのだろう? 今までと何が違うのか?
さて、実際に試乗してみると、RZは最近のトヨタ/レクサスの例に漏れず、丁寧に仕上げられた良いクルマだった。もっとも感心したのは4輪の接地感だ。
今回試乗した下山のテストコースは、ニュルブルクリンクを想定したアップダウンの多い厳しいコースだ。坂を登り切って、頂点を超えた所で舵を入れながら下りカーブとか、緩い下りの逆カントのような、前輪の荷重が抜けやすい意地悪なコースである。
RZはそこを極めて確かな足取りで駆け抜けた。もちろんドライバーの方もやるべきことはやっている。スロットルやブレーキを使ってフロントを落ち着かせ、荷重を掛けて、抜重ポイントを丁寧に走った。
そういう走り方でRZはとても楽しく、むしろタイヤの接地条件の良いコースよりもこういう所の方が楽しいと思えるものに仕上がっていた。

もちろんTNGAの流れを汲むシャシーの性能もあるが、もうひとつ大きいのがAWDの制御である。前100から後ろ100まで、自在にトルクを調整しながら、四輪の接地感をリアルタイムでコントロールし続けることで、常に安心感のあるロードホールディングを提供したのである。
BEVはエンジンより制御レスポンスに優れるモーターの恩恵で、駆動力制御を精密制御できるのだという話は三菱 i-MiEVがデビューした当時から語られていることだが、実は接地感まで精密制御しようと思うと、モーターの制御だけでは済まない。1/100秒でのトルク制御ができたとしても、それに相応しいシャシー性能がなければ、制御がシャシーの変形に飲み込まれて意味を失ってしまう。
e-TNGAで固められたボディはもちろんだが、このRZの走りを高めているのは、恐らくはスバルが拘った等長ドライブシャフトである。左右のドライブシャフトの長さが違えばねじり剛性が左右で異なり、モーターがいくら精密制御をしても右と左のタイヤに力が伝わるタイミングがズレる。
スバルは長年、シンメトリカルAWDに執念を燃やしてきており、今回のe-TNGAの開発でも、「左右等長にそんなに拘る必要があるのか」と疑念を差し挟むトヨタのエンジニアに徹底的に抗戦して、等長ドライブシャフトを守り抜いた。
緻密な制御ができるモーターとトルク制御プログラム。高い剛性のシャシー、それに左右等長を死守したドライブシャフトの効果が加わって、RZの運動性能はできている。
もちろんそこにはスバルだけではなく、全てのクルマを絶対コモディティ化させないという豊田社長の強い意志もも込められていると思う。