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更新日:2021.12.10 / 掲載日:2021.12.10

日産の新長期ビジョンを読む【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●日産

 11月29日、日産自動車は、「Nissan Ambition 2030」と銘打って、カーボンニュートラル時代の事業戦略を発表した。

 日産自身がまとめたサマリーがあるので、まずはそれを見てみよう。

・今後5年間で約2兆円を投資し、電動化を加速
・2030年度までに電気自動車15車種を含む23車種のワクワクする新型電動車を投入し、グローバルの電動車のモデルミックスを50%以上へ拡大
・全固体電池を2028年度に市場投入

 読めば分かることだが、全て文言が電動化の加速という文脈の中にあり、もう少し細かく見れば、BEVとHEVをどの地域でどの程度売るかということを数値目標化して打ち出した事業プランである。

 という話の前に、現状の日産の経営を点検しなくてはならない。資金が潤沢にあって、多少の失敗が許容できる状態なのか、勝たなければ死ぬのかによって、この事業の捉え方が違ってくるからだ。

 2021年第2四半期の販売台数は、対前年比でマイナス9.6%の95万4000台ながら、営業利益は1391億円とプラスで、対前年比でも11%のプラスとなっている。赤字転落で地獄の様相だった前年からはよく回復したと言えるが、通期見通しの売上高8兆8000億円と営業利益1800億円、利益率2.0%を見るとまだまだ病み上がり状態にあり、安全圏にはない。端的に言って、回復基調だが、厳しい経営環境は続いている。日産はまだしばらく連勝を続けていかないと、再転落の可能性から逃げられない。

 という背景を頭に入れた上で事業プランを見直すと、不退転の覚悟で攻めに回ったことがよくわかる。そして、その戦略を見れば、日産もまたマルチソリューション戦略であることが見えてくる。

 日産は、今回5年間で2兆円の予算を組んだことを発表した。この金額の規模感をどう捉えるかの比較として、トヨタの研究開発費を見ると、例年欠かさず1兆円を計上している。つまり日産の5年間で2兆円は莫大と言えるほどではないのだが、今の日産の経営環境から言えば、決して保守的ではない額を見込んでいる。努力は明確に見て取れる。

 それによって達成すべき目標は「2026年度までにEVとe-POWER搭載車を合わせて20車種導入」とあり、これまで述べて来た通り、BEVとHEVを大量投入ということになる。

 ではどこでどれだけ売るのか? 2026年をターゲットにした日産の計画は以下の通りだ。

  • ・欧州: 75%以上
  • ・日本: 55%以上
  • ・中国: 40%以上
  • ・米国: 2030年度までに40%以上(EVのみ)

 見ての通り、相当に意欲的な目標が立てられている。というか難易度的にはかなり厳しい数字に見える。計画では明らかにされていないが、掲げたこれらの数字に対し、達成率がどの程度で、経営が成り立つのかが見えてこない。大投資を行いながらの回収なので、半分では厳しいのではないかと思われる。

さて、これだけのクルマを売ろうとすれば、バッテリーの供給が確保されていなければならない。言わば戦線維持のための兵站である。そこの戦略はどうなっているかを見てみる。「パートナーと協力し、2026年度までにグローバルな電池生産能力を52GWh、2030年度までに130GWhへと引き上げる」としている。

 現在バッテリーの供給はすでに逼迫状態にあり、バッテリーの原材料確保やバッテリー生産を自社で直接行うことが体力的に難しい日産の状態に鑑みると、選択肢は他にないのだが、ここで想定されるパートナーが日産の計画を履行できるだけのバッテリーを確実に供給できるかどうかが大きな分岐点になるだろう。

 しかしながら、それはかなりの総力戦になる。バッテリーは重量物である上に、危険物でもあるので、グローバルの供給を1箇所で行い、そこから全世界にデストリビュートするというやり方は難しい。コスト的にも合わない。なので、バッテリーは地産地消の必要がある。ここについて日産は日本、中国、米国を含む主要地域でEVの生産を行うとしているので、当然バッテリーの調達先もそれぞれの地域に必要になる。このオペレーションをやりきれるかどうかが、今回の計画のキモになるはずだ。

 その他、かなり難易度の高い目標設定が続く、まずリチウムイオン電池の低価格化だ。高価なコバルトを使わないことを中心に、2028年にバッテリー価格を現在比で65%に低減する。さらに同年には全固体電池を市場導入すると言う。

 正直な話、これらの計画の全てが目標達成できるとは思えないが、それでもこれまで、聞いていてため息を付くしかなかった前政権までの計画に比べれば、方向性は正しいと思える。日産の奮戦に期待したい。

今回のまとめ

  • ・日産は2030年には電動車の比率をグーロバルで50%に拡大する
  • ・2028年にバッテリー価格を65%低減し、全個体電池を市場投入する
  • ・状況的に計画すべての目標を達成するのは難しいが方向性は正しい
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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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