新車試乗レポート
更新日:2025.03.14 / 掲載日:2025.03.14

マツダCX-60 問題解決【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●マツダ

 マツダCX-60がデビュー以来約3年を経て、大幅改良を受けた。すでに多くの方がご存知の通り、CX-60はデビュー直後に乗り心地問題で物議を醸した。

 何度か書いているので簡潔にまとめれば、マツダは乗り心地の新しい指標として「横揺れ」を止める新しいコンセプトのリヤサスペンションを設計した。これはラージだけでなく、スモールも含め、第7世代プラットフォーム全体の軸となる設計思想である。

 具体的に言えば、トー剛性をブッシュに任せない。そのためにスモールではわざわざ第6世代のマルチリンクから第7世代ではトーションビームアクスル(TBA)へとスペックダウンした。関節が多ければブッシュが増え、ジオメトリーの保持剛性が落ちる。なので、トー剛性の維持に適したTBAをあえて採用したのだ。

スカイアクティブ・ヴィークル・プラットフォームでは、クルマの横揺れを抑えることで乗員の疲労を軽減する発想を取り入れている

 ラージでは、本来トーコントロールアームに任せるトー角変化を嫌い、5本のアームでハブをがっちり保持することに専念した。そのためにハブ側の関節を全部ピローボール式にした(軽量な素のディーゼルでは一部ゴムブッシュを採用)。

 そうやってブッシュを排除した結果、いわゆるハーシュネスが強い、つまり突き上げを感じるサスになってしまったが、そこはマツダの信念として「突き上げより横揺れの方がパッセンジャーの疲労につながる」として、トレードオフを認めたのである。

 ただし、この3年前のコニュニケーションで、マツダは「横遊れこそが乗り心地悪化の主要因である」を十分に訴求しきれず、結果的に「アシが硬い」「乗り心地が悪い」という評判で埋め尽くされてしまった。「一回突き上げを無視して、横揺れのなさを味わってください」と言えなかったことが敗因である。

 しかしながらこれまでマツダはトレードオフ関係にある性能の按分、例えば今回の例で言えば、横揺れと縦揺れをバーターにするようなエンジニアリングはエンジニアリングではないと言ってきた。両方を解決してこそブレークスルーであり、それこそがマツダが志すエンジアリングであると。その伝に照らすと、今回の仕上がりはやはり問題があった。

 横揺れという新しい価値を築くにあたって、突き上げを抑え込んでこそ「マツダよあっぱれ!」なのだ。

 さて、3年の期間を要して、マツダはそれに一定の回答を用意してきた。技術的には、サスペンション全体にかなり大幅な変更を加えている。抽象的な言い方をするならば、特定部位に集中していた入力を分散させて押さえ込んだということらしい。

今回の一部改良ではサスペンションを改良、従来苦手にしてきた突き上げを対策することで乗り心地全体の完成度を引き上げた

 具体的な変更点はフロントサスペンションは、ナックル締結ポイントを変更、ダンパーの減衰力変更。リヤサスペンションは、ばねレートをダウン、逆に減衰を上げ、バンプストップラバー、スタビライザー、クロスメンバーブッシュの特性を変更。さらにこれらの変更に併せて、AWD、KPC、DSCの再セッティングを行っている。言わば総力戦である。そりゃ時間もかかる。

 しかしこの丁寧な作業によって、CX-60は良き方向へと変わったと言える。筆者が一番危惧していたのは、横揺れ主体で設計された構造を無視してまで、突き上げ対策を重視して、結局は帯に短し襷に長しにしてしまうことだ。

 世の中の声に従うべきだと言われれば、そこでコンセプトにこだわるのは傲岸の誹りは免れない。けれども、もし本当に開発の主題を変えるのであれば、ゼロベースでやり直す覚悟がいる。膨大な予算を使った後でそれはできないだろう。

 となれば、主題の横揺れは譲らず、その上で突き上げ対策を取らなければならない。簡単な話ではないが、批判の大合唱の中でそれを貫けるのかが問われている。

マツダ CX-60 XD ハイブリッド トレッカー

 結論を言えば、今回CX-60は3つのセッティングで課題に挑んだ。第7世代のコンセプトに忠実なのは、MHEVのAWD、「XD-HYBRID Premium Sports」。登場に突き上げが問題になったグレードだ。

 走り始めると、いわゆる少なくともコンセプトを無視した乗り心地スペシャルにはなっていない。どちらかと言えば硬いアシである。しかし車体に直接入ってくる鋭利な突き上げは影を潜め、角が丸まった。人によってはまだ硬いという人はいるだろうが、多くの人が口を揃えて否定するようなことはあるまいという硬さである。

 次いで、素のディーゼルのAWD、「XD-Exclusive Mode」をチェックする。筆者的には、素のディーゼルはデビュー時にマツダが外野の声に慌てて、「ブッシュ容量を増やした」と感じたモデルである。

 走り始めると突き上げはMHEVモデルより少し柔らかい。軽い分アシの剛性を落としてあるのだから当然である。こっちの問題は突き上げではないのだ。高速直進安定性である。筆者の中で総合的に一番評価が低かったグレードである。

 ひと安心。デビュー時の様な不始末はなかった。普通に運転するだけでなく、疲労時の運転をシミュレートして、修正舵をわざと遅らせ、大きく入れてみるが進路は乱れない。MHEVと比較すると少しピントが甘い感じは受けるが、突き上げを勘案すると好みの範疇である。突き上げのマイルドさを求める人ならこちらを選ぶべき。

 2台並べて比較すれば、設計コンセプトにより実直なMHEVに軍配が上がるが、その差は突き上げのいなしでお釣りが来るものだった。

改良型CX-60ではグレードごとの方向性が明瞭になり、ユーザーが想像するイメージと実際の乗り味がよりシンクロするようになった

 最後に乗ったのは、「XD SP」のFR。素のディーゼルをスポーツ仕様に仕立て20インチホイールを奢ったもの。実は一番安価なグレードである。これは上の2台の中間に位置する。MHEVは要らないが、突き上げ優先ではなく、よりコンセプチュアルな仕立てのアシが欲しい人に向けたモデルである。最廉価モデルなのに20インチを奢って、スポーツグレード化をはかり、多少の突き上げを意図的な味付けだと感じるように仕立ててある。実質的な乗り心地はMHEV同等だ。

 3年前、マツダはこのアシの仕立てでプチ炎上したわけだが、その改良を行うに際して、最後のところでコンセプトを忘れずにブレークスルーを行い。好みに応じた2つの乗り心地を作り分けてきた。問題のあったトランスミッションもようやくセッティングが出たようだ。ということで、大きさと価格が許容できる人にはおすすめできるクルマに仕上がった。大変だったと思うが、やり切ったことにまずは拍手を贈りたい。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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