車の最新技術
更新日:2022.09.19 / 掲載日:2022.09.19
新型エクストレイルのVCターボを解説【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●日産
新型となった日産エクストレイルは、過去に10年連続でSUV販売台数ナンバー1を獲得したこともある人気車種だから注目が集まるのは当然だが、技術的にも注目の一台だ。
というのも日本仕様のパワートレーンはノートなどでお馴染みのe-POWERの第二世代であり、エンジンは量産として世界初の可変圧縮比を採用したVCターボだからだ。
エンジンの圧縮比は、燃焼室内の容積が最大となるピストン下死点と最小となるピストン上死点の比率で決まり、高圧縮なほど熱効率が高まるが、ノッキングも起きやすくなる。自然吸気エンジンで10程度が一般的だが、最近では13〜15ほどの高圧縮比も実現。もともと空気を圧縮して押し込んでいるターボはノッキングが起きやすく、一般的には自然吸気よりも1は低く、8〜9程度が多い。ミラーサイクルなどのように吸気バルブの早閉じ、遅閉などで疑似的に可変圧縮させる技術は普及している。

VCターボはコンロッドをマルチリンク機構とすることでピストンのストロークを調整し、8〜14まで圧縮比を物理的に変化させる。あまり力を必要としない低負荷時は高圧縮比で高効率に、アクセルを踏み込んだ高負荷時には低圧縮比にしてターボを効かせる。最初に実用化されたのは2018年に発売されたインフィニティQX50、QX55(北米モデル)に搭載された直列4気筒2.0Lターボ。ボアは84mmでストロークは88.9〜90.1に変化する。最高出力272PS、最大トルク390Nmで従来のV6 3.5Lと同等かそれ以上のパフォーマンスながら燃費は大幅に改善された。その後、ローグ(北米モデルでエクストレイル相当)には直列3気筒 1.5Lが採用され、こちらも最高出力204PS、最大トルク304Nmとパフォーマンスは高い。
e-POWERはエンジンが発電に徹して、駆動はモーターというシリーズハイブリッドであり、これまでは直列3気筒 1.2Lと非力なエンジンしか採用されていなかったが、それでもモーター駆動の強みでノートなどコンパクトカーでは十分なパフォーマンスがあったが、エクストレイルでは直列3気筒 1.5LのVCターボを採用。最高出力82PS、最大トルク103Nmから144PS、250Nmへと一気に性能向上した。
VCターボは低燃費とハイパフォーマンスを両立できるだけではなく、それ以外にもメリットがある。一般的なエンジンはピストンが上下動するときにコンロードが左右に振れるのでシリンダー内部の壁にピストン側面が押しつけられるサイドスラストという現象が発生し、振動やフリクションの要因となる。これをいかに低減するかがエンジン開発の永遠のテーマともいわれるが、VCターボはコンロッドがマルチリンク機構になっているため垂直に上下させてサイドスラストをほとんど起こさないのだ。これによって振動特性が極めて優れているのでバランサーシャフトは不要となる。またフリクションが低減されているので、低回転を多用できるようになる。e-POWERはいかに静粛性をあげて快適にするかもテーマであり、エンジンの低回転化はその有効な手段だ。パワーを必要としたときも一般的なエンジンほどには高回転を使う必要がないので騒々しくならないというのもメリットとなる。また、高周波サウンドが生成されるのも特徴であり、直列3気筒でも回すといい音になる。以前、VCターボのエンジン車である北米ローグに試乗したときには、直列6気筒のようなサウンドで驚いたことがある。エクストレイルのe-POWERでは、アクセルを強く踏み込んでもエンジン回転がいきなり高めることがないように制御されており、車速の高まりとエンジン回転数の高まりがリニアに上がっていく。100km/h程度までフル加速させていくと、やはり直列3気筒とは思えないほど気持ちがいい。モーターのトルクが図太く、エンジン車ほど高回転を使う頻度が高くないのがもどかしいぐらいだ。

日常的な走行では極めて静粛性が高く、エンジンが存在をほとんど主張しないことも新型エクストレイルの特徴だが、アクセルを踏み込んだときには楽しさがある二面性もまた興味深い。VCターボ&e-POWERは、様々な魅力を持ったパワートレーンなのだ。