車の最新技術 [2022.05.14 UP]

マツダ一世一代の勝負「ラージ商品群」を解説【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●マツダ

 気が付けば、自動車メディアの仕事に携わってから30年以上が経ってしまった。最初はクルマが好きで、運転することが楽しくて、それを仕事にしたいというシンプルな思いから入っていったが、年月が経つにつれて、環境・安全といった課題に対して真剣に向き合っておかないと、この素晴らしきクルマ好きの世界を未来永劫続けていくことができないなとか、ニッポンの未来を考えれば自動車産業および自動車文化がこれからも進化・成長していく必要があるなどと、恥ずかしながら上段にかまえた考えも持つようになってきた。モータージャーナリストとしてはフラットな目線でものを見ておくべきとは思いつつ、日本の自動車メーカーを応援する気持ちは常にあるのである。

 欧州の自動車産業や文化は「さすが先輩」と思わず唸ってしまうことも少なくはなく、日本の自動車メーカーはいつまでもその背中を追う立場なのかなー、いやしかしCO2排出量削減で最重要となる“省エネ技術”に関してはこっちに分があるぞ、シャシー技術にしても最近はかなりいセンいっているなどと感じて、日々心が揺れ動く毎日だ。

 逆に欧州から日本の自動車メーカーをみたことを想像すると、トヨタはあらゆる面で秀でていて総合力が侮れず、ホンダは商売こそあんまり上手くないものの技術力やアイデアは超一流、日産はルノーとアライアンスを組んでいるから純ニッポンではないかもしれないがやはり底力があるといったところか。さらに踏み込むと、自動車メーカーとしてはスモールプレーヤーながら、キラリと個性が光るマツダとスバルは、なんだか応援したくなってしまう気持ちが強く、実際に街でユーザーを見かけると、大手メーカーのユーザーよりも幸せそうにクルマを愛でているような気がする。

CX-60 SKYACTIV-VEHICLE ARCHITECTURE

 そんななか、マツダが一世一代の勝負に、これから出ようとしている。数年前から噂され、すでに正式に発表がなされた、エンジン縦置きFRプラットフォームであるラージ商品群の導入だ。世界中の自動車メーカーの多くが電動化シフトを鮮明にし、そのいきつく先のBEVではFFやFRなどといったエンジン車がとってきたレイアウトや駆動方式などは意味がなくなる。エンジン主体のパワートレーンを搭載するモデルでは、FF系はもう少し生きながらえそうだが、FR系の未来はあまり明るくは見えず、実際に次期プラットフォームの計画をキャンセルするメーカーもある。そんななかでマツダのとる戦略は、逆ばりにも思えるほどだ。

 それでもなぜ、マツダが新たにFR系へ突き進むのかと言えば、2012年にスカイアクティブ・テクノロジーと魂動デザインでブランドを再構築してからの流れをみれば、むしろ自然だ。それ以前のマツダは、クルマ好きからはけっこうな支持を受けていたものの、いかんせんブランドが庶民的にすぎたので、マニア受けするモデル以外ではライバルとの値引き合戦をしなければ思うように売れないという状態だった。いいクルマを造ったとしても、それに見合う対価が得られない、値引きするからリセールバリューも悪く、中古車価格が維持できない。メーカーもディーラーもユーザーも、誰も得することがない負のスパイラルに陥っていたといっても過言ではない。そこでブランド力を引き上げて値引き合戦とは距離を置く、プレミアム化路線をとったわけだ。それは、それなりに成功していてここ10年でブランドイメージは大幅に上がっている。マツダは比較的に日欧米を中心にバランスよくビジネスをしているが、そのなかでもっとも成長を期待したいのが収益性のポテンシャルが高いアメリカだ。他の日本メーカーに比べると、今ひとつパンチに欠けているのであるグローバルの年間販売台数は約120万台、アメリカはそのうち約35万台となる。2012年以降は北米でもブランドイメージを高め、シェアも増えている。とくにCX-5やCX-9、CX-30といったSUVラインアップが好調でユーザー満足度も高いが、問題なのが次に買い換えるモデル、ステップアップするモデルがないということだ。そこでラージ商品群が待望されたということになる。欧州プレミアムブランドがラインアップするFR系のモデルがあれば、マツダのブランドイメージはさらに高まるという期待だ。

CX-60

 FR系の一つの目玉は、新規に直列6気筒エンジンを開発したということにもある。これまた逆バリ的で、欧州では2035年以降に事実上エンジンは生き残れない=PHEVもダメということになっているが、アメリカでは2030年までに50%にするのが目標となっているゼロエミッションビークルに、PHEVが含まれる。ラージ商品群は、ガソリン・ディーゼルのエンジン車、マイルドハイブリッド、そしてPHEVがラインアップされる。とりあえず、エンジンが生き残る余地があるのだ。

 直6のディーゼルは、これまでエンジンの進化にこだわり続けてきたマツダらしいテクノロジーがつぎ込まれている。排気量は3.3L。既存の2.4Lとボア×ストロークは同様で、4気筒から2気筒増やした構成であり、モジュール化を考えているとみていい。ただし、新しい直6は燃焼室形状が異なる。2段エッグと呼ばれる新形状になっていて、DCPCI(空間制御予混合燃焼)を実現した。この形状が、燃料噴霧の干渉を抑制するので、燃焼時間を短くしてもエミッションの問題がなく、もっとも効率のいいピストン上死点で燃焼させることが可能になったのだ。熱効率は40%を超え、しかも広範囲で高効率な燃焼が可能となっている。多気筒で大排気量であることも高効率化の手段だ。取り込む空気量が増えることでEGR(排ガス再循環システム)の効率があがり、低いエンジン回転数を常用するダウンスピード化なども効果的。48V電源のマイルドハイブリッド、トルクコンバーターレスの新開発8ATなども相まって、DセグメントであるCX-60の燃費は、BセグメントのCX-3並だというから驚くしかない。

 シャシーにもマツダらしいこだわりが随所にあり、ファンにとっては期待しかないラージ商品群だが、これが広く受け入れられ、新しい戦略が成功するかどうかはわからない。もちろん応援しているが、いまのところはちょっとしたギャンブルに思えるというのが正直なところだ。

石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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