車の最新技術
更新日:2022.07.19 / 掲載日:2022.07.19

ホンダ ZR-Vの注目すべきメカニズム【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●ホンダ

 7月14日に先行公開されたホンダZR-V。シビックとプラットフォームを共有するCセグメントのSUVで今秋発売、9月から予約が開始される。

 車名は北米ではHR-Vで、中国と日本がZR-Vとなる。ちなみに欧州のHR-Vは日本のヴェゼル。なんだが車名が複雑でわかりづらいが、これも以前にホンダがとっていたグローバル6極体制という戦略の名残だろう。日本、北米、中国、欧州など世界を6つに分けて地域専用車を開発して、ユーザーニーズに応えるという理念で、商品力は高かったものの、開発工数が多くてコストが嵩み、競争力が低下してしまうということで2016年以降は改めている。それでもまだ現地の意向で、同じモデルでも車名が違うということがまま起こるのだ。

ホンダ ZR-V

 ZR-VはヴェゼルとCR-Vの中間に位置する。日本仕様のボディサイズはまだ公表となっていないが、北米や中国の仕様を参考にすると全長4570×全幅1840×全高1620mm程度。ちなみにヴェゼルは全長4330×全幅1790×全高1590mm、CR-Vは全長4605×全幅1855×全高1680mm。CR-Vは日本の都市部で使うには、ほんの少し大きいといったところなのでHR-Vは絶妙なサイズだろう。

 パワートレーンは1.5Lターボのエンジン車とe:HEVの2本立て。e:HEVは、2035~2040年あたりに迎えるであろう本格的なBEV時代まではホンダの主力であり、現在でもモデルに合わせていくつかの仕様がある。

 エンジンは1.5Lと2.0Lの2種類。その他、スポーツモード、パドルスイッチ、リニアシフトコントロールの有無など、モデルによって違う。

 排気量の違いはフィーリング的に想像以上の差があり、1.5Lでは、たとえ軽量コンパクトなモデルでもちょっとした加速でエンジン回転が高まってわずらわしく感じることもある。また、高速巡航でも2.0Lはエンジントルクに余裕があり、実燃費がすこぶるいいのも特徴。総じて2.0LのほうがフィーリングはいいのでZR-Vが2.0Lを採用したことは朗報といっていい。しかも、シビックで初登場したばかりの直噴エンジンの仕様であり、いまのところe:HEVで最上級のスペックおよびパフォーマンスを誇るユニットだ。直噴化はエンジン性能の底上げがなされ、シビックではそれをスポーティな方向に活用していたが、ZR-Vではどうなのだろう? 高効率な領域が広い(いわゆる目玉が大きい)のも直噴化のメリットであり、SUVでも十分なトルクと燃費性能を実現するために採用されたのかもしれない。

 e:HEVの、ちょっと意外な長所として4WDがかなり高性能だということもあげられる。メカニズム的には、エンジン車と同様にFWDベースでプロペラシャフトを介して後輪も駆動するというシンプルなものだが、e:HEVとの組み合わせが望外にいいのだ。

 e:HEVは、高速・低負荷領域でエンジンが直接駆動するモードも持っているが(高速巡航の燃費に貢献)、エンジンは発電に徹してモーターで駆動のシリーズ・ハイブリッドが基本。FWDのモーター駆動車を4WD化するには、リアにもモーターを搭載するという手があり、プロペラシャフトが要らないというメリットもあるが、リアのモーターの出力が低くて発進時など低速域でしか4WDの恩恵がないというケースが多い。スペースとコストをかけてリアにも大出力のモーターを搭載すれば、制御の自由度も含めて素晴らしい性能の電気式4WDが実現するが、そこまで本格派ではないと、電気式4WDはいわゆる生活4WDになりがちなのだ。ところがe:HEVとメカニカル4WDの組み合わせは、リーズナブルにして本格的な性能を両立できる。しかも、モーター駆動がベースになっているのでレスポンスが良く、制御も細やかに行われる。

 雪のクローズドコースでフィット、ヴェゼル、CR-Vのe:HEV 4WD を存分に走らせたことがあるが、高速域でもリアに駆動が配分されるので操縦安定性と走りの楽しさは、たしかに思っている以上だった。インプレッサやランエボ並とまではいかないが、4WDを生かしたスポーティなドライビングさえ可能なのだ。トラクション性能に優れるだけではなく、タイヤのグリップの負担を4輪に振り分けるので、フロントタイヤの横方向のグリップも引き出しやすく、滑りやすい路面でもアンダーステアになりづらいのが、何よりも安心。雪道でもけっこうなペースで振り回せることに驚いた。

 シビックe:HEVには4WDの設定がないので、2.0L直噴エンジン+4WDのZR-Vは、e:HEVで最強のパフォーマンスの持ち主ということになる。都会的でセンスのいいデザインばかりが注目されがちだが、走りの実力でも目を光らせておくべきモデルなのだ。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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