事故が発生すると、任意保険に加入しているなら補償を、加害者がいる場合は過失割合を決めた上で賠償を請求できます。

保険の適用や示談交渉を行う際、気をつけるべきことは車の時価額の把握です。補償や賠償は最初の提示金額が必ずしも正しいとは限らないため、被害者側に立ったならもらえるお金の種類や金額の相場を知っておかなくてはなりません。

そこで、この記事では事故車の適正な時価額と最大限補償を受けるための対応について詳しく解説していきます。

事故車の時価額は被害者の場合に理解が必要

事故で任意保険の適用や加害者からの賠償を受ける際、提示してくる金額が最低限の場合があります。

何も考えずにそのままの金額で承認してしまうと、かえって自分が損をする可能性があるため、事故に遭ったときに備えて車両の適正な時価を知っておかなければなりません。

ここからは、事故で知るべき車の時価額について解説します。

事故車の時価額とは?

事故車の時価額とは?
事故車の時価額は、事故に遭った時点での車の価値のことです。

保険の適用や賠償においては、車種や年式など同一の仕様状態・走行距離の中古車を販売店で取得する際に必要な価格が基準にされます。購入時の金額ではなく、現在価値に基づいて時価額が決まる点に注意が必要です。

保険会社が中古車市場価格を算定する際、有限会社オートガイドが発行する「自動車価格月報」を参考にします。なお、初年度登録から10年以上経過した車や自動車価格月報に記載がない車両など相場価格が読めない車については、新車価格の10%が評価額です。

時価損は事故時の車の価値をあらわす

事故車の時価額は、原則として事故直前の状態を基準に価格が算出されます。例え新車購入であっても、事故に遭った際に1年以上経過しているなら適用されるのは事故直前の時価額です。

とはいえ、事故で補償されるのは必ずしも時価額だけとは限りません。修理で復元可能な状態なら修理費用が適用され、全損で修復不可能と判断されたなら時価額が適用されます。

事故の補償においては、ルールとして以下のいずれか低い方が適用されます。

  • 車両時価額と消費税や検査登録費用など買い換えにかかる諸費用の合計額
  • 車両の復元にかかる修理費用に相当する額

どちらにせよ「相手方の保険会社の提示額が納得いかない」「提示額が高いか低いか分からない」といった場合は、最寄りの法律事務所や加入している保険会社へ相談しましょう。

【時価額を把握】事故の損害は2つある

【時価額を把握】事故の損害は2つある
時価額を含めた補償額や賠償額を算定する上で重要なのが、損害の範囲です。

事故で補償を受けるには、車両の状態とは別に事故によって生じたお金や損失など損害の合計が関わります。

ここからは、事故の損害の種類である「人的損害」と「物的損害」について解説します。

人的損害

人的損害とは、事故によって被害者本人が怪我を負ったり、死亡したりした場合など人に直接かかわる損害のことです。

人的損害は車の自賠責保険の対象で、加害者の過失が認められた場合は賠償や慰謝料を請求できます。人的損害で補償されるお金の代表では、主に以下が挙げられます。

  • 慰謝料
  • 治療費
  • 入院雑費
  • 休業損害

人的損害はさらに「精神的損害」と「財産的損害」の2種類に分類され、財産的損害はさらに「積極損害」と「消極損害」に分かれます。

精神的損害とは、被害者が受けた苦痛や後遺障害、死亡した場合に近親者へ生じる精神的苦痛などメンタルに関わる損害です。傷害のみの場合は慰謝料、後遺症が生じた場合は通常の慰謝料とは別で後遺慰謝料の請求が認められます。

財産的損害とは、怪我の治療費や事故によって得られなくなった収入や収益など、機会的な損害です。積極損害は主に傷害の治癒にかかる諸費用や死亡した場合の葬儀代、消極的損害は事故によって機会を失った収益や休業による収入減が該当します。

物的損害

物的損害とは、事故によって生じた車両の損傷や、車両の損傷によって生じる損害の総称です。

物的損害で補償される損害には、主に以下が挙げられます。

  • 修理費
  • 経済全損
  • 評価損
  • 代車費用
  • 休車損

物的損害は車両の賠償だけでなく、車を失った場合に生じる機会損失も対象です。例えば、社用車で事故に遭い取引の機会を逃した場合、本来得られたであろう収益に相当する金額を請求できます。

その他にも車両の保管料やレッカー代など、事故に関連する雑費は請求が認められる場合があります。雑費は別途請求しなければ補償に加えられない場合があるため、事故と関連する費用はできるだけ見積もりに加えましょう。

愛車の買取相場を知ることで高く売ることができます 愛車のかんたん査定はこちら

物的損害の中で知りたい「全損」は2つの概念がある

物的損害の中で知りたい「全損」は2つの概念がある
前述した物的損害において、車両の賠償を受けるには「全損」について理解しておく必要があります。

ここからは、物的損害における「物理的全損」と「経済的全損」について解説します。

物理的全損

物理的全損とは、車体が修理不可能なほど損傷した状態のことです。

例えば、重要なフレームが損傷を受けた場合や動力部分まで浸水した場合は修復が不可能なため全損に該当します。盗難も物理的全損の対象です。

物理的全損は原則修理できないと判断されるため、車両の時価額と買い換えにかかる諸費用が請求の対象です。車両は解体して廃車するしかないため、速やかに手続きを行いましょう。

全損の判断は個人が決めるものではなく、保険会社が事故の状況を確認したうえで判断します。見た目では全損のように見える場合でも、保険会社が認めない限り全損扱いにはなりません。

また、全損で車両保険を適用した場合、車の所有権は保険会社に移ります。ほとんどの場合、保険会社へ所有権を移さないと補償を受けられないため、事故に遭ったら保険会社の指示に従いましょう。

経済的全損

経済的全損とは、車両を修理で復元できるが、修理費用が車両の時価額を超えると予想される状態のことです。

前述した通り、事故の補償や賠償は修理費用と車両時価額のいずれか低い方が適用されます。そのため、事故車の時価額が100万円で修理費用が120万円の場合は経済的全損にあたり、賠償で請求できるのは時価額の100万円ということです。

経済的全損は事故の賠償を公平に請求するために設けられています。車両の希少性や代替パーツの不足など、車の価値に対して修理費用が高くつく場合、その全てを加害者に請求しては公平性を失いかねません。したがって、請求できる金額を正当化するため、経済的全損の仕組みが存在します。

全損は物理的全損でも経済的全損でも、時価額の適用が基本と覚えておきましょう。

全損の車は修理できますか?
原則として全損した車で車両保険を適用した場合、車の所有権が保険会社へ移るため個人で修理に出すことはできません。これは経済的全損と判断された場合でも同様です。
ただし、全損と判断された場合でも保険を適用しない限りは、修理して再び車に乗ることは可能です。事故に遭った後も車に乗り続けたい場合は、一度契約している保険会社へ相談することをおすすめします。

事故車の時価額はどうやって求める?

事故車の時価額はどうやって求める?
ここからは、事故車の時価額の算定方法について解説します。

相場より低い提示額で納得しないよう、事前に適正な時価額を把握しておきましょう。

修理にかかった費用を元に算出する

全損ではなく修理で復元が可能と判断された場合、保険の適用や賠償で請求できるのは修理費用です。

軽く車体を擦った程度なら数万円ほどが相場ですが、衝突事故でフレームの歪みや動力部位の修理が必要な場合は、数十万円〜100万円程度かかることもあります。

修理費の算出を担当するのは基本的に保険会社です。自動車修理工場の見積書をもとに、修理の必要性の是非や事故との整合性を確認、検討したうえで算出されます。

ただし、全面塗装や修理に伴うカスタマイズなど、過剰な修理費用の請求は認められていません。原状回復にかかる分だけ請求できると覚えておきましょう。

事故車の価値と車の買い替えにかかった費用を元に算出する

物的全損や経済的全損と判断された場合は、事故車の時価額をもとに買い換えにかかる諸費用を請求できます。

例えば、事故車の時価額が100万円で買い換えにかかった手続きや税金の支払いなど雑費の総額が10万円だった場合、請求できる合計額は110万円です。

ただし、事故車をスクラップとして売却した場合は、事故車の時価額と売却代金との差額が損害とみなされるため、時価額の全額は請求できません。

また、事故の過失割合で請求金額が変動するため、加害者の過失が100%でない限りは全額補償できないと覚えておきましょう。

事故車の価値はレッドブックを元に算出する

事故車の時価額は自動車価格月報、別名「レッドブック」の冊子を参考に算出されることがほとんどです。

レッドブックは、有限会社オートガイドから発行されており、自動車のグレードや年式別の平均取引価格が記載されています。

車両の価格は中古車サイトや買取業者に問い合わせしても判明しますが、販売店の場合は設定価格がある程度店舗の裁量でバラつくため、時価額の基準として不適切なことがあります。そのため、適正な価格を知る手段として、保険会社のほとんどは補償額の算出にレッドブックを用いるのです。

ただし、レッドブックの記載価格は中古車市場の販売価格よりも低く設定されることが多いため、提示される補償額が最低限な場合があります。

レッドブックの時価額をそのまま承認すると損をする可能性があるため、自分で適正な時価額を調べておかなければなりません。

事故車の時価損を求める場合、誰に頼めば良いですか?
適正な時価額を知るには、中古車専門の買取業者や販売店に問い合わせて見積もりを取ってもらいましょう。加害者からの賠償がある場合は、契約の保険会社や弁護士に相談するのもおすすめです。
レッドブックも時価額を知る手段の1つですが、記載の車両価格が低めに設定されているため、賠償や補償を受け取る側が参考にすると損をする場合があるので注意しましょう。

【車の価値を知ろう】時価額の相場を自分で調べる方法

【車の価値を知ろう】時価額の相場を自分で調べる方法
保険会社の補償額や加害者からの賠償額が正当なものか確かめるには、適正な時価額の情報が必要です。

時価額の把握は補償額の是非を判断するだけでなく交渉材料にもなるため、個人でリサーチして事前に相場を知っておかなくてはなりません。

ここからは、時価額の相場を自分で調べる方法について解説します。

Web上の査定サイトを利用する

その場で簡単に相場を知るには、Web上の中古車査定サイトがおすすめです。

事故で補償を受ける場合、まずは査定サイトで車種や年式、グレードを入力しておおよその相場を把握しましょう。

調べる際におすすめなのが「一括査定サイト」です。一括査定サイトだと複数の買取業者間で競争が発生するため、査定額が上がりやすいメリットがあります。

保険会社の提示額より高い金額が査定サイトで入手できたら、見積もりをもらって再度保険会社へ相談しましょう。

近くの販売店で査定してもらう

査定サイトの金額が提示額より低い、または金額に納得できない場合は、近くの中古車販売店や中古車専門買取業者で査定してもらいましょう。

保険会社によっては、査定サイトの金額を受け付けてもらえないことがあります。しかし、中古車販売店なら店舗スタッフが車両の情報をもとに正確な査定額を見積もってくれるため、適正な価格と認められる可能性があります。

また、店舗内の同じ車種、年式の販売車の価格も交渉材料の1つです。正確な時価額の相場を知るには、近くの販売店で相談しましょう。

事故車の時価損に含まれる項目は何がある?

事故車の時価損に含まれる項目は何がある?
事故で保険会社や加害者から補償や賠償をもらう際、条件が整えば車両代だけでなく事故に関連した諸費用も請求できます。

保険会社は被害者からの請求がない限り諸費用を支払わないことが多いため、補償額で損をしないよう関連費用は必ず請求しなければなりません。

ここからは、車両事故の時価損に含まれる項目について解説します。

車両代

事故による物的損害は、車両本体の価格や修理費が第一に含まれます。修理できる場合は修理費用を、全損の場合は車両の時価額で請求可能です。

修理の場合、修理費用とは別に修理による車両価値の下落、いわゆる「評価損」にあたる金額も請求できる場合があります。事故車を修理したときに残る事故歴や修復歴の情報は、売却時の査定価格が下落する要素なため立派な損害の1つです。

評価損が認められるかは損傷の程度や元々の車両価値によりますが、将来的に売却を視野に入れるなら、請求しておくのが賢明でしょう。

一方、全損と判断された場合は車両代として請求できる項目は原則として車両の時価額です。ただし、全損による買い換えは廃車手続きや取得にかかる各種税金を雑費として請求対象にできます。

諸費用

事故で車両を修理または買い換えが必要な場合、事故に関連した各種費用も請求できます。

諸費用として請求できる項目は主に以下の通りです。

  • 代車利用代
  • 車を使えないことによって逃した利益や収益相当の金額
  • 車両保管代
  • レッカー手配代
  • 廃車費用
  • 時価査定料
  • 登録手続費用

基本的に事故との因果関係が証明される分には、請求が可能です。

ただし、諸費用の請求には条件が必要なものもあるため、あらかじめ請求できる要件を満たしているか確認しておきましょう。例えば、代車費用では被害者が代車を必要とする正当な理由と現実に使用した事実確認が要ります。

相手に請求する金額の算出は難しいため弁護士への依頼がおすすめ

修理費用や時価額は個人で見積もりをもらって請求金額を把握できますが、諸費用は項目次第で条件があります。最終的な請求金額を個人で全て計算するのは難しいため、弁護士や保険会社へ依頼するのがおすすめです。

特に加害者がいる事故の場合、相手との過失割合を巡ってトラブルが起こることも珍しくないため、基本的に示談交渉や請求金額の算出は保険会社や弁護士を通して行いましょう。

とはいえ、弁護士への依頼もお金がかかります。任意保険によっては弁護士特約がついているものもあるため、適用条件を満たす場合は積極的に活用しましょう。

事故の相手が支払いを渋ることはありますか?
事故の発生では、賠償金額の交渉や過失割合を決めるのは保険会社がほとんどです。しかし、相手側が任意保険に加入していない無保険の場合、相手本人が示談交渉を行います。無保険が相手だと払い渋りや無回答も発生しやすいため、なんらかのトラブルが発生したときに備えて弁護士に依頼しておきましょう。

事故車が修理できない場合は買取や廃車を検討しよう

事故車が修理できない場合は買取や廃車を検討しよう
事故車が全損と判断された場合、車両はスクラップとして買取や解体で廃車手続きを行わなければなりません。

ここからは、事故車を買取や廃車に出す際のポイントについて解説します。

パーツのみの買取なら価値が付く可能性がある

全損でスクラップにする場合でも、損傷していないパーツの買取で価値が付く可能性があります。

まずは最寄りの廃車買取業者や解体工場に車を持っていき、事故車を買取できないか相談しましょう。

廃車専門業者ならコストをおさえて廃車手続きを行える

廃車手続きを低コストで行うなら、廃車専門業者に代行依頼するのがおすすめです。

無保険かつ単独事故で補償を受けられない場合、廃車手続きにかかる費用も大きな負担を与えます。レッカー手配や廃車手続きの費用など、諸々の費用を含めると数万円はかかるでしょう。また、廃車手続きは必要な書類や手順が多く、個人で行うには時間がかかります。

廃車専門業者へ依頼するなら格安かつ簡単に廃車手続きできるため、積極的に活用しましょう。

悩む前に業者へ相談がおすすめ

予想外の事故で混乱するのも無理はありません。まずは第一に契約の保険会社や弁護士、買取業者など専門家へ相談しましょう。

手続きの代行を依頼してもいいですし、アドバイスをもらうだけでもその後の動きがスムーズです。個人の手続きだと書類漏れや手順の間違いも起こるため、専門家への相談が解決の早道です。

まとめ

①車の時価額は事故に遭った時点での車両の価値で決まる
②事故の損害は大きく分けて「人的損害」と「物的損害」に分類される
③物的損害は「物理的全損」と「経済的全損」で補償や賠償の金額が異なる
④保険や賠償で時価額が適用される場合、事前に時価額相場を把握しておく必要がある
⑤適正な補償を受けるには弁護士や専門業者に相談するのがおすすめ

※本記事は公開時点の情報になります。
記事内容について現在の情報と異なる可能性がございます。
車の査定は何社に依頼するべき?
愛車の買取相場を知ることで高く売ることができます 愛車のかんたん査定はこちら