廃車手続きにおいて、他人名義の車をこちらの都合で勝手に処分することはできません。しかし、ときには他人名義の車を自分が処分しなければならないこともあるでしょう。
この記事では、他人名義の車を廃車する際の名義変更と手続きの方法、必要書類について解説していきます。
他人名義の廃車手続きはケースバイケースで必要な手順や書類が異なります。自分の置かれた状況に合わせて、適切に手続きを進めましょう。
他人名義の自動車を廃車する場合は名義変更が必要
原則、廃車手続きは所有者のみが行えるため、他人名義の自動車を廃車する場合は名義変更が必要です。この際、名義変更と廃車手続きを同時に行うことを「移転抹消」と呼びます。
移転抹消が必要とされるケースは主に以下の5パターンです。
- 買取もしくは譲ってもらった他人名義の車
- 所有者がディーラーやローン会社になっている車
- 所有者が行方不明もしくは連絡が取れない車
- 所有者が既に亡くなっている車
- 所有者が認知症やアルツハイマー病にかかり、自身で抹消登録できない場合
名義変更の手続きや必要書類を把握して廃車手続きを適切に行いましょう。
移転抹消登録とは?
移転抹消登録とは、所有者の名義変更と抹消登録を同時に進める手続きです。
例えば、友人から譲ってもらった車をそのままの名義で廃車手続きする場合、移転抹消登録をしなければなりません。
ここからは、移転抹消登録の詳細な定義と必要書類について解説していきます。
通常、車の所有権が自身にある場合、移転抹消登録は必要ありません。重要なのは「現在車を所持している人間」ではなく「車検証に記載されている所有者」であることです。
例えば、月々の車の維持費や保険代を自身で払っていたとしても、名義が他人であれば廃車手続きを行う権限はありません。
もし友人や親族から譲ってもらった車を処分する場合は、一度名義を確認してから廃車手続きを行いましょう。
移転抹消登録は普通自動車と軽自動車で必要な書類や手続きする場所が異なります。
普通自動車の移転抹消登録は、お住まいの地域の運輸支局で行います。
必要な書類は主に以下の通りです。
- 車検証の原本
- ナンバープレート
- 名義人本人が3ヶ月以内に発行した印鑑証明書
- 名義人本人の実印が押された譲渡証明書または委任状
- 名義人本人が3ヶ月以内に発行した住民票や登記事項証明書(車検証の住所と名前が印鑑証明書と異なる場合のみ)
- 手数料納付書
- 実印
- 第1号様式のOCR申請書
- 第3号様式の2のOCR申請書
OCR申請書とは、手書き文字を電子機器で読み取るための記入用紙です。基本的に手続き当日に運輸支局で記入を行えますが、事前に用紙をもらって自宅で記入しても問題ありません。
軽自動車の移転抹消登録は、お住まいの地域の軽自動車検査協会にて行います。
必要な書類は以下のとおりです。
- 車検証の原本
- ナンバープレート
- 新しい所有者の印鑑証明書または住民票
- 申請依頼書(名義本人からの押印ができない場合のみ)
- 軽自動車税申告書
- 手数料納付書
- 実印
- 軽第1号様式または軽専用第1号様式のOCR申請書
- 軽第4号様式のOCR申請書
普通自動車、軽自動車どちらでも必要書類の中には市役所で発行する書類がいくつかあります。手続き自体は運輸支局か軽自動車検査協会で行うので、まずは市役所で揃えられる書類を用意しておきましょう。
移転抹消登録手続きの流れ
次は移転抹消手続きの流れについて解説していきます。以下の手順に従って、スムーズに手続きを済ませましょう。
なお、手続きの事由によっては、さらに前段階で別の手続きを済ませる必要があります。例えば、所有者が亡くなっている車を代理で抹消手続きする場合は車の相続手続きが必要ですし、ローン返済中の車の場合はローンを完済しなければなりません。
移転抹消登録の手続きをする前に名義変更の許可が降りる手続きを済ませておきましょう。
廃車手続きに必要な書類は、それぞれ入手先が異なります。
主な入手場所は「市役所」「運輸支局」ですが、事由によっては「警察署」や「家庭裁判所」にも行かなければなりません。
まず、市役所で入手できる書類は以下が挙げられます。
- 印鑑証明書
- 住民票
- 戸籍謄本
次に、運輸支局では以下の書類が用意できます。
- 各OCR申請書
- ナンバープレート
- 申請依頼書
- 譲渡証明書
- 登記事項証明書
- 手数料納付書
ほとんどの書類は当日に発行できますが、窓口が混み合っている場合や繁忙期は発行が遅れるかもしれません。書類の用意はスケジュールに余裕を持って臨みましょう。
必要書類が揃ったら、運輸支局で手数料納付と各種申請書の記入を行います。車の車体番号やナンバー、旧所有者と新所有者の住所や氏名など必要情報を記入して提出します。
ただし、旧所有者の委任状を持っていない場合は対象者の押印が必要です。委任状を書いてもらうか申請書に押印してもらい提出しましょう。
ナンバープレートは運輸支局または軽自動車検査協会にて外します。自宅で外すこともできますが、ナンバープレートが外れた状態だと車の走行自体ができません。
もし、故障や劣化によって車が完全に動かない場合は、レッカー車を手配しましょう。
窓口でナンバープレートを返却した後はシールがもらえるので、手数料納付書に貼り付けます。
書類が揃って記入欄に不備がなければ、窓口に提出して手続きの完了を待ちましょう。
空いていれば大体1時間前後で手続きが完了しますが、混雑している場合は大幅に遅れる、もしくは完了が後日まで遅れる可能性もあります。
一時抹消登録の場合、窓口側で手続きが完了すれば「登録識別情報通知書」と呼ばれる証明書が交付されます。この証明書は、正式に一時抹消登録が済んでいることを表しています。
登録識別情報通知書は主に以下の用途で用いられます。
- 運転を再開するための車両の再登録
- 車両の解体
なお、盗難者の再利用防止の目的から、登録識別情報通知書は原則再発行できません。そのため、無くさないよう大切に保管しておきましょう。
【シーン別】他人名義の自動車を廃車にする方法
他人名義の車を廃車処理する際、事情によっては事前に別の手続きを踏まなければなりません。
ここからは、5つのシーン別に他人名義の車を廃車する方法を紹介していきます。
ローン返済中の車は車検証の所有者名義がディーラーやローン会社になっていることが多いです。これは、車の使用者がローン返済中に車を売却し、ローン残高を踏み倒すのを防ぐための仕組みです。
ローン残高がある車を廃車にするにはローンの完済が大前提です。ローン会社によっては先に廃車手続きを譲歩してくれる場合もありますが、断られるパターンもあります。
もし断られた場合はローンを一括返済するか返済を終えるまで待つしかありません。
事故や災害によって大破したのなら加入の任意保険から補償金がもらえることもあるため、早々にローンを返済して通常の廃車処理へ進みましょう。
車の所有者と連絡が取れるなら、相手に以下の書類を準備してもらいましょう。
- 印鑑証明書
- OCR申請書への押印
- 委任状
- 譲渡証明書
基本的に、移転抹消登録には特殊な事情により元の所有者と連絡が取れない場合を除いて、許可を得たことを証明する書類が必要です。
例えば、親族から譲ってもらった車や友人から買い取った車の場合、相手が亡くなっていない限りは上記の書類が必須です。
自宅駐車場に放置されている車や、どこにいるか分からない名義人の車など、所有者と連絡を取りようがない車を廃車にするのは非常に困難です。
こういった車を処理したい場合は、警察署や市役所へ相談に行きましょう。
原則として、他人名義の車を廃車処理するには、名義人の許可や特殊な事情を証明する書類が必要です。例え走行不可の車であっても法的には所有者の財産であるため、使用者側で勝手に手続きはできないのです。
まずは公的な機関に相談して、所有者の特定とコンタクトに努めましょう。
車の所有者が判明しているにも関わらず、当人が行方不明の場合、抹消登録をして解体まで進めるのは非常に困難ですが、所有者の失踪届が警察で受理されれば、一先ず自動車税の引き落としを止められます。
そのため、まずは最寄りの警察署にて失踪届を受理してもらい、自動車事務所にて課税留保の申し出を行いましょう。
また、車検が切れてから5年が経過すると自動的に登録が抹消されるため、待ってから廃車手続きを行う方法もあります。
所有者が亡くなった場合、車種によって手続きが異なります。
車の相続を行ってから廃車手続きを行います。また、通常の移転抹消手続きに加え、以下の書類が必要です。
- 戸籍の全部事項証明書
- 遺産分割協議書
遺産分割協議書は自身で作成も可能ですが、難しいと感じる場合は弁護士や行政書士等への依頼もおすすめです。
軽自動車は法的に資産として数えられないため、相続の必要がありません。故人の証明があれば、そのまま名義変更をして廃車手続きを行えます。
廃車時に車検証がない場合の対処方法
原則として車の廃車処理には車検証が必須です。しかし、他人名義の車だと車検証を紛失した、もしくは、やむをえない理由で車検証が提出できないこともあります。
ここからは、車検証が用意できない場合の対処法を解説していきます。
車検証は再発行可能ですが、他人名義の車の車検証を自身で勝手に再発行することはできません。そのため、名義人本人に発行をお願いするか、代理申請で入手する必要があります。
車検証の再発行に必要な書類は、以下のとおりです。
- 車検証に記載されている名義人のまたは代理人の本人確認書類
- 委任状(代理申請の場合のみ)
- 手数料納付書
- 車検証の再交付申請書
- 車検証再交付の理由署
なお、申請する地域によって必要書類が多少異なる場合があります。再交付の際は事前にお住まい地域の自治体へ問い合わせて確認しておきましょう。
廃車手続きに限っては、車検証がなくても「現在登録等証明書」を発行すれば手続きを進められます。
現在登録等証明書とは、車の現時点の登録情報が記載された書類のことで、車検証に記載のある情報を全て確認できます。
お住まい地域の運輸支局にて発行が可能ですが、他人名義の車の場合は申請用紙への記入と委任状が必要です。
印鑑証明書の取得方法
他人名義の車を廃車にするには、名義人本人(旧所有者)もしくは代理人(新所有者)の印鑑証明書、あるいはその両方が手続きに必要です。
ここからは、その印鑑証明書の取得方法について解説していきます。
印鑑証明書はお住まい地域の市役所にて入手できます。
印鑑証明書とは、使用印が本人の実印であることを証明する書類です。車の名義変更では同じ苗字が刻印されただけの別の印鑑を防止するため、印鑑証明書を必要とします。
印鑑証明書は基本的にマイナンバーカードや健康保険証など、本人が証明できる書類が用意できれば発行可能です。代理人申請も受け付けています。
コンビニ交付に対応している自治体なら印鑑証明書をコンビニのマルチコピー機で発行できます。発行の際はマイナンバーカードが必要なため持参しましょう。
コンビニ交付は毎日午前6:30〜午後11:00まで受け付けています。「平日は仕事で忙しくて市役所に行けない…」といった方は、コンビニ交付をおすすめします。
一方、コンビニのマルチコピー機はマイナンバーカードが必須なため代理人ではできません。
譲渡証明書の書き方
譲渡証明書とは、旧所有者から新所有者へ車の譲渡をしたことを証明するための書類です。
普通自動車の移転抹消登録には、この譲渡証明書の提出が欠かせません。(軽自動車の場合は不要)
譲渡証明書は運輸支局にて入手できますが、国土交通省のホームページからダウンロードして自宅でプリントアウトしても問題ありません。
ここからは、譲渡証明書の書き方について解説していきます。
まず、譲渡証明書には以下の車両情報が必要です。
- 車名(メーカー)
- 車の型式
- 車体番号
- 原動機の型式(エンジン型式)
上記の情報は全て車検証に記載されています。
もし車検証が手元にない場合は、運輸支局にて「現在登録等証明書」の発行が必要です。
車両情報が記載できたら、次に譲渡人(旧所有者)と譲受人(新所有者)それぞれの氏名と住所を記載します。この時、上段に譲渡人、下段に譲受人の情報を記載しましょう。
また、譲受人記入欄の左「譲渡年月日」には車の譲渡日を記載します。お互いの都合で手続きを後日以降に行う場合は、手続き予定日にしましょう。
実印は譲渡人のみ必要です。また、移転抹消手続きには別途印鑑証明書が必要なため、使用印は印鑑証明書と同様の実印でなければなりません。
法人の場合は法人印を押印します。
車両情報・譲渡人と譲受人の氏名および住所・譲渡年月日・譲渡人の実印が揃えば、譲渡証明書は完成です。
委任状の書き方
廃車手続きを業者へ委託する、または他人名義の車を自分が処分する場合は委任状が必要です。
ここからは、廃車手続きの委任状の書き方について解説します。
なお、委任状の用紙は手書きでも問題ありませんが、記入漏れやミスがないよう国土交通省のホームページからダウンロードしてプリントアウトするのがおすすめです。
車の名義変更に用いる委任状には、「自動車登録番号」または「車体番号」の欄があります。
車検証の情報をもとに、どちらかの番号を記載してください。
委任状の記入フォーマットには、自動車情報のほかにも以下の情報を記入する必要があります。
- 受任者の氏名・住所
- 申請の用途
- 委任者の氏名・住所・実印
移転抹消手続きの場合、申請の用途は「移転登録」と記入しましょう。