新車試乗レポート
更新日:2022.07.27 / 掲載日:2022.05.31
【ボルボ C40リチャージ】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス
欧州や中国では、クルマを取り巻く環境や政府の補助金政策なども追い風となり、EV(電気自動車)のセールスが急進。対する日本も、普及はまだまだこれからという状況ながら、補助金の充実や新しいEVの登場&上陸など、EV関連のニュースが次々とメディアをにぎわせている。そうした状況もあり、「そろそろかな」とEVが気になり始めている人も案外多いのでは?
とはいえエンジン車とは異なり、EVの所有はハードルが高いのも事実。航続距離や充電効率、使い勝手などは車種によって大きく異なるため、どんなモデルが自分にとってベターな選択なのか、見分けるのがまだまだ難しい。
本連載は、EVや自動運転車といったクルマの先進技術に造詣が深い自動車ジャーナリスト・石井昌道氏の監修・解説の下、各社の注目モデルを毎回、同様のルートでテスト。実際の使用状況を想定した走行パターンでチェックすることで各モデルの得手不得手を検証し、皆さんの“EV選びの悩み”を解決することを目的とする。
今回フォーカスするモデルは、ボルボ「C40リチャージ」。いち早くEV専業ブランドへのシフトをアナウンスしたボルボが手がけるEVは、果たしてどんな実力を披露してくれるのだろうか?
ボルボ C40リチャージのプロフィール

カーボンニュートラル社会の実現へ向けたひとつの方策として、各国政府や多くの自動車メーカーがEV拡充を打ち出す中、100%EV化をいち早くアナウンスしたのがスウェーデンのボルボだ。
ボルボはすでに「2030年までに販売するすべての車種をEVにする」と宣言済みで、日本で販売されるモデルもすべて、EVやハイブリッドカーなどモーター搭載の電動車にシフトしている。今後は2030年へ向け、PHEV(プラグインハイブリッドカー)の拡充を図りながら100%EV化への道を進んでいくという。
ここに採り上げるC40リチャージは、そんな青写真を描くボルボの最新EVだ。先ごろ、コンパクトSUV「XC40」のEV版の上陸も発表されたが、C40リチャージはEVのみをラインナップするボルボブランド初のEV専用モデルとなる。
フロントまわりのデザインなどからも明らかなように、C40リチャージはXC40のクーペ版。プラットフォームをはじめとする車体の基本構造は、欧州市場では先行して市場投入されたXC40のEVバージョンに準じたものとなる。
採用する“CMA(コンパクトモジュラーアーキテクチャ)プラットフォーム”はEV専用ではないが、設計段階からEVへの発展を視野に入れて開発。EV化に当たっては、フロントセクションやフロア構造をEV専用設計としている。そのためか、今回の試乗車「C40リチャージ ツイン」はフロア下に78kWhという大容量バッテリーを搭載するが、バッテリーが張り出して居住性が悪くなるといったネガは見られない。
一方、随所にイマドキのクルマづくりが採り入れられている点もC40リチャージの見どころだ。例えばインテリアからは、環境への影響を配慮し、クルマの“定番素材”であるレザーを排除。ステアリングホイールやシートの表皮には、一部リサイクル材を配した合成素材が使われている。気になるその質感やタッチは、いわれなければ気づかないほどだ。
また、最新のボルボ車と同様、インフォテイメントシステムのOSにGoogleのAndroidを採用し、各種操作を音声で行えるほか、変化する顧客ニーズに合わせ、ここ日本でもオンライン販売やサブスクを導入するなど、クルマ本体以外の面でも新たなことにトライしている。
今回の試乗車「C40リチャージ ツイン」(※取材時点 現在販売されているモデルの呼称はアルティメット・ツインモーター)は、その名の通りフロントとリアにそれぞれモーターを搭載したツインモーター仕様。モーターの最高出力はそれぞれ204psで、合計出力は408psを発生する。0-100km/hタイムはわずか4.7秒とクラス最速だ。このほかC40リチャージは、エントリーモデルとして69kWの駆動用バッテリーを搭載し、最高出力231ps、最大トルク330Nmのモーターで前輪を駆動する「C40リチャージ プラス シングルモーター」もラインナップしている。
2025年には世界販売の50%を、そして2030年には販売するすべてのモデルをEVにシフトするという明確な目標を掲げるボルボ。C40リチャージは、そんな同ブランドの旗手となるモデルである。
■グレード構成&価格
・「アルティメット・ツインモーター」(699万円)
・「プラス・シングルモーター」(599万円)
■電費データ
<C40リチャージ ツイン>
◎交流電力量消費率
・WLTCモード:187Wh/km
>>>市街地モード:166Wh/km
>>>郊外モード:175Wh/km
>>>高速道路モード:205Wh/km
◎一充電走行距離
・WLTCモード:485km








速度域が高くなるほど電費が悪化する傾向をみせた

過ごしやすい気候になってきてエアコンの負荷も少ないので、電費的には有利な季節。朝6時の気温は16℃で快適なテストスタートとなった。高速道路および自動車専用道での電費は、制限速度100km/h区間のその1が5.2km/kWh、その4が4.4km/kWh、制限速度70km/h区間のその2が6.4km/kWh、その3が6.3km/kWhだった。WLTCモード燃費は総合が5.4km/kWh、市街地モードが6.0km/h、郊外モード5.7km/kWh、高速道路モードが4.9km/kWhであり、だいたい整合性がとれたデータだと見ることができる。
その1は交通量が多くて速度が下がり、電費的に有利な状況になったが、その4は交通量がそこまで多くなく、制限速度付近で走り続ける時間が長かった。実電費の4.4km/kWhというのは高速道路を普通に走ったときに妥当な数値だろう。制限速度70km/h区間の自動車専用道は、速度域としてはWLTC郊外モードに近いがストップ&ゴーがないのでちょっと有利。その3、その4ともに郊外モードの5.7km/kWhを超えてきた。もっとも電費が良くでる区間だろう。
WLTCモード電費を他のBEVと比べると、速度域が高まるほどに悪化していく率が多少は大きいようだ。モーターの特性や空力性能などが要因だと推測される。


車重から考えれば優秀なデータを記録した


約13㎞の距離で963mも標高差があるターンパイク登りの電費は1.8km/kWh。過去にテストしたデータと比べると、車両重量2160kgのモデルとして標準的かやや優秀だと言える。2100kgのヒョンデ・アイオニック5は1.7km/kWh、2200kgのBMW iX3は1.5km/kWh、2030kgのメルセデス・ベンツEQAは1.7km/kWhといったところが近いが、いずれも上回っている。ターンパイク内は交通量が少ないので、比較的にデータが安定している。季節が良かったことも好影響だったかもしれない。
下りでは3.75kWh分の電力が回生された。下る直前のバッテリー残量は47%で航続可能距離は171kmだったが、約13kmの下り走行で53%、214kmまで回復。BEVならではの、お得感を実感する瞬間だ。回生量はまずまず優秀な部類であり、最新モデルのAWDはたいてい3kWh台だ。2WDよりも回生量が多い傾向にあるのは見てとれる。
気温の影響かWLTCモードの7割程度にとどまる

一般道を走った11時~12時過ぎは気温が26~27℃に上昇。陽射しが強くて車内が熱くなり、エアコンにけっこうな負荷がかかっていた。BEVはヒーターを使う冬場の電費の落ち込みが大きいといわれ、逆に夏場のエアコンは一般的なエンジン車よりも効率がいいのであまり落ち込まない。それは事実だが、エネルギーを使うので熱ければそれなりに電費悪化に影響する。ちなみに当EVテストのエアコンの温度設定のルールは、過剰に冷やしたり温めたりはしないが、乗員が快適に過ごせる程度としてリアルワールドを意識している。そんななかでの電費は4.2km/kWh。WLTC市街地モードの6.0km/kWhに対して70%の達成率ということになる。一般道は信号のタイミングや交通状況によって電費が上下しやすいが、同日テストの日産アリアが実電費4.7km/kWh、WLTC市街地モードが6.3km/kWhで達成率75%なので大差はない。まずまず信頼できるデータだろう。

理論値に近い充電効率を達成

スタート時のバッテリー残量は75%、航続可能距離は310kmで、そこから157kmほど走行して復路・海老名サービスエリアに到着したときには55%、230kmとなっていた。出力40kWの急速充電器を30分間使用して17.8kWhが充電され、75%、310kmに回復。理論値20kWhなのでまずまずといったところだろう。充電器の表示で出力は開始直後が35kW、終了直前も36kWと安定していた。
奇しくもスタート時のバッテリー残量、航続可能距離に戻った。157kmドライブしても、40kWの急速充電器を30分使用すればだいたい取り戻せるということになる。

ボルボ C40リチャージはどんなEVだった?

日本でも想像以上の人気となっているC40リチャージ。日本人が北欧にもつ良きイメージとBEVのマッチングがいいようだ。Cセグメントという手頃で日本の都市部でも使いやすいサイズも人気の秘訣だろう。ボディサイズがそれほど大きくなく、BEV専用プラットフォームではないモデルのわりにはバッテリー搭載量が多く、一充電走行距離もそれなりに長いので実用性も現代のBEVとしては十分。クーペスタイルのため後席はあまり広くないが、スタイリッシュさに惹かれるのなら狙い目のモデルだろう。広さを求めるのならXC40リチャージを検討するのがオススメだ。
C40リチャージ ツイン
■全長×全幅×全高:4440×1875×1595mm
■ホイールベース:2700mm
■車両重量:2160kg
■バッテリー総電力量:78kWh
■システム定格出力:160kW
■システム最高出力:300kW(408ps)/4350-13900rpm
■システム最大トルク:660Nm/0-4350rpm
■サスペンション前/後:ストラット/マルチリンク
■ブレーキ前/後:ディスク/ディスク
■タイヤ前/後:235/45R20/255/40R20
取材車オプション
メタリックペイント、ボルボ・ドライブレコーダー(フロント&リアセット)