新車試乗レポート
更新日:2023.05.09 / 掲載日:2021.08.31

【第9回 メルセデス・ベンツ EQA】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

 

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス

欧州や中国では、クルマを取り巻く環境や政府の補助金政策なども追い風となり、EV(電気自動車)のセールスが急伸。そうした中、近い将来、EV専業へと舵を切ることを決定・発表するブランドも増えている。対する日本も、普及はまだまだこれからという状況ながら、新しいEVが続々と登場してきた。そうした情報を耳にし、「そろそろかな」とEVが気になり始めている人も多いのではないだろうか?

とはいえエンジン車とは異なり、EVの所有はハードルが高いのも事実。航続距離や充電効率、使い勝手などは車種によって大きく異なるため、どんなモデルが自分にとってベターな選択なのか、見分けるのはまだまだ難しい。

本連載は、EVや自動運転車といったクルマの先進技術に造詣が深い自動車ジャーナリスト・石井昌道氏の監修・解説の下、各社の注目モデルを毎回、同様のルートでテスト。実際の使用状況を想定した走行パターンでチェックすることで各モデルの得手不得手を検証し、皆さんの“EV選びの悩み”を解決することを目的とする。

今回フォーカスするのは、メルセデス・ベンツにとって量産EV第2弾となる「EQA」。先行して登場した「EQC」に通じるデザイン要素を盛り込んだこのモデルは、どんな走りを見せてくれるのだろうか?

【第1回 日産 リーフe+】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

【第2回 日産 リーフNISMO】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

【第3回 マツダ MX-30】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

【第4回 ホンダ e】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

【第5回 プジョー e-2008】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

【第6回 BMW i3】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

【第7回 テスラ モデル3】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

【第8回 レクサス UX300e】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

 

メルセデス・ベンツ EQAのプロフィール

 

メルセデス・ベンツ EQA 250

 

メルセデス・ベンツ EQA 250

 EQAは、EQCに続くメルセデス・ベンツ第2弾となる量産EVだ。メルセデスは先頃、ピュアEV向けのブランドとして“メルセデス・ベンツEQ”を設定したが、その新たな一歩を飾るコンパクトSUVとしてEQAは世に送り出されている。

EQCはDセグメントSUVの「GLC」を元に開発されたモデルだが、EQAはコンパクトSUVの「GLA」をベースとする。すでに本国では、「GLB」をEV化した「EQB」や、全く新しいフォルムを持つラージセダン「EQS」も発表されるなど、メルセデスEQのラインナップ拡充はとどまるところを知らない。

現状、メルセデスEQのエントリーモデルに位置づけられているEQAは、手の届きやすいプライスと、比較的コンパクトなボディサイズが魅力の1台だ。640万円という価格設定は、デザインや装備レベル、ブランド力を考えるとハイコスパで、今後、このクラスのEVにおけるひとつの指標となりそう。またボディサイズは、先行したEQCより全長で305mm、全幅で90mmコンパクトなため、日本の道路環境下でも取り回しやすい。

そんなEQAのバッテリー容量は66.5kWh。これは、EQCの80kWhに対して約83%の容量だが、逆にEQAの航続距離はEQCより22km長い422kmをマークする。この航続距離の差を生んだのは、車重とモーター出力の違いが大きい。車重はEQCの2520kgに対し、EQAは2030kgと500kgほど軽い。一方、モーターの最高出力は、2基のモーターで前後輪を駆動するEQCがトータル408psを発生するのに対し、シングルモーターで前輪を駆動するEQA は190psと半分以下にとどまる。このように価格とスペックを見ても、EQAは第1世代のEQCとは異なり、非常に現実的なEVであることがうかがえる。

EQAはGLAをベースとしたEVだが、EQファミリーに通じるエクステリアデザインの採用で、先進性を感じられる仕立てとなっている。一方のインテリアは、基本的にGLAのそれをトレースしたものでEVシステムの出力や回生状態などを表示するメーターが備わるなどEVらしいアレンジは見られるものの、大がかりな作り分けは行われていない。とはいえ、GLAのインテリアは元々、先進性を感じさせる仕上がりであるため、内外装トータルで見た時の“EV感”は濃密だ。

ちなみにメルセデス・ベンツは先頃、「マーケットの状況が許すなら、2030年までにすべての車種をEV化する準備を進めている」との声明を発表したが、急速なEVセールスの拡大には、リーズナブルかつ信頼性が高く、さらにユーザーの所有欲を満たす“鉄板”モデルが必須となる。その点においてEQAは、拡大路線をとるメルセデスEQにとって重要な存在となりそうだ。

■グレード構成&価格
・「EQA250」(640万円)

■電費データ
◎交流電力量消費率
・WLTCモード:181Wh/km
>>>市街地モード:非公表
>>>郊外モード:非公表
>>>高速道路モード:非公表

◎一充電走行距離
・WLTCモード:422km

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高速道路での電費をチェック! 2トン超えの車重にもかかわらず優秀なデータを記録

 

 高速道路での電費テストデータ 天候:曇り 「高速その1」時間:6:07-6:34、気温27.5度、「高速その2」時間:6:37-7:12、気温27.5度、「高速その3」時間:10:46-11:26、気温30度、「高速その4」時間:12:13-12:31、気温29.5度 ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

 高速道路でのテストは、その1とその4が100km/h制限速度区間、その2とその3が70km/h制限区間。EVは、速度の高まりと電費悪化がエンジン車よりもリニアに出るため前者は悪く、後者は良く出るのがあたりまえ。ただし、100km/h制限速度区間なのに混雑しているため50-60km/h程度に速度が落ちる時間が長く、電費が思いのほか良くなってしまったり、ひどく渋滞してストップ&ゴーや速度変動が多く発生してしまうと悪くなったりと、状況によって様々なことが起こりうるのが見極めを難しくする。そこが公道で交通の流れのなかでの電費テストの悩ましいところ。もっと厳密にデータどりするならばテストコースでビシッと揃えた走りをする必要があるが、暮らしの手帖的なコンテンツを目指す当EVテストは、あくまでリアルワールドにこだわりたいのである。などと回想しながら挑んだ今回のテストは意外や交通の流れが良く、その1とその4でそれぞれ少しだけ滞って電費がちょっと良くなったかなという以外は、スムーズにことが運んだ。

 EQAの高速電費はその1が5.5km/h、その4が6km/h、その2が6.7km/h、その3が6.25km/h。これまでテストしてきた9台のなかでは(同時テストのジャガーI-PACEを含まず)バッテリー容量が66.5kWhともっとも大きく、それゆえ車両重量が初の2t超えの2030kg(車検証記載による)ということを考えれば優秀な数値だ。もちろん、軽量級のほうが電費の絶対値はいいのだが、重くなっても想像するほど悪くなっていない。高品質なメルセデスだから、随所のフリクションが低いとも考えられる。EVはバッテリーを沢山搭載すれば航続距離は伸びるけれど、重くなるから電費は悪化。逆に軽ければ電費はいいけれど航続距離はあまり期待できない、というのが今のところのジレンマだが、EQAぐらいが案外とバランスがいいのかもしれないとも思う。今後、100kWh級の超大容量バッテリーのモデルをテストしてみれば、そういった評価も固まっていきそうだ。

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往路の高速テストコース。

往路の高速テストコース。東名高速道路 東京ICからスタート。海老名SAまでを「高速その1」、海老名SAから厚木ICから小田原厚木道路を通り小田原西ICまでを「高速その2」とした

  • 復路の高速テストコース。小田原厚木道路の小田原西ICから東名厚木ICを経由し横浜青葉ICまで走行。途中海老名SAで充電を行った

    復路の高速テストコース。小田原厚木道路の小田原西ICから東名厚木ICを経由し横浜青葉ICまで走行。途中海老名SAで充電を行った

     

     

    ターンパイクでの電費をチェック! 他車種と比較しても電費は健闘している

     

     

     ターンパイクでの電費テストデータ 天候:曇り「ターンパイク上り」時間:7:22-7:40、気温28度、「ターンパイク下り」時間:9:53-10:10、気温21度 ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

     どのEVにとっても電費的には厳しいターンパイク登り区間でEQAは1.7kWhだった。これもまた車両重量が比較的に重たいわりには悪くない。これまでテストした全9台での最良はBMW i3 REXの2.2kWh(車両重量1440kg)、2番目のホンダeが2.1kWh(1540kg)、その他リーフNISMOは1.8kWh(1520kg)、リーフe+は1.6kWh(1955kg)などと比較してみるとけっこう健闘しているのがわかるだろう。

    下りでは、車載電費計の推計から2.3kWh分ほど回生しているのがわかった。これは比較してみると、それほど良くはない。だが、当初から予想していた通り、FWD(前輪駆動車)の場合は、回生をあまり強くできないということの証左にも思える。下りの回生量は、推計だからあくまで参考であり、バラツキも見受けられるのだが、FWDよりもRWD、さらにAWDのほうが多くとれる傾向は見られるのだ。

    そうはいっても、ターンパイクの入り口(小田原料金所)でリセットした電費計はたった13.5kmの登り区間を終えたところで1.7km/kWh。ターンパイク内で撮影やインプレッションのための試乗を行い、下って再び入り口(小田原料金所)に到着(走行距離は80.2km)したときには4.1km/kWhまで回復。もちろんエンジン車やハイブリッドカーでも同じように登りは悪く、下ればじょじょに回復していくものだが、EVは回生によって回復の度合いが大きいのが嬉しい。2.3kWh分の回生量でも、悪くて8km、良ければ13kmほどは走れるのだからばかにならない。

     
    自動車専用道路である箱根ターンパイク(アネスト岩田ターンパイク)を小田原本線料金所から大観山展望台まで往復した。

     

    自動車専用道路である箱根ターンパイク(アネスト岩田ターンパイク)を小田原本線料金所から大観山展望台まで往復した

     

     

    一般道での電費をチェック! ストップ&ゴーの多い街中では車重の影響が大きかった

     

    一般道での電費テストデータ 天候:曇り 「一般道」時間:12:53-14:08、気温28.5度 ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

     高速道路とワインディングロードのセクションでは、これまでテストしたEVのなかではバッテリー容量が大きめ=車両重量が重めのわりに、電費は健闘していると感じていたのだが、一般道では5.0kWhとなり、重さが正直に出た印象だ。平均速度は約20km/hで、日本の昼間の都市部で一般的なペースであり、これまでのテストとも差はほとんどない。やはり、ストップ&ゴーの多い街中では車両重量が電費に与える影響が大きいのだろう。もう少しサンプルを増やさないときっちり見極められないが、いまのところ、その傾向はみてとれる。

    とすると、街中メインで使うシティーコミューターはバッテリー容量をあまり大きくしないで軽量に仕上げるのが合理的。航続距離重視で大容量バッテリーとすると、街中の電費はあまり期待できないが、空力性能や各部のフリクションを抑制するべく高品質にすることで高速域の電費はそれなりに期待できる。EQAは高速域での電費悪化率はそれほど高くなく、やはりバランス型と言えるかもしれない。

    東名横浜青葉ICから環八の丸子橋まで約24kmの距離を走行した

    東名横浜青葉ICから環八の丸子橋まで約24kmの距離を走行した

    急速充電器テスト! 300km程度のドライブなら実用性は十分

    海老名SAでの急速充電テスト ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

    海老名SAでの急速充電テスト ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

     復路の海老名サービスエリアに到着したときのメーターには、バッテリー残量40%、航続可能距離156kmと表示されていた。ゴールまでは50km弱しかないのでそのまま走り続けても大丈夫ではあるが、テストのために急速充電器を使用した。

    最大出力40kWの充電器で表示上は開始直後から終了まで37kW程度が続き、30分間で18.2kWh分を充電。バッテリー残量は67%、航続可能距離は249kmまで回復した。この充電器だと1回30分で、高速道路ならざっくり100km程度=サービスエリア2個分=1時間おきに充電、というのが現状。1日で500kmなど超ロングドライブを気兼ねなくこなすには、もう少し高出力の充電器、およびそれに対応するEVが必要だろう。逆に200-300km程度のドライブならば、EQAのバッテリー容量との組み合わせで、現状でもそれなりに満足度はある。また、これ以上の大容量バッテリーになると30分では物足りず、テスラのように独自の充電インフラが欲しくなるだろう。

    余談だが、海老名サービスエリア上りの、古いほうの40kW充電器は、前回までメーター表示部が白っぽくなってたいへん見づらくなっていたのだが、今回はパネルのカバーが交換されて見やすくなっていた。

    後席足元チェック! 駆動用電池搭載の関係で床が高く、足がシートから浮いてしまっている

    後席足元チェック! 駆動用電池搭載の関係で床が高く、足がシートから浮いてしまっている

    メルセデス・ベンツ EQA 250はどんなEVだった?

    テストを監修した自動車ジャーナリストの石井昌道氏

    テストを監修した自動車ジャーナリストの石井昌道氏

     メルセデス初のEVであるEQCは1000万円級の車両価格であり(現在は895万円から)、おいそれとは手を出しづらく感じられたが、EQAは640万円からとぐっと身近になった。日本の都市部で使うにはボディサイズがコンパクトになっているのも嬉しいところだろう。また、いまEVを購入するユーザーであるアーリーアダプターに向けてメルセデスでは、約21000基の全国の提携充電ネットワークを、購入後1年間は月会費および充電にかかる費用が無料(2年目以降は有料)、自宅ガレージ等への充電用ウォールユニットの無償提供および設置費用の10万円までのサポートなどを行っている。本格普及前夜ゆえの優遇措置があるのだ。

    EQAの特徴としては、まず運転感覚が自然なことがあげられる。メルセデスのエンジン車から乗り換えてもドライバーが違和感を覚えず、普通に運転できることを是としてるわけだ。そのうえでモーター駆動による静かさやスムーズさ、大トルク&レスポンスによるドライバビリティの良さはメルセデスの高級車としての資質を大いに高め、EVならではの重量配分の良さといい意味での重さが、極上の乗り心地を提供している。FWD系メルセデスとしてはもっとも快適だと言えるほどで、格上とみなされるRWD系メルセデスと遜色ないと言っていい。メルセデスに上質さや快適性を求める人は、一度は体験してみて欲しい。

    メルセデス・ベンツ EQA 250 AMGライン装着車(66.5kWh)

    ■全長×全幅×全高:4465×1850×1625mm
    ■ホイールベース:2730mm
    ■車両重量:2030kg
    ■バッテリー総電力量:66.5kWh
    ■モーター定格出力:非公表
    ■モーター最高出力:190ps
    ■モーター最大トルク:37.7kgm
    ■サスペンション前/後:ストラット/マルチリンク
    ■ブレーキ前/後:Vディスク/ディスク
    ■タイヤ前後:235/45R20

    取材車オプション
    ■メーカーオプション:ナビゲーションプラスパッケージ、AMGライン、AMGレザーエクスクルーシブパッケージ、パノラミックスライディングルーフ(挟み込み防止機能付)、メタリックペイント

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    グーネットマガジン編集部

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    1977年の中古車情報誌GOOの創刊以来、中古車関連記事・最新ニュース・人気車の試乗インプレなど様々な記事を制作している、中古車に関してのプロ集団です。
    グーネットでは軽自動車から高級輸入車まで中古車購入に関する、おすすめの情報を幅広く掲載しておりますので、皆さまの中古車の選び方や購入に関する不安を長年の実績や知見で解消していきたいと考えております。

    また、最新情報としてトヨタなどのメーカー発表やBMWなどの海外メーカーのプレス発表を翻訳してお届けします。
    誌面が主の時代から培った、豊富な中古車情報や中古車購入の知識・車そのものの知見を活かして、皆さまの快適なカーライフをサポートさせて頂きます。

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