新車試乗レポート
更新日:2023.05.09 / 掲載日:2021.06.30

【第5回 プジョー e-2008】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス

 欧州や中国では、クルマを取り巻く環境や政府の補助金政策なども追い風となり、EV(電気自動車)のセールスが急進。対する日本も、普及はまだまだこれからという状況ながら、新しいEVが続々と登場している。そうした情報を耳にし、「そろそろかな」とEVが気になり始めている人も案外多いのでは?

 とはいえエンジン車とは異なり、EVの所有はハードルが高いのも事実。航続距離や充電効率、使い勝手などは車種によって大きく異なるため、どんなモデルが自分にとってベターな選択なのか、見分けるのがまだまだ難しい。

 本連載は、EVや自動運転車といったクルマの先進技術に造詣が深い自動車ジャーナリスト・石井昌道氏の監修・解説の下、各社の注目モデルを毎回、同様のルートでテスト。実際の使用状況を想定した走行パターンでチェックすることで各モデルの得手不得手を検証し、皆さんの“EV選びの悩み”を解決することを目的とする。

 今回は、同じ車体にガソリンエンジン車とEVというふたつのパワートレーンを設定するプジョー「2008」シリーズから、EV仕様の「e-2008」をピックアップ。果たしてどんな魅力を備えているのだろうか?

【第1回 日産 リーフe+】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

【第2回 日産 リーフNISMO】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

【第3回 マツダ MX-30】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

【第4回 ホンダ e】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

 

プジョー e-2008のプロフィール

プジョー e-2008

プジョー e-2008

 デザインやユーティリティ、走行フィールなどが高く評価されているプジョーのコンパクトSUV、2008シリーズは、2020年9月の日本上陸当初から、ガソリンエンジン車に加え、EVバージョンであるe-2008もラインナップしている。これまで登場したEVは、その多くがEV専用モデルとして誕生し、ボディやプラットフォームには独自開発のものが採用されていた。しかしプジョーは、同一モデルにガソリン/ディーゼルエンジンという内燃機関モデルと、EVバージョンとを同時に展開。そこには、クルマを取り巻く環境が目まぐるしく変化する中、好みやライフスタイルなどに合わせて気軽にパワートレーンを選択して欲しいという、プジョーのEVに対する独自コンセプト“パワー・オブ・チョイス”が貫かれている。

 そうしたコンセプトを実現するためのキーテクノロジーが、グループPSAの最新プラットフォーム“CMP (Common Modular Platform)”だ。B/Cセグメント用に開発されたCMPは、ディメンジョン設定やパワーユニットの選択に対して柔軟性が高く、キャビンやラゲッジスペースなどはほぼ同一の大きさを確保しながら、複数のパワートレーンを搭載できるよう工夫されている。

 パワー・オブ・チョイスという独自コンセプトを踏まえるせいか、e-2008と2008の差別化は最小限。エクステリアでは、フロントグリルのデザイン(桟が縦方向に走る2008と、横方向に走りボディ同色のアクセントが入るe-2008)や、フロントに付くライオンエンブレムのカラーが異なるほか、e-2008のフロントフェンダーとリアゲートにEVであることを示す「e」バッジが備わる程度だ。

 対するインテリアも、バッテリー充電量やEVコンポーネントの作動状況を示すフルデジタルのメーターパネルがe-2008オリジナルとなるほかは、基本的に2008のそれに準じる。小径ハンドルを核とする独自の“3D iコックピット”や、コックピット中央に横一列にレイアウトされた、トグルスイッチを思わせる斬新な意匠の各種操作系も2008と共通だ。

 そんなe-2008は、使い勝手に優れるEVであることも魅力的。ボディサイズは都市部での使い勝手をスポイルしない絶妙な設定である上、ロードクリアランスが205mmとたっぷりとられているため、海や山へのレジャードライブや未舗装路を走る時なども頼もしい。また、SUVならではの背の高さを活かし、リアシートは大人が乗ってもゆったりくつろげるスペースを確保。また、ラゲッジスペース容量もクラス最大級の434Lと十分だ。

 気になるバッテリー容量は50.0kWh で、カタログ記載のJC08モードによる一充電当たりの走行距離は385km。また、フロントタイヤを駆動するモーターは最高出力100kW、最大トルク260Nmとカタログには記載されるが、これはドライブモードで「スポーツ」を選択した場合の数値であり、「ノーマル」では80kW/220Nm、「エコ」では60kW/180Nmとなる。

 なおボディサイズは、全長4305mm、全幅1770mm、全高1550mm、ホイールベース2610mmで、都市部での使い勝手にも配慮された設定。ちなみにプジョーは、2021年の第1四半期(1-3月)において、日本市場の登録ベースで3907台という販売台数の新記録を達成しているが、インポーターによると、その要因のひとつはe-2008を含む2008シリーズの好調にあるという。

■グレード構成&価格
・「アリュール」(433万2000円)
・「GT」(472万4000円)

■電費データ
<アリュール/GT共通>
◎交流電力量消費率
・JC08モード:140Wh/km
 >>>市街地モード:非公表
 >>>郊外モード:非公表
 >>>高速道路モード:非公表

◎一充電走行距離
・JC08モード:385km

 

 

高速道路での電費をチェック! SUVボディを感じさせない平均的な燃費を記録

高速道路での電費テストデータ ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

高速道路での電費テストデータ 天候:晴れ 「高速その1」時間:6:25-6:54、気温16.5度、「高速その2」時間:7:00-7:34、気温18度、「高速その3」時間:10:30-11:11、気温20度、「高速その4」時間:11:50-12:02、気温30度 ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

 高速道路の電費はこれまで、往路はその1で一つ、復路はその2とその3としてきたが、今回から往路はその1とその2、復路はその3とその4に細分化することにする。その1とその4は制限速度が100km/hの区間、その2とその3は70km/hの区間(1割ほど制限速度が違う区間があるが、速度を70km/h程度に調整して走行)としたほうが傾向がみやすいはずだからだ。

 その1は渋滞することが多いが、スタート時間を早めに設定することで今回は一部で速度が下がり気味になったものの、ほぼ制限速度近くで走れた。その電費が6.19km/kWhで、その4の6km/kWhとほぼ同様。その2の7.5km/kWhとその3の7.1km/kWhもほとんどかわらず、100km/h 区間と70km/h区間で電費が綺麗にわかれた。

 e-2008のカタログ電費はJC08モードしか記載されておらず、その数値が7.14km/kWh。過去にテストしたモデルのJC08モードを見ながら比較すると、概ね妥当な高速電費となった。

 ちなみにJC08モードとWLTCモードでは後者のほうが電費が辛め(低い)に出るが、その落ち幅はモデルによってまちまち。たとえばリーフe+ではWLTCモードが6.21km/kWhでJC08モードが8km/kWhとなっており28.8%の差があるが、ホンダe AdvanceはWLTCモード7.25km/kWh、JC08モード7.41km/kWhで2.2%しか差がない。したがってe-2008がWLTCモードだとどれぐらいなのかを推測するのは難しい。

 同時にテストしたBMW i3(REX)はその1が7.9km/kWh、その2が8.4km/kWh、その3が8.1km/kWh、その4が6.9km/kWhと優秀。軽量で電費志向の特殊なタイヤを採用しているのが功を奏しているのだろう。

  • 往路の高速テストコース。

     

    往路の高速テストコース。東名高速道路 東京ICからスタート。海老名SAまでを「高速その1」、海老名SAから厚木ICから小田原厚木道路を通り小田原西ICまでを「高速その2」とした

     

  • 復路の高速テストコース。小田原厚木道路の小田原西ICから東名厚木ICを経由し横浜青葉ICまで走行。途中海老名SAで充電を行った

    復路の高速テストコース。小田原厚木道路の小田原西ICから東名厚木ICを経由し横浜青葉ICまで走行。途中海老名SAで充電を行った

     

 

ターンパイクでの電費をチェック! 急な山道でもe-2008は優等生

ターンパイクでの電費テストデータ ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

ターンパイクでの電費テストデータ 天候:晴れ「ターンパイク上り」時間:7:56-8:15、気温21度、「ターンパイク下り」時間:9:56-10:10、気温18度 ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

 ターンパイクは13.782km(小田原早川の料金所から箱根大観山口まで)の距離で標高差が963.6mもある珍しいステージ。ここまで上りおよび下りが長く続く道路はなかなかないため、いまでも自動車メーカーがテストに訪れることが多い。

 上りでは激しく電気を消費するのはあたりまえでe-2008は2.0km/kWhだった。これまでテストしたなかでは平均的な数値であり、違いをみていると車両重量との関係性が大きいように思われる。とはいえ、今回のe-2008およびi3を含めまだ6台しかテストしていないので、もう少しデータを積み上げてから改めて考察したい。

 下りでは回生エネルギーがどれぐらいとれたか興味深いところで、車両重量と駆動方式が影響を及ぼすと予想している。e-2008は3.1kWh分を回生した計算でこれも平均的と言えそうだ。ただし、回生量を正確に計測できる手段がなく、車載メーターによる前後の電費から計算したものなのであくまで参考値とさせていただきたい。

自動車専用道路である箱根ターンパイク(アネスト岩田ターンパイク)を小田原本線料金所から大観山展望台まで往復した。

 

自動車専用道路である箱根ターンパイク(アネスト岩田ターンパイク)を小田原本線料金所から大観山展望台まで往復した

 

 

一般道での電費をチェック! 都市部でも納得の電費データを記録した

一般道での電費テストデータ ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

一般道での電費テストデータ 天候:晴れ 「一般道」時間:12:02-14:41、気温31度 ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

 一般道での電費は6.0km/kWhでJC08モード電費に対して84%。ちなみにリーフe+は78%、リーフNISMOは92%、MX-30 EVが76%、ホンダeが94%で、その比較では平均的と言っていい。

 EVは速度域が低いほど電費が良く、だからこそシティコミューターとして理想的なのだが、実際には70km/h区間の高速道路のほうが上回っている。平均時速20km/h程度とはいえ信号などでのストップ&ゴーや速度変動の大きな一般道は、やはり電費を悪化させるわけだ。制限速度が50-70km/h程度でストップ&ゴーがなく、渋滞等がなければ速度変動が少ない都市高速や自動車専用道(広義では高速道路)あたりが、もっとも電費に有利というのは、エンジン車の燃費と同様。それでも、エンジン車は一般道での燃費の落ち幅が大きく、EVのほうが小さく抑えられるのはたしかであり、シティコミューターとして理想的であることにかわりはない。

東名横浜青葉ICから環八の丸子橋まで約22kmの距離を走行した

 

東名横浜青葉ICから環八の丸子橋まで約22kmの距離を走行した

 

 

急速充電器テスト! 東京から箱根を経た165km地点でも90km以上の航続可能距離が残っていた

海老名SAでの急速充電テスト ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

海老名SAでの急速充電テスト ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

 バッテリー容量が50kWh、航続距離が385km(JC08モード)のe-2008にとって、212kmのEVテストは、それなりのロングドライブとなる。さらにきつい35.5km/kWhのホンダeとMX-30は往路でも一度充電を入れて備えたが、今回はスタートから165km地点の海老名SA(復路)まで無充電で通した。

 すると、スタート地点で302kmだった走行可能距離は96kmまで減っていた。302km-165kmは137kmだから、41km分はどこかで余計に使ってしまったイメージ。ちなみにメーターに表示される走行可能距離は、その時から少し遡った電費とバッテリー残量から計算した値であり、走り方や交通の流れ、アップダウンなどによって大きく変動するのであくまで目安にしかならない(エンジン車やハイブリットカーも同様)。いまどきは地図データ内の標高や交通状況などもわかるので、カーナビで目的地を設定すれば、実態とかなり近い電費予測ができるはずだから、そういった賢く有効な走行可能距離表示などをしてもらいたいものだ。

 出力が40kWの急速充電器を使って30分で14.4kWhが充電され、走行可能距離は194kmまで回復した。ちなみに、同じ充電器を使ったホンダeは30分で16.4kWhが充電された。バッテリー残量がわずか7%にまで減り走行可能距離は14kmの状態だったので、入りやすかったのかもしれない。

後席足元チェック! フロアに段差はなく、前席のシートバックがえぐれた形状のため膝前にゆとりがあり、シート下に足先が入る

 

後席足元チェック! フロアに段差はなく、前席のシートバックがえぐれた形状のため膝前にゆとりがあり、シート下に足先が入る

 

 

プジョー e-2008はどんなEVだった?

テストを監修した自動車ジャーナリストの石井昌道氏

テストを監修した自動車ジャーナリストの石井昌道氏

 エクステリアやインテリアが独創的でBセグメントのコンパクトカーらしからぬ華やかさがあるe-2008。プジョーはPower of choiceというコンセプトを打ち出している。208と2008の新世代プラットフォームであるCMP(Common Modular Platform)は、EVとICE(エンジン車)の両方に適した設計として、ユーザーに選択の自由を提供。日本市場での発表・発売もe-20081.2L直列3気筒ガソリン・ターボの2008は同時で、デザインや装備、室内空間なども同等になっている。違いは車両価格でEVのほうが100万円以上は高いが、金利、燃料代、保険・整備代、税金など所有全般にかかるトータルコストでみればほぼ同等になるようとプジョーは説明している。

 プジョーはBセグメントカーでは世界のベンチマークと言えるほどコンパクトカー造りに長けていて、それはe-2008でも十二分に実感できた。強靱なシャシーがもたらす重厚感のある走りであり、快適だけれどフラットライド感が高くて安心感がある。

 日本車と同等かそれ以上にリーズナブルに感じられ、デザイン性や走りでの満足度も高いe-2008。初めてのEVとしても狙い目のモデルなのだ。

プジョー e-2008 GT(50kWh)

 

■全長×全幅×全高:4305×1770×1550mm
■ホイールベース:2610mm
■車両重量:1600kg
■バッテリー総電力量:50.0kWh
■モーター定格出力:57kW
■モーター最高出力:100kW(136ps)/5500rpm
■モーター最大トルク:260Nm/300-3674rpm
■サスペンション前/後:ストラット/トーションビーム
■ブレーキ前/後:Vディスク/ディスク
■タイヤ前後:215/55R18

取材車オプション
■パールペイント、パノラミックサンルーフ、ナビゲーションシステム、ETC2.0

この記事はいかがでしたか?

気に入らない気に入った

グーネットマガジン編集部

ライタープロフィール

グーネットマガジン編集部

1977年の中古車情報誌GOOの創刊以来、中古車関連記事・最新ニュース・人気車の試乗インプレなど様々な記事を制作している、中古車に関してのプロ集団です。
グーネットでは軽自動車から高級輸入車まで中古車購入に関する、おすすめの情報を幅広く掲載しておりますので、皆さまの中古車の選び方や購入に関する不安を長年の実績や知見で解消していきたいと考えております。

また、最新情報としてトヨタなどのメーカー発表やBMWなどの海外メーカーのプレス発表を翻訳してお届けします。
誌面が主の時代から培った、豊富な中古車情報や中古車購入の知識・車そのものの知見を活かして、皆さまの快適なカーライフをサポートさせて頂きます。

この人の記事を読む

1977年の中古車情報誌GOOの創刊以来、中古車関連記事・最新ニュース・人気車の試乗インプレなど様々な記事を制作している、中古車に関してのプロ集団です。
グーネットでは軽自動車から高級輸入車まで中古車購入に関する、おすすめの情報を幅広く掲載しておりますので、皆さまの中古車の選び方や購入に関する不安を長年の実績や知見で解消していきたいと考えております。

また、最新情報としてトヨタなどのメーカー発表やBMWなどの海外メーカーのプレス発表を翻訳してお届けします。
誌面が主の時代から培った、豊富な中古車情報や中古車購入の知識・車そのものの知見を活かして、皆さまの快適なカーライフをサポートさせて頂きます。

この人の記事を読む

img_backTop ページトップに戻る

ȥURL򥳥ԡޤ