新車試乗レポート
更新日:2021.02.08 / 掲載日:2021.02.05
【試乗レポート トヨタ MIRAI】クルマとしての魅力は十分、あとは仲間づくりと環境整備だ

トヨタ MIRAI
文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス
自動車の電動化が叫ばれるなか、水素により発電を行い、モーターで走行するゼロエミッション自動車であるトヨタ MIRAIが2020年12月にフルモデルチェンジして発売された。新型MIRAIはどのように進化したのか、これまでプロトタイプをテストしてきた自動車ジャーナリストの石井昌道氏がリアルワールドでの使い勝手をレポートする。
以前、クローズドコースでのプロトタイプ試乗をレポートした量産FCV(燃料電池車)の2代目MIRAIだが、今回は市販車を公道で試すことができた。
【試乗レポート トヨタ MIRAI】プロトタイプ試乗でわかった2代目のポテンシャル
新型MIRAIプロトタイプ試乗【ニュースキャッチアップ】水素社会を新型MIRAIが加速させる
「環境車」から「魅力的で環境にやさしいラグジュアリーカー」に進化

トヨタ MIRAI
初代モデルはFWDでいかにも環境対応車といった趣が強かったが、2代目はがらりと様相がかわった。プラットフォームはレクサスLSなどと共通のGA-L(グローバルアーキテクチャーラグジュアリー)となり当然のことながらRWD。スタイリッシュなセダンへと生まれ変わった。走らせてみても、サーキットで思わず本気にさせられてしまうほどハンドリングが良く、かなりスポーティで驚かされる。
その最大の理由は、個人ユーザーへのアピールだ。FCVを購入するのは官公庁や環境コンシャスな企業などが主だったが、それだけでは本格普及への弾みはつかない。水素ステーションは2020年12月現在、全国で137箇所と、まだ心許なく思われるかもしれないが、それでも順調に増えてきている。対するFCVの日本国内の保有台数は2020年半ばで約3700台。2014年に政府から発表されたエネルギー基本計画のなかのロードマップでは、2020年に水素ステーション160ヵ所、FCV 4万台程度とされていたのでバランスからいえばインフラのほうが先行しているかっこうだ。
だからこそ新型MIRAIは従来の手作りに近いものから、クラウンなどと混流ラインにできるように切り替え、生産能力を従来の3000台/年から3万台/年と10倍に。FCVという以前にクルマとしての魅力を輝かせて個人ユーザーを増やし、インフラとともに普及を進めていこうという考えだ。
クラウンやLSよりも快適と思えるほどの走り

高速道路でのクルージングでは、豪華クルーザーのような快適性を誇る
サーキットでは想像以上に高いダイナミクス性能が印象的だったが、サスペンションをスポーツカーのように硬くして踏ん張っているのではなく、むしろしなやかに路面を捉えている感覚が強かったので、これなら乗り心地も良さそうだと予想していたのだが、期待を超えるほどだった。Zグレードは20インチの大きなタイヤを装着しているが、低速域でのゴツゴツ感はなく、首都高速の目地段差など大きな入力はしなやかにいなす。直接比較したわけではないが、クラウンやレクサスLSよりも快適に思えるほどだ。とくに好印象だったのが高速道路のクルージング。上下動もピッチングも穏やかで、路面が荒れていても不快感がなく、まるで豪華なクルーザーのよう。
静粛性の高さもMIRAIならではの魅力。BEVやFCVはパワートレーンが発するノイズが少ないので当然ではあるが、MIRAIはそのなかでも静かな部類であり、それゆえ目立ちがちになるロードノイズや風切り音などもよく抑えられている。
電気モーター駆動のため、加速のレスポンスの良さはエンジン駆動の比ではない。アクセルの踏み込みに対してまったくタイムラグなしにスーッと音もなく走り出していく。低回転域ではトルクも太く、60km/h程度まではじつに力強い。最高出力が182馬力ということから想像できるように、速度が高まっていくと加速感はじょじょに穏やかになるが、日本の路上では十二分だろう。スタックや燃料タンクにコストのかかるFCVの車両価格をなるべく抑えるべく、THSIIの技術をフルに活用し、モーターも贅沢にハイパフォーマンス化せず、そのなかで実用域重視に造り込んでいる印象だ。
航続距離の長さは電気自動車に対する大きなアドバンテージ

新型の航続可能距離はGグレードは850km、Zグレードは750km(WLTCモード)
FCVの大きな魅力は航続距離が長いことにもある。WLTCモード燃費から換算すると1タンクでGグレードは850km、Zグレードは750kmに達する。今回の試乗での燃費は約90km/kg。ZグレードのWLTCモード燃費は135km/kgなのに対して66%に過ぎないが、電動車は全般的にヒーターを使う冬場の燃費の落ち込みが大きく、またストップ&ゴーの多い街中の走行頻度が高かったため、下限に近い数値だろう。燃料タンクは5.6kgの水素が充填できるので、最低でも約500kmは走れると考えれば十二分で、充填には約3分しかかからない。
これなら水素ステーションがそれほど多くなくても実用的だと言えなくもないが、クルマの数が少ないから採算はとれず、営業時間を短くしているなど、ユーザーにとって便利と言いがたい現状もある。だからこそ、2代目MIRAIは販売台数を大幅に増やすのが使命となっているのだ。FCVに関しては、とくに大型商用車のCO2排出量削減に大きな期待がかかっており、2030年頃には一定の市場が出来上がるだろうと予想され、世界中で投資も増えている。そういった意味ではMIRAIの未来も明るいと言えるが、乗用車のFCVに本気で挑む仲間が少ないのが気になるところでもある。トヨタがスタックを供給するなど、なんらかの仲間づくりの広がりにも期待したいところだ。
水素ステーションは設置個所が全国で137ヵ所(2020年12月時点)営業時間が短く、ユーザーにとって便利な状況とはいいがたい
自動車ジャーナリストの石井昌道氏
トヨタ MIRAI Z(電気式無段変速)
■全長×全幅×全高:4975×1885×1470mm
■ホイールベース:2920mm
■トレッド前/後:1610/1605mm
■車両重量:1930kg
■タンク容量:141L
■モーター最高出力:182ps/6940RPM
■モーター最大トルク:30.6kgm/0-3267rpm
■サスペンション前後:マルチリンク
■ブレーキ前後:Vディスク
■タイヤ前後:235/55R19