新車試乗レポート
更新日:2022.12.26 / 掲載日:2022.12.26
【VW ゴルフR】シリーズ最強モデルの実力とGTIとの違いをチェック
文●大音安弘 写真●ユニット・コンパス
今なお輸入車の大定番であるVWゴルフにフラッグシップモデル「R」が追加された。
まず簡単にゴルフのラインアップをお浚いしよう。基本となる標準車は、ガソリン仕様の1.0L TSIと1.5L TSIの2種類。クリーンディーゼル仕様の2.0L TDIとなる。そんな標準車では刺激が足りない人向けに用意されるのが、高出力なガソリンエンジンを搭載するスポーツハッチバックの「GTI」。その上に位置するのが、今回の主役フラッグシップスポーツ「R」なのだ。
「GTI」と「R」の違い
ここでの注目点は、「GTI」と「R」は一体何が違うのかということだろう。
主なポイントとして、「エンジン性能」、「駆動方式」、「ボディバリエーション」の3つが挙げられる。
まずはエンジンだ。いずれも高出力型の2.0L直列4気筒DOHCターボエンジンを搭載するが、その性能は異なる。GTIのスペックは、最高出力245ps/5000~6500rpm、最大トルク370Nm/1800~4300rpmと十分パワフルなもの。
さらにRでは、それを上回る最高出力320ps/5350~6500rpm、最大トルク420Nm/2100~5350rpmを発揮。なんと、最高出力で75ps、最大トルクで100Nmもの差があるのだ。これだけでもRの凄さが感じられる。因みに車両重量もRが上となるが、パワーウェイトレシオをハッチバックボディで比較してみると、GTIが5.84㎏/ps、Rが4.81㎏/psとなり、計算上ではRの方が速いと弾き出される。
続いて、駆動方式だが、FF(前輪駆動)のGTIに対して、Rは4WD「4MOTION」となる。ただし、単なる4WDではなく、デフ制御による左右後輪のトルクベクタリング機能「Rパフォーマンストルクベクタリング」と電子デフロック「XDS」とアクティブシャシーコントロール「DCC」、4MOTIONを統合制御する「ビークルダイナミクスマネージャー」などの走行性能を高めるメカニズムも積極的に取り入れられている。さらにボディタイプは、ハッチバックのみのGTIに対して、Rだとハッチバックに加え、ステーションワゴン「ヴァリアント」も選べるのだ。
ただ悩ましいのが、シンプルにGTIよりRのほうが上だとも言いにくいこと。
なぜならば、GTIには、高性能仕様が登場するのが、お約束なのだ。なぜゴルフにキャラクターの異なるスポーツモデルが存在するのか。その理由を知るには、少しゴルフの歴史を振り返る必要がある。
高性能ゴルフ誕生の歴史
ゴルフGTIは、初代ゴルフの高性能バージョンとして登場。小さなクルマで格上のクルマに勝負が挑めることで大人気となった。しかし、時代は流れ、世のスポーツカーたちは更なる高性能化の道を歩んだ。
そこでVWのプライドを掛けて、GTIとはキャラが異なり、より高速巡行に特化したグランツーリスモが送り出された。それが2.8LのV6を搭載したゴルフⅢ VR6だ。その後、よりスポーツ性を追求した史上初のRモデルとなる「ゴルフⅣ R32」へと発展を見せる。R32は、3.2L V6エンジンに4WDを組み合わせることで、高速安定性を向上させた豪華な高性能車であった。その実力は、「ポルシェイーター」というあだ名が物語る。もちろん、ポルシェに勝てるマシンというより、ポルシェを追撃できるマシンと理解した方が正しい。もちろん、乗り手次第では、ポルシェに冷や汗をかかせたことはいうまでもない。
その後、VWのダウンサイズエンジン戦略で、Rシリーズも、ゴルフⅥ以降は、2.0L直4ターボエンジンを搭載。シンプルに「R」と呼ばれるようになった。筆者としては、熱心なファンのためにホットハッチの魅力を追求したのが、「GTI」。より広義での高性能を追求し、VW全体のスポーツアイコンとして、大人のスポーツモデルに仕立てたのが「R」と理解している。
そのため、スタイリングもキャラの濃いGTIと比べると大人。フルエアロ仕様となるが、デザインはシンプルなので、至って上品だ。ただリヤエンドには、只ものではないことを物語る左右2本出しの4本テールパイプが備わり、クルマ好きの心を刺激してくれる。その演出は、ハッチバックとステーションワゴンでも違いはない。まさに羊の皮を被った狼を地で行くマシンなのだ。
「R」ならではの世界観を表現したインテリア
コクピットは、基本的にはゴルフと同様。Rのブランドカラーであるブルーがアクセントとして使われ、ステアリングも専用品に。シートはブルーを配した専用カラーリングとなり、フロントにはヘッドレスト一体型トップスポーツシートが備わる。
全体のコーディネートは、スポーティに纏まっているが、GTIにはあったレザーシート仕様はなく、ちょっとエクステリアに比べると、Rのキャラ付けが濃くなっている。この点は好みが分かれそうだ。個人的には、内外装共にクールに決めて欲しかった。
Rの名が示すように、モータースポーツ色も演出されており、ドライビングプロファイルには、「コンフォート」、「スポーツ」、「レース」モードが用意。レースモード選択時は、メーター表示も、レーシングカーのメーターを彷彿させるバータイプのタコメーターと大きなデジタルスピードメーターの表示に切り替わる演出もある。オプションのDCCが備われば、サスペンションの仕様も変更されるので、よりオールマイティな存在となる。
二面性を秘めた「R」の走り
その走りには、良い意味で二面性がある。
巡行時には、エンジンサウンドこそ元気さがあるが、乗り心地も良く、標準車のゴルフ同様に運転し易い。ゴルフとしての価値を、しっかりと守っている優等生の一面もあるのだ。
ところが、スポーツカーの顔を引き出してあげると、コーナリングマシンへと変貌する。フルタイム4WDの4MOTIONと「Rパフォーマンストルクベクタリング」でワインディングをトレースするように気持ちよく駆け上がる。もちろん、ノーズの入りもコントロールされるから、コーナーの侵入は、カミソリの如し。
興味深いのは、ハッチバックとステーションワゴンでの走りの差だ。これは、現行型のゴルフⅧより、ホイールベースが専用化されたことにある。ハッチバックがショートホイールベース、ステーションワゴン「ヴァリアント」がロングホイールベースとなる。
このため、ホットハッチらしいクイックな動きを求めるならば、ハッチバックだし、快適性やより走りの安定感を求めるならば、ヴァリアントで、大人なGTとして選ぶなら、ヴァリアントも良い選択だと思った。
まとめ
新型Rは、ハッチが639.8万円とヴァリアントが652.5万円と一段と高価になった。
ロングドライブが多く、荷物も沢山乗った方が便利ならば、ヴァリアントの魅力はより引き立つ。ボディによる価格差は、たった12.7万円に過ぎない。ファミリーカーとしても使えるヴァリアントの方がお得感は強いだろう。
一方で、ハッチバック好きは、大いに悩むはずだ。GTIもRも、魅力的なホットハッチに仕上げているからだ。しかし、定価で約150万円、装備を近づけても、まだ約115万円の差がある。GTIがRに愉しさで劣るとは言いにくい。だから、コスパ面では、GTIに軍配が上がる。ただ可能ならば比較試乗してから、結論を出して欲しいと思う。それくらい両者は、良い味を出している。残念なのは、Rだとボディカラーが3色に限定されること。特別なゴルフなのだから、選ぶ楽しみも提供して欲しい。