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更新日:2021.11.22 / 掲載日:2021.10.16

急に注目を集める重要技術「MBD」を押さえておこう【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●マツダ、池田直渡

 9月24日、自動車メーカー5社と部品メーカー5社が、MBD推進センターへの参画を発表した(株式会社 SUBARU、トヨタ自動車株式会社、日産自動車株式会社、本田技研工業株式会社、マツダ株式会社、株式会社アイシン、ジヤトコ株式会社、株式会社デンソー、パナソニック株式会社、三菱電機株式会社)。

 発足のニュースではないのは、すでに同センターは7月に設立されているからだが、まあざっくり言えば、この10社が協同で立ち上げたと言ってもあながち間違いではない。

 ではMBDとは何か? 発表されたリリースから肝心な部分を抜き出すと以下のようになっている。

 “MBD推進センターは、全体最適で高度なモノづくりを手戻りなく高効率で行える、モビリティ社会の最先端の開発コミュニティの実現を目的として発足いたしました。活動内容は、2015 年度より経済産業省主導のもとで「自動車産業におけるモデル利用のあり方に関する研究会」として実施し、とりまとめてきた、「SURIAWASE2.0の深化 ~自動車産業におけるMBDの産学官共同戦略的プロジェクトの方針~」を民間主体で継承したものとなります。”

 抜き出しておいてなんだが、筆者的にはこれを読んでMBDとはなんぞやが分かるとは全く思っていない。まあ公式説明を完全に無視するのもなんなので、一応抜き出したまで。ただ後で全体像を把握する時に役立つキーワードはいくつも入っている。「全体最適」「高効率」「モデル利用」あたりで、多分「SURIAWASE2.0」はむしろ誤解の元だと思う。

ものづくりの重要キーワード「MBD」を解説する

 そもそもMBDとはModel-Based Developmentの頭文字であり、複雑な事々を数理モデル化して、コンピューターによるシミュレーションで開発しようというもので、簡単に言えば「順列組み合わせが膨大に存在する問題」の中から最適なセットを最速かつローコストで見つけ出そうということだ。

 複雑なものを複雑なままモデルとして扱うことはできないので、複雑な状況から支配的要素を抜き出してやらなくてはならない。そうなると肝心なのは、全体を大きく左右するのは何かを見つけ出す作業である。

 例えば散らかった部屋を片付けるとする。片っ端から手を付けると、その度に要不要の判断と、分別などの棄てる方法の選択、あるいは整理保管する場所と手順の判断を都度都度やらなければならない。これは作業負荷が高いし効率が悪い。

 全体を見渡して、散らかっている要素を大まかに把握して「あ、衣類が多いな」と思ったら、まず衣類を全部拾い集めてしまえば良い。拾い集めた衣類を、洗濯するもの、クリーニングに出すもの、そのまま仕舞うものに分けて、それぞれまとめて作業をしてしまえば、判断と作業の負荷が大幅に減る。

 ここでのポイントは衣類に着目したことである。これを影響の大きい側から見つけて行く。本、ペットボトル、郵便物……。しかしどこかで線引きをすることが肝心だ。どんどん増やしていけばモデル化できなくなる。

 MBD推進センターの「ステアリングコミッティ委員長」、要するにボスは、マツダの人見光夫さんなのだが、この人はマツダのMBD、あるいはコモンアーキテクチャープロジェクト推進の中心になった人だ。

MBD推進センター ステアリングコミッティ委員長を務める人見光夫氏(マツダ株式会社 シニアイノベーションフェロー)

 彼が常々言っていたのはボーリングの「一番ピン」を見つけることで、要するに「衣類」が主要因だと見当を付けることである。でっかい問題をやっつけると他の問題が簡単になって行くということを意味している。組み合わせはかけ算なので、例えば、10×5×2 =100だとしたら、最初の10を解決してしまえば5×2=10と大幅に減らせる。

 マツダはまず、エンジンの開発にこのMBDを採用した。エンジンの設計には極めて多様なファクターがあるのだが、詰まるところ大事なのは「燃焼」であり、その燃焼を左右する要素を6つに絞り込んで抜き出して見せた。余談ではあるが、SKYACTIV-XのSPCCIエンジンを開発した時、人見氏は「あれを試作と実験でやっていたら5億年くらい掛かった計算になる。それをあの短時間できたのはMBDがあったからだ」と発言している。

 さて、6つの問題を最良のバランスにできる答えを、無数の順列組み合わせの中からスーパーコンピューターを使ったシミュレーションで見つけ出して、「触るな」というコーションを貼り出す。「ここはもうベストにしたから絶対に弄るな」ということだ。MBDを活用したコモンアーキテクチャーの最重要キーワードは「固定と変動」。6つの要素はもう絶対に固定する。それ以外の要素は変動するものとして扱って良い。

 これが一体何をやっているのかと言えば、何をやったら良いか分からない問題に取り組む時、結果を左右する影響度の大きいものだけを最初に拾い出して、そこに注目して徹底的に解決してしまうというやり方で、それはつまりエンジンだけの話ではなく、ありとあらゆる仕事に応用できる。シャシーでも自動運転でも、もっと言えば販売戦略でも、事務仕事でもだ。

 要するにMBDは「トヨタ生産方式」以来の業務改善スキームに成り得る可能性を秘めている。つまり今回のMBD推進センターのスタートは、これから日本の自動車メーカーの大躍進が始まる大きな可能性を秘めていることになる。もちろん本当にそうなるかどうかはまだわからないけれど、技術史に残る、あるいは製造業のメソッドを大変革する大きな一歩になる可能性があるのだ。

今回のまとめ

・自動車メーカー5社と部品メーカー5社が、「MBD推進センター」に参画

・「MBD」とは、事象をモデル化し、コンピューターにより効率的に開発する手法

・「MBD」は、商品開発だけでなく、仕事の進め方改善や問題の解決方法としても期待できる

執筆者プロフィール:池田直渡(いけだ なおと)

自動車ジャーナリストの池田直渡氏

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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