エンジンが秘めた可能性。日産VCターボ試乗【石井昌道の自動車テクノロジー最前線 第15回】

車の最新技術 [2021.07.16 UP]

エンジンが秘めた可能性。日産VCターボ試乗【石井昌道の自動車テクノロジー最前線 第15回】

文●石井昌道 写真●日産

 2018年に日産の海外向けプレミアム・ブランドのインフィニティQ50に搭載されたVCターボ・エンジンは、可変圧縮比というメカニズムが往年の「技術の日産」を彷彿とさせるとして話題となった。環境対応パワートレーンとしては、電気自動車に力を入れているイメージが強い同社だが、LCA(ライフサイクルアセスメント)を含めた本質的なCO2排出量削減をも睨み、内燃機関のポテンシャルにも期待をかけているともみてとれる。

 そんなVCターボだが、2022年に登場すると言われている次期エクストレイルに搭載されることになりそうだ。今回は、エクストレイルと兄弟車である海外向けの日産ローグ、日産アルティマ、インフィニティQ55(Q50のクーペバージョン)などに試乗。VCターボの実力を垣間見ることになった。

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VCターボの仕組みとメリット

2016年に発表されたVCターボは、世界初の量産型可変圧縮比エンジン

2016年に発表されたVCターボは、世界初の量産型可変圧縮比エンジン

 レシプロエンジンの圧縮比は、シリンダー内部で上下動するピストンの上死点と下死点による最大容量と最小容量の比率であり、基本は高ければ高いほど熱効率は向上するが、ガソリンの場合、高すぎると自己着火によるノッキングが発生するので限界はある。また、パワーを狙うターボ・エンジンはノッキングが起きやすいので圧縮比は低め設定されるのが一般的。

 最近のダウンサイジング・ターボは低燃費を狙ったものなので圧縮比は高めに設定されているが、過給圧は高められないのでパワーはそこそこ。それでもNAよりもトルクはあるので、走りやすくて燃費も良好といういい妥協をみせるエンジンだ。

 一般的なエンジンはピストンとクランクシャフトがコンロッドと繋がり、圧縮比が固定されているが、VCターボは状況に応じてコンロッドのかわりにマルチリンク機構でクランクシャフトを回転させ、アクチュエーターによってリンク端点が可動となり、クランクシャフトとピストンの距離を変化させて圧縮比を連続的に可変できる。

 圧縮比はパワフルなターボ・エンジン並の8.1から燃費志向の14.1までとなっている。つまり、低燃費とハイパフォーマンスを両立できるのだ。

 マルチリンク機構はその他にもメリットがあり、振動特性が良好なのでバランサーシャフトが不要になること、リンクが直立状態で上下動するのでピストンがシリンダー内の一方の壁に押しつけられることがなくフリクションが低減されること(一般的なエンジンに対して約1/4)、クランクピンへの入力荷重がテコの原理により約2倍に増大されること、EGR(排ガス再循環)の領域拡大などがある。

2022年登場予定の新型エクストレイルに採用されるVCターボを海外向けモデルでテスト

VCターボを搭載する日産の海外向けモデル

VCターボを搭載する日産の海外向けモデル

 アルティマおよびQ55に搭載されたユニットは第一世代で2.0L直列4気筒ターボで圧縮比は8.1-14.1、ボアは84mmだがストロークは88.9-90.1となり、排気量は1970-1997cc。最高出力および最大トルクはアルティマが252PS/38.7kg-m、QX55が272PS/39.7kg-mとなる。なぜアルティマのパワー・トルクが控えめに設定されているのかは、試乗してみてわかった。FFには上限と思われるほどパフォーマンスが高いからだ。コーナー立ち上がりで遠慮なくアクセルを踏み込むとFF特有のトルクステアが顔を出し始める。たしかにこれ以上の力を与えてしまうと、じゃじゃ馬になりかねない。AWDのQX55ならばそんな心配はなく、実用車としては望外なパフォーマンスを堪能できた。

 メーターではターボの過給圧と圧縮比が表示され、走らせ方によって変化していくのが確認できる。アクセルを踏み込んでいけば圧縮比が下がって過給圧はあがり、緩めれば逆になる。想像するよりも変化は素早く、巡航や一般的な走行ではかなりの燃費志向であることがうかがえる。ただし、メーターで確認しないと圧縮比が変化していることはわからず、ごく自然なフィーリングだった。

 2.0LのVCターボにスペックが近いということで用意されていたピックアップトラックのフロンティアのエンジンは3.8L V型6気筒NAで314PS/38.8kg-m。VCターボが最大トルクを1500から5000rpm弱で発生するのに対して4000rpm強となるので、どの回転域域でも力強いというほどではないものの、大きなボディに対して十分なトルクがあり回転上昇とともにパワーが盛り上がっていく自然な感覚。古典的だが、これはこれで気持ちいい。RWDモードでアクセルを床まで踏みつけるとタイヤを軋ませるほどの迫力もあった。

 ローグに搭載されていたのは第二世代VCターボで、1.5L直列3気筒で204PS/31.1kg-m。こちらもアクセルを踏み込めば望外にパワフルだったが、面白いのはマルチリンク機構によって高周波ノイズが生成されることで、直3らしからぬ気持ちのいいサウンドとなっていることだ。低燃費志向の直3ながら、スポーティな性格も持ち合わせているのだ。

 次期エクストレイルの日本仕様がどういったパワートレーンとなるかはまだ不明だが、VCターボはe-POWER用としても優れた資質を持っているという。

 エンジンは発電に徹し、モーターで駆動するシリーズハイブリッドのe-POWERは、現在のところ1.2L直3NAで発電量はさほど大きくないが、第二世代VCターボを搭載すれば飛躍的に向上するはずだ。高効率な一定回転での運転領域が増えて燃費性能が改善されるとともに、e-POWERにスポーティな特性をもたらすことにもなりそうだ。というのも、バッテリーからの持ち出しとエンジンの発電によって駆動電力をまかなうシリーズハイブリッドは、アクセルを強く踏んだときのレスポンスや踏み続けてバッテリーの電力がなくなったときのパワーの落ち込みに課題があり、エンジンの性能が上がればそれを補うことができるからだ。

 電動化の一つの要であるe-POWERは、BEVが課題を克服するまでの繋ぎとも言われるが、エンジンの進化によって大きなポテンシャルを発揮する興味深い技術であり、将来的に切り捨てるのはもったいない。Tank to Wheelで規制に合わせるだけではなく、発電にかかるCO2まで含めたWell to Wheel、さらに踏み込んだLCAまで含めた本質的な環境負荷低減を考えても、まだ必要な技術だろう。

執筆者プロフィール:石井昌道(いしい まさみち)

自動車ジャーナリストの石井昌道氏

自動車ジャーナリストの石井昌道氏

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】は週刊連載です。どうぞお楽しみに!

グーネット編集部

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