車の最新技術
更新日:2021.11.26 / 掲載日:2021.06.18

EQAに見る電動化時代のメルセデス【石井昌道の自動車テクノロジー最前線 第11回】

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス

 メルセデス・ベンツのBEVとしてはEQCにつぐ第2弾になったEQA。欧州ではミニバンのVクラスベースのEQVも発売済み、SクラスベースのEQSもデビュー間近でありメルセデスの電動化も着々と進んでいる。

 GLAベースのEQAは日本の都市部でも使いやすいサイズと身近な車両価格が魅力であり、普及に弾みがつくことになりそうだ。GLA180が495万円、GLA200d 4MATICが518万円、メルセデスAMG GLA35 4MATICが702万円、メルセデスAMG GLA45 4MATIC+が895万円なのに対してEQAは640万円。それなりに高価ではあるものの、今なら最大200万円程度の補助金、減税、そしてメルセデスからのサポートが受けられ、公式HPの支払い例によると5年リースの月額はGLA180の7万9750円よりも安い7万8760円となっていてトータルコストでは抑えられることになる。

 バッテリー容量は66.5kmとなっていて航続距離は422km(WLTCモード)。ボディサイズや室内空間はほとんどGLAとかわりないが、バッテリーが床下に配置されている影響で後席の足下がわずかに狭くなっている程度。その他の使い勝手に大きな違いはない。

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 EQCもそうだったが、メルセデスのBEVはエンジン車から乗り換えても違和感がないのが一つの特徴であり、EQAでも同様だった。ステアリングコラムのシフトレバーの操作などもメルセデスのエンジン車と同じで戸惑うことはない。アクセル操作による加速感と減速感、ブレーキのタッチなども自然で、いい意味で普通。BEVだからといって先進感を無理にアピールしてくることはない。

 BEVの場合、回生ブレーキの効かせ方に自由度があるのでメーカーやモデルによっては、1ペダルドライブなどの特徴を持たせることがある。EQAはDレンジで走らせている限りは、アクセルオフによる減速が一般的なエンジンブレーキ程度だ。だが、ステアリングのパドルシフトを操作することで任意に回生ブレーキの強さを調整できる。Dレンジから左を1回引いたD-ではちょっと強くなり、2回引いたD–ではかなり強くて1ペダルドライブに近くなる。街中でこれを使えばペダルを踏みかえる頻度が減って操作が楽になる。右のパドルを引くとD+となり、回生ブレーキはなし。つまりコースティングとなり、巡行時などは運動エネルギーをなるべく維持して走らせることで電費向上を期待できる。パドル操作によって減速度をコントロールして電費を稼げることはBEVならではの楽しみだ。

 さらに、左右いずれかのパドルを長引きするD Autoというモードもあるが、これがなかなかに賢い。ADASのセンサによって、前走車との車間距離が詰まってくると自然と回生ブレーキを強めたり、坂道でも自動制御。今回試乗した高速道路はそれなりに交通量が多くて速度の変動が多かったが、D Autoにしておけばブレーキペダルを使う場面はほとんどなく、快適に走行できた。また、ターンパイク下りのような長い下り坂でも楽で、メルセデスらしいインテリジェントな制御システムだ。

 モーターは140kW、370Nm。EQCの300kW、765Nmに比べると半減といったところだが、実用上はまったく問題ない。EQCはテスラやアウディe-tronなどにも対抗できるハイパフォーマンスモデルで0-100km/h加速は5.1秒と驚速。EQAも8.9秒であり、遅くてフラストレーションがたまるようなことはまったくない。

 そんなことよりもじつに扱いやすいのが特徴だ。比較的にストロークが長めのアクセルペダルによって、モーター特有の図太いトルクを緻密にコントロールできる感覚が強く、必要以上にグイッと飛び出すようなことがなく、メルセデスらしい落ち着いた走りを容易く引き出せる。静粛性の高さやシームレスで滑らかな加速感を含め、エンジン車ではあり得ない上質な走りなのだ。

 シャシー性能もまた驚くほど上質だった。ソフトタッチで極上の乗り心地ながら、サスペンションが沈み込むにつれてグッと粘りが増すような感覚があって高速域ではフラットライド。コーナーでも硬さはないが、ロールが少なくて姿勢が安定している。バッテリーを床下に配置したことによる低重心、重さが上下動をゆったりとさせる落ち着きのある動きなど、BEVゆえの良さが全面的に表れたかっこうだ。エンジン車のGLAはスポーティな走りも大切にしていることもあって、快適性では断然EQAのほうが勝る。

 ガレージで充電できる環境があり、航続距離にも不満はないというのであればEQAは十分に検討する価値があるモデルだろう。とくに乗り心地フェチにはおすすめしたい。

執筆者プロフィール:石井昌道(いしい まさみち)

自動車ジャーナリストの石井昌道氏

自動車ジャーナリストの石井昌道氏

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】は週刊連載です。次回のテーマは「人と車のテクノロジー展」です。どうぞお楽しみに!

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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