車の最新技術
更新日:2021.11.26 / 掲載日:2021.07.02

e-2008とi3の走りを深掘する【石井昌道の自動車テクノロジー最前線 第13回】

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス

 EVテストで同日取材となったBMW i3 REXとプジョーe-2008は、ともに全高1550mmぴったりの日本の都市生活車向きなコンパクトカーで、輸入EVとしては比較的に身近。お洒落で手を出しやすいから初めてのEVとして最適なモデルでもあるだろう。

 しかしながら、コンセプトや考え方は真逆なのが面白い。方や、2013年という早い段階でリリースされたi3は、EVらしさやEVならではの魅力を全面に押し出して新しい時代のモビリティを強調。こなたe-2008は、今後のEVは特別なものではなく当たり前に存在するものとして並行して販売されるエンジン車と、同じデザイン、同じ装備、同じ使い勝手、同じトータルコストで用意し、ユーザーの好みやライフスタイルで選択して欲しいという販売スタイルを採っている。

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先進的なメカニズムが生み出すエコカーの常識を超えたパフォーマンス

BMW i3

BMW i3

 その違いは、試乗した乗り味からも、はっきりと感じられる。

 i3は、BMWの駆け抜ける歓び的にデメリットであるEVの重量増という課題に、アルミニウム・ダイキャストのシャシーにCFRP(カーボンファイバー強化プラスティック)のキャビンという構成で挑んだ。現行モデルの車両重量はピュアEVが1320kg、航続距離延長のためのエンジンを搭載したREX(レンジエクステンダー)が1440kgと、他のEVやPHEVなどに比べれば依然として軽いが、バッテリー容量が少なかった初期モデルではピュアEV1260kg、REX1390kgとさらに軽量だった。そのため出足の鋭さはi3の魅力の一つでもある。

 余談だが、i3ではEVレース(日本電気自動車レース協会主催)に何度も出場しており、サーキット走行に特化して造り込まれたコンバートEVなどを相手にまったくのノーマルでもレースのスタンディングスタートだけでは負け知らずだった。絶対的な速さではかなわず、予選で決まるグリッドは後方ながら、とりあえずスタートダッシュで全車をぶち抜けるのは痛快だった。さすがはBMW、環境問題に対応するべくF1から撤退してまで立ち上げた生真面目な“iブランド”ながら、駆け抜ける歓びは譲らないのだな、と感動したことを覚えている。

 それは今回の試乗でも再確認できた。とにかく出足の鋭さは尋常ではなく、赤信号からのスタートダッシュなら、ウン千万円級のスーパースポーツが相手でも負ける気がしないほど。コンパクトなボディと適度なアイポイントの高さも相まって、超絶に古い表現でいえば、街中の遊撃手さながらなのだ(1980年代のいすゞジェミニのキャッチコピーより)。

 アクセルペダルを全閉にすると強めの回生ブレーキが効き、ブレーキペダルを踏む頻度が減らせる“ワンペダルドライブ”、サステイナブルな素材を使ったインテリア、観音開きのドアなど、アーリーアダプターの頬を緩ませる仕掛けが満載なのがi3であり、本質を突いているから8年経ってもまったく色あせず、むしろその先見の明に感動すら覚えるモデルなのだ。

パワートレインの違いを良い意味で感じさせない巧みな作り込み

プジョー e-2008

プジョー e-2008

 BMWがプレミアムでスポーティなブランドであるのに比べると、プジョーはスタンダートなブランド。日本人の目から見れば、おフランスなりのお洒落感に惹かれる面も少なくはないが、基本は地に足をつけた庶民派だ。

 だからと言って、安かろう悪かろう的なところがあるかと言えば、それは違う。いや、むしろ、BMWを始めとするドイツ・プレミアム・ブランドが触れてこなかったコンパクトカーの世界では、高コストなハイテクなどを用いないコンベンショナルなものを磨き上げる手法は圧倒的に高い。Bセグメントカーで得られる満足感では世界一と言っても過言ではないのは、プジョーおよびフランス車のお家芸でもあるのだ。

 だから、エンジン車の208や2008、EVのe-208にe-2008は、同じく庶民派Bセグメントカーを多く生産している日本の自動車メーカーのエンジニアも一目置く存在だ。ドイツ車のようにふんだんにコストをかけられるブランド力があるから超えられないというエクスキューズは通用するはずもなく、普通の技術ながら何か秘密のレシピを持っているようだと、その実力を認めざるを得ない。燃費や排ガスの性能などでは日本の技術力も素晴らしいが、ことシャシー性能ではまだ見習うべき点はある。

 e-2008も乗ってみると、コンパクトカーなのに底知れぬ重厚感があり、快適な乗り心地なのに安定感もすごい、という二律背反の克服具合に感服させられる。エクステリアやインテリアのデザイン的な魅力も含め、これだったらもっと大きくて高級なモデルと比べてもまったくひけをとらないなという、アンチヒエラルキーなモデルでもあるのだ。ふと気づくと、そのパワートレーンがエンジンだろうが、電気モーターだろうが、どちらでもよく、その違いなどは取るに足らないものだと思えてくる。

 2008というクルマのトータルの魅力に惹かれるわけであって、EVだから、エンジンだから、というのはそれほど大きなファクターではないのだ。それこそがプジョーが唱える” Power of choice”の真髄ではあるまいか。好みやライフスタイルで自由にパワートレーンを選べる時代こそがユーザーにとっての幸せ。e-2008がエンジン車の2008とシェアを二分するようになったら、世間がEVを当たり前のものとして受け入れた証であり、” Power of choice”がEV普及のリトマス試験紙だとも言えるのである。

執筆者プロフィール:石井昌道(いしい まさみち)

自動車ジャーナリストの石井昌道氏

自動車ジャーナリストの石井昌道氏

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】は週刊連載です。どうぞお楽しみに!

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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