e:HEVレーシングカーで耐久レースに挑戦【石井昌道の自動車テクノロジー最前線 第14回】

車の最新技術 [2021.07.09 UP]

e:HEVレーシングカーで耐久レースに挑戦【石井昌道の自動車テクノロジー最前線 第14回】

文・写真提供●石井昌道

 以前にも当コラムで紹介したフィットe:HEVによる「もてぎEnjoy耐久レース(通称Joy耐)」への参戦だが、さる6月26日、27日に本戦を終えたので報告したい。

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街乗り向けにセッティングされているe:HEVをレース向きにチューニング

2000年冬から製作を開始したフィット ハイブリッド(e:HEV)のレーシングカー。さらなる速さを求め、軽量化やギア比の変更といったチューニングを施した

2000年冬から製作を開始したフィット ハイブリッド(e:HEV)のレーシングカー。さらなる速さを求め、軽量化やギア比の変更といったチューニングを施した

 フィットe:HEVのレーシングカーは2000年の冬から製作を始め、夏に初走行、11月にミニJoy耐(2時間耐久レース)を走り、今年は5月のテスト走行を経てレースウィークを迎えた。

 課題は絶対的にラップタイムが遅いことで、限られた予算とモノのなかでまずはタイムアップを狙いたい。ミニJoy耐時の最速は2分32秒で、総合優勝を狙うには10秒も縮めたいところ。そこまでジャンプするのは難しいとしても、2分30秒は切って、できれば27-28秒までは持っていきたい、というのが目論見だった。

 なぜラップタイムが期待ほど速くないのかといえば、フィットe:HEVが基本は公道で燃費と走行性能の効率がいい、モーター駆動のシリーズハイブリッドだということにある。高速域ではエンジンが直接駆動するモードもあり、それも効率向上に大いに役立っているが低負荷時に限られるため、サーキットでの出番はない。モーターの特徴は低回転域・低速域から大きなトルクを発生させられることで、エンジン駆動に比べると発進時から力強く、また6速や8速などのギアが必要ないのでシンプルで効率がいい。基本的にはEVと同じ特性だ。ただし、低・中速域までの加速がいい反面、中・高速域ではだんだんと鈍っていく傾向にはある。0-60km/hはちょっとしたスポーツカー並に速く、実用的なBセグメントカーでは最速の部類だが、それ以上はさほど速くはない。

 ところが、ツインリンクもてぎのコースでもっともスピードが落ちるヘアピンコーナーでのボトムスピードは約60km/h。つまり、得意な速度域を使うシーンはほとんどなく、苦手な領域で走っているのだ。公道走行を前提とすれば最適なシステムではあるものの、サーキットを速く走ることにはあまりむいていないのは事実。そもそも、それでレースに出ようというのが無茶だと言われればそれまでだが、あえてそこに突っ込んでいくのが、このプロジェクトの意味でもある。

 ちなみにフィットe:HEVの市販車の0-100km/h加速は、欧州仕様の公式で9.4秒と、やはり実用的なBセグメントカーとしては望外に速い。一度、自分で日本の市販車を計測してみたところ11秒ほどだったが、ハイブリッドカーはSOC(バッテリーの充電状態)によってタイムがかわってくるので、そんなものだろう。フィットe:HEVレーシングカーは昨年仕様で8.7秒。そして、ツインリンクもてぎのラップタイムで一つの目安となるバックストレートで記録される最高速は151km/hだった。

 そこで今回のJoy耐に向けて、最高速の向上を目指した。具体的にはファイナルギアをハイギアード化するのだ。エンジン車でサーキットのラップタイムを縮めようとする場合、ローギアード化するのが一般的だが、それとは逆。モーターが得意とする低・中回転域をなるべく使うようにするにはハイギアード化が正解となる。ファイナルギアは市販車の3.4から3.1へと改められた。もっと高いレシオのほうが効果的かもしれないが、入手できて取り付け可能なギアから選択できたのが3.1ということになる。

 5月のテスト走行にはハイギアード化が間に合わなかったので、その他のアップデートの効果を確認。まず一つ目がバッテリーの使用領域の拡大。SOCが下限に近づいていくとアシストをしなくなるのは、どのハイブリッドカーでも共通するところだが、フィットe:HEVレーシングカーではその閾値を市販車よりも下げ、サーキット走行でも恒常的にアシストが効くように工夫した。もう一つは車両の軽量化で、サイドのリアガラスのアクリル化やパワーウインドーモーターの取り外し、チタンサイレンサーの採用などで約30kg軽くなった。

 それで走行したところ、ラップタイムは2分32秒台。昨年11月と同タイムだったのだが、外気温が15℃も上昇していることが影響している。アップデートによってポテンシャルがあがった分が、温度上昇によって相殺されたというわけだ。ラジエター変更などで高温対策はしてあり、走行中の水温は昨年11月とほぼ同等か低いぐらいに抑えられていたが、吸気温度はちょっと高かったのでエンジンパワーがフルには発揮できず、ラップタイムを落としていた面もある。レースウィークに向けては、吸気周辺に耐熱テープを貼ったり、走行風が当たりやすくするなどの対策を施した。

秘策をもってのぞんだ決勝レースの結果は。プロジェクト最終年に向けて進化は続く

栃木県のツインリンクもてぎで開催された「もてぎEnjoy耐久レース(通称Joy耐)」

栃木県のツインリンクもてぎで開催された「もてぎEnjoy耐久レース(通称Joy耐)」

 いよいよレースウィークを迎え、ハイギアードも投入。最高速は昨年11月の151km/hから170km/hへと目論見通りに向上した。ちなみに、Joy耐で上位常連である一世代前のフィットRS(エンジン車のスポーティグレード)の最高速は180km/h前後で、優勝を目指すにはまだあげたいところではある。

 ところが、ラップタイムは2分32秒しかでなかった。これはアップデートによって、マイナートラブル等が出たのを直す作業などに時間をとられ、きちんとアタックできなかったからで、当初は走行しない予定だった時間帯も使って居残りテストをしたところ、我がTokyo Next Speedチームで長年組んできた橋本洋平選手が2分30秒1を記録。30秒切りの目標には届かなかったが、なんとかハイギアード化の効果は確認できた。

 6月26日に迎えた予選ではモータージャーナリストの大先輩であり、レーシングドライバーとしても活躍する桂伸一さんが2分30秒4を記録。テスト走行時よりも気温が上昇し、ラップタイムが出にくい状況では上出来だ。参加71台中39位であり、もちろんもっと上を目指したいところだが、昨年のミニJoy耐の31台中25位からはだいぶ前進できた。

 6月27日の決勝レースは、いつ雨が降ってもおかしくない曇天のなかでスタート。ラップタイムは2分35秒前後で順調に周回を重ねていった。予選のような1周のラップタイムを縮めるためには、SOCを100%近くまで持っていく充電ラップを挟んでいるので、2分30秒台までもっていけるが、走り続ける決勝ではそうはいかない。SOCが高めにキープできているアウトラップ直後には、タイヤの状態がいいことも手伝って2分32秒台が出ていたが、それも全143周のうち2周だけ。最高速も予選一発では172km/hに達したが、決勝では164km/h程度となる。それで71台がひしめき合う決勝レースでの平均ラップタイムが2分35秒5だったのだから、まずまずのレース運びができたと言ってもいいだろう。

 レース前半には5周ほどSC(セーフティカー)の導入があり、そこと給油のタイミングを合わせ込んだチームはタイムロスを削減することに成功。Joy耐の特徴は、参加台数が多いアマチュア主体のレースということもあって、給油はピットで個別に行うのではなく、パドックのガソリンスタンドに行くことだ。だから、給油時には長めのストップ時間が義務づけられていて(クラスによって違うが9-13分)、燃費が良くて給油回数を減らせれば有利に働き、SCに給油を合わせられれば大きくタイムロスを減らすことができるのが戦略的に面白いところでもある。我がチームは、ガソリンスタンドの混雑を嫌って1回目の給油を早めに済ませたのが裏目に出て、給油直後にSC導入となったので、得することはできなかった。

 それ以外は比較的順調にレースをこなし、最終的には総合39位でチェッカー。予選順位とまったく同じだが、とりあえず速さを優先している現状では燃費改善に取り組めておらず、給油回数は4回。ラップタイムをもう1ランク向上させつつ、給油3回にしなければ総合上位にいけないことは再認識した。このプロジェクトは3カ年計画なので、夏の7時間のJoy耐に出場できる残されたチャンスは、来年の1回のみ。それまでに目標に到達できるように期待したい。

 嬉しい誤算もあった。なんと、クラス優勝を果たしたのだ。表彰されて賞金5万円も獲得。でもこれは、今年はハイブリッドカーが2台しか出場しておらず、そのうちの1位になっただけの話。もう1台のフィット3ハイブリッドは、システムがi-DCDでうちのe:HEVに比べるとサーキット向きで(エンジン駆動+モーターアシストといったところなので高速域でも速い)、レーシングカーとしてもよく熟成されているので、速さも燃費もハイレベル。昨年のミニJoy耐では総合優勝している強豪なのだ。それが今回はトラブルが出てしまって沈んだだけなのだった。

 決勝レースでは午後から雨が降ると言われつつ、結局はチェッカーまでドライのままだった。我々としては、過去のテスト時のウエット走行から、他車に比べるとドライからのラップタイムの落ち込みが少ないことを確認していたので、降って欲しいところだったのだが。なぜウエットを得意としているかといえば、全体的な速度域が下がるので、モーター駆動の苦手な領域が縮小すること、ハイブリッドのため車両重量が重めだが、ウエットではタイヤの面圧があがって軽量級よりも走りやすいこと、などがあげられる。

 さらに、強力なウエット用タイヤを用意してあったことも、雨を願っていた理由だ。

 タイヤは一貫してヨコハマタイヤのADVAN A050を使用している。モータースポーツ用のモデルであるA050は、現在のレースではトレンドといってもいい縦方向のグリップに着目して開発されたのが特徴の一つ。ブレーキングやトラクションといった縦方向に強いタイヤは、コーナリングの横方向を重視しすぎるモデルに比べて、熱ダレや摩耗に対して有利な傾向にある。フィットe:HEVレーシングカーで使用している感触でも、新品時の一発のタイムがきちんと出ながらも、決勝レースでのタイムの落ち込みが少ないことを実感している。コンパウンドは複数あるが、サーキットレースで主に用いられるのは、柔らかめのMコンパウンドとちょっと硬めのMHコンパウンド。耐久レースでは後者のほうが一般的だが、我々は基本的な速さがまだ足りないので、Mコンパウンドの速さに頼ることにしている。それでも約30周のスティント後半でも決勝中ベストに近いタイムを刻めるほど、落ち込みは少ないのだ。

 ウエット用に用意していたのはG/2Sコンパウンドで、おもにジムカーナで使われているもの。タイヤが暖まる間もないうちに速く走らなくてはならないジムカーナでは、低温域でのグリップ性能が求められる。ドライのサーキットを走らせると1-2周で得意な温度域を超えてしまい、予選一発なら使える可能性もあるが、決勝にはまったく向かない。ところがこれをウエットで履くと驚くほどグリップが高く、自信を持って攻めていける。決勝で雨が降ったら、相対的に他車よりも有利になり、総合順位を大きく上げられたはずだ。

 とはいえ、雨乞いばかりしているわけにはいかない。さらなるアップデートの隠し球の用意は進んでいて、あとは時間と予算のやりくり。今年11月のミニJoy耐、そして来夏のJoy耐に向けてさらに精進して上位を目指すのだ。

  • ギアの改良によってトップスピードが増加。前回参加時よりも速さはアップした

    ギアの改良によってトップスピードが増加。前回参加時よりも速さはアップした

  • 7時間の耐久レースなので、途中で給油やドライバー交代がある

    7時間の耐久レースなので、途中で給油やドライバー交代がある

  • タイヤは一貫してヨコハマタイヤのADVAN A050を使用

    タイヤは一貫してヨコハマタイヤのADVAN A050を使用

  • クラス優勝

    総合39位で完走。ライバルのトラブルにも助けられ、クラス優勝という嬉しいプレゼントも

執筆者プロフィール:石井昌道(いしい まさみち)

自動車ジャーナリストの石井昌道氏

自動車ジャーナリストの石井昌道氏

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】は週刊連載です。どうぞお楽しみに!

グーネット編集部

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