新車試乗レポート
更新日:2023.05.09 / 掲載日:2022.06.04
【EVテスト】データを積み重ねることで発見したこと【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス
2021年4月から開始したEVテストは、毎回同じコースを同じ時間帯に同じようなペースで走って電費を測っている。高速道路の制限速度100km/h区間、自動車専用道の制限速度70km/h区間、一般道、ワインディングロードといったステージで個別に電費を測るので、それぞれのEVの得意・不得意なども傾向からみてとれる。いまのところEVは、床下にバッテリーを敷き詰めることから背高なモデルのほうがパッケージがしやすく、また世界的に人気カテゴリーということもあってSUVが多いが、全面投影面積が大きいため電費では不利。それも空気の壁が立ちはだかる高速域になるほど悪化していくはず。
だから、たとえば低全高なポルシェ・タイカンやアウディe-tron GTは速度域による差があまり見られないというのは特徴としてあげられるとは想像していた。

タイカンはWLTCモード電費が公表されていないので、RS e-tronGTのスペックをみると、
<アウディe-tron GT WLTCモード電費>
市街地モード 213Wh/km=約4.7km/kWh
郊外モード 199Wh/km=約5.0km/kWh
高速道路モード 203Wh/km=約4.9km/kWh
で速度域による差がほとんどない。
同じアウディでもSUVタイプをみると
<アウディe-tron55スポーツバック電費>
市街地モード 243Wh/km=約4.1km/kWh
郊外モード 233Wh/km=約4.3km/kWh
高速道路モード 240Wh/km=約4.2km/kWh
となっている。あれ? e-tron GTとで同じく速度域による差はほとんどなく、想像とは違うじゃないか。
ならば、とシティコミューター的なモデルのカタログデータをみると
<ホンダe>
市街地モード 106Wh/km=約9.4km/kWh
郊外モード 121Wh/km=約8.3km/kWh
高速道路モード 141Wh/km=約7.1km/kWh
<BMW i3>
市街地モード 109Wh/km=約9.2km/kWh
郊外モード 116Wh/km=約8.6km/kWh
高速道路モード 142Wh/km=約7.0km/kWh
と、それぞれ速度域が高まるほどに電費が悪化していく傾向がみてとれる。
EVのメリットは市街地モードなど低速域でも燃料消費の効率があまり悪化しないことだ。
エンジン車の場合、トルクが足りないので回転数を減速して使うためにギアがあり、有段だと6〜10速程度はあるのに対して、EVはほとんどのモデルが1速(タイカンとe-tronGTは0−100km/h加速と最高速を追い求めて2速になっている)。
エンジン車は高速道路より低速の市街地のほうが燃費が悪くなることが多いが、EVはあまりエネルギーを必要としない低速域ではそれなりにエネルギー消費が少なく、高速域になるほど多くなるというリニアな関係にある、という理解をしていたが、シティコミューターならばそれがあてはまるが、ハイパフォーマンスなアウディe-tron55 スポーツバックやアウディe-tronGTでは必ずしもそうではないといえるのだ。
さらに中間的なモデルをみてみると
<日産アリア>
市街地モード 159Wh/km=約6.3km/kWh
郊外モード 170Wh/km=約5.9km/kWh
高速道路モード 176Wh/km=約5.7km/kWh
<ボルボC40リチャージ ツイン>
市街地モード 166Wh/km=約6.0km/kWh
郊外モード 175Wh/km=約5.7km/kWh
高速道路モード 205Wh/km=約4.9km/kWh
で、速度域が高まるほどに電費が悪化していくが、シティコミュータよりは幅が小さくなっているのがわかる。
市街地モードは信号や渋滞の影響を受ける比較低速な走行を想定(平均速度18.9km/h、最高速度56.5km/h)、信号や渋滞の影響をあまり受けない走行を想定(平均速度39.5km/h、最高速度76.6km/h)、高速道路の走行を想定(平均速度56.7km/h、最高速度97.4km/h)とされている。市街地モードは速度域が低いので電費に有利だが、そのかわりに電費を悪化させるストップ&ゴーが多い。高速道路モードはストップ&ゴーがない点は有利だが、絶対的に速度域が高いことが電費を悪化させる要因。郊外モードは中間的だ。
それらを考えると、シティコミューターは速度域による有利・不利がはっきりと表れている傾向。バッテリー容量がそれほど多くなく、ゆえに軽量という特徴がある。
ハイパフォーマンス系は、バッテリー容量が多く、重量級なのでストップ&ゴーの多い市街地モードであまり電費が伸びず、さらにモーターのパワー&トルクが大きいので高速域で余裕があって電費悪化が少ないという解釈ができる。中間の郊外モードがもっとも電費がいいことをみても、市街地モードがちょっと苦手なのはわかる。その一方で、空力の影響はそんなにないのだった。
ただし、WLTCは、WLTPという国際基準のうち、日本の道路事情を鑑みて採用している基準。WLTPは市街地モード、郊外モード、高速道路モードともう一つ超高速モードもあるが、国による事情で超高速モードは採用しなくてもいいのだ。超高速モードは最高速度131.3km/h、平均速度92km/hとなるので空力の影響は大きくなるはずだ。

実電費を測るEVテストでは、低全高なタイカンとe-tronGTは速度域が高くても極端に電費が悪化しない傾向はみてとれた。同じようにハイパフォーマンスでも、SUVタイプに比べて制限速度70km/h区間と100km/h区間の差が少ない傾向にはあるのだ。
EVテストの連載が1年を超え、テストした車両が延べ27台ともなると、それらのデータとカタログのWLTCモードなどを見比べていろいろと考察するのが楽しくなってきている。だいたい想像通りのこともあれば、意外なことがあったり、解釈できるものとそうでないものが出てきたりして興味を惹かれるのだ。今後もデータを積み重ねることで、あらたな発見をしていきたいと思っている。