新車試乗レポート
更新日:2019.05.23 / 掲載日:2017.07.19
【試乗レポート】スバル レヴォーグ/WRXがマイナーチェンジ、走りの性能がさらに磨かれた

文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス
こんなにスポーティに走るんだ。スポーツカーかと思った。大規模マイナーチェンジを受けたスバル・レヴォーグ&WRXの試乗会がおこなわれた会場はタイトな峠道風の閉鎖されたコース。そこでレヴォーグを運転した最初の驚きが、その運動性能の高さだった。
この日の試乗車両は、新型のほかにも比較用として従来のモデルが用意されていた。直接比較させるということは、「乗れば違いがわかる」と新型の進化への自信の大きさの表れといっていいだろう。もし進化が感じられなかったら試乗した人に「変っていなかった」という印象を残してしまうのだから。
実は、最初に運転したのは従来型。だから冒頭の印象は、従来型「1.6GT-S EyeSight」に対してのものである。峠道風のコースを駆け抜ける速度は高く、コーナリングも思い通りに曲がっていく。そしてクルマとドライバーの一体感が心地よく、旋回中も不安をドライバーに抱かせない。その素性の良さは、走り始めて下りストレートから右へ曲がり込むひとつめのコーナーに入る頃にはしっかり理解できた。峠道を本当に気持ちよく走れる。
よく走るステーションワゴン。レヴォーグは日本市場をメインに作られたステーションワゴンで、国内では実質的なスバルのフラッグシップであり、同時にかつて大ヒットした「レガシィ ツーリングワゴンGT」の実質的な後継車でもある。荷物はたくさん積めるし、ターボエンジン搭載で速く、ハンドリングはスポーティ、そして遠くまでの運転が疲れない。そんな「レガシィ ツーリングワゴンGT」のキャラクターが脈々と受け継がれている。
フロントバンパーなどの意匠をチェンジ

フロントまわりのデザインをリニューアルし、新鮮な印象を与える。

写真のグレードは、スポーティな足まわりが特徴の「STIスポーツ」。



今回の大規模マイナーチェンジの目玉は「アイサイト・ツーリングアシスト」の採用で、その働きや印象はすでにお伝えした通り。しかしそれだけにとどまらず、後退時自動ブレーキ、ステアリング連動ヘッドライト、フロントビューモニター、そしてスマートリヤビューミラー(ルームミラーを液晶モニターとして車両後方に設置したカメラの映像を表示する)など安全装備が充実。フラッグシップモデルとして盤石の予防安全装備を備えるモデルとなった。
またヘッドライトやフロントバンパーの意匠を変更するなど、モデルライフ中間の大規模マイナーチェンジではスバル車としてお約束のデザインの見直しもおこなわれている。
インパネ上部中央にある「MFD(マルチファンクションディスプレイ)」と呼ぶインパネ中央の画面も4.3インチから5.9インチへ大きくなったし、信号待ちなどでブレーキペダルから足を離しても制動力を保持するホールド機能が搭載され、リヤシートを倒す際の分割が6:4の2分割から3分割の4:2:4になるなど機能性も向上した。
つまりクルマ全体が大幅に進化している。それが「D型」と呼ばれる新型なのだ。
さて、それでは従来型から新型に乗り換えたらどうか? まずは先ほどの従来型と同じグレードの「1.6GT-S EyeSight」を試してみた。
結論からいえば「よりスムーズで静か」だ。
ステアリングを切りはじめたときから曲がり始め、そして直線に向かってクルマをまっすぐにしていく状態まで、一連の運転操作のつながりがよくなっていて、従来にも増して自然な感覚で峠道を走れるようになっていた。これはサスペンション調整の全面見直しに加えてパワーステアリングの特性を変更したのが大きく効いているだろう。従来型もよかったけれど、新型はさらにスムーズさが増している。
静粛性の向上でロングドライブはさらに快適に

「STIスポーツ」は、レザーシートを採用するなど、ワンランク上のクオリティ。


静かさは、今回のマイナーチェンジにおける裏テーマと言っていいくらい大きく手が入っていた。前後ドアとリヤゲートガラスの板厚変更(3ドアは3.5mmから4.0mmへ、リヤゲートは2.8mmから3.5mmへ)、ウエザーストリップ(ドア周囲を覆ってドアと車体の隙間をなくす部品)の断面形状を変更しつつリヤドアでは二重化(フロントドアは17年モデルで二重化済)、車体床面にサイレンサー追加&荷室まわりの吸音材の追加、フロントシートレールの空洞に発泡剤を追加と、とにかく手が込んでいる。
それらの結果として今回のレヴォーグがどう進化したかといえば、それはグランドツアラー性能の向上だ。冒頭では「スポーツカーのように気持ちよく峠道を走る」と書いたけれどそれはレヴォーグのごく一面にしかすぎず、実際のユーザーは峠道をハイペースで運転するよりもロングツーリングでクルマの良さを判断することのほうが多いはず。そんな人にとって、しなやかでスムーズになった新型のサスペンションは運転していてより疲れないこと、そして安心できることに直結する。
アイサイト・ツーリングアシストだってそう。車速調整とステアリング操作をドライバーの操作なしにクルマがサポートしてくれることで、長距離高速移動時の疲労を低減する効果は極めて高い。そのうえ静粛性の向上で、クルマ移動の疲れに大きく影響を及ぼしている音が軽減されたのだからうれしい限り。ますますロングドライブに出かけたいクルマとなった。
エントリーモデルでも十分にパワフル!

全グレードにターボチャージャーが搭載され、出力に不満はなし。
ところで、1.6Lターボエンジンを積む「1.6GT-S EyeSight」のあとに、2.0Lターボエンジンの「2.0GT-S EyeSight」にも乗ってみた。購入時のグレード選びにおいて両者の動力性能の違いは気になるところだが、はっきりいって1.6Lで十分である。今どきのターボは低回転域から太いトルクを出すので扱いやすく、1.6Lでも排気量の大きなエンジンを積んでいる感覚。加減速の多い峠道風のコースでも力強くて不満はなかった。
違いはアクセルを大きく踏み込んだ時の“パンチ力”で、それはさすがに2.0Lが魅力的に思えた部分。しかし一般的な運転であればその領域を使う機会はほとんどないから、実用性で考えれば車両価格の安い(同グレード比較で50万円程度安い)1.6Lで十分である。
そんなレヴォーグには現在、国産車でライバルと思えるクルマは存在しない。あえて近い存在といえば輸入車のCセグメントステーションワゴンということになるが、クルマ好きとしてはフランスのメガーヌ・エステートあたりが気になるところ。132馬力の1.2Lターボエンジンを搭載する「GTライン」が285万9000円、220馬力の2.0Lターボエンジンを積む「GT220」が327万9000円で選べる。
パッケージングだけでなく価格帯、そしてスポーティな走りもレヴォーグと被ってくるのだが、先進安全装備に関してはレヴォーグの圧勝である。ただし、「GT220」のトランスミッションはレヴォーグでは選べない6速マニュアルのみなのでそれはそれで好事家には大歓迎されるはずだ。
もっと堅実な路線だとゴルフシリーズのゴルフヴァリアントという選択もあって、こちらは1.2Lターボエンジンを積むベーシックモデル「TSI コンフォートライン」が293万9000円で、1.4Lターボエンジンの上級グレード「TSI Rライン」が359万9000円。ただしレヴォーグの2.0Lモデルに近い走行性能を求めるなら「Rヴァリアント」となり、こちらは569万9000円と一気に値段が上がってしまう。そしてこちらも、自動ブレーキをはじめとする先進安全性能はレヴォーグの勝ちだ。
セダン版「WRX」シリーズも同時にアップデート

そして今回は、走行性能でスバルの頂点に立つ「WRX」シリーズもマイナーチェンジを受けた。WRXシリーズにはFB型と呼ぶ新世代エンジンにCVTを組み合わせた「WRX S4」と伝統のEJ型エンジンに6速MTを組みあわせた「WRX STI」があるが、その進化はキャラクターの違いをさらに明確にするものだった。
実質的なレヴォーグのセダンと言える「WRX S4」は基本的にレヴォーグ同様の改良を受けて走りが磨かれただけでなく静粛性も高まりツーリング性能も向上。さりげなく速い、さらなる大人のセダンに進化したのを確認できた。
こちらにはレヴォーグ同様の先進安全システム(カメラ映像を映すルームミラーを除く)はもちろん「アイサイト・ツーリングアシスト」が採用されたのも大きなトピックだ。
リアルスポーツの「WRX STI」も引き続き設定

いっぽうで純粋な体育会系の「WRX STI」は4WDシステムの要であるセンターデフの変更、ブレーキの大型化、タイヤの19インチ化など妥協のない走りの進化が改良の中心。自動ブレーキなど先進安全装備の採用はなく、とにかく走りに対してストイックである。
そのキャラクターの違いは実際に走ってみるとさらによくわかった。かなりのハイスピードで峠道を駆け抜けられるものの、スムーズで快適な「S4」。2ペダルだからAT免許で運転できる。
対して「STI」は6速MTだけしかない時点で乗る人を選ぶが、さらに「S4」に比べるとステアリングは重く、剛性感の高いシフトレバー操作も妙に荒々しい。そしてなにより車外から伝わってくる騒音が騒がしい(S4と乗り比べるとその違いに驚かされる)。熟成の域に達したEJ型エンジンは今どきのエンジンに比べると低回転域のトルクが薄く、「S4」のFB型と違って回転をあげないと「おいしい領域」にならないのも懐かしい感覚。シフトダウンをサボれないクルマだ。
音や乗り心地などから同乗者には嫌がられることを約束できるが、ドライバーにとってこれはこれでかなりの魅力が詰まっている。
いっぽうで加速は「S4」に対して圧倒的に速く、コーナリングスピードだって抜群に速い。だからついついアクセルを踏み込みたくなってしまう。高性能を堪能するには「STI」が魅力的だ。
この両者を「エンジンとトランスミッションが違うだけ」と捉えたら大間違い。今回「S4」ではアイサイト・ツーリングアシストが追加され、「STI」では走行系が強化されたことで、両者のキャラクターの差がさらに広まったと実感した。
そして同時に、「STI」に関してはおそらく次期型ではもっと乗り味が洗練されるだろうから、この荒々しさを今のうちに味わっておくべきだという気もちにもなってきた。
【スバル レヴォーグ 2.0STIスポーツ アイサイト(CVT)】
全長 4690mm
全幅 1780mm
全高 1490mm
ホイールベース 2650mm
重量 1570kg
エンジン 水平対向4気筒DOHC+ターボ
総排気量 1998cc
最高出力 300ps/5600rpm
最大トルク 40.8kgm/2000-4800rpm
サスペンション前/後 ストラット/ダブルウィッシュボーン
ブレーキ前後 Vディスク
タイヤ前後 225/45R18
販売価格(税込) 282万9600円~405万円(全グレード)