新車試乗レポート
更新日:2023.12.04 / 掲載日:2023.12.04

【C63 S E PERFORMANCE】AMGから登場した本格的な電動スポーツモデル

文●石井昌道 写真●メルセデス・ベンツ

 メルセデスAMGにもいよいよ電動化の波が訪れた。2014年以降のF1は、エンジンと電気モーターを持つハイブリッドとなっていて、そこで得られた技術や知見を市販車に投入。メルセデスAMG E PERFORMANCEモデルとしてすでにリリースされている。

 今回紹介するのはメルセデスAMG C63 S E PERFORMANCE。C63と言えばコンパクトなFRセダンにパワフルな大排気量V8エンジンをブチ込んだワイルドなモデルというイメージが強く、日本でも人気が高かったが、新型は2.0L 直列4気筒ターボ(BSG付き)+モーターのPHEV(プラグインハイブリッド)で4WDと、かなり構成は違う。エンジンについては、SL43などにも搭載されているもので、F1のMGU-H(モータージェネレーターユニット・ヒート)と同様に、タービンと同軸に電気モーターを搭載してターボラグを抑制するEEGT(エレクトリック・エキゾーストガス・ターボチャージャー=電動ターボ)を採用したユニット。メルセデスAMG C63 S E PERFORMANCEのそれは最高出力476PS、最大トルク545Nmを発生する。トランスミッションもSL43などと同じAMGスピードシフトMCTで、9Gトロニックをベースにトルクコンバーターを湿式多板クラッチに換装し、ダイレクト感とシフトスピードを高めたものだ。

メルセデス・AMG C 63 S E PERFORMANCE

 一般的なハイブリッドカーは電気モーターをエンジンとトランスミッションの間に挟み込むなど、パワーユニットとして一体化しているが、メルセデスAMG E PERFORMANCEモデルではリアアクスルに搭載しているのが特徴だ。電気モーターが直接リアアクスルを駆動することでダイレクトにトラクションを発生させることが可能。さらに電子制御LSDとも組み合わされているので、スタビリティを高めることもできる。スポーツドライビングを目的としたレイアウトなのだ。電気モーターは最高出力150kW(204PS)、最大トルク320Nmで、システムトータルでは最高出力680PS、最大トルク1020Nmにも達する。先代のメルセデスAMG C63 Sの4.0L V型8気筒ターボは510PS、700Nmで0-100km/h加速3.8秒だったが、新型は3.4秒。車両重量は2160kgと先代よりも300kg以上重くなっているが、4WDのトラクション性能と電気モーターによる低回転域からのトルクの太さ、絶対的なパワーによってとんでもないパフォーマンスを発揮するのだ。

 ハイブリッドカーではなくPHEVとしたのは、環境対応という以上に、豊富に電力を使えることでパフォーマンスがあげられること、そして電動ならではの新しいスポーツドライビングの楽しさを狙ったからだろう。普通のハイブリッドカーはバッテリー容量が小さいため、アクセル全開で走ってしまうとあっという間に電力が底をついて、パフォーマンスが下がってしまう。また、容量の小さいバッテリーは回生の効率もあまり良くない。もちろん、容量を大きくすれば重量が増していくのでバランスは重要であり、メルセデスAMG C63 S E PERFORMANCEでは6.1kWhという容量にしている。一般的に普通のハイブリッドカーは1kWh前後、PHEVは10~20kWh程度なので、PHEVにしては容量は小さく、EV走行可能距離も15kmと短め。とはいえ、これまでのメルセデスAMGは爆音で、早朝・深夜にガレージから出て行くのが憚れることもあったので、それは解消されるし、家族の送り迎えや買い物などならEV走行のみでこなせるから、実用的な範囲にはあるだろう。

 バッテリーもF1での知見から開発された高性能なもので、スポーツドライビングで電力の出し入れを激しく行っても性能が維持されるようにされている。とくに優れているのは冷却性能で、非導電性の液体でセルを直接冷却する方式となっている。自分はハイブリッドカーのフィットe:HEVでレースに出ているが、バッテリーの冷却は最重要項目であり、現在はエアコンの風を直接バッテリーにあてるダクトを造って何とか性能低下の閾値に入らないように抑えている。メルセデスAMG C63 S E PERFORMANCEはサーキット走行でもバッテリーのシステムとして平均45℃に保たれるというから驚きだ。

メルセデス・AMG C 63 S E PERFORMANCE

 試乗はSOC(バッテリーの充電状態)が88%、EV走行可能距離11kmから開始。EV走行で走り続け、25%になったところでEV走行が解除となってエンジンがかかった。走行したのは8kmだったが、街中3km、高速道路5kmなので、まずまずといったところだろう。

 ドライブモードは“Electric(電動)”、“Comfort”、“Battery Hold(バッテリーホールド”、“Sport”、“Sport+”、“Race”、“Slippery(滑りやすい)”、“Individual”、と8つも用意されている。ハイブリッドカーでレースに出ている経験から、1周のアタックではなるべくSOCを高めてから行いたいもので、メルセデスAMG C63 S E PERFORMANCEではどうすればチャージできるのか、いろいろと試してみた。バッテリーホールドは現在のSOCを保つモードで増えるわけではない。Comfortは、状況に応じて10%台から24%あたりを行き来している。24%以上にすることは効率的ではなく、なるべく電気を使ったほうが電費が良くなるからだ。一番SOCが高まるのはSport+で流して走ること。エンジン回転数を常に高めに保っているので、余剰トルクが大きく、それで発電しているからだ。SportもComfortよりはエンジン回転数が高いが、電費効率も考慮しているようで、やはり24%程度から上にはいかなかった。

メルセデス・AMG C 63 S E PERFORMANCE

 ワインディングロードを元気よく走らせてもSOCが高めに保たれ、常に電気モーターのフルアシストを感じながら走れるのがメルセデスAMG C63 S E PERFORMANCEのすごいところだ。サーキットにいくと電力消費も激しくなるので、常にフルパフォーマンスとまではいかないだろうが、SOCと相談しながら走るのも、新しい電動スポーツドライビングとして楽しめるだろう。電動車が普及し始めてから四半世紀が経つが、ようやく本格的なスポーツモデルが市販されるようになったのだ。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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