新車試乗レポート
更新日:2023.08.08 / 掲載日:2023.07.31
【BMW iX1 xDrive30】電気自動車の実力を実車でテスト!

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス
欧州や中国では、クルマを取り巻く環境や政府の補助金政策なども追い風となり、EV(電気自動車)のセールスが急伸。そうした中、近い将来、EV専業へと舵を切ることを決定・発表するブランドも増えている。対する日本も、普及はまだまだこれからという状況ながら、補助金の充実や新しいEVの登場&上陸など、EV関連のニュースが次々とメディアをにぎわせている。そうした状況もあり、「そろそろかな」とEVが気になり始めている人も多いのでは?
とはいえエンジン車とは異なり、EVの所有はハードルが高いのも事実。航続距離や充電効率、使い勝手などは車種によって大きく異なるため、どんなモデルが自分にとってベターな選択なのか見分けるのが難しい。
本連載は、EVや自動運転車といったクルマの先進技術に造詣が深い自動車ジャーナリスト・石井昌道氏の監修・解説の下、各社の注目モデルを毎回、同様のルートでテスト。実際の使用状況を想定した走行パターンでチェックすることで各モデルの得手不得手を検証し、皆さんの“EV選びの悩み”を解決することを目的とする。
今回フォーカスするのはBMWの「iX1」。BMW製EVのコンパクトモデルは、どんな実力を披露してくれるのだろうか?
BMW iX1 xDrive30のプロフィール

2050年までにクライメイト・ニュートラル(気候中立)を達成するという目標を掲げ、EVやFCEV(燃料電池車)の開発に取り組んでいるBMW。その一環として、ここ日本でもFCEVの実証実験を行うとアナウンスしているが、すでにEVの分野ではさまざまなモデルをマーケットに投入している。
今回フォーカスする「iX1」は、現状、そのエントリーモデルに位置づけられる存在だ。ピュアEVのiX1は、エンジン車である3代目の「X1」をベースに誕生。ちなみにX1シリーズは、デビュー当初からガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ピュアEVという多彩なパワートレインをラインナップしている。
なお現在、ラインナップされているiX1は4WDの「iX1 xDrive30」のみだが、今後、他のBMW iモデルと同様に、ハイパフォーマンスグレードや2WD仕様が登場する可能性が高い。
iX1のパワートレインは、BMW最新の第5世代“BMW eDriveテクノロジー”を採用。xDrive30は前後それぞれにモーターを搭載し、4輪を駆動する。走行用バッテリーの容量は66.5kWhで、システム最高出力は272ps、同最大トルクは50.4kgfを発生。1回の充電で走行できる航続距離は465km(WLTCモード)で、0~100km/h加速タイム5.6秒(欧州仕様)という駿足も持ち合わせている。
ちなみにiX1 xDrive30は、外気温27℃の条件下で最大出力90kWの急速充電器を使用した場合、30分の急速充電で充電開始時10%の状態から54%まで充電できるとアナウンスされており、EVとしての利便性にも優れている。
iX1 xDrive30のエクステリアは、基本的にベースモデルとなったX1のそれに準じている。ほぼ正方形に近い形状のキドニーグリルは、スリムなアダプティブLEDヘッドライトとの組み合わせによって力強い存在感を放ち、立体的なL字型のリアコンビネーションランプは、モダンなリアビューを表現している。
一方のインテリアは、タッチスクリーンや音声認識機能によって直感的な操作を実現したフレームレスの“BMWカーブド・ディスプレイ”を上級モデルと同様に採用。パネル類やスイッチ類の質感の高さも、BMWの上級モデルに通じる美点だ。
キャビンの居心地は、基本的にベースとなったX1と同等。ラゲッジスペースは標準状態で490L、リアシートの背もたれを倒した状態で最大1495Lまで拡大できるなど、SUVならではの優れた実用性も持ち合わせている。
- ■グレード構成&価格
- ・「xDrive30」(698万円)
- ■電費データ
- <xDrive30>
- ◎交流電力量消費率
- ・WLTCモード:155Wh/km
- >>>市街地モード:155Wh/km
- >>>郊外モード:148Wh/km
- >>>高速道路モード:162Wh/km
- ◎一充電走行距離
- ・WLTCモード:465km




【高速道路】車重2000kgクラスとしては優秀な電費データ

コンパクトSUVの新型X1の一員であり、BEVバージョンのiX1。BMWのBEVのなかでもっともコンパクトで身近なモデルとなるが、奇しくももっとも大型でパフォーマンスも高いiX M60と同日テストとなった。
iX1もいまラインアップされているxDrive30は前後にモーターをもち、システムトータルの最高出力は272PS、最大トルクは494Nmと、コンパクトSUVとしてはパフォーマンスが高いほうではある。
高速道路の電費は制限速度100km/h区間のその1が6.0km/kWh、その4が4.9km/kWh、制限速度70km/h区間のその2が7.6km/kWh、その3が7.3km/kWhだった。
交通状況によって、その1よりもその4のほうがペースが速く、電費はやや落ち込む結果となった。同日テストのiX M60はその1が5.1km/kWhでその4が4.9km/kWh。落ち込みが少ないのは、パフォーマンスに余裕があるからだろう。
車両重量2000kg前後でツインモーターのモデルとしては、良好なほうだ。


【ワインディング】高性能であっても電費はライバルと同等をキープ

スタート地点の小田原早川料金所とゴール地点の大観山は走行距離が約13kmで高低差は963mもあり、往路の登りはどのBEVにとっても電費が厳しい。
iX1は1.7km/kWhでまずまずといったところだった。iX M60は1.3km/kWhで最悪レベルだが、車両重量2500kg前後のモデルはたいていそれぐらい。ちなみに最良は車両重量がわずか1080kgの日産サクラだが、それでも2.5km/kWhにすぎない。
下りでは電費計から計算した数値で3.8kWhを回生しているが、BMWは珍しく回生量表示があり、この区間は4.6kWhとなっていてやや開きがある。回生量に関しては、あくまで参考値としたいが、他のモデルとの比較では電費計から計算した数値を採用したい。

【一般道】さらに軽量なモデルに迫る優秀な電費データ

一般道での電費は5.4km/kWhと優秀な部類だった。
これを上回るのは軽量なモデル以外では、テスラ・モデル3とモデルY、ヒョンデ・アイオニック5、フォルクスワーゲンiD.4ぐらいだ。
車両重量が2030kgでパワーもそれなりにあることを考えれば電費効率はいいほうだろう。ストップ&ゴーが多い区間なので、回生効率の良さが効いているとも推測される。一つクラスが上のBMW iX3は車両重量が2200kgで4.9km/kWhとなっている。
ちなみに外気温は24.5℃でエアコンの負荷は少なかったが、交通状況は平均レベルで同日テストのiX M60の数値をみてもとくに電費に有利でもない。

【充電】充電効率については文句なし。やはり鍵になるのは充電設備

スタート時のバッテリー残量91%、走行可能距離421km。そこから159km走行した復路・海老名サービスエリアに到着したときにはバッテリー残量39%、走行可能距離181kmになっていたが、出力40kWの急速充電器を30分使用して15.1kWhが充電され、バッテリー残量62%、走行可能距離287kmに回復した。
出力は充電開始直後が29kW、充電終了間際が31kWと安定していて、平均は30.2kW。前回同じ充電器を使用したBMW i7が17.1kWhを充電したので、ほんの少し物足りない気もするが、平均レベルではある。
40kWの充電器では30分の使用で約100km走行分。200~300kmのドライブならば十分だが、それ以上になると、より高出力の充電器が欲しくなるといったところだ。

BMW iX1はどんなEVだった?

欧州のメーカーはそう遠くない将来にBEVへ一本化すると表明しているところも少なくないが、BMWは内燃機関の可能性も追求してマルチソリューションを表明。しかしながら、i3でいち早くBEVの展開を始め、車種も豊富に用意している。しかも、どのモデルも動的質感が高く、実用電費も秀逸であり、BEVにも本気で取り組んでいることがうかがえる。
もっとも身近なiX1はワインディングロードでの走りが光っていた。BMWらしい俊敏性の高さがあり、ハンドリングが楽しいのだ。同日テストのiX M60のほうがパフォーマンスでは勝っているが、楽しさという点ではiX1に軍配をあげてもいいほどだ。
よりリーズナブルな2WDモデルがリリースされれば、シェアもより高まるだろう。
- iX1 xDrive30
- ■全長×全幅×全高:4500×1835×1620mm
- ■ホイールベース:2690mm
- ■車両重量:2030kg
- ■バッテリー総電力量:66.5kWh
- ■定格出力 前/後:55kW/55kW
- ■フロントモーター最高出力:190ps(140kW)/8000rpm
- ■フロントモーター最大トルク:25.2kgf(247Nm)/0~4900rpm
- ■リアモーター最高出力:190ps(140kW)/8000rpm
- ■リアモーター最大トルク:25.2kgf(247Nm)/0~4900rpm
- ■システム最高出力:272ps(200kW)
- ■システム最大トルク:50.4kgf(494Nm)
- ■サスペンション前/後:ストラット/マルチリンク
- ■ブレーキ前後:Vディスク
- ■タイヤ前後:225/55R18
- 取材車オプション
- ■ボディカラー(ミネラル・ホワイト)、ヴァーネスカ・レザー モカ/ブラック、ハイライン・パッケージ、テクノロジー・パッケージ