新型車比較・ライバル車対決
更新日:2023.07.06 / 掲載日:2023.07.06

【BMW i7 xDrive60】電気自動車の実力を実車でテスト!

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス

 

 欧州や中国では、クルマを取り巻く環境や政府の補助金政策なども追い風となり、EV(電気自動車)のセールスが急伸。そうした中、近い将来、EV専業へと舵を切ることを決定・発表するブランドも増えている。対する日本も、普及はまだまだこれからという状況ながら、補助金の充実や新しいEVの登場&上陸など、EV関連のニュースが次々とメディアをにぎわせている。そうした状況もあり、「そろそろかな」とEVが気になり始めている人も多いのでは?

 とはいえエンジン車とは異なり、EVの所有はハードルが高いのも事実。航続距離や充電効率、使い勝手などは車種によって大きく異なるため、どんなモデルが自分にとってベターな選択なのか見分けるのが難しい。

 本連載は、EVや自動運転車といったクルマの先進技術に造詣が深い自動車ジャーナリスト・石井昌道氏の監修・解説の下、各社の注目モデルを毎回、同様のルートでテスト。実際の使用状況を想定した走行パターンでチェックすることで各モデルの得手不得手を検証し、皆さんの“EV選びの悩み”を解決することを目的とする。

 今回フォーカスするのはBMWの「i7 xDrive 60」。BMWのフラッグシップEVサルーンは、果たしてどんな実力の持ち主なのだろうか?

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BMW i7のプロフィール

BMW i7 xDrive60 エクセレンス

 

 2022年7月に日本市場での発売がアナウンスされたBMW「i7」シリーズが、日本の道を走り始めた。そのルックスからも明らかなように、BMWのフラッグシップサルーン「7シリーズ」ベースのピュアEVだ。

 今回フォーカスするのは、先行して日本に導入されたミドルグレード「i7 xDrive60」。i7シリーズに関しては、新たなバリエーションとしてエントリーグレードの「i7 eDrive50」とハイパフォーマンス仕様である「i7 M70 xDrive」の上陸もアナウンスされているが、新しい2グレードの納車時期は2023年第4四半期以降になるとされている。

 i7 xDrive60に搭載される走行用バッテリーは105.7kWhと大容量で、フロントタイヤを258ps/37.2kgf、リアタイヤを313ps/38.7kgfのモーターで駆動する。前輪よりも後輪に大パワー&大トルクが与えられている辺りは、BMWらしい特徴といえそうだ。

 なお、1回の充電で走行できる航続距離は最長650km(WLTCモード)で、0~100km/h加速タイム4.7秒(欧州仕様)という駿足ぶりも特筆に値する。

 ちなみにi7 xDrive60は、最大150kWの急速充電器に対応。約50分間でバッテリー容量を0%から約80%まで充電できるほか、10分の急速充電で最長約130km分の航続距離を確保できる。

 i7 xDrive60のエクステリアは、基本的にベースモデルとなった7シリーズのそれに準じている。

 新型はロングボディに1本化された7シリーズだが、その最大の特徴は全高が先代モデル比で60mm高くなっていること。これはフロア下にバッテリーを搭載するi7のラインナップを意識したことと、キャビンの居住性を意識してのことである。

 ひと目見た時は思わずギョッとするフロントマスクには、実はそうしたディメンジョンの変化を感じさせないためのデザイナー陣の工夫が盛り込まれた結果である。中央に巨大なキドニーグリルを配し、その左右に上下2段のライト類をレイアウトした迫力満点のフロントマスクは好き嫌いが分かれそうだが、存在感や個性を打ち出すという点においては、成功といえるのではないだろうか。

 一方のインテリアは、BMWにおけるEVの旗艦モデルである「iX」に採用されたデザインエッセンスが色濃く反映されている。フロントドアからインパネにかけては、クリスタル調のデコレーションパネルが一直線にあしらわれ、これがアンビエントライトを兼備。また、クリスタル調のフィニッシュは、シートポジションの調整スイッチや“iDrive”のコマンダーなどにも見て取れる。

 ちなみに今回の試乗車には、オプションの「リヤ・シート・エンターテインメント・エクスペリエンス」が装着されていた。これは、後席前方のルーフ部に31インチの液晶ディスプレイが展開するシステムで、8K対応のタッチパネルスクリーンでは「YouTube」や「Netflix」といった動画配信サービスを楽しむこともできる。こうした後席エンタメ機能の充実ぶりも、i7 xDrive60を始めとする新しい7シリーズのポイントといえるだろう。

  • ■グレード構成&価格
  • ・「i7 eDrive50 エクセレンス」(1598万円)
  • ・「i7 eDrive50 Mスポーツ」(1598万円)
  • ・「i7 xDrive60 エクセレンス」(1748万円)
  • ・「i7 xDrive60 Mスポーツ」(1748万円)
  • ・「i7 M70 xDrive」(2198万円)
  • ■電費データ
  • <xDrive60>
  • ◎交流電力量消費率
  • ・WLTCモード:184Wh/km
  •  >>>市街地モード:192Wh/km
  •  >>>郊外モード:179Wh/km
  •  >>>高速道路モード:185Wh/km
  • ◎一充電走行距離
  • ・WLTCモード:650km

【高速道路】WLTCモードに対する達成率は比較的高い

 EVでも人気のSUVが多いなか、セダンで低全高なi7は空力的に有利で高速道路での電費に期待をかけていたが、制限速度100km/h区間のその1が4.9km/kWh、その4が4.7km/kWh、制限速度70km/h区間のその2が6.0km/kWh、その3が5.6km/kWhだった。

 同日テストしたレクサスRZは、制限速度100km/h区間のその1が4.1km/kWh、その4が4.1km/kWh、制限速度70km/h区間のその2が5.4km/kWh、その3が5.0km/kWhであり、すべての区間でちょっとづつ上回っているのだから優秀とみていいだろう。WLTC高速道路モード電費はi7のほうが13%ほど悪いのだからなおさらだ。

 ただし、過去にテストした同門のBMW iXは、WLTC高速道路モード電費が数%しかかわらないものの、制限速度100km/h区間のその1が5.6km/kWh、その4が5.2km/kWh、制限速度70km/kWh区間のその2が6.6km/kWh、その3が6.3km/kWhとさらに良好な実電費だった。交通状況が有利に働いた面もあるが、EV専用プラットフォームで軽量に仕上がっているiXがさすがだとも言えるだろう。

【ワインディング】重量級にも関わらず、回生電力ともに優れた数値を記録

 箱根ターンパイクはEVテストで計測する小田原早川のスタート地点から大観山入り口のゴール地点まで約13kmの距離があり、高低差は963m。往路の登りは当然のことながら電費に厳しいが、i7は1.3km/kWhだった。車両重量は大型EVのなかでも重量級の2690kgもあるので妥当なところだろう。ちなみに車両重量2560kgのiXは1.4km/kWh、車両重量2100kgのレクサスRZも1.4km/kWhだ。

 復路の下り区間は電力を使うことはほとんどなく、逆に回生で電力を取り戻していく。BMWのメーター表示は回生量が示されるのだが、そこでは6.2kWh。他のほとんどのモデルは回生量表示がなく、電費の推移から計算しているのだが、その方式でi7も計算すると7.4kWhとなる。6.2kWhのほうが信頼度は高いと思われ、他のモデルでEVテストのデータとして提示しているものは、やはりあくまで推測値であり参考程度にする必要がある。

 それにしても、6.2kWhでもたいへんに優秀で、これまで延べ50台テストしたなかでもトップ。BMWのなかでも最新の第5世代BMW eDriveパワートレーンは回生効率が優れているのだろう。

自動車専用道路である箱根ターンパイク(アネスト岩田ターンパイク)を小田原本線料金所から大観山展望台まで往復した

【一般道】車重の重さが響き、WLTC達成率は60%にとどまった

 

 一般道の電費は3.1km/kWhとやや苦戦気味だった。

 WLTC市街地モード電費は5.2km/kWhで達成率は60%。ちなみにiXはWLTC市街地モード電費が5.2km/kWhで実電費は4.4km/kWhの達成率80%。

 今回は一般道走行時に太陽が照りつけて外気温がそれまでの26℃ほどから30℃まで上昇し、エアコンがけっこう稼働していたことは不利だったものと思われる。また、車両重量の重さはストップ&ゴーが多いほど不利であり、信号のタイミング等が悪いと、実電費悪化も顕著になるから致し方ないだろう。

 やはい低速でストップ&ゴーの多い街中などは、軽量なモデルのほうが向いているのだ。

東名横浜青葉ICから環八の丸子橋まで約29kmの距離を走行した

【充電】i7側の充電効率は優秀。高出力急速充電器のさらなる普及が望まれる

海老名SAでの急速充電テスト ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

 EVテストは基本的に2台を同時にテスト。

 いつも充電する復路・海老名サービスエリアの急速充電器は出力40kWが2台、出力90kWが1台で、どちらのクルマを90kWに繋ぐか迷うのだが、BMWはiXの実績から90kWでも良好な数値を示すだろうと思い、今回はあえて40kWにした。もう1台のテスト車であるレクサスRZのほうを90kWに繋いで、実際の出力変化を見てみたかったからだ。

 スタート時のバッテリー残量89%、走行可能距離488km。そこから158km走行した復路・海老名サービスエリアに到着したときにはバッテリー残量53%、走行可能距離326kmになっていたが、出力40kWの急速充電器を30分使用して17.7kWhが充電され、バッテリー残量68%、走行可能距離453kmに回復した。充電開始直後から終了間際まで安定して35kw以上の出力となっていて平均出力は35.4kW。ロスが少なくきちんと充電されていた。

 高速道路なら100km走行分程度であり有効ではあるものの、大型EVには少し物足りない。出力90kWかそれ以上の充電器が高速道路のサービスエリアに増えてくれることに期待したい。

圧倒的な快適性を誇るリアシート。ただし、足元にセンタートンネルの膨らみがある

BMW i7はどんなEVだった?

テストを監修した自動車ジャーナリストの石井昌道氏

 

 EV専用プラットフォームのiXに対して、エンジン車&PHEVとプラットフォームを共有するi7は、やや格下とも言えるのだが、車両重量がちょっと重い以外、現在のEVのなかでは最上の部類だった。

 静粛性の高さや快適な乗り心地はエンジン車ではあり得ないものであり、EVのなかでもトップ。さらに、大きな図体ながらBMWらしい俊敏性やスポーティな走りも高いレベルで実現している。EVのもつポテンシャルを最大限に引き出しているのだ。

  • i7 xDrive60 エクセレンス
  • ■全長×全幅×全高:5390×1950×1545mm
  • ■ホイールベース:3215mm
  • ■車両重量:2690kg
  • ■バッテリー総電力量:105.7kWh
  • ■フロントモーター定格出力:70.0kW
  • ■フロントモーター最高出力:258ps/8000rpm
  • ■フロントモーター最大トルク:37.2kgf/0~5000rpm
  • ■リアモーター定格出力:95.0kW
  • ■リアモーター最高出力:313ps/8000rpm
  • ■リアモーター最大トルク:38.7kgf/0~6000rpm
  • ■サスペンション前/後:ダブルウイッシュボーン/マルチリンク
  • ■ブレーキ前後:Vディスク
  • ■タイヤ前/後:255/45R20/285/40R20
  • 取材車オプション
  • BMW Individual 2トーン・ペイント ダンザナイト・ブルー<オキサイド・グレー>、BMW Individual フル・レザー・メリノ/カシミア・ウール・コンビネーション、BMW Individual アッシュ・フローイング・グレー・オープンボアード・ファインウッド、セレクトパッケージ、リヤ・コンフォート・パッケージ、BMW Individual エアロダイナミック・ホイール 910マルチカラー3Dポリッシュ、アラーム・システム、エグゼクティブ・ラウンジ・シート、リヤ・シート・エンターテインメント・エクスペリエンス(BMW シアター・スクリーン)
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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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