新車試乗レポート
更新日:2023.06.09 / 掲載日:2023.04.20

【スバル インプレッサ】スバルユーザーの期待を裏切らない完成度

文●大音安弘 写真●ユニット・コンパス

 今春、最も身近なスバルであるインプレッサがフルモデルチェンジされ、6代目に進化する。

4ドアセダンを廃止し、5ドアハッチバックに集約

 最大のトピックは、定番だった4ドアセダンを廃止し、5ドアハッチバック「スポーツ」に集約されたこと。このため、基本を共有するコンパクトクロスオーバーSUV「クロストレック」との関係性は、より近くなったのも事実だ。しかし、だからといってキャラクターまで同じかと言えば、然に非ず。プロトタイプで感じた新インプレッサスポーツの強みをレポートしたい。

 登場目前の新型インプレッサスポーツのコンセプトは、「行動的なライフスタイルへいざなうユーテリティ・スポーティカー」だという。実用性や安全性の向上はもちろんだが、スポーティなビジュアルと走りの良さも追求しているという訳だ。

 幅広い世代に愛されるスバルの定番車だけに、ボディサイズは、全幅が+5mmの1780mmとなっただけで、全長、全高、ホイールベースなどは、現行型と同じ。基本的なフォルムは、先行したクロストレックと共有するが、よりスポーティに仕上げるため、フロントグリルの小型化やバンパー形状の変更などの差別化も図られている。

 各部にも、スポーティさを演出するデザインが取り入れられているが、これは空気特性向上の狙いもあり、実は燃費向上のアイテムでもある。デザインでも機能美を大切にするのは、なんともスバルらしい。インテリアも、形状や機能こそクロストレック同様ではあるが、色味や加飾を変更し、それぞれの世界観を表現。機能面では、新世代モデルの象徴となる縦型11.6インチのインフォメーションディスプレイや広角単眼カメラを追加した新世代アイサイトなどの先進機能も採用している点も、クロストレック同様だ。

新型インプレッサのグレード構成

インプレッサ

 新たなグレード構成は、エントリーの「ST」、スポーティなスタイルを強調した「ST-G」、最上級グレードの「ST-H」の3タイプ。いずれもFFと4WDが用意される。ここで注目したいのが、パワートレインだ。エントリーの「ST」には、クロストレックにはないピュアエンジンの2.0L水平対向4気筒DOHCとなる。装備とメカニズムのシンプル化で、FF車ならば、229.9万円というお手頃価格を提示し、純粋なスバル車のエントリーとしての役目も担う。プレーンな仕様だが、装備内容は悪くなく、コスパの高さが魅力。要チェックの仕様となりそうだ。一方で、上位の2グレードは、クロストレックと同じ2.0Lハイブリッド「e-BOXER」となる。

 今回の試乗は、プロトタイプということもあり、路面状況の良いサーキットで実施された。好条件下といえるが、外乱の影響がない分、車両毎の動きの違いが分かり易かった。試乗車には、最上級グレード「ST-H」のFF車と4WD。それと同じパワートレインを備える現行型「e-BOXER」搭載グレードの4WD「Advance」の3台が用意された。新旧モデルの大きな進化点としては、プラットフォームが「SGP」から「SGP×フルインナーフレーム構造」へと発展したことや2ピニオン電動パワーステアリングなどスバル上級車から受け継いだ技術に加え、新構造のフロントシートの採用などが挙げられる。

新旧モデルの走りを比較

インプレッサ

 新旧の違いは、走り始めから感じられた。まずはパワートレイン。e-BOXERは、CVTのリニアトロニックを含め、メカニズムは共通で制御を磨いているという。実際にスペックも、ほぼ同じ。

 しかし、出力の滑らかさや加速の良さは、新型の方が格段に良い。さらにボディの遮音性の向上やエンジンマウントの改良などで、ノイズが低減され、エンジンサウンドも心地良いものとしている。プラットフォームの進化では、よりボディ剛性が高まっており、走りの印象も変化した。現行型もスポーティな走りを持ち味で、高いボディ剛性を活かし、コーナリング時は、外側のタイヤの性能をしっかりと引き出すセッティングとしていた。それが新型では、さらにボディが強化されたことで、サスペンションのストロークの拡大を実現。その結果、4輪の接地性を高めている。

 だから、如何なる状況でもクルマの安定性が高まっている。4輪がしっかりと働いてくれるから、タイヤのグリップ性能にも余裕があり、現行型よりも限界も高まっている。

 最も分かりやすいシーンは、コーナリングだ。現行型も、外側のタイヤグリップを積極的に使い、鋭いコーナリングが楽しめるが、内側のタイヤを使いこなしていないため、外側タイヤの負担が大きくなり、タイヤのグリップ限界に迫るシーンもあった。

 一方で、新型ではサスペンションがより積極的に動くので、コーナリング中のタイヤの余力をドライバーがしっかりと感じ取れるため、よりコントロールがし易い。さらに2ピニオンの電動パワーステアリングは、レスポンスに優れるため、ドライバーの曲がるという要求に対してより俊敏な反応が可能となっている。

 これによりスポーティだけど安心感のある走りを生んでいるのだ。正直、現行型のSGPの投入で、一世代前のモデルを大きく超える走りの良さを見せてくれたため、現行型と新型の差は、それほど大きくないだろうと予測していた。しかし、それを良い意味で裏切ってくれた。新型のSGP×フルインナーフレームボディの味をしってしまうと、現行型の古さを感じてしまうほど。

 ただ誤解して欲しくないのは、SGPボディの現行型の持つポテンシャルも高く、公道で運転を楽しむ範囲ならば、走りに不満を感じることはない。それだけ進化の幅が大きいのだ。また新型の魅力のひとつが、新構造のフロントシート。骨盤を支える構造としており、コーナリング時でも上体が安定するため、それも乗員の安心感へと繋がり、ドライバーの運転の余裕に繋がっている。

FF車と4WD車の違いをチェック

インプレッサ

 それでは新型のFF車と4WD車の違いはどうなのか。路面状況の良いサーキットでは、特別4WDの優位性は感じられなかった。

 コーナリングをサポートするアクティブトルクベクタリングの制御も、クロストレックよりも穏やかなように思える。確かにコーナー脱出時の出足では、後輪に駆動する4WDの立ち上がりの良さはあった。

 ただ同じエンジンスペックで路面状況の良いコースを流すならば、車重の軽いFF車の方が良く、よりスポーティに感じた。この点については、新型インプレッサスポーツでは、走りの方向性は、FF車と4WD車でも同じとのこと。もちろん、路面状況の悪いシーンでは、4WDの強みが発揮される。新型では、スバルはFF車を廉価版捉えることなく、好みと使用環境で選んでも不満はない作りを目指している。その点は、クロストレックも同様だ。

まとめ

自動車ジャーナリストの大音安弘氏

 新型インプレッサスポーツは、スバルユーザーの期待を裏切らない完成度の高いクルマだ。

 市販車で試したいのは、自慢の静粛性が公道でもしっかりと味わるか。ただクロストレックの印象を鑑みると、裏切られる心配はなさそう。また新構造のフロントシートは、しっかりと体を支えながらも、シートの張り出しが少ない分、乗降性にも優れるなどメリットは大きい。後席への技術の反映と他モデルへの展開が望まれる。

 ただ課題がないわけではない。それが燃費だ。水平対向エンジンによる縦置きレイアウトの構造上、電動化モデルでも、大きなモーターが搭載できない弱点があるため、燃費に対する電動化の恩恵は薄い。もちろん、現行と新型の2.0L e-BOXER(4WD車)同士を比較すると、0.8km/Lの向上の伸びを見せるが、16.0km/L(WLTC)に留まる。スバルファンならば、トータル性能で納得できるだろうが、他社モデルユーザーから見れば、厳しい目となる。アイサイトが市場を変えたように、スバル電動車の革命にも期待したい。

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大音安弘(おおと やすひろ)

ライタープロフィール

大音安弘(おおと やすひろ)

1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に転身。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。

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