車の最新技術
更新日:2022.04.14 / 掲載日:2022.04.12

「ラージ商品群」の特徴とメカニズムを解説

文●大音安弘 写真●マツダ

 今秋投入予定のマツダの新型SUV「CX-60」は、既存のマツダ車よりも上位に位置するラージ商品群と呼ばれる上級車の第一弾となる。そのラージ商品群のプラットフォームは、既存のマツダ車だけでなく、マツダ3から使われる新世代商品向けのものとも異なる新開発のものを採用しているのが、最大の特徴だ。一体ラージ商品群とはどんな技術で作られ、今後、どんなクルマが登場するのだろうか。

 CX-60を皮切りとするラージ車の最大の特徴は、「FR(フロントエンジン・リヤドライブ」であることだ。現代車の多くは、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)の前輪駆動車だが、ラージ車は、現代でも高級車によく使われる後輪駆動車を採用しているのだ。このため、FF車とはエンジンやトランスミッションの配置が異なる。そうなれば、クルマの構造にも影響を与えるため、新たなプラットフォームが必要というわけだ。

 しかし、FF車でも大型車や高級車を作ることは可能だ。敢えてFRに挑戦することに、マツダの大きな狙いある。そこには環境性能の向上だけでなく、マツダが理想とする人間中心のクルマ作りの更なる追求の姿勢がある。例えば、敢えて大排気量エンジンを投入することも、そのひとつ。環境性能を高めるならば、排気量の低減の流れや電動化という考えが主流の今、なぜ新たな大排気量エンジンが必要なのか。そこには、マツダらしい拘りがある。確かに、小排気量エンジンは、1回に燃やす燃料は少ない。しかし、同じ重量を運ぶとすると、大排気量エンジンの方が低い回転数で同等か、それ以上の力が得られる。そうすると、結果的に、使用燃料を少なくすることができるということなのだ。もちろん、電動化車も用意される。またサイズアップに関しては、日本市場向けを基本とするクルマ作りでは、海外のニーズの全てに対応するのが難しいという現実もある。特に上級クラスでは、海外では現地車や輸入車と競うことが難しいのが現実だ。特にSUVに関しては、日本のマツダで最も大きい3列SUV CX-8さえ、米国ではニーズに最適化させたサイズアップ版であるCX-9が投入されているのが一例だ。

「ラージ商品群」では駆動方式の基本が後輪駆動となる。電動化が進み、PHEVやマイルドハイブリッドシステム搭載モデルも存在。

 マツダのクルマ作りは今後、既存のスモール商品群(前輪駆動車)と新たなラージ(FR)商品群で構成され、2025年以降には、EV専用プラットフォームが加わることになる。今回は、ラージ商品群についての技術に的を絞る。ラージ商品群は、今後、投入される全モデルを想定した開発を行うことで、前世代よりも開発費を25%削減。さらに発売後にも制御による進化とするなど既存モデルで取り組みを始めた成長するクルマを本格的に目指している。

現時点での想定モデルは、CX-60を皮切りに、CX-70、CX-80、CX-90までのミッドサイズ以上のSUVを構想している。もちろん、正式な発表はされていないが、SUVのみに留まらず、ミッドサイズ以上のセダンやステーションワゴンなどの投入もされていくはずだ。さらにいえば、ラージ群が誕生したことで、長年、マツダファンが復活を望む後輪駆動のスポーツカーの具現化が可能な土台も出来上がったことになるわけだ。これだけでも、今までのマツダのラインナップを大きく広げる可能性を持つ車種構成が模索されていることが感じ取れるはずだ。

3.3L直列6気筒ディーゼルターボ「SKYACTIV-D3.3」。

 効率の追求を図った新パワートレインの代表格が3.3L直列6気筒ディーゼルターボ「SKYACTIV-D3.3」だ。低回転で最大トルクを発揮できる強みを活かした大型車向けのクリーンディーゼルエンジンで、48Vマイルドハイブリッドとの組み合わせにより、日本でも人気の高いB(一例:CX-3)及びCセグメントSUV(一例:CX-5)並みの抜群の燃費を実現させているという。もちろん、排ガスもクリーンなものだ。もう一つの柱が、プラグインハイブリッドだ。既存の2.5L直列4気筒エンジン「SKYACTIV-G 2.5」をベースに、電気モーターを組み合わせ、各部の最適化を図ったもの。モーターアシストにより、3.3Lディーゼルに匹敵する最大トルクを発揮できるというから興味深い。もちろん、PHEVなので、充電を行えば、日常生活の大半をEV走行で賄うことができる。これらに組み合わせるトランスミッションは、新開発8速ATだ。既存のATは6速までだが、さらなる多段化に加え、エンジンとトランスミッションの動力伝達を行うトルクコンバーターを廃止し、クラッチ機構で賄うことで、変速レスポンスと高効率化を図っているという。パワートレインは、市場ニーズや車種により異なるが、直列6気筒エンジンは、ディーゼルだけでなく、ガソリン仕様とSKYACTIV-X仕様も用意されるという点も興味深い。電動化を含めパワートレインの多彩な展開が可能なのも、トランスミッションから後ろの構造が共有できる縦置き構造の強みともいえる。モーターサイズや性能は異なるが、マイルドハイブリッドとプラグインハイブリッドのいずれも電気モーターは、エンジンとトランスミッションの間に挟まれる。6気筒を積めるエンジンルームがあれば、4気筒エンジンと大きなモーターを組み合わせても、搭載スペースはしっかりと確保できるというわけだ。

「ラージ商品群」はマツダが従来から目指してきた意のまま感のある走りをさらなる高見へ引き上げる。

 この他にも縦置きレイアウトのメリットはある。フロントにエンジン、中央にトランスミッション、リヤに駆動ユニットが備わるFRレイアウトは、車両内の重量物が分散して配置されているので、前後の重量バランスも整えやすいこと。さらに車両中央の直線上にパワートレインが配置できるので、衝撃の伝達のし易い構造が作り易く、クラッシャブルゾーンの確保にも有利なので、衝突安全性の向上にもつなげられる。そして何よりも、「運転する愉しさ」を高められることにある。文章での説明は難しいが、後輪駆動車の走りは、後ろ足を力強く蹴る動物の走りに近い。より自然な感覚の走りを作り出せる。だから、操作する人間の間隔とクルマの動きをシンクロさせ、意のままに操っているという感覚も近くなるのだ。この人と車の一体感に関しては、マツダのスポーツカー「ロードスター」で磨いてきたマツダの財産でもある。それを新たな商品群の武器にしようとしていると言える。またクルマの動きが掴みやすいクルマは、運転の不慣れな人にも安心感を与えることが出来るため、誰にもでもメリットとなることなのだ。もちろん、サスペンションやボディなどクルマ全体で一体感を高める工夫が凝らされている。技術的な特徴を見ていくと、FRだからこそが詰まったクルマ作りが追求されていることを強く感じられる。

 マツダのラージ商品群という新たな挑戦は始まったばかりであり、まだ詳細の多くもベールに包まれている。段階的となるだろうが、より詳しい情報も明かされていくはずなので、追って、どんなユーザーメリットが含まれるのかもレポートしていきたいと思う。誤解してならないのは、これは単に大きな高級車を作りたいという構想ではないという点だ。エンジンの更なる可能性やエンジン車の魅力の深化、さらにいえば、これまでとこれからのクルマ作りのクロスオーバーとなるクルマの未来を掛けた挑戦ともいえる。それだけに、どのようなものが生まれるか、とても興味深いのだ。

この記事の画像を見る

この記事はいかがでしたか?

気に入らない気に入った

大音安弘(おおと やすひろ)

ライタープロフィール

大音安弘(おおと やすひろ)

1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に転身。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。

この人の記事を読む

1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に転身。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。

この人の記事を読む

img_backTop ページトップに戻る

ȥURL򥳥ԡޤ