車の最新技術
更新日:2022.01.29 / 掲載日:2022.01.29
アップデートを続けるフランス製電気自動車【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス、シトロエン
先週の当コラムでも取り上げたEVテストという連載企画。2021年4月から開始したもので1ヶ月に2台ずつ、同じコースを同じようにEVで走って電費を計ったり、急速充電器を使用してみたりするもので、バッテリー容量や車両重量など各モデルの違いが使い勝手にどう影響するかをみている。EVは本格普及前夜といったところで、まだモデル数が多くはなく、十数台ほどをテストしたところでネタ切れになってきたが、そこからはグレード違いのモデルを連れ出したり、以前にテストしたモデルを電費が下がるといわれる冬場に再び登場させたりしている。モデル数が少ないからこそ重複もできるわけで、早い段階から連載をスタートさせたメリットでもある。
2022年1月に連れ出さしたのはBMW iXとシトロエンE-C4の2台で、いずれもニューカマー。だが、シトロエンeC4はプジョーe208およびe2008やDS3クロスバックE-TENSEなどとハードウエアの多くを共有する、いわば兄弟車となっている。元グループPSA(現在は元フィアット・クライスラー・オートモービルズと統合してステランティスとなった)のプジョー、シトロエン、DSオートモビルズの3ブランドは明確なパワートレーン戦略を持っていて、Bセグメント以下のコンパクトカーはCMP(Common Modular Platform)を採用しエンジン車とEVを用意。Cセグメント以上の上級モデルはEMP2(Efficient Modular Platform2)を採用してエンジン車とプラグイン・ハイブリッドを用意する。というのは以前にも当コラムで紹介しているが、ここで少し訂正したい。というのもシトロエンC4はCMPを採用しているものの全長およびホイールベースが長く、Cセグメントに入るのだ。CMPはB〜Cセグメントをまたがるものであり、シトロエンC4はプジョー208やDS3クロスバックのロングホイール・バージョンと言える。同じようにEMP2はC〜Dセグメントにまたがっている。
新たにテストに連れ出したE-C4は、e208やe2008、DS3クロスバックE-TENSEと姿形が違い、少し大きい分、車両重量も重くなる。とはいえ、モーターの出力やトルク、バッテリー容量などは共通なので、乗り味の違いはわずかで電費も車両重量のちょっとした違いが出るぐらいだろうと想像していたが、実際には予想よりも違いを感じた。
ちなみにモーターの最高出力は100kW(136PS)/5500rpm、最大トルク260Nm/300-3674rpm、バッテリー容量50kWhというのが3ブランド4モデルで共通、それ以外の主なスペックは以下になる。
- <プジョーe208 GT>
- 全長×全幅×全高:4095×1745×1465mm
- ホイールベース:2540mm
- 車両重量:1500kg
- 一充電走行距離:403km(JC08モード)
- 交流電力量消費率:131Wh/km=7.63km/kWh(JC08モード)
- タイヤサイズ:205/45R17
- <プジョーe2008 GT>
- 全長×全幅×全高:4305×1770×1550mm
- ホイールベース:2610mm
- 車両重量:1540kg
- 一充電走行距離:385km(JC08モード)
- 交流電力量消費率:140Wh/km=7.14km/kWh(JC08モード)
- タイヤサイズ:215/55R18
- <DS3クロスバックE-TENSE>
- 全長×全幅×全高:4120×1790×1550mm
- ホイールベース:2560mm
- 車両重量:1580kg
- 一充電走行距離:398km(JC08モード)
- 交流電力量消費率:135Wh/km=7.41km/kWh(JC08モード)
- タイヤサイズ:215/55R18
- <シトロエンE-C4 SHINE>
- 全長×全幅×全高:4375×1800×1530mm
- ホイールベース:2665mm
- 車両重量:1630kg
- 一充電走行距離:459km(JC08モード)
- 交流電力量消費率:113Wh/km=8.85km/kWh(JC08モード)
- タイヤサイズ:195/60R18
※DS3クロスバックE-TENSEはJC08モードしか表記がないため、全車とも同モードで統一した。

こうして横並びで比較してみるとボディサイズはe208が最小で車両重量も軽く、e2008、DS3クロスバックE-TENSE、E-C4と順番に大きく重くなっていく。E-C4は最大サイズで全長およびホイールベースがひときわ長く、後席やラゲッジルームにもそれなりに余裕がありそうだというのがわかる。
一方の電費は、大きく重いほど悪化していくはずだが、E-C4は逆に良好なのが興味深い。e208に比べると130kgも重いのに電費(交流電力量消費率)は7.63km/kWhから8.85km/kWhへと改善され、一充電走行距離では56kmも伸長しているのだ。
モーターやバッテリーといったハードウエアは共通だが、着々とアップデートがなされており、制御やサーマルマネージメントが進化。また、タイヤも電費志向だ。ミシュランが2021年6月に発売したe PRIMACYはミシュラン史上最高の低燃費性能を誇り、EVに求められる静粛性にも特化したプレミアムコンフォートタイヤ。さらに、サイズが特殊で外径は大きくてスタイリングに貢献するが、細いので転がり抵抗や空力で有利となっている。EVは電費および航続距離、ロードノイズやパターンノイズなどが課題だから、こういったコンセプトのタイヤを採用するモデルは増えていきそうだ。
乗り味としてもE-C4は想像以上に良好だった。エアボリュームがたっぷりとしたタイヤのおかげでアタリが優しく、ホイールベースが長いのでピッチングが少なく高速域でも落ち着いた動き。シトロエンというブランドイメージの通りにソフトタッチで快適なのだ。CMPのEVの生産を始めてから時が経っているので、だんだんと熟成されてきたということもあるのだろう。
元グループPSAのEV兄弟のなかで最良と言えるE-C4。他のモデルもマイナーチェナジなどでアップデートが施されれば、電費や乗り味が進化していくことになりそうだ。