車の最新技術
更新日:2022.02.26 / 掲載日:2022.02.26

EVの注目技術「800V」と「2速化」を解説する【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●アウディ

 当コラム以外で自分が連載を担当している“EVテスト”は、東京・箱根間の約200kmで毎回同じルートを同じように走り、高速道路、一般道、ワインディングロードの電費を計測。急速充電器も使い、EVの実用性の一端を定量的にみる企画だ。2021年4月に始まり、1ヶ月に2台ずつ連れ出しているので、2022年2月は11回目、21台目と22台目のテストとなった。今回はアウディe-tron GTとアウディRS e-tron GTというグレード違いの2台だったので乗り比べという意味でも興味深い。

アウディ e-tron GTとRS e-tron GTはハードウェアの多くを共有しながらも、それぞれに独自の個性を持つ

 両車のおもな違いは動力性能でe-tron GTは最高出力390kW(530PS)、最大トルク640Nmで0-100km/h加速は4.1秒、RS e-tron GT が475kW(646PS)、830Nmで3.3秒となる。

 公道で普通に走らせている限りではe-tron GTでも十二分に速いが、クローズドコースで全開加速を試したときにはRS e-tron GTの迫力は痛快だった。シャシー性能が高いので、パワーとのバランスではRS e-tron GTのほうが優れていると思ったほどだ。

 シャシーではe-tron GTがコイルスプリング+可変ダンパーなのにたいしてRS e-tron GTはアダプティブエアサスペンション。タイヤはe-tron GTが標準は19インチのところ試乗車は20インチを装着、RS e-tron GTが標準は20インチのところ試乗車は21インチを装着していた。

 両車ともに乗り心地は素晴らしくいい。とくに感心したのがコイルスプリングのe-tron GT。想像ではエアサスペンションのほうが格段に優れていると思っていたのだが、フィーリングこそ違えど遜色なかったのだ。

 テクノロジーでみれば、ハイパフォーマンスかつスポーティなEVということもあって先進的な見所が2点ある。その一つが2速トランスミッションを採用していることだ。

e-tron GTはリアモーターに2速ギアを組み合わせることで、驚異的な発進加速と超高速域での性能を両立している

 電気モーターは超回転、あるいはゼロ回転から最大トルクを発生できるうえに、エンジンよりも高回転化ができる。それゆえ1ギアで済み、伝達効率や重量などでメリットがある。だから、いま発売されている乗用車のEVでは、e-tron GTおよびハードウエアを共有するポルシェ・タイカンの2車種以外は1ギアだ。

 スポーツタイプであり、ドイツ・アウトバーンを疾走することを目的に2速化すれば、驚異的な発進加速と超高速域での性能が両立できる。実際には、ローンチコントロール使用時とアウディドライブセレクトをダイナミックにして強めの加速を求めたときに1速が使用され、通常時は2速で走行しているという。クローズドコースで全開加速を試してみると90km/h前後でギアが切り替わっているのが体験できた。ただし、あまりに加速が速くてデジタルメーターの表示変化に目が追いつかないので、速度は正確ではない。

 EVの2速化がスーパーな性能を求めるモデルだけのものかといいえば、そうとも言い切れない。ドイツのZFやボッシュ、日本のアイシンやNSKといった大手サプライヤーは2速化を始めとしたEV用変速機を開発している。スポーツカーやプレミアムカーだけではなく、一般的な乗用車向けや商用車向けもあることから、その目的はパフォーマンスアップにとどまらず、効率化にもあることがわかる。

 電気モーターは90%以上の熱効率を誇り、しかも幅広い回転域でそれを発揮できる。だから1ギアで済むのはたしかだが、それでも変速機を使えば効率向上を図れる余地はある。EVの弱点である高速走行時の電費改善、モーターの小型化、電費改善ゆえのバッテリー容量縮小化など、トータルで考えればコスト的にも有利になる可能性もあるのだ。いまのところ市販されているEVの多くはエンジン車がベース、あるいはエンジン車とプラットフォームを共有しており、ここにきて専用車が増えてきたのが現状。2025年あたりの次世代モデルでは変速機付きEVが増えてくるかもしれない。

e-tron GTはバッテリー電圧を800Vにすることで充電時間の短縮を実現している

 もう一つの見所が電圧を800Vにしていることだ。他のEVのほとんどは400Vだが、バッテリーが大容量化するにつれ充電に時間がかかるようになるので、急速充電器の高出力化も急務となる。800V化の最大の目的は充電時間の短縮。大電流化はコスト増と電力損失増が大きく電圧を上げたほうが賢明という判断だろう。日本の現在の急速充電器は、出力が50kW以下がほとんどで、90kWがちらほらと出始めたタイミング。将来的には150kWの普及が求められているといったところだが、欧州の大容量バッテリー向けには350kWも開発されている。350kWならば30分で175kWhが充電できるので(ロスがあっても150kWhぐらいは入りそう)、現在の最大容量モデルにも十分。200kWh級のモデルが出てきても対応できるだろう。

 800V化もまたハイパフォーマンスでプレミアムなEV向けかと思いきや、次世代ではスタンダードなモデルに採用される可能性もある。コストやインフラの課題はあるとはいえ、進化の限界が見えてきたシリコン半導体(Si)からシリコンカーバイト(SiC)へパワーデバイスの本命が移りつつあるなかで、これとの組み合わせでは効率改善効果が高く、スタンダードモデルでも無視できなくなる可能性があるからだ。とくに欧州では800V化が主流になるとも言われており、そこで競争するのであれば、いまから用意していく必要がある。

 EVの2速化(あるいは変速機付き)と800V化が近い将来のトレンドになるかもしれない。アウディe-tron GTとポルシェ・タイカンは、そんな未来予想図を詰め込んだモデルでもあるのだ。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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