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更新日:2021.12.17 / 掲載日:2021.12.17

緊急事態! e:HEVレーシングカーに何が起きた!?【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●篠原晃一

 以前にも当コラムでレポートしたフィットe:HEVによる「もてぎEnjoy耐久レース(通称Joy耐)」への参戦。このプロジェクトは2020〜2022年の3年間を予定していて、レースは毎年夏に開催されるJoy耐(7時間耐久レース)と冬開催のミニJoy耐(2時間耐久レース)の年2回があるが、2020年は夏のJoy耐がコロナの影響で中止。初レースとなったのが2020年冬のミニJoy耐、2回目が2021年7月のJoy耐、そして3回目が今回レポートする2021年11月28日のミニJoy耐だ。

自動車ジャーナリストの仲間たちと次世代パワートレインを搭載するクルマでレースに挑戦

既存のエンジン車がメインのレースに、次世代パワートレインで挑戦するという活動を続けている

 そもそもJoy耐へはモータージャーナリストの仲間と長年に渡って参戦しており、既存のエンジン車がメインのレースにハイブリッドカーなど次世代パワートレーンで出たらどうなるのか? という興味をテーマとしている。Joy耐は給油時に10分前後は停止するルールがあるので、燃費の善し悪しも成績に影響するから、ハイブリッドカーならばラップタイムが多少は遅くとも給油回数を減らして上位進出の可能性だってあるのだ。

 フィットe:HEVはエンジンが発電し、モーターで駆動するタイプのハイブリッドカーなので、今後は乗用車の主流になると見られるBEVにも繋がる技術であり、モーター駆動によるモータースポーツのスタディになるはずだ。

 ただし、実際に走らせてみるとラップタイムは期待したほどには速くない。モーター駆動は0−60km/h程度ならば同クラスのエンジン車に比べて抜群に速いものの、高速域での加速は伸びが鈍ってくる。ツインリンクもてぎは、ヘアピンでもっとも速度が落ちるボトムスピードが60km/h弱であり、ほとんどを苦手な領域で走らなければならないのが、根本的な要因だ。対策として、ハイギアード化したりバッテリーの電力利用の制御を変更したりはして、ラップタイムは当初の2分40秒程度から、2020年ミニJoy耐で2分33秒、2021年Joy耐で2分32秒だった。2020年ミニJoy耐から2021年Joy耐では大きく仕様変更しているものの1秒しかタイムアップしていないが、冬と夏の気温差が影響を及ぼしているので進化の幅はもう少し大きいだろう。

 今回のアップデートで大物はLSD。走行データをみても、コーナー立ち上がりでフロントのイン側のタイヤが空転してロスしているのは以前からわかっていたことでLSDは是非とも投入したいアイテムだったが、市販品はない。そこでワンオフで製作することにしたのだが、けっこうな時間がかかって今回の投入となったのだ。クスコ製のタイプRSという低イニシャルトルクで作動する1wayとなっている。

 また、サスペンションにも改良を施した。これまでの悩みはブレーキングしてコーナーにアプローチするときに、リアのイン側の接地が薄れ3輪状態になるとABSがブレーキ圧を抜いてしまうこと。いきなり減速が弱くなってしまうのだ。そこで接地性をあげるべく、リアサスのストロークを伸ばし、またダンパーを伸び側と縮み側を独立して調整できるようにして、なるべくリアのイン側が伸びてタイヤが路面から離れないようにした。その他、スタビライザーの強化、サブフレームの強化などを行っている。

 マフラーも新規投入した。HKS製のオリジナルでノーマルに比べると3.5kgの軽量化が実現するとともにルックスもサウンドも良くなっている。

 パワートレーンは大きな改良はないが、アクセル操作に対する反応を調整してドライバビリティ改善、バッテリーの冷却効果改善などを行っている。

ミニJoy耐の1週間前に行われた公開練習ではそれらの効果が確認できた。

 LSDは明らかな武器となり、コーナー立ち上がりが目に見えて速くなった。低回転から大きなトルクを発生し、レスポンスも抜群なモーター駆動のメリットが大いに活用できている。モーター駆動のFWD(前輪駆動)でスポーツドライビングを想定したときには、トラクション確保は必須だろう。

 サスペンションの改善も顕著で、ブレーキングが安定するとともにコーナリングスピードも高まった。サブフレームや取り付け部の強化も効いていて、限界的なコーナリングで跳ねたりすることがなくなり、プレミアムカー的な上質感さえ漂うようになっている。市販車ベースでサスペンションを強化する場合、スプリングやダンパーだけではなく、周辺も含めてバランスをとる必要があることを再認識した。

 ドライバーが感じたフィーリングの良さはラップタイムにも如実に表れ、走り始めから目下の目標だった2分30秒切りを連発。最終的には2分28秒台を記録した。

 ミニJoy耐の予選ではニュータイヤでのアタックで2分27秒633。気温などの条件がほとんど同一の昨年のミニJoy耐が2分32秒407だったので4秒8ほどタイムを縮めたことになる。ちなみに今年夏のJoy耐では2分30秒1だった。

 参加台数24台中17番手という予選結果であり、レースで上位にいくにはまだラップタイムを詰める必要があるが、フィットe:HEVの進化は喜ぶべきだろう。また、2時間耐久レースではほ大半のクルマは1度は給油するはずだが、我々は無給油でいける。昨年も予選25番手からスタートして決勝では11位まで追い上げている。

電動車の特性を生かしながらチューニングによって戦闘力をアップさせていく

まさかの単独クラッシュ発生! 気になる原因は!?

 決勝レースは橋本洋平選手がスタートを担当。順調に周回をこなし1時間が経過してそろそろドライバーチェンジというタイミングでトラブルが起きた。2コーナー立ち上がりでコースアウトしたのだ。ピットのモニターで確認すると、左フロントタイヤが取れてる!? 

 トラックで運ばれてきたフィットe:HEVを確認すると、ハブボルトがねじ切れていた。これまで2時間と7時間の耐久レースを走って金属疲労が貯まっていたことに加えて、今回はLSD投入でトラクションが劇的に上がったことで負担が大きくなったのだろう。

 不幸中の幸いで、広いランオフエリアがあるところでトラブルが発生したので危ないことにはならなかったが、全面的にメンテナンスを見直す必要があると反省。2022年はこのプロジェクトの最終年なので、万全を期してのぞみたい。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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