車の最新技術
更新日:2022.01.15 / 掲載日:2022.01.15

フランス製プラグインHVが決して侮れない理由【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス

 元グループPSA(現在はステランティス)のプジョー、シトロエン、DSオートモビルはBセグメントではCMP(Common Modular Platform)でエンジン車とBEVを、Cセグメント以上ではEMP2(Efficient Modular Platform)でエンジン車とPHEVをラインアップするという明確な戦略を採っている。BEVやPHEVはエンジン車よりも車両価格は高くなるが、ランニングコストまで含めたトータルではさほど差がなく、ユーザーの好みやライフスタイルで自由に選択してもらうパワー・オブ・チョイスという考え方がある。

 PHEVは同グループにとって初となり、メカニズム的には日本のフルハイブリッド系に比べるとシンプルに思えるのだが、走らせてみると想像以上に楽しく刺激があるのが特徴だ。

プラグインHVシステムを備えるプジョー 3008ハイブリッド

 エンジン車のガソリン1.6Lターボ・エンジン+8ATの、エンジンとトランスミッションの間にモーターを挟み込み、トルクコンバーターを湿式多板クラッチに換装した1モーター式ハイブリッド・システムをノーズに搭載してフロント・タイヤを駆動し、リアにもう一つモーターを搭載した4WDという構成。フロントのハイブリッドはシンプルであり、そこにアドオンでリアモーターを追加したかっこうだ。以前に、プラグインではないハイブリッドを本国で販売していたが、それはFFのエンジン車をベースに、リアにモーターを追加しただけの構成。PHEV化にあたっての進化も延長線上であり、高度な摺り合わせ技術が必要な日本のフルハイブリッドから比べると、はっきり言って技術的な見所は乏しいと感じていた。ところが、走らせてみると想像以上に楽しく、また効率もいいように思える。

 モーターはフロントが最高出力110PS、最大トルク320Nm、リアが112PS、166Nm。これに200PS、300Nmのエンジンを合わせたシステム合計では300PS、520Nmにも及び、環境対応車のPHEVとは思えないほど痛快な加速性能が楽しめる。0-100km/h加速は6.5秒と俊足だ。しかも、急加速時にはリアのモーターの強力なトルクで気持ちのいい蹴り出しかが感じられるとともに、エンジンならではの伸びのいいパワー感があって独特のフィーリング。エンジンとモーターのいいとこ取りが、他のPHEVよりも濃密に感じられるのだ。

 バッテリーは13.2kWhで64km(WLTCモード)のEV走行ができるというのは、いまのPHEVで標準的なスペックだろう。急速充電には対応しておらず、普通充電だけだが、コストパフォーマンスや使い勝手を考えれば妥当なところだろう。

 バッテリーの充電量が十分なときにはリアモーターだけでEV走行し、充電量が減ってきてハイブリッド走行になっても、エンジンで発電しつつリアモーターも積極的に使う。スポーツモードに切り替えるとエンジンが存在感を増してパワフルな走りになってくる。回生およびエンジン発電は前後のモーターを使って変幻自在に行っていて、かなり賢くエネルギーマネージメントがなされているようだ。

モーターを前後に2基搭載することで4WDを構成している

 トヨタRAV4PHVも、ノーズにTHSIIを搭載してフロントを駆動しリアに独立したモーターを持つ4WDであり、構成は似てはいるものの、ハイブリッドシステムとしては複雑。それよりもシンプルなシステムでも、十分な性能を発揮できているのだから効率的と言える。ハイブリッドシステムだけの燃費等をみれば複雑なほうが優秀だが、リアのモーターによって電気の分担が大きくなるので、シンプルなシステムでも差を埋められるということだろう。これならば、既存技術の延長線上でアドオン的に開発できるし、純エンジン車に近いダイレクト感なども味わえる。

 ジープ・レネゲードのPHEVも、ノーズのMHEVでフロントを駆動してリアは独立したモーターで駆動する似たシステムだが、奇しくもグループPSAとFCA(フィアット・クライスラー・オートモビルズ)が統合してステランティスとなった。

 PHEVは、完全にBEVへ移行するまでの繋ぎの技術などとも言われるが、そんな見方がもったいないと思えるほど、走りの楽しさと環境性能の両立を果たせるポテンシャルを持っている。マクラーレンがアルトゥーラで本気で取り組んでいるように、スポーツカーにとっても魅力あるパワートレーンなのだ。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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