車の最新技術
更新日:2022.01.27 / 掲載日:2021.12.03

アウトランダーPHEVが唯一無二の存在である理由【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●三菱、ユニット・コンパス

 三菱アウトランダーPHEVは、2013年に登場したときから大きな話題を呼び、人気車種ともなった。プラグイン・ハイブリッドとしてはプリウスPHVに次ぐ量産2番目のモデルだが、バッテリー容量が大きくてEV走行距離が長く、1500Wの給電機能によってクルマの新しい使い方が可能になるのも注目すべきポイントだった。エンジンは発電用でモーターが駆動するというシリーズ・ハイブリッドを基本に、高速巡航時にはエンジンが直接駆動するモードも持つのはホンダのe:HEVと同様。独自なのは、モーターを前後に持つツインモーター4WDでありS-AWCも組み合わされていることだ。

ツインモーター4WD+S-AWCが生み出すハイレベルな走行性能

 そのアウトランダーPHEVがフルモデルチェンジで一新。プラットフォームはルノー・日産・三菱のアライアンスで共有化されるMF-C/Dで、従来に比べると一気に上級移行された。各部の質感も大幅に向上して、車格が一気に2ランクぐらいあがった感じだ。

 走りも素晴らしいのだが、その根本にはツインモーター4WD+S-AWCにあることを、試乗によって改めて実感した。

S-AWCを構成する制御技術

 S-AWC(Super All Wheel Control)は4輪の駆動力・制動力を最適に制御することで優れた操縦性と高い走行安定性を実現する三菱独自の車両運動性能統合システム。ランサー・エボリューションでは、フルタイム4WDの旋回性能を高めるために、様々な努力がなされていた。ACD(アクティブ・センター・ディファレンシャル)やAYC(アクティブ・ヨー・コントロール)などで駆動配分制御を行い、トラクションコントロールや横滑り防止装置も統合制御。ラリーやサーキットレースなどで高い実力を誇った。

 そんな背景があるからだろう。S-AWCは限界性能を高めて速く走るためのもの、というイメージが強い。自分もそう思っていた一人で、ランエボの技術をアウトランダーPHEVに持ってくる意味がどれだけあるのかな? と当初は訝っていた。クローズドコースで走らせれば、重たくて背も高いSUVが、類い希な旋回能力を見せつけるのだからたしかに凄いことなのだが、普通に使うにはそこまでいらないだろうと思っていたのだ。

 ところが、普通に走らせてもS-AWCがもたらす効果は大きいのだ。ステアリングを操作すれば、制御によってスルスルと曲がっていく。同じ場所で重量や大きさが似たSUVを走らせると、フロント外側のタイヤが一生懸命にグリップ力を発生させ、重たいノーズを無理やりインに向けていっているような感覚になる。それが、コーナーを攻める走りではなく、日常的な速度域から実感できるのだ。S-AWCの効果で、じつに軽やかかつスムーズにコーナーをクリアでき、操作に対する遅れがないから気持ちがいい。制御によってしかるべき操縦安定性が得られるので、必要以上にサスペンションを硬くしないで済むという利点もある。快適性の向上に大いに役立つのだ。

 ランサー・エボリューションでは、ちょっとした違和感があって、慣れないと恩恵を引き出せないこともあったが、エンジンとメカニカル4WDの組み合わせゆえ、様々な箇所で応答遅れがあったからだろう。ツインモーター4WDは遅れがほとんどなくなるから、S-AWCの理想を追求できるのだ。先代モデルでもその良さは感じていたが、新型はボディやシャシーのクオリティが上がったことで、さらに効果が体感しやすくなった。

 ツインモーター4WDは横Gや前後Gを感知して、前後のタイヤのグリップが均等になるように前後駆動力配分を決定するのが特徴。一般的な4WDは、基本的には前輪駆動メインで後輪が滑ったら、あるいは滑る予兆を感じ取ったら後輪へ駆動配分していくなど、フィードバック的な制御だが、アウトランダーPHEVはフィードフォワード制御であり、しかも理論値にピタリとはめ込まれている。そのためには、フロントに比べてリアのモーターのほうが出力は大きい必要がある。従来に比べるとフロント・モーターは60kWから85kWへ、リア・モーターは70kWから100kWへと強化されたが、前後駆動配分比は基本的に同じ。出力が高まった分、前後駆動配分比の制御可能範囲は広がっている。

ツインモーター4WDのメリットは前後輪間のトルク配分の自由度が非常に高いところにある

 左右輪のトルク配分比はブレーキAYCで制御。従来モデルは前輪だけで行っていたが新型は後輪も制御に加わり、より緻密になった。

 興味深いのは、エンジン車でS-AWCを開発していた頃に比べて、モーター駆動車ではパワートレーン部門との連携を深める必要があり、縦割りだった構造に自然と横串が通されたことだ。新型アウトランダーPHEVを走らせていると、そんな開発陣の一体感さえ伝わってくるようで、様々な制御がなされているはずなのに違和感がほとんどなく、ひたすらに快適でスムーズなのが素晴らしい。

 ツインモーター4WD+S-AWCは唯一無二であり、ユーザーにも大いにメリットがあるの技術なのだ。

この記事の画像を見る

この記事はいかがでしたか?

気に入らない気に入った

石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

この人の記事を読む

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

この人の記事を読む

img_backTop ページトップに戻る

ȥURL򥳥ԡޤ