車の最新技術
更新日:2021.11.19 / 掲載日:2021.11.19

踏み間違い事故はどうすれば防げるのか【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●トヨタ

 当コラムで何度か紹介しているSIP自動運転。自分も構成員の一人になっているのでインサイドレポートになるが、2021年10月19日〜20日に開催されたSIP自動運転 メディア向け試乗会のなかからトピックスをお伝えしたい。

2021年11月から衝突被害軽減ブレーキが義務化された

2021年11月には衝突被害軽減ブレーキが義務化された。SIPではそういった最新技術を広く知らしめる活動も行っている

 同イベントは社会受容性の醸成、つまりどういう取り組みをしていて、それが世の中にどのように役立っていくのか、あるいは課題は何かなどを正しく伝えようというものの一貫であり、第一回となった前回と同様、最先端の自動車メーカーのプロダクトという“現在地”と、サプライヤー(自動車部品メーカー)やスタートアップでSIP実証実験に参加している車両という“近未来”のモデルを、メディアの皆さんに試乗・体験していただいて情報発信していくのが主旨。第二回となる今回は、それに加えて2021年11月より、衝突被害軽減ブレーキが義務化されるというタイミングを受け、スズキ・ダイハツといった軽自動車メーカーに協力を仰ぎ、改めて同システムを同乗試乗などの体験を通じて取材していただく機会を設けた。衝突被害軽減ブレーキ自体は、SIP自動運転の取り組みと直接的な関係はないが、高齢者社会のトップランナーである日本が、自動車の先進安全技術において早いタイミングで必然性に迫られ、世界に先駆けて義務化がなされるとともに、ルールづくりにおいても主導的立場を果たしたことを知らしめる意味もあった。自動運転への取り組みも、安全に寄与するのが最大の動機だからだ。また、衝突被害軽減ブレーキは、万が一衝突の危険が迫ったときにドライバーがブレーキ操作を行わないとクルマ側のシステムが自動的にブレーキをかけるものではあるが、システムには限界があって必ずしも衝突を避けられるというものではないこと、基本はあくまでドライバーがブレーキ操作をするべきであって、何らかの要因で衝突が避けられないタイミングになったときに初めて作動するものだから過信は禁物であることなどを改めて周知したいという思惑もある。そのために、同乗試乗などの体験は5〜10分程度で済むものだが、1メディアにつき30分程度の取材時間を設けて丁寧にシステムの解説や考え方を伝えるという体制をとることにした。

ペダル踏み間違い事故抑制に貢献する「トヨタ プラスサポート」

トヨタ「プラスサポート」搭載車は、ブレーキ踏み間違いを車両が検知すると加速が抑制される

 そしてもう一つ、トヨタが2020年7月にリリースした“プラスサポート”というシステムも並行して試乗・取材の機会を設けた。同システムは“急アクセル時加速抑制”という機能を持った安全装備の一種。ペダルの踏み間違いによる事故は深刻な社会現象ともなっていて、それを防ぐために車両に搭載されたカメラやソナー、レーダーなどのセンサで、壁やガラスが目前にあるのにアクセルを踏みつけても加速を抑制するシステムであり、衝突被害軽減ブレーキと同様のハードウエアで構築できることからポピュラーになってきている。これによってペダルの踏み間違いによる事故の7割程度には対応できるが、残りの約3割は壁などの障害物がないケースで起きていて、それもまた重大事故に繋がっている。そこでトヨタは、踏み間違い事故が発生したときに、アクセルが全開で踏まれたケースを分析。現在販売されている自動車の多くはICT(通信情報技術)が搭載されており、車両の状態や周囲の状況などを各種センサーなどから把握してデータとして集積している。そのビッグデータから、事故に繋がったアクセル全開操作を分析したのだ。それによってアクセルペダルの踏まれ方の特徴を特定して、こういったパターンのときは障害物がなくても加速を抑制するシステムとした。

 右折時や一時停止直後など、アクセルを素早く強く踏み込むケースなどでは加速抑制しないように配慮してはいる。そのため、ブレーキを離してから2秒以内にアクセルを踏み込んだときにはシステムは作動せず、急な上り坂でも介入はない。また、万が一踏み切りの中など素早く移動したい場面などでアクセル操作が効くように、システムが作動してもアクセルを踏み続ければ30km/h上限で加速するなど様々なケースに対応できるようになっている。

それでも、意図せずにシステムが作動することもあるだろうから、特定のキーで解錠したときにだけシステムが立ち上がるようになっている。クルマを購入したときに渡される通常のキーではシステムは作動せず、追加のスペアキーの購入費用と同じ金額で用意される“プラスサポート用スマートキー”で解錠操作をして走行するときにだけ作動するようになっているのだ。

 実際にクローズドコースで体験試乗してみたが、ブレーキを離してから2秒以上経過してからアクセルをいきなり全開にしても、加速が抑制された。これはつまり、アクセルペダルをブレーキペダルだと勘違いして踏みつけても加速しないということ。前方に壁などの障害物がなくてもシステムが働くというのは画期的であり、またビッグデータの解析から安全装備を開発するというのもまた画期的。さらには、スペアキー同等の代金、具体的には1万数千円で購入できて、通常キーならシステムは作動せず、たとえばおじいちゃん・おばあちゃん用とするプラスサポート用スマートキーでのみ作動するなど、有効性、実用性、コストでも優秀な安全装備だと言えるだろう。ちなみに今後の自動運転技術の多くも、ビッグデータ解析から開発される見込みであり、同システムの開発手法は注目に値する。

 ところが、衝突被害軽減ブレーキに比べると、システムの仕組みや働きがわかりやすくなく、世の中にその有用性が今ひとつ伝わっていないのは事実。導入から1年が経っているわりには思うように普及していないのが歯がゆいところだ。現在発売されているトヨタ/レクサスの多くの車両に用意されているので、購入する際にはたった1万数千円で手に入るのでぜひとも検討して欲しい。また、同システムの特許などは開放する考えであり、開発ロジックは他メーカーにも共有される。安全装備の多くは、競争領域ではなく協調領域だという好事例でもあるのだ。

【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】は週刊連載です。どうぞお楽しみに!

この記事の画像を見る

この記事はいかがでしたか?

気に入らない気に入った

石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

この人の記事を読む

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

この人の記事を読む

img_backTop ページトップに戻る

ȥURL򥳥ԡޤ