車の最新技術
更新日:2021.11.20 / 掲載日:2021.11.19

パーソナルモビリティの未来を考える【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●トヨタ

 「人ひとりが移動するためにいちいち1.5トンも2トンもある鉄の塊を動かすなんて馬鹿げている」というのは、昔から言われていることだが、なるほどそうだと思う。高速道路を小1時間も走るということならともかく、都市内移動でほんの2、30分なら、他にもっと簡便でエネルギー的にも交通負荷的にも低廉な方法があって良いはず。

 昨今、自動運転車両でうんぬんという話もよく聞くが、重厚長大を原点にした発想で、ブツを多少小さめに作ったところで、それはわずかな差異しか産まない。そういう思考がちょっと前近代的なのではないか? 自動運転だとして、乗って行った先でどうするのか? 都心の駐車料金は1時間3600円くらいだが、仮に寸法的に5ナンバーの半分で、料金も半額だとしても、勤務時間の8時間それを停めておくコストは大きな負担だ。 都市内交通であることを思い起こせば、タクシーとの比較で価格競争力を持てる状況が思い浮かばない。実はパーソナルモビリティの成立に想像以上に重要な役割をするのはこの「停める」問題だと思っている。

カーシェアリングの問題点とパーソナルモビリティのあるべき姿

 「だからこそシェアだ」という話なのだが、現実的に考えれば、都合の良い場所にシェアステーションがあるのは稀で、「シェアカーを停めて、1駅電車。からの徒歩」では本末転倒も良いところだ。だからと言って、無人運転で、どこかの車庫へ自動回送という話は、それが可能になるのは法的にも技術的にもいつ実現できるのか皆目見当が付かないし、人を運んでいないモビリティが回送でエネルギーを消費するのは無駄以外の何ものでもない。あるいはその軽減のために乗合方式を想定したとして、朝から他人をピックアップして下ろすロスを織り込んで早起きできるものだろうか?

 結局われわれは、クルマというデバイスを起点に考えすぎなのだ。クルマが初めにありきで、CASEだMaaSだと考えるからおかしくなる。本来起点は顧客ニーズであるべきで、そこを無視していては血の通ったサービスにはなるはずがない。原点に戻れば、そもそも解決すべきはただ都市内をほぼ身一つで移動したいケースだけ。それ以外の用途には、従来通りクルマを使うべきだ。

 現実的には、その目的にいま最もマッチした選択肢は、電動アシスト自転車である。都市内を平均時速15キロで移動できるとしたら、クルマとほぼ変わらない。しかもすでに日本ではあふれるくらい普及していて、パーソナルモビリティの本命になっている。これは脱炭素をリードする話として、世界に誇っていいと思う。

 だから、すでに普及済みのこれを軸に置いて考えた方が話が早い。電動アシスト自転車で満たせないニーズは上と下にそれぞれある。自転車置き場が要らず、必要に応じてハンドキャリーで公共交通機関に持ち込めるポータブル電動モビリティと、雨天に対応した耐候性小型モビリティだ。付け加えるなら、そこに加齢他によって、移動が困難になった人の自助移動手段としての電動モビリティが求められているはずだ。

 世界的にみて、電動アシスト自転車の下に位置するのは電動キックボードで、特別な駐輪スペースがなくても、職場のデスクの下でも保管できるし、小型のなら、ラッシュアワーを避ければカバンやケースに入れて電車やバスにも持ち込めるだろう。

 そうやって公共交通機関と連動しながら移動の多様性を確保していった方がいい。これまでの流れで書いた通り、あくまでも電動自転車の下位を補完するものなので、免許だヘルメットだとなったら存在意義を無くす。だから欧州各国のように時速25キロでの認可はやりすぎで、その速度で運用したいならば、安全上、電動アシスト自転車を使うべきだ。速度上限を時速10キロに置き、その分軽く小さく作るべきだ。

 耐候性のあるパーソナルモビリティに関しては、クルマの駐車場を必要とするサイズにしないところに留意すべきだろう。例えばトヨタが発表した立ち乗り型電動車「Cウォーク」に筒形の骨を持つ幌を掛けたらちょうど良いように思う。これならば、少々の負担で、現在の自転車置き場に停めることができるだろう。

トヨタ C+ウォークの座り乗りタイプ(プロトタイプ)

 また、加齢による歩行困難者で、免許を返納する世代の移動も何とかしなくてはならない。特に過疎地に住み、同居家族のサポートが得られない人たちにも移動の手段は必要だ。現在そこを担っているのはシニアカーの類いだが、ものによっては、これも少々大きく重い。そして現行法規の下では、高さ制限にひっかかって屋根がつけられない。耐候性を諦めながら、もう少し軽量コンパクトにできるのではないか。

 例えば、トヨタのC+ウォーク座り乗りタイプ(プロトタイプ)や、ウィル(HHILL)モデル2のようなコンパクトな電動車椅子に、簡便な幌が装着出来れば、かなり理想に近いのではないか? わずかな段差なら乗り越えられるし、過疎地域に税金で無理やり電車やバスを走らせることを思えば、補助金を出してもおそらくはペイするだろう。

 パーソナルモビリティの議論は、いつもハイテクありきの「技術ポルノ」になりがちなのだが、別にスマホやクラウドを使わなければいけないわけではない。あるいは従来の自動車の枠組みから発想しなければいけないわけではない。もっともっと現実目線で、人々の困りごとを基準に、ソリューションを考えていくべきだと思う。

今回のまとめ

  • ・1人を移動させるための簡便な乗り物=パーソナルモビリティはまだ未解決領域
  • ・すでに普及している電動アシスト自転車をパーソナルモビリティの核とすべき
  • ・技術に振り回されず、利用者ニーズに向き合ったサービス・商品を目指すべき
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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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