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更新日:2021.11.22 / 掲載日:2021.05.14

決算の簡単な読み解き方【池田直渡の5分でわかるクルマ経済 第6回】

文●池田直渡 写真●トヨタ、日産

 連休明けは毎年、自動車各社の本決算発表の時期である。日本の自動車メーカーは、例外無く4月から翌年3月までの1年をひとつの期として決算を行う。

 この他に1年を4つの期に分けた四半期決算が発表され、4-6月が第1四半期、7-9月が第2四半期、10-12月が第3四半期となっており、1-3月は第4四半期だが、これは一般に四半期での成果より、年度の評価がより強い興味の対象となるので、実質的には第4四半期決算は無いようなものとなっている。本決算では翌1年の見通しも発表されるが、長年の経験に照らしての発表なので、この見通しはそこそこ正確で、第1四半期はこの見通しとほぼ齟齬がない。だからあまり注目されることはない。

 第2四半期は第1と第2を足した半期決算としてそこそこ注目を集める。しかし本命は第3四半期で、1年の75%の成績の累計が分かるため、投資家はここを大事にする。株式の売りにしても買いにしても「他人より早く」が基本なので、本決算が出てからでは出遅れるためだ。

 というのがイロハのイだ。さて、とは言ってもここの読者は投資のために企業業績を知りたいというよりも、贔屓の会社が上手く行っているかどうか、あるいは大人として各社の経営がどうなっているかを押さえておきたいということだろう。

 決算書から企業の業績を大まかに知るために、決算書のどこを見れば良いかの話を今回は解説してみたい。ちなみに決算書は各社公式webサイトの企業情報から「投資家情報」とか「IR情報」と書かれている部分をクリックすると、アクセスできる。今回の用途であれば「決算報告」の中から、PDFになっている「決算プレゼンテーション」をチョイスするのが最適だろう。ちなみにダイハツだけは2016年にトヨタの100%子会社になっているので、以降決算発表そのものがない。

決算書を理解するための「4つのパターン」とは?

 決算書とは要するに儲かっているかどうかを見るものだ。慣れてくると、儲かっている理由や儲かってない理由が、どこにあるかがわかるのだが、その詳細を見られる様になるのはちょっとだけ経験がいるので、もう少しざっくりしたところで、誰でも分かる4分類の見方を説明しよう。

 決算書の数字の基本は、売上と利益である。儲けを知るためのデータなのだからそれは当然だ。なので例えば今なら、昨年、つまり2020年の5月に発表された「2020年3月期決算」と先週発表された「2021年3月期決算」を2つの数字で見比べる。

 売上が増えていれば「増収」減っていれば「減収」だ。これは要するにお金が入ってくるかどうかだ。もちろん入って来ることは良いことだ。無いよりずっと良い、しかし、石川啄木ではないが「はたらけどはたらけど猶わが生活楽にならざりぢっと手を見る」みたいなことは企業にもある。そこは「利益」がものを言う。なので「売上」の増減、「利益」の増減の2要素を掛け合わせたマトリックスで見なければならない。それがよく聞く「増収増益」「増収減益」「減収増益」「減収減益」の4つである。

 増収増益は簡単だ。これはもうめでたい限りで、売上も増えていれば利益も増えている。この1年は上手く行っているということである。

 一方で増収減益はどうかと言うと、これは少し難しい。一般論として売上は自然には増えてはくれないので、通常はなにがしかの仕掛けを行っていると考えられる。その仕掛けにもの凄くお金が掛かっていると、増収はしたけれど減益になってしまったという事が起きる。例えば、無理矢理に売上を伸ばすために値引き(販売奨励金)や広告宣伝費をじゃぶじゃぶと使ったケースが考えられる。

 企業にはそういう挑戦をしなければならないタイミングもあるので、一概に悪いと決めつけられないが、そういうカンフル剤を使った後、水平飛行に移行する戦略があるかないかが分かれ目だ。つまりちゃんと攻めの姿勢と戦略があっての増収減益はチャレンジ姿勢の表れなのだが、ダメな場面では、売上維持に汲々として、その結果麻薬の様に経費に溺れてしまう。

 減収増益はどうか? 普通は減収の中で利益を増やすのは難しい。なのでこのケースではダイエットプログラムが進行中である可能性が高い。戦略の失敗を認めて、不採算部門を整理した結果、売上がダウンしつつも、出血が止まって利益が増える。こういう事業整理は大抵どこかに説明が書いてあるものなので、そこを注意深く見ることだ。多くの場合は復活の狼煙と捉えて大丈夫だが、問題となるケースもある。企業にとって利益の源泉であるような重要事業を売却して、一時しのぎで売却益を得たようなケースである。

 さて、最後は減収減益だが、これは常識的には失敗と見なして良い。減収減益が一時的な方策であり、その後復活プランがあるのであれば、情状酌量の余地があるが、減収のみならず減益にまで至るということはそれまでが相当酷かったということが推測される。復活プランと言っても、もう一か八かランナーを貯めてホームランを狙うしか無いというギャンブルの場合も少なく無いはずだ。

売り上げと利益以外の見るべきポイント

トヨタの米国における生産拠点であるTMMI

自動車産業はグローバルビジネスであり、各メーカーが軸足を置くマーケットの動向も業績に大きく影響する。写真はトヨタの米国における生産拠点であるTMMI

 ということで4分類で概ねの傾向が分かった後、見るべきポイントをいくつか挙げておこう。ひとつは為替の差損である。為替の推移は私企業がどうこうできるものではなく、一種の交通事故なのだが、日本の通貨「円」は世界に何らかの波乱が起きる度に真っ先に買われる安定通貨だ。なのでほぼ常に円高が輸出産業を直撃する。1000億円レベルの損は頻繁に起きている。

 これは日本でモノ作りをしている限り避けることのできないもので、筆者は地震のリスクと同じだと思っている。回避策は生産拠点の海外移転しかない。しかしながら、自動車メーカーは国の基幹産業でもあるので、やはり国内雇用維持にも努めてもらわないと困るし、彼ら自身もその自覚を持っている。となると為替差損には目を瞑らざるを得なくなる。つまり為替は常に今季の利益が「追い風参考記録」なのか「向かい風参考記録」なのかを見るためにチェックするのだ。

 もう一点、各社にはそれぞれ得意とするマーケットがある。その生命線となる地域で売上と利益がどうなっているかは今後の動向を左右する要素が大きい。トヨタなら北米と日本、少し離れて中国。ホンダは北米と中国、日本。日産もまた北米と中国である。マツダは少し特殊で日米欧中その他の5地域のバランスがほぼ均等である。ここ数年少し北米比率が増えている。スバルは長らく北米一本足打法と言われている通り、北米が生命線となっている。スズキは言うまでもなくインドと日本、だいぶ離れて欧州だ。三菱は中国と欧州。つまり各社はこれらのマーケットをプラスに出来れば増収増益に繋がる一方、不得意なマーケットを伸ばして行く戦略も同時に行わないと、主要マーケットの経済リスクをまともに被ってしまうことになる。

 さて、ちょうど各社の決算発表も出揃った時期、こんな見方を踏まえて、決算の中身を覗いてみるのも面白いと筆者は思う。

今回のまとめ

・5月中旬は自動車メーカー各社が決算を発表する
・決算書を読み解くことで、成功と失敗の理由が見えてくる
・各メーカーにとっての主力マーケットの成績も注目
・為替による利益、損失ともにあまり重要視する必要はない

執筆者プロフィール:池田直渡(いけだ なおと)

自動車ジャーナリストの池田直渡氏

自動車ジャーナリストの池田直渡氏

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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