車の最新技術
更新日:2022.09.22 / 掲載日:2022.09.05

歴代シビックに込められた技術にホンダらしさを見た【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●ホンダ

 2022年はシビック50周年にあたり、ホンダはモビリティリゾートもてぎでメディア向けのイベントを開催した。

 モビリティリゾートもてぎにはホンダコレクションホールがあり、普段から歴代シビックを始め2輪やレーシングカーなど約300台のホンダ車が展示されている。今回のイベントでは初代から9代目まで、動態保存されたシビックに試乗できたほか、様々な取材を行ったが、そこで感じたのはシビックにはホンダらしいテクノロジーが詰め込まれており、技術屋集団というホンダのイメージを具現化したモデルだということだ。

 そもそも1972年に登場した初代シビックはCVCCエンジンで世界をあっと言わせたモデルだ。当時はアメリカで厳しい大気浄化法(マスキー法)が施行され、排出ガスのCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、NOx(窒素酸化物)を1970年の1/10以下にすることを義務づけるという高すぎるハードルが設けられた。達成は不可能とまで言われたが、それを最初にクリアしたのがCVCCエンジンだった。副燃焼室を採用してリーンバーン(希薄燃焼)でも着実に燃焼させて排出ガスの有害物質を低減。触媒などで有害物質を取り除く後処理ではなく、エンジンそのもので低減する前処理によって達成したことも大きい。ホンダは四輪メーカーとしては後発であり、まだ規模も小さかったこともあって、日本のライバルはもちろんのこと、世界中をアッと言わせることになった。当時からホンダは大気汚染など環境意識が高く、排ガス性能や燃費にこだわっているのは現在にも通じている。

3代目シビック レース車両(ホンダ コレクションホール収蔵)

 今回のイベントではワンダーシビックと呼ばれた3代目にとくに焦点があてられていた。というのも、昨年発売した11代目が3代目を参考にして開発されたからだ。たしかに3代目は直線的なフラッシュサーフェイスボディが斬新であり、コンパクトなのに居住空間が広く、大人気となったモデルだ。初代から6代目まで開発に携わった伊藤博之氏によると、2代目の開発時には円高で予算がなくなり、新しいデザインに取り組んだり、思うように性能向上できなかった。そこで3代目は新しい価値を創造するべく、気合いが入ったという。デザインに関しては北米の開発拠点が提案したスケッチにピンときて、これを忠実に具現化することを目指したという。ボンネットが低くてスタイルが良く、ロングルーフなので室内を広くできるというのもポイント。ホンダにはMM思想(マンマキシマム・メカミニマム)がある。これは、人間尊重という考え方がベースにあり、N360の頃からそういった思想はあったが、本格的に取り組み、またはっきりとMM思想という言葉が使われ出したのは3代目シビックからだったそうだ。人のためのスペースは最大に、メカニズムは小さく、というMM思想はデザインにも表れている。直線的なため、デザインのための余分なスペースはなく、ロングルーフとして後端でスパッと切るコーダトロンカとしたためリアが広くて空力も案外といい。さらにMM思想が端的に表れているのがサスペンションを前ストラット、後リーフリジットとしてサイズを小さくしたことだ。

 もう一つ面白いのは派生車として開発されたCR-X。新しいFFライトウエイトスポーツというイメージが強いモデルだが、じつは燃費ナンバー1を実現するのが最大の目的であり、アメリカで50MPG(約21.3km/L)を目指して達成し、実際にナンバー1に輝いた。なぜそんなチャレンジをしていたかというと、10年後には燃費性能が問われることになると予見していたからだそうだ。CVCCエンジンにしても規制が課されてから開発を始めたのではなく、環境への問題意識から基礎研究を始めていたからこそいち早く規制をクリアできたのであって、未来を見据えた技術開発というホンダの先見の明がうかがえる。ホンダテクノロジーの代名詞でもあるVTECも排ガス性能や燃費を改善する目的があり、燃焼効率を高めていった結果、パワーも得られたのだ。現時点ではホンダeしかBEVを販売していないながらも、2040年に脱エンジンを目指すと、日本のメーカーではもっとも大胆なパワートレーン戦略を発表しているのも、ホンダのDNAらしいところだ。

 4代目は3代目とメカニズム的には似通っていて、5代目にまた大きな進化を遂げることになった。サスペンション形式は一気にダブルウィッシュボーンになったのが面白い。前ストラット、後リーフリジットでは、やはりコーナリング性能に限界があって進化の必要を感じていたからだ。おかげで5代目のスポーツシビックはサーキットでも1.6LのFFハッチバックとは思えないほど速く、ハイパワー車を追い詰めるジャイアントキリングでもあった。また、こちらのデザインはリオのカーニバルのように明るいイメージが欲しくて、デザイナーを連れてブラジルまで訪れて、サンバボディが出来上がったというエピソードもある。

歴代シビック レース車両(ホンダ コレクションホール収蔵)

 歴代シビックはそれぞれに見所があり、一度のコラムですべては取り上げられないが、3代目と5代目はとくにエポックメイキングだ。伊藤氏は“シビックはホンダの元気印”というが、まさにイメージ通り。8代目以降のシビックはだいぶ変わった印象もあるが、根底には元気印が流れていて挑戦を忘れないというのが真骨頂なのだろう。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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