車の歴史
更新日:2024.11.22 / 掲載日:2024.11.22
ミニバンの世界に「スポーティ」を持ち込んだホンダ オデッセイ【名車の生い立ち#7】

2023年末、ホンダは日本で販売終了していたオデッセイを再販したことで話題となりました。昨今のSUVブームに加え、スペース重視型ミニバンの台頭で役割を終えたかに思えた矢先のビッグニュースは、記憶に新しいものでしょう。ホンダのフラッグシップとしてのポジションをも担うオデッセイは、今も多くのユーザーに愛されています。今回は、そんなオデッセイの歴史を振り返ってみましょう。
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国産ミニバン黎明期に誕生した初代オデッセイ

ミニバンというジャンルはアメリカ発ですが、日本でブームになったのは1990年代のこと。それ以前の多人数乗車のクルマといえば、トヨタ ハイエースのような商用車ベースのワンボックスが主流でした。その多くはエンジンが座席の下に置かれ、後輪駆動レイアウトを採用。90年代に入ると乗用車専用のニューカマー「トヨタ エスティマ」が登場しましたが、床下にエンジンを搭載するMRレイアウトはそれまでのモデルと変わりません。そんなミニバン黎明期、1994年10月に登場したのがホンダ オデッセイです。

1994年といえば、村山内閣の発足、関西国際空港の開港、アイルトン・セナの事故死が報じられた年。そんな時代に生まれたオデッセイは、アコードのシャシーを流用しつつ、6名~7名乗車のパッケージングを実現したモデルとして発売されました。FFレイアウトのミニバンは1982年に発売された日産 プレーリーが元祖といわれていますが、スペース効率と走りを両立させたオデッセイは全く新しいジャンルのクルマと認識した人も当時少なくありませんでした。特に、1645mmに抑えられた全高はスタイリッシュそのもの。2.2Lのエンジンはゆとりある走りを生み出しました(後に3.0Lモデルも登場)。また、スライドドアを採用したプレーリーに対し、こちらは一般的なヒンジ式ドアを採用。車高の低さに加え、4輪ダブルウィッシュボーンサスペンションによる走行フィールは、それまでのミニバンとは一線を画するものでした。走り、デザイン、パッケージングを高次元で融合したオデッセイは一躍大人気モデルとなったのです。
走りや快適性をさらに磨き上げた2代目オデッセイ

90年代も終わりを迎えた1999年12月、オデッセイは2代目にモデルチェンジしました。1999年といえば、iモード(NTTドコモ)のサービス開始、携帯電話・PHSの加入台数が5000万台を突破、ソニーのペットロボット「AIBO(アイボ)」の発売などが話題となった年。生まれ変わったオデッセイは、先代の低重心パッケージを踏襲しつつ、快適性や走りの性能を高められました。室内は、1列目から3列目シートの居住スペースを25mm拡大したほか、2列目シートに座面跳ね上げ機構と380mmのロングスライド機構を採用したことで、使い勝手をさらにアップ。パワートレインは2.3L 直4と3.0L V6を当初から設定し、ラグジュアリーな走りを好む層にもアピールしました。

また、2001年11月にはスポーティモデル「アブソルート」を設定。オデッセイは初代からセダン顔負けの走りが自慢でしたが、アブソルートは15mmローダウンした専用サスペンションと専用デザインの17インチホイールを装着。フロントグリルや前後バンパーも専用となっており、見た目もスポーティに仕立てられました。それまでは「ミニバンにスポーティ?」と考えるひとが大半でしたが、2代目は重心が高いミニバンこそ走りが大切という新しい価値観を与えてくれたのです。
もはや3列シートのステーションワゴン!? さらに低くなった3代目

2000年代に入ると、ミニバン市場は次第に飽和していきます。各メーカーがこぞって新型モデルを投入し、大小さまざまなミニバンが世に溢れていきました。自動車メーカーは各車に個性を出そうと工夫を凝らしましたが、ホンダが採ったのは低重心パッケージの追求。2003年10月に登場した3代目オデッセイは、ミニバンとして前代未聞の1550mmという超低車高を実現したのです。1550mmというのは、機械式立体駐車場に入庫できるサイズ。低床プラットフォームを採用したことで、まさに3列シートのステーションワゴンといえるプロポーションとなりました。それでいながら、室内高は2代目よりも5mm高く、見た目よりも室内は広かったのもトピック。さらに2列目シートはフラットに収納できるダブルフォールダウン機構を備えたほか、3列目シートも一部グレードで電動床下収納機構を設定するなど、実用性や快適性を損なわなかったことも高く評価されました。

パワートレインは2.4L 直4に7段変速可能なCVTまたは5速ATを組み合わせて搭載。その走りっぷりはまさに見た目どおりのもので、ミニバンとしてはとりわけ高い運動性能を誇りました。スポーティモデル「アブソルート」も引き続き投入され、ファミリー層だけじゃなくシングルの若年ユーザーからの人気も獲得。ちなみにホンダは、2004年にエリシオン、2005年に3代目ステップワゴンを発売しましたが、いずれも低床プラットフォーム・低車高をアイデンティティとしていました。さらにこの時代は他メーカーも似たようなコンセプトのミニバンを投入しており、ちょっとした低車高ブームを巻き起こしました。
低重心化はそのままに大人っぽさを高めた4代目

2008年10月、フルモデルチェンジを受けて4代目となりました。2008年といえば麻生内閣の発足、米大統領選でオバマ氏が当選、北京オリンピックの開催があった年。そんな時代に生まれた4代目オデッセイは、先代からのキープコンセプト。全高1545mm(FF車)の低車高プロポーションは、より洗練されたスポーティさを感じさせるものでした。さらにワンモーションフォルムにシャープな面構成を組み合わせ、躍動感のあるデザインが見どころといえます。インテリアは、3列目シートの足入れスペースを40mm拡大したほか、2列目シートバック形状を見直すことでひざ周りもゆとりが生まれました。

優れた走行性能と快適な室内空間を持つミニバンとして高く評価された一方、2010年代に入ると広い室内を求めるユーザーの声が強くなり、低車高ミニバンブームにやや陰りが見えはじめました。また、ハイブリッドカーや電気自動車などのエコカーに注目が集まったこと、SUVのシェアが伸びたことも相まって、徐々にオデッセイの存在感が薄くなっていったのです。
エリシオンと統合し、より大きく豪華になった5代目

アベノミクスが始動し、2020年夏季オリンピックが日本に決定した(実際は2021年に開催)2013年10月、フルモデルチェンジを受けました。5代目オデッセイは、先代までの低車高ミニバンから一転し、室内空間を広くしたワンランク上のモデルになったことがトピックといえます。というのも、低車高ミニバンブームは過去のものとなり、広さや快適性が重視されるようになった時代が再びやってきたのが理由。特にこの時期はトヨタ アルファードが人気とシェアを誇っており、広さはもちろんより豪華な室内は必要不可欠だったのです。ホンダには最上級モデルとしてエリシオンが設定されていましたが、そのユーザーをも取り込むことになった結果、全長4830mm、全幅1800mm、全高1695mmというエリシオンにも迫る大きさに(FF車)。また、初代から採用されたヒンジ式ドアは廃止され、後席スライドドアを初めて導入。超低床プラットフォームと組み合わせることで、快適性と利便性が大きくアップしたのです。当初のパワートレインは2.4L ガソリン車のみでしたが、2016年にはハイブリッドも追加投入され、環境性能も高められました。

2020年11月にはマイナーチェンジを受けて、エクステリアを大幅にリニューアル。この時すでに発売から7年経っており、新型が発売されてもおかしくない頃です。ただし上級ミニバンはトヨタ アルファード一強状態となっており、オデッセイをはじめとするかつての人気モデルたちは苦戦を強いられていました。フルモデルチェンジではなく、マイナーチェンジに留まったのもそんな背景があってのこと。とはいえ、メーターパネルには7インチの高精細液晶パネルを採用するなど、質感をブラッシュアップ。自慢の安全装備「ホンダセンシング」に後方誤発進抑制機能が追加されるなど、安全面も強化。しかし、大きなテコ入れにもかかわらずオデッセイの販売は低迷。2022年をもって日本市場での販売が終了となりました。
ファンからのラブコールに応え、オデッセイ再販へ

日本仕様の販売が終了してからおよそ1年後、ホンダは同社のホームページでオデッセイの再販を発表しました。そして5代目オデッセイ登場から10年が経った2023年12月、マイナーチェンジしたオデッセイがラインアップに加えられたのです。
従来型と異なるのはエクステリア。フロントグリルが大きくなり、メッキバーを組み合わせることで高級感をさらにアップ。またパワートレインもハイブリッドの「e:HEV」のみとなりました。そのほか2列目に4ウェイパワーシートを採用したほか、シートヒーター、折りたたみ式センターテーブル、USBチャージャーなどのユーティリティを充実したほかコネクテッド技術を搭載し、商品力が大きく高められました。これはフラッグシップを望んでいたホンダファンには嬉しいニュース。というのも、ここ最近のホンダはアッパーモデルが手薄でステップアップするモデルがなかったのです。これはユーザーだけでなく、販売店にとっても朗報でした。
オデッセイ発売から今年(2024年)でちょうど30年。出せば売れるかつてのミニバンブームは過去の時代となりましたが、上級ミニバンの選択肢が減っている昨今、オデッセイ復活に懐かしい記憶が蘇ったひとも多いはず。あなたの印象に残っているオデッセイはどの世代でしょうか?