車の最新技術
更新日:2021.11.26 / 掲載日:2021.07.23

テスラ モデル3の走りを深掘する【石井昌道の自動車テクノロジー最前線 第16回】

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス

 BEV(電気自動車)の新興メーカーとして2003年に米シリコンバレーで設立されたテスラ。最初のモデルは2008年に発売されたロードスターで、これはロータス・エリーゼをベースにしたコンバートBEVと表現できるものだった。

 その頃はイギリスのロータス本社へよく取材に行っていたので、テストコースで目撃したこともある。音もなく鋭い加速をみせるロードスターに興味津々だった。

 日本ではガリバーインターナショナルが輸入したモデルに試乗させてもらったことがあるが、その速さと航続距離の長さに驚かされた。それまでも発売前の三菱アイ・ミーブや結局は発売されなかったスバルR1eなどメーカー製BEVや多くのコンバートBEVに試乗してきていたが、0-60mile(0-96km/h)加速が4秒を切り、400km近い距離を走れるという性能はぶっちぎりだった。

 ノートパソコン用の18650と呼ばれる規格品のバッテリーを大量(7000個弱で約53kWh)に搭載するというアイデアでなし得た。エリーゼに搭載すると重量配分はかなり後ろ寄りになるので、フロントの荷重を意識しながら運転しないとコーナーで曲がりづらい癖はあったものの、痛快な加速が新しいスポーツドライビングの世界を生み出していた。エネルギー密度の高い18650による大容量バッテリーにすれば航続距離が稼げて、パワー志向ではなくても十分以上のパワーが出る。じつに合理的な考え方だった。

 2012年11月にロサンゼルス・モーターショー取材の際に、まだ日本上陸を果たしていないモデルSに試乗する機会を得た。完全オリジナルの4ドア・セダンで、バッテリーはやはり18650を使用。容量は40kWh(航続距離256km)、60kWh(368km)、85kWh(480km)と3種類が用意されていた。

 初期モデルの0-100km/h加速は5.9秒(現行の最速モデルは2.1秒!)で、当時のBMW M5と同等だった。その性能もさることながら17インチと巨大な縦型タッチパネルがセンターコンソールに鎮座して、物理的なスイッチは最小限に抑えるというスマートさ。さすがはシリコンバレー系だけあってインターフェースも優れていて、既存の自動車メーカーのモデルとはまったく違う新鮮さに、これはゲームチェンジャーになると直感した。その後、テスラの経営は紆余曲折があったが、いまでは時価総額でトヨタを大幅に上まわるまでに成長している。

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モデル3は加速するEVウォーズのゲームチェンジャーだ

テスラ モデル3

テスラ モデル3

 真のゲームチェンジャーはモデル3だろう。

 モデルSは既存のプレミアムブランドのEセグメントカーと価格競争力があったが、モデル3はより身近なDセグメントカーであり、しかも価格的には優位といえるまでになった。

 もともと日本での価格は511万円からで、それでも十分に競争力があったが、2021年2月の価格改定で429万円からに大幅値引き(現在は439万円から)。グレードによる最大値引きは150万円を超える。プラットフォームの設計、電子部品の集約、生産方法、販売方法、マーケティングなど、あらゆる面で既存の自動車メーカーには考えられないようなコスト圧縮が図られている。販売台数も年間の成長率が50%程度と驚異的で今年は75万台に達する見込み。マツダ、スバル、三菱あたりは数年のうちに抜かれそうな勢いだ。

 値下げが可能になったのは、生産が米カリフォルニア工場製から中国上海工場製に切り替わったこと、それに伴いバッテリーがパナソニック製からCATLもしくはLG化学製になったことが大きいと思われるが(最上級グレードは依然としてアメリカ製で値引き無し)、だからといって性能や品質が落ちたとはいえない。むしろ航続距離は伸張しているのだ。ヒートポンプ式エアコンの採用などによるものだろうが、品質のほうも最新工場だけあってあがっているという。

 そんなモデル3のベーシックモデル、スタンダードレンジ プラスに試乗したが、たしかに性能は素晴らしかった。

 航続距離は448km(WLTP)、RWDで0-100km/hは5.6秒。デュアルモーターAWDで0-100km/hが4.4秒のロングレンジや3.3秒のパフォーマンスほど速くはないものの、加速性能にはまったく不足がない。ちなみにBMW3シリーズは320iで7.2秒、330iで5.8秒だ。加速のスムーズさやドライバビリティも良好で、ゆったりと落ち着いた走りもキビキビとしたスポーティな走りも、思ったとおりにできる。アクセルオフにしたときの回生はやや強め。モードによる切り替えはないので、右足でコントロールするしかないが、慣れるにはそう難しくない。

 驚異的なのはハンドリング性能だ。BEVならではの重量配分の良さ、エンジンなど重量物の揺動がないシュアさなどが存分にいかされていて、曲がる性能がとてつもなく高い。モータージャーナリストの大先輩が主宰するStart Your Enginesというサイトで行っているDST(ダイナミック・セーフティ・テスト)で自分もアシスタントを務めているが、ウエット旋回ブレーキのテストでとんでもない成績を収めた(【DST】テスラ モデル3 パフォーマンスvs ジャガーI-PACEファーストエディション(ウェット旋回ブレーキ編)【DST♯132-05】)。ものすごくよく曲がると評判のGRスープラよりも旋回能力が高いほどなのだ。これでコーナリングが楽しくないはずがない。今回もワインディングロードを自由自在に駆け巡り、非凡なところを見せつけた。

 表面的な質感では、日欧米のプレミアムブランドに比べればまだ物足りないところもある。ボディパネルのチリ合わせやドアを閉めたときの音などといったあたりだ。だが、電気系の制御技術は高く、シャシーのエンジニアリングに関しても急速に進化。ビジネスや先進性だけではなく、自動車としての完成度もおそろしいスピードで進化しているのがうかがえるのだった。

執筆者プロフィール:石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】は週刊連載です。どうぞお楽しみに!

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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