ハイブリッド車や電気自動車の動力源は電気です。ガソリン車とは違い、車の動力エネルギーを電気に変換するブレーキの仕組みにより、より効率的に車を走行させられます。
この記事では、エネルギーの再利用を可能にしている「回生ブレーキ」について詳しく解説します。
エネルギーを再利用する回生ブレーキ
エンジン車は動力に電気エネルギーを使っていないため、車内で電気エネルギーを生成しても、走行時には使い道がありません。
一方、ハイブリッド車は、電力によるモーターの回転が動力です。もし走行時の動力エネルギーを電気エネルギーに変換できれば、コストや時間をかけずにエネルギーを確保でき、より効率的に自動車を走らせられます。
ハイブリッド車や電気自動車は「回生ブレーキ」という、エンジン車にはない特性を持つブレーキシステムを備えているため、エネルギーを効率よく利用し、コストパフォーマンスのよい走行を実現しています。
エンジン車とハイブリッド車に使われているブレーキの仕組みの違い
長く市場を席巻してきたガソリン車は、ガソリンを燃料として内燃機関で燃焼させて発生するガスにより、シリンダー内のピストンを押す運動を起こします。
一方、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)は充電した電力でモーターを回転させて動いています。
現在の技術では、ブレーキにより車のスピードを落とすときの運動エネルギーを電力に変換できるようになりました。そのため、ハイブリッド車などは、単にガソリンを使わないという点以外でもコストパフォーマンスに優れた走行を実現しています。
まずは、エンジン車と次世代自動車それぞれに使われているブレーキの仕組みの違いについて解説します。
エンジン車に使われているのは摩擦ブレーキです。
摩擦ブレーキでは、ブレーキパッドがディスクローターと呼ばれる金属の円盤をはさみ込み、圧力をかけて回転を弱めることで車を減速させています。このとき加速させていた車体の運動エネルギーは、摩擦により発生する熱エネルギーとなって大気中に放出されます。
摩擦ブレーキは、車を確実に減速させることに特化した減速システムです。加速によって得られたエネルギーはそのまま減速により失われてしまう仕組みであるといえます。エンジン車の燃料であるガソリンを生成するのは不可能なので、エネルギーの再利用という発想はありませんでした。
ハイブリッド車などの次世代自動車には回生ブレーキが使われています。
回生ブレーキは、その字のごとく生き返らせることを意味していますが、厳密には運動エネルギーを電気エネルギーとして再利用するために使われる仕組みです。
次世代自動車の動力はモーターです。電力により回転させることで動力を生み出しますが、逆に軸を回転させると電気を生み出します。使い方次第では発電機の役割も果たします。
自転車のライトを例にするとわかりやすいでしょう。自転車のライトは車輪にモーターのローラーを接触させ、ペダルを踏みこんだときの車輪の回転によりモーターを回転させてライトを光らせます。
この原理を応用し、運動エネルギーから電気エネルギーへの変換を実現しているのが回生ブレーキです。車の減速時にタイヤの回転力でモーターを回し、電気エネルギーを回収しています。
回生ブレーキは、車の減速と同時に電気エネルギーを生成できる優れた仕組みですが、減速力は摩擦ブレーキほど強力なものではありません。
ブレーキの本質的な役割は、安全に車を停止させることです。そこで次世代自動車では、回生ブレーキと摩擦ブレーキの併用によりエネルギーを極力無駄にせず、かつ確実に減速できる仕組みを実現しています。
次世代自動車では高い燃費性能をさらに向上させながら安全性もしっかりと担保された、すばらしいブレーキシステムが搭載されています。
回生ブレーキから得られるメリット
回生ブレーキの仕組みによりエネルギーを再利用できることは前述の通りですが、運動エネルギーを電気エネルギーに変換して蓄えることで、具体的にどのようなメリットを得られるのか解説します。
回生ブレーキの仕組みから、副産物的に得られるメリットもあるため、ここではじめて気が付くハイブリッド車の魅力があるかもしれません。
回生ブレーキの本来の目的にして最大のメリットは、エネルギーの有効利用による燃費の改善です。
ガソリンエンジンのハイブリッド車は外部から給電することなく電気エネルギーで走行できます。これは回生ブレーキによる電気エネルギーの回収ができているためです。
基本的にはガソリンエンジンで走行し、発電により電力が貯まったときにモーター走行に切り替わります。このサイクルにより、通常のガソリン車と比較して消費するガソリンを節約できるため、かかる燃料費を大幅に削減できます。
ハイブリッド車には回生ブレーキだけでなく、摩擦ブレーキも組み込まれており、両者を併用してエネルギー効率の最大化と安全性を両立しています。
摩擦ブレーキは、ブレーキを踏むとブレーキパッドがタイヤと連動している内部のディスクローターに押し付けられ、ローターの回転を弱めることで減速する仕組みです。車の速度に比例してタイヤの回転力は強くなります。
強い回転をブレーキパッドで止めようとすれば、当然ブレーキパッドもすり減っていくため、定期的に交換が必要な消耗部品です。
回生ブレーキを併用している自動車の場合は、運動エネルギーを電気エネルギーに変換するときに生じる抵抗によって減速します。そのため、いきなりブレーキパッドを作動して急減速する機会が少なく、ブレーキパッドの消耗を抑えられます。
したがってブレーキパッドの寿命が長くなり、メンテナンスにかかる費用も少なくなるでしょう。
走行距離あたりのガソリン消費量が減るということは、つまり排出する二酸化炭素の量も減るということです。地球にやさしい走行が実感できるのもハイブリッド車のメリットです。
エネルギーの再利用と環境負荷の小ささを意識しながらハイブリッド車に乗っていると、少しずつエネルギー意識、環境意識が高まるでしょう。
現在のハイブリッド車では、回生ブレーキによる蓄電量が可視化されるものが一般的です。下り坂で蓄電する様子を見ると、運転そのものも環境にやさしいものへと変わっていきます。結果として車や部品寿命の長期化につながり、かかるコストを抑制できます。
回生ブレーキから生じるデメリット
ここまでは、回生ブレーキの良い点を解説しましたが、回生ブレーキも万能ではありません。
回生ブレーキを搭載した車に乗るときの注意点もよく理解し、特に安全性において懸念のない運転を心がけてください。
回生ブレーキと摩擦ブレーキを併用した減速は、摩擦ブレーキのみで減速するガソリン車とは挙動が異なります。
回生ブレーキはアクセルを外したときに減速の仕組みが作動するものもあります。ガソリン車に慣れすぎている人、反対に併用ブレーキに慣れすぎた後に久しぶりにガソリン車を運転するときは、減速時の挙動に違和感を覚えるかもしれません。
併用ブレーキを採用している車は、ソフトウェアの制御により極力違和感がないよう設計されていますが、いつもと違う自動車に乗るときは早めのブレーキを心がけ、徐々に挙動に慣れていきましょう。
ブレーキシステムを併用しているハイブリッド車では、それぞれのブレーキシステムのバランスが重要です。回生ブレーキのみでは減速力に乏しいため、急ブレーキをかけたいときには摩擦ブレーキの性能に依存します。
併用ブレーキだからこそいざというときにしっかり止まれるよう、ブレーキパッドなど、摩擦ブレーキ部分のメンテナンスは万全にしておきましょう。
物理的な力をかけて減速する摩擦ブレーキとは違い、回生ブレーキはモーターやバッテリーの制御システム、エネルギー管理システムなど複雑に絡み合って減速しています。そのため故障時には高度なメンテナンスが必要になり、かかる費用も高額です。
安全な走行を維持するためには、定期的な点検とメンテナンスが欠かせません。専門業者によるきめ細やかな点検により、想定外のトラブルを未然に防げるよう対策しておきましょう。
ハイブリッド車や電気自動車では回生ブレーキが使われています。回生ブレーキではタイヤの回転力によりモーターを回して電気エネルギーを生成し、同時にそのときに生じる抵抗により減速しています。
ただし、回生ブレーキの瞬間的な減速力は摩擦ブレーキほど強力ではありません。ハイブリッド車では、回生ブレーキと摩擦ブレーキが併用されており、協調動作により安全性も十分に確保されています。
自動車メーカー別回生ブレーキの仕組みの特徴
回生ブレーキの大まかな性能はこれまで解説してきた通りです。しかし、自動車メーカーによりユニークな特徴が見られます。
ここでは、国内の主力メーカーの車が搭載している回生ブレーキの違いを説明します。それぞれどのようにエネルギー回収と減速を実現しているのか比較してみましょう。
トヨタの車では、「回生協調ブレーキシステム」と呼ばれるブレーキシステムを搭載しています。
摩擦ブレーキとの連携がスムーズで、快適な挙動を実現し電気エネルギーの回収も効率的です。ブレーキパッドの消費も少なく済むため、運転にかかるコストも抑制できます。
頻繁にブレーキを踏む機会が多い場所でこそ持ち味を発揮し、市街地などの日常遣いに強みがあるといえそうです。
ホンダのブレーキは、モーターとエンジンの連携に優れたシステムです。動力源としての性能に重きを置いたシステムであり、高速道路など、一回の走行距離が長い運転のときこそ真価を発揮します。
低速でブレーキを踏む機会が多い市街地、住宅街での走行ではトヨタの回生ブレーキの方がエネルギー効率に優れます。したがって、遠出が好きな人や、遠出するときと日常使いとで車を乗り分けている人にはホンダのブレーキシステムがおすすめです。
日産の自動車では「e-POWERシステム」が採用されています。
e-POWERシステムが搭載された車はエンジンが組み込まれていますが、エンジンを直接の動力として走行することはありません。エンジンの力で発電した電力でモーターを回転させて走行させる仕組みで、よりエネルギー効率に優れたシステムです。
発電機とバッテリーの二方向からの電力供給による力強い加速が長所であるほか、アクセルペダルを外した瞬間に回生ブレーキが作動するため、加減速の多い市街地エリアでも楽に運転できます。
さらにエネルギーも無駄なく回収できるため、トヨタ車と同様に低速走行が多い地域で活躍します。モーターのみで走行するため走行音が静かで、早朝や深夜の運転でも気になりません。
システム故障時の修理費は高額となるため、こまめなメンテナンスを意識しましょう。
マツダには「i-ELOOP」という独自の回生ブレーキシステムがあります。一般的な回生ブレーキではバッテリーにエネルギーを蓄えているのに対し、i-ELOOPではコンデンサーに一時的に蓄えたあと、車載電気システムに電力供給するものです。
この仕組みにより短時間でのエネルギー再利用に優れ、低速走行エリアでのエネルギー効率は主要メーカーの中でも最高レベルといえるでしょう。
反対に長距離走行時の効率は最も悪く、長所と短所がはっきりしているシステムです。遠出の機会が多い人はトヨタやホンダのブレーキシステムの方がよいでしょう。
メンテナンスには注意が必要ですが、燃費の改善は燃料費だけでなく、時間の節約にもつながります。また、SDGsの取り組みが重要視されている昨今では、環境負荷の少ない車に乗っていることで社会的な要請に応えられている実感を得られるでしょう。
回生ブレーキを最大限に活用する方法
回生ブレーキがいかに優れたシステムでも、運転者の走行が雑であっては、最大限の効果を発揮できません。
エネルギー効率や走行コスト低減効果の最大化に向けて、意識すべきことを押さえておきましょう。
運転時にはスムーズな減速を心がけましょう。緩やかに時間をかけて減速することでエネルギー回収効果が増し、回生ブレーキのメリットを最大限に享受できます。
また、早めの減速は運転の基本です。燃費効率、部品の耐久性、交通事故の防止とあらゆる面で優れた走法です。
誰にでもできることなので、今一度基本に立ち返り、ゆっくりと落ち着いた運転を意識してみましょう。
渋滞時には、早めのブレーキ操作を心がけましょう。回生ブレーキは長時間作動させるほど回収エネルギー量が増加します。アクセルは極力踏まずに回生ブレーキを効かせることに集中すれば、本来ストレスが溜まる渋滞にもやりがいが出てきます。
他にも赤信号などで減速が予見できる事象にアンテナを張り、回生ブレーキ稼働のチャンスをうかがいましょう。
運転時だけでなく、あらゆる場面で効率を考えるようになれば、積もり積もって生活にかかるコストを大幅に下げられるでしょう。
また、回生ブレーキシステムは設計が複雑であるため、故障すると高額な修理費が必要です。定期点検を怠らないようにしてください。
回生ブレーキの将来
回生ブレーキが優れた仕組みであるならば、今後ますますの技術革新により、私たちの生活でより身近な存在となるでしょう。
ここからは、回生ブレーキの将来について、現時点で見込まれている展望を紹介します。
近年はハイブリッド車や電気自動車がシェアを伸ばしていますが、さらに中長期的に見れば、自動運転車の普及が見込まれています。全自動運転者の流通が一般化したときには当然、電気エネルギー由来の動力であることが想定されており、回生ブレーキの重要性はより高まることでしょう。
また、発展途上国などの新興市場でもハイブリッド車は普及しており、エネルギー効率の高い車の需要の高まりから回生ブレーキの導入の増加が予想されています。
この記事では民間自動車に搭載する回生ブレーキを解説してきましたが、電車やバスなどの公共交通機関にも採用されていく見通しです。
エネルギー効率の向上は都市交通レベルで求められている社会情勢であるため、今後の技術革新にも大いに期待が持てます。