新車試乗レポート
更新日:2023.05.09 / 掲載日:2022.05.02

【ヒョンデ アイオニック5】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス

 欧州や中国では、クルマを取り巻く環境や政府の補助金政策なども追い風となり、EV(電気自動車)のセールスが急進。対する日本も、普及はまだまだこれからという状況ながら、新しいEVが続々と登場&上陸している。そうした情報を耳にし、「そろそろかな」とEVが気になり始めている人も案外多いのでは?

 とはいえエンジン車とは異なり、EVの所有はハードルが高いのも事実。航続距離や充電効率、使い勝手などは車種によって大きく異なるため、どんなモデルが自分にとってベターな選択なのか、見分けるのがまだまだ難しい。

 本連載は、EVや自動運転車といったクルマの先進技術に造詣が深い自動車ジャーナリスト・石井昌道氏の監修・解説の下、各社の注目モデルを毎回、同様のルートでテスト。実際の使用状況を想定した走行パターンでチェックすることで各モデルの得手不得手を検証し、皆さんの“EV選びの悩み”を解決することを目的とする。

 今回フォーカスするのは、12年ぶりに日本市場への復活を果たしたヒョンデの「アイオニック5」。海外マーケットで高い評価を獲得しているこのモデルは、果たしてどんな実力の持ち主だろうか?

ヒョンデ アイオニック5のプロフィール

ヒョンデ アイオニック5

 2022年、韓国の最大手ブランド・ヒョンデが日本市場への再進出を果たした。2001年に日本での展開をスタートしたものの、セールスが振るわず2009年末に撤退していたヒョンデ(当時はヒュンダイ)。再進出となる今回は、燃料電池車「ネッソ」とピュアEVの「アイオニック5」という2台のモーター駆動車をひっさげての上陸となる。

 2021年、ヒョンデはヨーロッパで目覚ましい成果を収めた。ヨーロッパ内だけで、対前年比21.6%アップとなる51万5886台のセールスを記録。なかでも電動モデルで好調で、総販売台数の3分の1を占めるに至った。特にドイツ、スペイン、イタリア、イギリスでは、過去最高の販売台数を記録したほどだ。

 そんなヒョンデの躍進を支えるモデルが、アイオニック5だ。2021年の発売以来、ドイツやイギリスでカー・オブ・ザ・イヤーを獲得したほか、先のニューヨーク国際オートショー2022の際に発表されたワールド・カー・オブ・ザ・イヤーでは、大賞に加えて、ワールド・EV・オブ・ザ・イヤーおよびワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤーという3冠に輝くなど、海外マーケットにおいて高い評価を獲得している。

 見るからに新しさを感じさせるアイオニック5のエクステリアは、ボディパネルの各部にシャープなキャラクターラインが刻まれたインパクトのあるものだ。ヘッドライトやリアのコンビネーションランプは直線で構成され。ランプ類の内部にはゲームキャラクターを想起させる四角いピクセルやドットがあしらわれるなど、新しさのなかになつかしさを感じさせる仕立てとなる。

 対するインテリアも、エクステリアに負けず劣らず斬新だ。水平基調のインパネには、ドライバーの正面とコックピット中央にそれぞれ横長の液晶ディスプレイを配置。ディスプレイ周囲が白いフレームで囲まれているせいか、クルマというよりも白物家電に近い印象を受ける。

 ヒョンデ自身が、コンパクトハッチバックではなくクロスオーバーカーと位置づけているせいか、アイオニック5はユーティリティの面でも優秀だ。前後に大きくスライドするセンターコンソールによってフロント左右席のウォークスルーを可能にしていたり、6対4分割式のリアシートは左右それぞれ前後スライドできたりと、SUVのような使い方にも対応する。

 一見、コンパクトな2ボックスハッチバックに見えるアイオニック5だが、ボディサイズは思いのほか大きい。その数値は全長4635mm、全幅1890mm、全高1645mmという堂々たるもので、ホイールベースは3000mmにも達する。

 EV専用に開発されたアイオニック5の“E-GMP”プラットフォームは、フロア下に駆動用のリチウムイオンバッテリーを搭載。バッテリー容量はエントリーグレードで58kWh、それ以外の仕様では72.6kWhを確保する。駆動用モーターは、後輪駆動車がリアに1基、今回の試乗車である4WD仕様の「ラウンジ AWD」は前後それぞれに搭載する。車重は1870~2100kgという重量級だが、一充電当たりの走行距離はWLTCモードで最大618kmに達する。

 インポートEVとしては珍しく、バッテリーから電力を取り出せるV2L機能を搭載するアイオニック5は、政府が推進するクリーンエネルギー自動車導入促進補助金の上乗せが期待できる。加えて、ウインカーレバーがステアリングポストの右側に配されるなど、随所に日本のマーケットをかんがみた対応が施されるのも特徴だ。

 ちなみにアイオニック5のセールスは、ネッソと同様、ヒョンデ公式サイトからのオンライン販売のみとなる点も新しい。2022年の夏には、車両に実際触れることができ、試乗も可能な体験施設を東京、名古屋、福岡に開設。また同時期に、直営拠点となる「ヒョンデ カスタマーエクスペリエンスセンター横浜」において、購入相談、試乗、納車をスタートする予定だ。12年ぶりの上陸となるヒョンデが今度こそ日本で成功を収めることができるのか? その命運はアイオニック5が握っているといっても過言ではない。

  • ■グレード構成&価格

・「アイオニック5」(479万円)

・「アイオニック5 ボヤージュ」(519万円)

・「アイオニック5 ラウンジ」(549万円)

・「アイオニック5 ラウンジ AWD」(589万円)

■電費データ

<アイオニック5 ラウンジ AWD>

◎交流電力量消費率

・WLTCモード:142.4Wh/km(自社測定値)

 >>>市街地モード:非公表

 >>>郊外モード:非公表

 >>>高速道路モード:非公表

◎一充電走行距離

・WLTCモード:577km(自社測定値)

時速100kmで巡航したときには5.3km/kWhという電費データを記録

 2021年4月から始めたEVテストも2年目に突入。1ヶ月に2台づつ取り上げてきたが、一回だけ都合で1台のみとなったことがあるので、今回のヒョンデ・アイオニック5および同日テストのポルシェ・タイカンが24台目、25台目ということになる(同じ車種を取り上げたこともあるので延べ台数)。アイオニック5の高速道路での電費は制限速度100km/h区間であるその1が5.3km/kWh、その4が6.1km/kWh、制限速度70km/kWh区間のその2が6.3km/kWh、その3が6.4km/kWhだった。

 東名高速道路の東京IC←→厚木ICは早朝でも流れが滞ることがほとんどで100km/h付近を維持して走れることはまずないが、今回はとくにその4の交通量が多く、70~80km/hに抑える割合が多かった。その1は比較的に順調で5.3km/kWhという電費が制限速度100km/h区間でのそれなりに信用できる数値だろう。流れがスムーズでずっと100km/h付近で走り続けるともう少し悪化するかもしれない。制限速度70km/kWh区間はその2、その3ともに、工事で車線が絞られる区間があったもののそれなりにスムーズで50km/h程度まで速度が落ちたことがわずかにあった程度。6.3~6.4km/kWhの電費が、70km/h前後での自動車専用道、あるいは郊外路をストップ&ゴーなしに走ったときの目安となるはずだ。

 過去のテスト車でスペックが近いのはBMW iX3で車両重量はアイオニック5のほうが100kg軽く、WLTCモードの電費はiX3が5.95km/kWh、アイオニック5が7.02km/kWh。iX3の高速道路電費はその1が5.6km/kWh、その2が6.5km/kWh、その3が5.6km/kWh、その4が6.1km/kWhでほとんど同じかわずかにiX3のほうが良好といったところだった。

 EVの実用電費はエアコンの負荷(とくにヒーター)が大きな影響を与えるが、今回の気温はスタート時の朝6時が12℃、もっとも高かった11~12時が20℃前後で、エアコンの負荷はさほど大きくなかった。

厳しい山道の上りでも標準的なデータを記録。下りでの回生効率も良好

自動車専用道路である箱根ターンパイク(アネスト岩田ターンパイク)を小田原本線料金所から大観山展望台まで往復した

 約13㎞の距離で963mも標高差があるターンパイク登りはどのEVでも電費が極端に悪化するが、アイオニック5は1.7km/kWh。過去のテスト車と比較すると、車両重量2000kgオーバーのモデルとしては標準的かちょっといい程度といったところ。車両重量が1600kg程度の軽量級(EVとしては)でも2.0km/kWhぐらいなので、いずれにせよ登り区間の電費は厳しい。そのかわりに下りになれば回生でエネルギーを取り戻せるのがEVのいいところで、今回は3.72km/kWh分がバッテリーに充電された。これは車載電費計から計算したもので、車両によってけっこうなバラツキがあるのであくまで参考としておきたいが、それでもアイオニック5は優秀な部類だった。たった13kmの距離でも急な下りが続けば、WLTCモード燃費にして約26kmを走行する分の電力が返ってくるのだからお得な感じがする。

街中での電費は近似するモデルと比較して優秀な結果に

 高速道路の電費では、スペックの近いiX3や同日テストのポルシェ・タイカン(RWD)とさほど違いがなかったのだが、一般道では6.5km/kWhと優秀な電費を記録した。オーバー2000kgで最良であるばかりではなく、アンダー2000kgでもこれに届いていないモデルが多くある。6.5km/kWhよりも良かったのは、日産リーフNISMO(車両重量1520kg)、DS3クロスバックE-TENCE (1580kg)、BMW i3 REX(1440kg)だけ。シティコミューターの代表格ともいえるホンダeは標準車(1510kg)が7.4km/kWh、Advance(1540kg)が7.0km/kWhだった。一般道は信号のタイミングや周囲の交通状況による影響で、電費が変動しやすいものだが、同日テストのポルシェ・タイカンの電費や平均速度からみても特に条件が良かったということもなく標準的だったので、アイオニック5はストップ&ゴーの多い一般道の電費が良好だ。ヒョンデは日本の自動車メーカーよりもグローバル志向が強く、クルマの特性は欧州車に近いが、日本の一般道にも合っているとも言えるだろう。

東名横浜青葉ICから環八の丸子橋まで約22kmの距離を走行した

片道200kmのドライブは余裕でこなせる計算になる

海老名SAでの急速充電テスト ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

 スタート地点の東名高速・東京ICでのバッテリー残量は72%、航続可能距離は261km。そこから161.9km走った復路の海老名サービスエリアでは29%、113kmになっていた。出力40kWの急速充電器を30分間使用して19.4kWhを充電。53%、200kmまで回復した。理論値20kWhに対してロスが少なく十二分に受け入れられた。SOCが低めだったこともあるだろうが、これまででもっとも効率良く充電できた。同日テストのポルシェ・タイカンも効率が良かったので、外気温(19.0℃)が有利とみることもできる。

 19.4kWhの電力はWLTCモード電費なら136km、今回の高速道路の実電費でも少なくとも100kmが走れることになる。出力90kWの急速充電器を使えば、200~260km程度になるだろう。今回の実電費でも、満充電スタートからならば出力40kWの急速充電器の1回使用で450km以上、90kWで550~600km程度は走れる計算。片道200kmのドライブは余裕ということになる。

スペースも十分に広く、足元に気になる段差もないため後席は非常に居心地がいい

ヒョンデ アイオニック5はどんなEVだった?

テストを監修した自動車ジャーナリストの石井昌道氏

 日本市場に再参入したヒョンデはEVとFCEVのゼロエミッションカーでの展開となった。アイオニック5はデザインが特徴的で、路上を走っていても周囲からの視線を感じ、サービスエリアなどでは話かけられることもしばしば。存在感の高さの表れでもある。ハードウエア的にも優秀で、バッテリー容量と車両重量、パワー&トルクのわりにWLTCモード電費が良く、今回のテストでもそれが正しいことが証明された。テスト車はAWDでパワー&トルクが大きい最上級グレード。0-100km/h加速5.2秒と俊足で走りも頼もしい。想像以上の実力なのだ。

アイオニック5 ラウンジ AWD

  • ■全長×全幅×全高:4635×1890×1645mm

■ホイールベース:3000mm

■車両重量:2100kg

■バッテリー総電力量:72.6kWh

■システム最高出力:225kW(305ps)/2800-8600rpm

■システム最大トルク:605Nm/0-4000rpm

■サスペンション前/後:ストラット/マルチリンク

■ブレーキ前/後:Vディスク/ディスク

■タイヤ前後:255/45R20

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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