新車試乗レポート
更新日:2022.03.16 / 掲載日:2022.03.05
プロトタイプ試乗で垣間見たトヨタbz4Xの実力【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●トヨタ
いよいよトヨタの本格量産EVが登場する。bZ4Xという車名は、脱炭素を語るときにゼロエミッションの先にあるbeyond ZERO=bZと、大きさや車格を表す4、クロスオーバーSUVのXが組み合わされたものになる。今後もトヨタのEV専用車はbZシリーズとなり、もう少し小さいクロスオーバーSUVであればbZ3Xになったり、セダンやハッチバック、あるいはクーペなどならばXにかわるアルファベットが付くことになるのだろう。

bZ4Xはスバル・ソルテラとの共同開発。86/BRZでは、トヨタが企画やデザインを、スバルが開発・生産を担当し、それぞれに味付けをかえて個性を出していたが、bZ4X/ソルテラではトヨタにスバルのエンジニアに来てもらって共同開発し、生産はトヨタとなっている。エンジニアの人数はトヨタとスバルで半々であり、この分野はどちらかが担当などという区分けもないまま、とにかくいいEVを一緒に造ろうと始まったという。しかしながら開発が進んでいくうちに、AWDに関しては知見が多いスバル側のエンジニアが主導するカタチにはなったようで、だからこそbZ4XでもスバルAWDに用いられる名称であるX-MODE(路面状況に応じてモードを選択すれば適切に駆動配分をコントロール)があるわけだ。逆に、バッテリーやモーターなどの電気系に関してはトヨタのほうが知見・実績が格段に多いため、主導するカタチになっただろうことは想像に難くない。ちなみに、ADASはトヨタ生産ということもあってTSS(Toyota Safety sense)が全車に採用される。



ボディサイズは全長4690×全幅1860×全高1600mm、ホイールベース2850mmで、RAV4に比べると全長+90mm、全幅+20mm、全高-60mm、ホイールベース+160mmとなる。ワイド&ロー、ショートオーバーハング&ロングホイールベースのシルエット。EVらしさは、ラジエターグリルがなくスリークなフェイスマスクになったことなどで表現されているが、それほど翔んだ印象はなく、ある意味常識的で都会も自然も似合う逞しいSUVといったイメージだ。インテリアはプジョーのi-Cockpitのようにメーターが上部の遠くに位置するのが目をひく。EVだからボンネットは低くなり、それに合わせてインパネを薄くしたことで、前後の広がり感が演出されているのが特徴だ。



バッテリー容量は71.4kWhで航続距離はFWDで500km前後だという(AWDは450km程度か?)。別の連載であるEVテストでは、現在日本で販売されているほとんどのEVの実電費を計測し、急速充電なども使っているが、bZ4Xぐらいの大きさ、車両重量で、70kWh前後のバッテリー容量というのは、現実的で実用性も高いど真ん中のように思える。同時期にデビューとなった日産アリアやヒョンデIONIQ5なども、ほぼ同じようなバランスにあることからみても、現在のバッテリー技術ではここら辺がいい落とし所ということだろう。
急速充電の受け入れ能力は150kW。これまでのEVの多くは50kW程度であったのに対して高い能力がある。現在ある急速充電器の多くは出力40〜50kWのものが多く、それに対して150kWの受け入れ能力は宝の持ち腐れだが、90kWもちらほらと出始めていて普及しそうなのでそれなら意味がある。EVテストで90kWの急速充電器を使い、受け入れ能力150kWのアウディRS e-tronGTに繋いだところ30分で39.2kWhが充電できた。bZ4Xのバッテリー容量の半分以上なので航続距離250km以上分にあたる。実電費でも150〜200kmぐらいにはなりそうで、現在のEVでは十分に実用的だといえるだろう。

バッテリーはトヨタとパナソニックの合弁会社であるプライムプラネットエナジー&ソリューションズ製。セルを大型化したのが特徴で、高エネルギー密度、高出力×長寿命を実現するとともに、部品点数を減らすことでコストダウンにも貢献している。
バッテリーには温調システムが備えられ、高負荷の走行や急速充電などで温度が上がる場面では水冷で冷却。それに使うクーラントも高抵抗の専用開発だ。逆に温度が低すぎる場合は充電時に電気がうまく入っていかないので水加熱式ヒーターで温める。-20℃でも0℃まで高める能力があるという。万が一冷却液が漏れてもバッテリーパック内の部品に触れないように別室構造とされている。その他、電圧を常に多重で監視すること、衝突時の保護性能確保に寄与するパック構造など安全性の追求には余念がない。
また、バッテリーにとって経年劣化は避けられないが、寿命延伸にも取り組んでいるという。こればかりは、長年使ってみないとわからないが、素材や構造、制御などあらゆる面で容量劣化を防ぐ対策を施したとのことだ。
それでもユーザーはバッテリーの劣化に不安を抱くかもしれない、ということでbZ4Xは全数リースおよびKINTOでの販売とするそうだ。EVはリセールバリューがよろしくないという例もあり、残価に対する不安を取り除く効果もある。またトヨタにとってもバッテリーを全数管理することで、リサイクルやリユースを推し進めやすくなり、EVをLCA(製造から廃棄までの環境評価)で有利にしていくことに取り組めるというメリットがある。

プロトタイプに試乗したところ、基本的には最新のEVとしてよく出来ていた。FWDはフロントに150kWのモーター、AWDは前後に80kWのモーターを搭載。パワーウエイトレシオ的には大きな差はないはずだが、AWDのほうが動力性能が活発に感じられた。起動トルクの大きなEVのFWDは、急加速時にトラクションが足りなくなるので絞られている印象だ。それならRWDにすればいいのにとも思うが、トヨタのユーザーはFWDに慣れているから、ということで今回はFWDを選択したとのことだった。AWDが前後ツインモーターなのでRWD化するのもそれほど難しくはないという。
AWDは、FWDをベースにリアにモーターを追加するだけではなく、わざわざ前後で同出力としたのがこだわり。相対的にリアの駆動力、駆動配分を高くすることで走破性が高まるからだ。加速時には後ろから蹴り上げられる感覚が強くて気持ち良く、またコーナー進入時にも安定感があって操りやすかった。
モーター駆動だから0−80km/h程度までは強大なトルクが感じられるが、それ以上ではだんだんと頭打ちになってくる。それでも実用車としては十二分な速さだが、ハイパフォーマンスEVなどを体験したことがあれば、物足りなく感じるかもしれない。トヨタのエンジニアも「テスラのようなWow!を求めたモデルではありません」とのことだった。
シャシー性能もさすがは低重心で重量配分も良好なEVでハイレベルだった。レクサスISやNXと同様にホイールの固定方式がボルト式となっており、締結剛性が高いこともハンドリングのポテンシャルを引き出しているようだ。微舵域から反応が良く、ステアリングを切り増していったときにはリニアなフィーリングがある。乗り心地はソフトタッチでありながら安定感もあるといった印象だったが、今回はサーキットの綺麗な路面だったのでリアルワールドに出てみないと本当のところはわからない。
発売は年央の予定。一般道で市販車に試乗するのがいまから楽しみな一台だ。