新車試乗レポート
更新日:2022.03.16 / 掲載日:2022.02.26
【試乗レポート トヨタ ノア・ヴォクシー】これがトヨタの本気! 最新装備全部入りの大進化

文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス
基本設計を共用する兄弟車であるトヨタ「ノア」と「ヴォクシー」は、実質的に2021年に日本でもっとも多く売れたミニバンです。年間でヴォクシーは7万85台、ノアは4万4211台を販売。合計すれば11万4296台(さらにもう1台の兄弟車「エスクァイア」も加われば12万6778台)となる超人気モデルと言っていいでしょう。
2021年通年での車名別新車販売ランキングでミニバンのトップはトヨタ「アルファード」で9万5049台。そこへ兄弟車の「ヴェルファイア」を足しても10万1791台ですから、兄弟車を含めたカウントとなるとノア/ヴォクシーがミニバンの人気ナンバーワンとなるのです。
外観は3タイプ。シリーズ初の「ハイブリッド+4WD」が登場

そんなノア/ヴォクシーが7年ぶりのフルモデルチェンジを果たしました。まず意外だったのは、車種が統合されなかったこと。人気コンパクトカー「ルーミー」の兄弟車「タンク」やハイエースの兄弟車「レジアスエース」が廃止されるなど、昨今のトヨタは販売チャンネル制をやめて全店舗全車種扱いへと切り替えたことで兄弟車がどんどん減っていますが、ノアとヴォクシーは統合されることなく継承。外観のデザインはノアが標準仕様とエアロ仕様で計2タイプ、ヴォクシーはエアロ仕様のみで1タイプです。つまり、好みで選べる合計3タイプが、同じ店舗に並ぶこととなるというわけです。
開発者によると「ヴォクシーは一定の人気があるので新型にも用意した。しかしノアと並べて販売されることになるので、これまで以上に冒険してデザインをノアと差別化。より個性を求めるお客様に向けた」そうです。
パワートレインはガソリン車とハイブリッドがあり、いずれも駆動方式はFFと4WDが選択可能。先代にはなかったハイブリッド4WDが加わったことで、選択肢は大きく増えました。これは降雪地域のユーザーにとって大歓迎されるのではないでしょうか。

「ここまでやるか!」というほどの充実装備。ハンズオフ機能など先進安全システムも大幅にパワーアップ

そんな新型ノア/ヴォクシーで何より驚いたのは、開発陣の意気込み。具体的にいえば、新メカニズムとアイデア装備の充実度ぶりです。
メカニズムでいえば、デザインだけでなくプラットフォームもパワートレインもほぼ全面的に刷新。変わっていないのはハイブリッド車のエンジンくらいですが、それも細かく言えば中身は大幅に設計変更されていて決して“従来型そのまま”ではありません。ちなみにハイブリッドシステムは“第5世代”と呼ばれる、全面新開発となり現行型「プリウス」に対しても1世代あたらしいノア/ヴォクシーでデビューした最新ユニットを組み合わせています。
また、トヨタとしては最新鋭の先進安全システムや運転支援技術を惜しみなく投入したのも大きなトピック。オプション(仕様により異なり約9~14万円)とはなるもののスマホを使って車外から駐車(&駐車スペースからクルマ出し)に加え、渋滞した高速道路(時速40km/h以下)でハンドルから手放しての運転を実現するハンズオフ機能など、トヨタやレクサスの量販車としてははじめてとなる最新機能まで盛り込んできたことに驚くばかりです。ここまでの「先進機能てんこ盛り」状態とは、はっきりいって想定外でした。トヨタのなかでも、700万円を下回る価格でここまで先進装備は搭載されている車種はほかにないといえば、今度のノア/ヴォクシーの先進技術がいかにすごいのか伝わるでしょうか。



ハンドルを手放して運転できる機能などは、常識的に考えればノアやヴォクシーの前に「クラウン」や「アルファード」といった高額車に搭載されるはず。そんなトヨタの社内的ヒエラルキーに基づく順番を気にせず搭載を決断したことがサプライズだったし、開発陣の「ファミリーに広く使われるこういうクルマだからこそ、最先端の安全装備と運転サポート機能を届けたい」という決意を感じられました。
余談ですが、それらの最先端装備を搭載するため(先進装備系の開発タイミングと車両発売の時期を合わせるため)に発売は「当初の予定よりも半年遅らせた」のだそうです。
また、途中で開くのを止めてその位置で固定できるテールゲートや、リーズナブルな価格(3.3万円)でオプション追加できるスライドドア部足元の可動式ステップなど、これまでありそうでなかった便利機能も盛りだくさん。「そこまでやるか!」というのが正直な印象です。






ハイブリッドの快適さは感動的。予算が許すなら積極的に選びたい

印象といえば、試乗しても第一印象もサプライズでした。
運転席に座って走り始めると、とにかく視界が広くて開放的。まっすぐ前方はインパネ上面とフロントウインドウの下端が低いから大パノラマで車体感覚がつかみやすく、また斜め前方の視界も良好。フロントウインドウの左右にあるAピラーを細くして三角窓を大型化したうえでAピラーの角度を工夫したことでAピラーが邪魔になりにくく、たとえば交差点を曲がる際には死角が少ないから歩行者の確認がしやすくて、それも運転しやすさに直結しているのです。
そういった運転しやすさは、新型ノア/ヴォクシーのライバルに対する大きなアドバンテージですね。
ハイブリッドではない“ガソリン車”を運転していて感じたのは、従来よりもアクセル操作に対する加速感が自然であると同時に、「静か」だってこと。ファミリーカーとして使われるミニバンは特に、静かなことで同乗者の快適性を高めてくれる大きな要素です。
もちろん乗り心地もしなやかで、これは新採用されたプラットフォームの能力の高さが効いているのでしょう。ちなみにフロア(車体の骨格に相当する床)がすべて刷新されたのは、2001年にFFプラットフォームで搭乗した初代ノア以来はじめて(先代までは基本プラットフォームが世代交代してもそのリヤフロアを活用していました)。そんな意味でも、新型の進化幅は大きいのです。
正直なところガソリン車試乗時は「ハイブリッドではなくガソリン車で十分ではないか」と思ったのですが、ハイブリッド車に乗ると「やっぱりこっちがいい」と感じました。その理由は快適性が高いから。停車状態、そして発進から低速域にかけてはバッテリー残量さえあればエンジンを止めたまなのでエンジンに起因する音や振動がなく、ドライバーとして心地いいし同乗者だって快適に感じることでしょう。
そのうえトヨタの中でも最新で新世代型となったハイブリッドは「燃費はいいけどアクセルを踏んでから加速するまでに感覚的なズレがあって違和感が拭い切れない」という従来の印象から、「アクセル操作に対する反応が良くなって運転が心地いい」へと進化。もちろん燃費も良好です。
懐に余裕があれば、ハイブリッド車がおすすめです。燃費が良くなったことによるガソリン代の軽減で新車価格差を取り戻すのは難しいですが、購入時やその後の減税・免税措置や次に買い替える際の下取り査定額まで考えれば、価格差はぐっと縮まり、状況によっては逆転することも考えられます。だから、ハイブリッドがおすすめなのです。
トヨタ ヴォクシー ハイブリッド S-Z(電気式CVT・7人乗り)
- ■全長×全幅×全高:4695×1730×1895mm
- ■ホイールベース:2850mm
- ■車両重量:1670kg
- ■エンジン:直4DOHC+モーター
- ■総排気量:1797cc
- ■エンジン最高出力:98ps/5200rpm
- ■エンジン最大トルク:14.5kgm/3600rpm
- ■モーター最高出力前:95ps
- ■モーター最大トルク前:18.9kgm
- ■ブレーキ前後:Vディスク
- ■タイヤ前後:205/55R17
- ■新車価格:309万円-396万円(ヴォクシー全グレード)