新車試乗レポート
更新日:2023.05.09 / 掲載日:2021.10.19

【アウディ e-tron】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス

 欧州や中国では、クルマを取り巻く環境や政府の補助金政策なども追い風となり、EV(電気自動車)のセールスが急伸。そうした中、近い将来、EV専業へと舵を切ることを決定・発表するブランドも増えている。対する日本も、普及はまだまだこれからという状況ながら、新しいEVが続々と登場してきた。そうした情報を耳にし、「そろそろかな」とEVが気になり始めている人も多いのではないだろうか?

 とはいえエンジン車とは異なり、EVの所有はハードルが高いのも事実。航続距離や充電効率、使い勝手などは車種によって大きく異なるため、どんなモデルが自分にとってベターな選択なのか、見分けるのはまだまだ難しい。

 本連載は、EVや自動運転車といったクルマの先進技術に造詣が深い自動車ジャーナリスト・石井昌道氏の監修・解説の下、各社の注目モデルを毎回、同様のルートでテスト。実際の使用状況を想定した走行パターンでチェックすることで各モデルの得手不得手を検証し、皆さんの“EV選びの悩み”を解決することを目的とする。

 今回採り上げるのは、“Vorsprung durch Technik=技術による先進”というスローガンを掲げるアウディにおいて、初の量産EVとなった「e-tron(イー・トロン)」。アウディEVモデルの口火を切った本モデルは、続々と登場する強力なライバルに対してどのようなアドバンテージを有しているのだろうか?

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アウディ e-tronのプロフィール

アウディ e-tron クワトロ アドバンス

 生産などの都合により先行上陸を果たした「e-tronスポーツバック」から遅れること約4カ月。2021年1月にアウディ初の量産EVである「e-tron」がようやく日本の地を踏んだ。

 アウディは2021年、「e-tron GT」、「RS e-tron GT」、「Q4 e-tron」、「Q4 Sportback e-tron」という新しいEVを続々と発表。さらに2025年までに、20モデル以上のEVをラインナップすることを計画している。この急進的なEV化の第一歩となったのが、2018年9月に本国デビューを果たした「e-tron」なのである。

 マーケットニーズにより、中国市場では2033年以降も現地生産されたエンジン搭載車が供給される可能性があるとの断りこそあったものの、アウディCEOのマルクス・ドゥスマンは、2026年以降、世界市場に導入するニューモデルをすべてEVにすると明言している。それを受け、アウディ内部ではある種の“構造改革”が進んでいる。EVのデビュー作ともいうべきe-tronとそれをベースとするクーペSUV・e-tronスポーツバックは、エンジン搭載車である「A4」や「Q8」などと“MLB evo”プラットフォームを共用しているが、2021年登場のe-tron GTやQ4 e-tronなどには、すでにEV専用プラットフォームを導入済み。今後、市場投入される新しいEVも、そうした専用プラットフォーム上に構築されることだろう。

 先日取り上げたe-tronスポーツバックは“55クワトロ”と呼ばれる高性能版のパワートレーンを搭載。95kWhという大容量バッテリーの恩恵で、満充電時はWLTCモードで405kmという航続距離を記録した。またクワトロを名乗るだけあって、前後アクスルに1基ずつモーターを搭載した4WDレイアウトを採用。システム最高出力は408ps、システム最大トルクは67.7 kgmで、0~100km/h加速は最速5.7秒をマークする。

 それに対し、今回の試乗車である「e-tron 50クワトロ アドバンスト」は、その名の通り“50クワトロ”と呼ばれるパワートレーンを搭載。駆動用バッテリーの容量は71kWh、満充電時における航続距離はWLTCモードで335km、システム最高出力は313ps、システム最大トルクは55.1kgmをマークし、0~100km/h加速は6.8秒でクリアする。“50クワトロ”は“55クワトロ”のデチューン版ではあるものの、それでも十分な動力性能を獲得していることがうかがえる。

 そんなe-tronは、4900mmという全長、1935mmという全幅こそe-tronスポーツバックと同じだが、全高はスポーツバックの1615mmに対して1630mmへとアップ。なだらかな弧を描くルーフラインを持つスポーツバックとは対照的に、いかにもSUVらしいルックスに仕上がっている。

 それによるメリットは、リアシートに座った際に実感できる。後席部の室内高は、スポーツバックの976mmに対して996mmと20mm大きく、ロングドライブ時の移動がより快適だ。またラゲッジスペースの容量も、660Lと余裕たっぷり。キャンプを始めとするレジャードライブのアシに使う場合は、スポーツバック比プラス44Lというゆとりある荷室が大きなアドバンテージとなりそうだ。

 コックピットのしつらえは、e-tronスポーツバックと同様、最新のアウディ上級モデルに通じるもの。タッチ式ディスプレイに各種操作系を集約することで、物理スイッチを減らしてスマートな空間に仕立てている。

 小型カメラと7インチの液晶ディスプレイで左右後方の状況を確認できるドアミラー代わりの“バーチャルエクステリアミラー”は、e-tronらしい先進的な装備。こうしたイマドキのEVらしい先進装備を備える点は、スポーツバックと同様だ。

 このように、EVとして目を見張る完成度を備えるe-tronだが、販売を担うディーラーの店舗改革も着々と進んでいる。インポーターであるアウディ ジャパンは、この先、市場投入するEVが100kW以上の受電に対応する見込みであることから、2022年の第2四半期より、全国の正規販売店にCHAdeMO規格150kWの高速充電器を順次設置&アップデート。併せて、e-tronユーザーに対するアフターサービスの拠点である“Audi e-tron店”のネットワークを全国102店舗へと拡充すると先ごろアナウンスしたばかりだ。最速90kWの充電器と比べると、150kWの高速充電器での充電スピードは約1.66倍になることから、EVの利便性はさらに高まりそうである。

 e-tronの特設サイトには「明日を、いま選ぶ。」というキャッチコピーが踊っている。充電インフラの整備などEVを取り巻く環境は依然として課題が山積しているが、アウディはクルマ自体の進化と正規販売店の改革により、明るい明日を切り拓こうとしている。

■グレード構成&価格

・「50クワトロ」(935万円)

・「50クワトロ Sライン」(1110万円)

・「55クワトロ Sライン」(1256万円)

※試乗車は「50クワトロ アドバンスト」(参考価格:1069万円)

■電費データ

◎交流電力量消費率

・WLTCモード:222Wh/km

 >>>市街地モード:217Wh/km

 >>>郊外モード:216Wh/km

 >>>高速道路モード:229Wh/km

◎一充電走行距離 ・WLTCモード:335km

同じe-tronの「55」と比較して「50」の電費は良い?悪い?

 少し前にe-tronスポーツバックを取り上げ、またすぐにスポーツバックではないSUVタイプのe-tronをテストすることになったが、2台の違いはボディだけではない。e-tronスポーツバックは55クワトロ1stエディション、今回のe-tronは50クワトロ アドバンス。

 55と50の違いはバッテリー容量、モーターの最高出力および最大トルク、車両重量などだ。それが電費にどう影響するのかが気になり、テストに連れ出した。

 制限速度100km/h区間のその1とその4は55が4.2km/kWhと4.6km/kWh、50が4.6km/kWhと4.6km/kWh、制限速度70km/h区間のその2とその3は5.6km/kWhと4.9km/kWhm、50は5.5km/kWhと5km/kWhという結果だった。

 その3が両車とも制限速度が低いわりには電費が伸びていないのは、奇しくもどちらのテスト時も工事区間が長く、渋滞によるストップ&ゴーがあったからだ。

 その1での差が比較的に大きいが、55のテスト時は交通量が少なく、制限速度付近をキープできる時間が長く、必然的に低い数値だった。

 以上のことを踏まえてデータをみると、両車で電費はほぼ同等と見ていいだろう。バッテリー容量は25%程度の差があるが、車両重量は6%しか差がなく、WLTCモードの電費は55が245wh/km=約4.1km/kWh、50が237wh/km=約4.2km/kWhなのでわずか3.3%の差。交通状況や走り方、気温など外的要因で簡単に逆転が起きる程度の差であり、公道のテストでほぼ同等となったのは妥当なところだろう。

重量級のe-tronにとって過酷な山道。だが下り坂では良好な回生データが

 ワインディングロードのテストは、電費にフォーカスを当てているEVテストとしては13.782kmの距離のなかで標高差が963.6mもあるターンパイクの上りと下りでどんな差がつくのかをみている。下り区間の回生でエネルギーを取り戻すことができるというのがEVの魅力の一つでもあり、EVのユーザーならば航続可能距離やバッテリーの%表示が増えていくことに快感を覚える人も多いことだろう。

 上りの電費は1.3km/kWhで55と同数値。今回のテスト日は標高が高いところで霧が発生していて、極端にペースを落とした他車に引っかかるなど速度変動が避けられなかった。平均速度は低めだが、電費的には無駄な加速・減速が入っているので電費は少し悪かったと推測できる。いずれにせよ、どのEVでもここの上り区間での電費は良くはなく、軽量級で電費自慢のモデルでも2.0km/kWhかそれをちょっと上回るぐらい。2tを大きく超えた重量級では1.3〜1.4km/kWhといったところだ。

 下りでは電費計からの推測値で4.0kWh分を回生できた。メーターに表示される航続可能距離は84kmから131kmへ、バッテリー容量は37%から43%にそれぞれあがった。55の2.74kWh回生に比べるとずいぶんと良好だが、この区間はかなり安定したペースで走れるので、走り方による差は少ないはず。なぜ差がついたか断言できる根拠を持っていないのであくまで参考値としておきたい。

自動車専用道路である箱根ターンパイク(アネスト岩田ターンパイク)を小田原本線料金所から大観山展望台まで往復した

WLTCモード燃費にほぼ近いデータが導かれた

 一般道での電費は3.7km/kWhで、55の4.1km/kWhに比べると少し伸び悩んだといえる。だが、一般道は信号や交通状況による影響が大きく、電費のバラツキがもっとも大きいステージなので、これぐらいはあたりまえに起きるとみていいだろう。55の電費はWLTCモードとぴたりと一致していたのだが、今回は対WLTCモード電費に対して88%。エンジン車やハイブリッドカーではカタログ燃費と実燃費の乖離が大きく、一般的には70〜80%ぐらいと言われているから、EVは優秀だともいえる。エンジン車のように低速域の街中で燃費が落ち込みやすいということがないEVの強みもみてとれるのだ。

 55との比較では、電費の差はほとんどなかった。長い航続距離やパフォーマンスの高さで55を選択したいけれど、重くなるから電費は悪いんじゃないか、と心配しているのなら、気にするほどの差はないと言っていい。価格の差はe-tron50クワトロS Lineが1100万円、e-tron55クワトロS Lineが1256万円なので156万円となっている。

東名横浜青葉ICから環八の丸子橋まで約23kmの距離を走行した

CHAdeMO 90kWをフルに受け入れることはできないが、アウディディーラーに展開予定の高性能充電器に期待

海老名SAでの急速充電テスト ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

 スタート地点でのバッテリー容量は90%、航続可能距離262kmだったが、テスト中の充電は復路の海老名SA一度で済ませた。156kmを走行してバッテリー容量33%、航続可能距離118kmとなったところで充電開始。出力90kWの急速充電器を30分間使用して、充電器の表示で21.1kWh分が充電された。52kW程度の出力が出ていた。バッテリー容量は64%へ、航続可能距離は195kmまで回復。今回の試乗車はクルマ側がCHAdeMOの90kWをフルに受け入れる仕様になっておらず50kW程度なので、30分の急速充電で約80km走行分しか充電できないのは、少し物足りないかもしれない。

 このEVテストのように1日に200km程度のドライブならばまったく問題ないが300km、400kmと距離を伸ばしたのであればもう少し急速化して欲しいところだろう。ただし、アウディは全国102店舗に拡充されたe-tron販売店に、2022年第2四半期から出力150kWの急速充電器を順次設置していく予定としている。それを使えば今回の充電の約3倍、4km/kWhの電費で30分で約240km分が充電できることになるので利便性は大いにあがるだろう。高速道路でも3時間近く走れるから、十分なはずだ。また、90kWの急速充電器でもクルマ側の受電能力がフルになれば約144km分が充電できる計算だ。

後席足元チェック。床はフラットで前席シートとの間隔も広く、非常に快適であった

アウディ e-tronはどんなEVだった?

テストを監修した自動車ジャーナリストの石井昌道氏

 e-tronスポーツバック55クワトロ1stエディションも、その洗練された上質な乗り味に感銘を受けたが、それは今回のe-tron50 クワトロ アドバンスでもかわりなかった。ドライブトレーンやサスペンションなど、走っているときに可動する部分のフリクションが極めて低く感じられ、いかにも精度の高い優れた工業製品だという印象があるのだ。最近のアウディ車全般に見られる特徴だが、スムーズでシームレスなEVになるとその美点はなおのこと強調される。プレミアムブランドのEVのなかでも、もっとも上質で高級感のあるモデルだろう。55に対して車両重量が160kg軽い50は、電費ではあまり差がつけられなかったものの、ワインディングロードでの走りには軽快感があり、そこは50ならではの魅力だった。

e-tron 50クワトロ アドバンスト バーチャルエクステリアミラー仕様車(71kWh)

■全長×全幅×全高:4900×1935×1630mm
■ホイールベース:2930mm
■車両重量:2400kg
■バッテリー総電力量:71kWh
■モーター定格出力:165kW
■システム最高出力:313ps
■システム最大トルク:55.1kgm
■サスペンション前/後:ウイッシュボーン/ウイッシュボーン
■ブレーキ前/後:ディスク/ディスク
■タイヤ前後:255/50R20

取材車オプション
■コンフォートパッケージ(バルコナレザー/ミラノレザー、コンフォートシート、シートメモリー<フロント>、シートベンチレーションマッサージ機能、エクステンディッドフルレザーパッケージ、サンブラインド<リアドア/手動>、エアクオリティパッケージ、ミュージックインターフェイスリヤ、シートヒーター<リヤ>、4ゾーンオートマチックデラックスエアコンディショナー、コンフォートセンターアームレスト)、バーチャルエクステリアミラー、アシスタンスパッケージ(アダプティブドライブアシスト/エマージェンシーアシスト、アダプティブウィンドウワイパー、アウディプレセンスパッケージ<リヤシート>/リヤ再度エアバッグ、フロントクロストラフィックアシスト、マトリクスLEDライト/ダイナミックターンインディケーター)、サイレンスパッケージ(プライバシーガラス、アコースティックガラス、Bang&Olufsen 3Dサウンドシステム<16スピーカー>、パワークロージングドア)

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1977年の中古車情報誌GOOの創刊以来、中古車関連記事・最新ニュース・人気車の試乗インプレなど様々な記事を制作している、中古車に関してのプロ集団です。
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また、最新情報としてトヨタなどのメーカー発表やBMWなどの海外メーカーのプレス発表を翻訳してお届けします。
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