新車試乗レポート
更新日:2023.05.09 / 掲載日:2021.09.01

【第10回 ジャガー I-PACE】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス

 欧州や中国では、クルマを取り巻く環境や政府の補助金政策なども追い風となり、EV(電気自動車)のセールスが急伸。そうした中、近い将来、EV専業へと舵を切ることを決定・発表するブランドも増えている。対する日本も、普及はまだまだこれからという状況ながら、新しいEVが続々と登場してきた。そうした情報を耳にし、「そろそろかな」とEVが気になり始めている人も多いのではないだろうか?

とはいえエンジン車とは異なり、EVの所有はハードルが高いのも事実。航続距離や充電効率、使い勝手などは車種によって大きく異なるため、どんなモデルが自分にとってベターな選択なのか、見分けるのはまだまだ難しい。

本連載は、EVや自動運転車といったクルマの先進技術に造詣が深い自動車ジャーナリスト・石井昌道氏の監修・解説の下、各社の注目モデルを毎回、同様のルートでテスト。実際の使用状況を想定した走行パターンでチェックすることで各モデルの得手不得手を検証し、皆さんの“EV選びの悩み”を解決することを目的とする。

今回フォーカスするのは、2018年秋に日本市場でお披露目されたジャガー初のEV「I-PACE」。EV専業のテスラを除いて、プレミアムブランドのラグジュアリーEVとしては真っ先に登場したこのモデルは、今でも高い商品力を備えているのだろうか?

【第1回 日産 リーフe+】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

【第2回 日産 リーフNISMO】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

【第3回 マツダ MX-30】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

【第4回 ホンダ e】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

【第5回 プジョー e-2008】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

【第6回 BMW i3】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

【第7回 テスラ モデル3】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

【第8回 レクサス UX300e】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

【第9回 メルセデス・ベンツ EQA】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

 

ジャガー I-PACEのプロフィール

ジャガー I-PACE HSE

ジャガー I-PACE HSE

 I-PACEというモデルは、ジャガーにとって自ブランド初のEVであると同時に、未来の行く先を描いた重要な存在でもある。

イギリスに本拠を置くジャガー・ランドローバー社のティエリー・ボロレCEOは、2021年2月、「ジャガーは2025年からフルEVブランドにしていく」と発表。続く2030年にはラインナップのフルEV化を完了させ、新車セールスの100%をEVにすると表明した。ジャガーがこうした急進的なビジョンを打ち出したのは、初めてのトライとなったEV=I-PACEへの自信の表れともいえるだろう。

ジャガーは初めての自ブランドEVを世に送り出すに当たって、エンジン車とは共通点のない専用のプラットフォームを開発した。それによって具現されたひとつが、ボンネットが短くキャビンが長い、I-PACE独特のキャビンフォワードフォルムだ。ジャガーといえば、フロントエンジン/リアドライブ車らしいロングノーズのプロポーションがひとつの個性になっていたが、I-PACEはエンジンやトランスミッション、プロペラシャフトを必要としないEVの構造的特徴を活かし、従来のとは全く異なる斬新なシルエットを手に入れた。

さらに専用プラットフォームは、フットワーク面においても変革を起こした。I-PACEは車重2200kgオーバーという重量級ながら、大容量の90kWhバッテリーを車体の低い位置に搭載することで低重心化を追求。また、前後重量配分は理想的な50:50を実現している。この低重心化と重量バランスの最適化は、EV専用プラットフォームの利点をフルに活かして実現したもの。その結果、背が高いというハンデを持ちながら、サーキット走行も苦にしない軽快なフットワークを身に着けた。

I-PACEは動力性能においても注目すべき存在だ。モーターは前後アクスルに1基ずつ、計2基搭載。システムトータルで400psの最高出力と71.0kgmの最大トルクを発生し、4本のタイヤを駆動する。この強力な動力源により、0-100km/h加速は4.8秒と駿足だ。

そんなI-PACEの素性を物語るのが車名である。“PACE”という4文字を冠していることからも明らかなように、このモデルはジャガーのSUVラインに属すモデルだ。全長4695mm、全幅1895mm、全高1565mm、ホイールベース2990mmと、このクラスのSUVとしては全長が短く背も低いが、キャビンは広々としている。フロア下にバッテリーを積むものの室内高はしっかりと確保され、ジャガーの従来型セダンでは味わえない開放感も味わえる。また、走りにおいてもSUVらしさが追求されており、ロードクリアランスを拡大できるエアサスペンション装着車の場合、水深50cmほどの川ならば苦もなく渡ることができるのだ。

ちなみにラゲッジスペースは、リアシートの背後に656Lを確保。また、エンジンやギヤボックスが存在しないEVのメリットを活かし、フロントのボンネット下にも27L分を用意する。大容量バッテリーによって航続距離は438kmと十分だから、キャンプを始めとするアウトドアレジャーのアシとしても活躍しそうだ。

■グレード構成&価格
・「S」(1005万円)
・「SE」(1093万円)
・「BLACK」(1139万円)
・「HSE」(1221万円)

■電費データ
◎交流電力量消費率
・WLTCモード:224Wh/km
>>>市街地モード:非公表
>>>郊外モード:非公表
>>>高速道路モード:非公表

◎一充電走行距離
・WLTCモード:438km

 

 

高速道路での電費をチェック! 大容量バッテリー搭載の高性能モデルとして納得のデータ

高速道路での電費テストデータ ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

高速道路での電費テストデータ 天候:曇り 「高速その1」時間:6:08-6:32、気温27度、「高速その2」時間:6:38-7:11、気温27度、「高速その3」時間:10:46-11:26、気温28度、「高速その4」時間:12:13-12:29、気温30度 ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

 当EVテストは、なるべく身近なモデルから取り上げ始めた。日産リーフ、マツダMX-30 EV、ホンダeなどの国産車から取りかかり、輸入車でもプジョーe2008、BMW i3などを先に取り上げた。身近=手の届きやすい車両価格のモデルは、コンパクトでバッテリー容量はそれほど大きくないから軽量であり、電費はいいはず。航続距離は短いかもしれないが、重くて電費が悪いEVよりも、一定の正義があるように思えるのだ。

その一方で、やはりある程度は航続距離がないと不便で大きな普及は見込めない。レクサスUX300e、テスラ・モデル3(スタンダードプラス)はやや大きめで、メルセデス・ベンツEQAはもう少し上乗せといった中間的なバッテリー容量および重量といったところだ。

だが、テスラ・モデルSに端を発する大容量バッテリー、ハイパフォーマンスなモデルは、付加価値が高く、高価だとしてもEVとしては人気が見込めるモデルだ。環境対応車は普及して数が増えなければ意味がないので、そこにも一定の正義はあるだろう。

今回からは大容量バッテリーを搭載した欧州プレミアムブランドの、テスラキラーともいえるモデル達をとりあげていく。その先鋒がジャガーI-PACEだ。100km/h制限区間の高速その1は4.3km/kWh、その4は4.57km/kWh、70km/h制限区間のその2は5.29km/kWh、その3は5.24km/kWhと、やはりこれまでテストしたモデルのなかでは電費は良くはない。だが、2250kgの車両重量で、400PSのハイパフォーマンスを考えれば悪くはなく、WLTCモードで438km走れるのはやはり魅力だろう。

  • 往路の高速テストコース。

    往路の高速テストコース。東名高速道路 東京ICからスタート。海老名SAまでを「高速その1」、海老名SAから厚木ICから小田原厚木道路を通り小田原西ICまでを「高速その2」とした

     

  • 復路の高速テストコース。小田原厚木道路の小田原西ICから東名厚木ICを経由し横浜青葉ICまで走行。途中海老名SAで充電を行った

    復路の高速テストコース。小田原厚木道路の小田原西ICから東名厚木ICを経由し横浜青葉ICまで走行。途中海老名SAで充電を行った

     

 

ターンパイクでの電費をチェック! 下りの回生能力に光るものを感じる

ターンパイクでの電費テストデータ ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

 ターンパイクでの電費テストデータ 天候:曇り「ターンパイク上り」時間:7:22-7:40、気温28度、「ターンパイク下り」時間:9:53-10:10、気温21度 ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

 ターンパイクの上り区間での電費は1.45km/kWhと、これまでテストした全10台のなかで予想通り最下位ではあった。だが、重量を考えれば当然といったところで、むしろ思ったよりもいいかな? といったところ。

1520kgのリーフNISMOの1.8km/kWh、1540kgのホンダeの2.1km/kWhと比較すれば健闘しているとも言える。たった13.5kmの距離で標高が990.8mもある区間では重量がもろに電費に効くからだ。下りでの回生量は電費計から推計すると2.72kWh分で、これはかなりいい部類。前後にモーターをもつAWDだから効率よく回生できているものと思われる。リーフe+とリーフNISMOはもっといい数値が出ているのだが、ワインディング下りでの走り方とデータの取り方および計算方法が、いまよりも厳密ではなかったため機会をみてもう一度テストしてみたいのが正直なところではある。

自動車専用道路である箱根ターンパイク(アネスト岩田ターンパイク)を小田原本線料金所から大観山展望台まで往復した。

 

自動車専用道路である箱根ターンパイク(アネスト岩田ターンパイク)を小田原本線料金所から大観山展望台まで往復した

 

 

一般道での電費をチェック! ハイパフォーマンスカーでありながら電費の悪化は抑えられている

一般道での電費テストデータ ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

一般道での電費テストデータ 天候:曇り 「一般道」時間:12:53-14:08、気温30度 ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

 これまで5回×2台、計10台のEVテストをしてきてわかった傾向は、ストップ&ゴーおよび速度変動の多い一般道では、車両重量が電費に与える影響を大きく受けるということだ。

速度変動が少ない高速巡航では、車両重量の影響はもちろんあるものの一般道ほどではなく、走行抵抗の善し悪しが効く。それを考慮したうえでI-PACEの4.29km/kWhは妥当な電費といっていいだろう。電費を重視して超軽量に仕上げ、極細の専用タイヤを履くBMW i3などはさすがに良好で7.5km/kWhを記録。とはいえダブルスコアまではいっていない。エンジン車のハイパフォーマンスカーとエコカーだったらもっと差がつくことだろう。EVがエンジン車に対してもつ大きなメリットは、速度域が下がりストップ&ゴーも多い一般道での電費が、高速道路に対しての悪化率が低いことであり、I-PACEにもそれは当てはまるとみることもできる。

東名横浜青葉ICから環八の丸子橋まで約23kmの距離を走行した

 

東名横浜青葉ICから環八の丸子橋まで約23kmの距離を走行した

 

 

急速充電器テスト! 90kWhならではの航続距離の長さは魅力。今後、充電器の進化にも期待

海老名SAでの急速充電テスト ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

海老名SAでの急速充電テスト ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

 復路の海老名サービスエリア到着時のメーター上のバッテリー残量は49%、航続距離は177km。さすがに90kWhの大容量バッテリーなので余裕があるが、急速充電することにした。現在のCHAdeMOのなかでは大出力の90kWタイプを使用したが、これにクルマ側の充電器がきちんと対応しているのはいまのところリーフe+しかなく、I-PACEもCHAdeMOにはそこまで対応していないのだが、54kWほどの出力で充電されていき、30分で25.8kWh分が充電された。同時テストのEQAは40kWタイプで18.2kWhだったから、90kWタイプをフルに生かせていないものの、使う意味はある。

バッテリー残量は75%、航続可能距離は284kmまで回復している。100km強分の電力を得たわけだが、I-PACEも欧州の急速充電器ならばもっと入るはず。大容量バッテリーのモデルが増えていくならば、大出力の充電器および車両とのマッチングが図られることを期待したい。それが実現すれば、航続距離や充電のジレンマがかなり解消され、いまのI-PACEのスペックでも満足度の高いEVとなる。

利便性が高い反面、大容量バッテリー=重量増=電費はあまり期待できないというのが環境対応的にどうなんだろうと考えさせられるところだが、あんまりにも切り詰めすぎて必要最小限のバッテリー容量にすると、バッテリーを酷使しかねないということも考えられる。それよりも、余裕をもった容量にしておけば、SOC(充電量)の上限や下限を攻めて使う必要がなくなり、寿命が有利になるかもしれない。大容量ならパワー密度を追わずエネルギー密度重視でも十分にパワフルだということもある。そういったバランスの見極めも重要になりそうだ。

後席足元チェック! 床下はほぼフラットで前席との空間も十分用意されている

 

後席足元チェック! 床下はほぼフラットで前席との空間も十分用意されている

 

 

ジャガー I-PACEはどんなEVだった?

テストを監修した自動車ジャーナリストの石井昌道氏

テストを監修した自動車ジャーナリストの石井昌道氏

 軽量コンパクトで航続距離は短いけれど電費はいいシティコミュータ型EVと大容量バッテリーで長い航続距離を誇り、電費は良くはないけれど速さも魅力のハイパフォーマンス型EV。どちらに正義があるのか真面目に考えさせられるのだが、I-PACEのステアリングを握って様々なシーンを走らせれば、そんなことは頭から吹っ飛んでしまう。自動車本来の走る歓びに満ちていて、どこまでも足を伸ばしていきたくなるからだ。加速感やハンドリングなどに、紛れもないジャガーネスが表現されていて、エンジンがなくともしっかりとしたブランドアイデンティティが感じられる。

航続距離や電費などよりも、じつはここが来るEV時代にとってもっとも大切な部分であり、各メーカーの競争領域になる予感がした。長く走れて走りが良くても、重いんじゃねぇ……と悩むのも、本格普及前夜のいまだけのことかもしれない。このままバッテリーが進化して同じエネルギー密度で軽量になり、充電インフラなども整えば、一気に解決しないとも限らない。そうなったときには、自動車本来の魅力が大きいモデルが生き残っていくはずだ。

ジャガー I-PACE HSE(90kWh)

EV 400PS(エアサスペンション仕様) HSE

■全長×全幅×全高:4695×1895×1565mm
■ホイールベース:2990mm
■車両重量:2240kg
■バッテリー総電力量:90kWh
■モーター定格出力:非公表
■システム最高出力:400ps
■システム最大トルク:71.0kgm
■フロントモーター最高出力:200ps
■フロントモーター■最大トルク:35.5kgm
■リアモーター最高出力:200ps
■リアモーター最大トルク:35.5kgm
■サスペンション前/後:ダブルウイッシュボーン/インテグラルリンク
■ブレーキ前後:Vディスク
■タイヤ前後:245/50R20

取材車オプション
■メーカーオプション:4ゾーンクライメートコントロール、空気イオン化テクノロジー、電子制御エアサスペンション、アダプティブダイナミクス、グローブボックス(クーラー&ロック付)、20インチ6スポーク”スタイル6007″(ダイヤモンドターンド フィニッシュ)、ステアリングホイール(スエードクロス)、ブラックエクステリアパック、ヘッドアップディスプレイ、固定式パノラミックルーフ、プライバシーガラス 、トレッドプレート(メタル、イルミネーション機能 & JAGUARスクリプト付)、コンフィギュラブルアンビエントインテリアライティング 、アクティビティキー、カーペットマット、アダプティブサーフェイスレスポンス (AdSR) 、トリムフィニッシャー(モノグラムアルミニウム)、クリック&ゴー(ベースユニット) 無償 ラゲッジスペースストレージレール、ヘッドライニング(エボニー、スエードクロス)、シージアムブルー

 

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グーネットマガジン編集部

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1977年の中古車情報誌GOOの創刊以来、中古車関連記事・最新ニュース・人気車の試乗インプレなど様々な記事を制作している、中古車に関してのプロ集団です。
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また、最新情報としてトヨタなどのメーカー発表やBMWなどの海外メーカーのプレス発表を翻訳してお届けします。
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