新車試乗レポート
更新日:2021.03.16 / 掲載日:2021.03.13

TOYOTA 新型MIRAI 南房総ドライブレポート

 水素を燃料として走る次世代の環境対応車として世界から注目を集めた初代ミライ。2代目となって、そのキャラクターを単なるエコカーからプレミアム&スポーティ路線へと大きくシフト。上質な走りを生み出す後輪駆動を採用し、ポストクラウンを狙う実質的なトヨタ最上級車種に成長を遂げた。今回は横浜から早春の南房総をドライブしてその実力を確かめてみた。

横浜・みなとみらいを早朝出発。当初は東京湾アクアラインで木更津を目指す予定だったが、湾岸線事故渋滞のため、横羽線へ回避して千葉回りルートに変更。その後、渋滞が解消したため、大井南から再度首都高速に乗り直して東京湾アクアラインを経由して館山自動車道、富津館山道路を使って南房総に向かった。房総フラワーラインで道の駅ちくら潮風王国周辺まで走り、海岸沿いの観光スポットを巡りながら帰路へ。再び富津館山道路~東京湾アクアラインを通り、川崎で水素ステーションに立ち寄ったあと、横浜に戻った。

極めて魅力的なクルマ!インフラ拡充だけが問題

 乗用車の未来が電動車なのは間違いない、と幾度となく語ってきたが、電源をすべて二次電池にすべきかは即答し難い。一般的なEVが短中距離向けコンパクトカーと相性がいいことの裏返しで長距離用途や大荷重車には不向き。電池容量を上げれば比例して必要な充電器容量も増大。非接触走行給電等の技術革新がなければ全自動車をEV化するのは困難だろう。
 長距離用途や大荷重車と相性に優れた電動車が水素を燃料としたFCV(燃料電池車)だ。しかも、水素充填に掛かる時間はガソリン車の給油よりも圧倒的に短い。EV並みの静粛性と電動の豊かなトルクがもたらす走り。それらの特徴のいずれもが高速長距離を得意とする頂点クラスのセダンに相応なものである。
 新型ミライはそのとおりのクルマだった。穏やかに力強く、一般的な運転パターンでは高速域でもアクセルストロークの半分程度で済ませ、速度や加速の制御が至って容易。深く踏み込む必要などないのだが、試しに踏み込んでみれば荒ぶることもなく加速Gだけが高まっていく。しかも、過渡域の往なしもよく、多少ラフなアクセルペダルコントロールを行っても常に紳士的に振る舞う。
 245/45ZR20(メーカーOP)を履く外観からすれば刺激的な動力性能を想像してしまうが、力を誇示するような品の悪い振る舞いはない。洗練された包容力というべきか、駐車時の取り扱いでも高速巡航やワインディングの加減速でもドライバーにゆとりを与える高性能が印象的だ。
 装着タイヤのせいもあって路面当たりが少し強く感じたが、走りの車格感向上にとってFWDからRWDへの変更は正しい選択だ。
 加速やコーナリングで後輪に荷重がかかるとこらえを効かせつつリヤが僅かに沈む。ピッチ変化と呼ぶほど大きくもなく揺動もないのだが、往なし感が重質な味わいを生み出す。個人的にはもっと沈み込みストロークを用いるサスセッティング、要するに乗り心地寄りでもよく思えるのだが、凜としたハンドリングと上品な乗り心地が程よくまとまっている。
 ハンドリングの実力は市販仕様開発プロト車をショートサーキットで試乗した時に確認できている。フル制動からブレーキを抜きながらのターンイン、定常円からの全開加速など激しい荷重移動やグリップ限界を超えるまでの負荷を掛けてみたが、深いストロークを使いながら4輪に掛かるストレスバランスを上手くコントロールし、思い描いたラインをトレースしていく。VDIMの介入も的確であり、限界まで安心感と確かなコントロール性を維持した。
 この操安ポテンシャルを考えると乗り心地との両立点は相当高いことになる。これもRWD採用の効果のひとつかもしれないが、ミライはシャシー性能面でもトヨタ車の頂点にあるのは間違いない。
 重質、精度感、据わり、滑らかさ等の質感を高める要点を取りこぼしなく高水準でまとめ、電動ならではの高い静粛性とゆとりの動力性能が加わる。正統派プレミアムセダンそのもの。環境性能が云々と言わずとも極めて魅力的なモデルである。
 そんな感激を持ちつつ帰路に就いたのだが、水素ステーション探しで慌ててしまう。車載ITから最寄りの水素ステーション一覧を呼び出せば場所は大体の見当が付くのだが、営業の時間や日はまちまち。残量は約50%、実績燃費では250km以上走れる計算になるのでそれほど危機感は抱かないが、水素を求めて彷徨うのは避けたい。営業時間等の情報確認を行い帰路ルートに近い水素ステーションを選択する。これで僅かな不安感も完全に払拭された。
 水素ステーションで水素を補給。充填量は約3kg。最高率での充填での総量は5.6kg、大きめに安全率を取って5kgを実用容量とすれば実績予想値の残航続距離は230kmくらいになる。ちなみに燃費は120km/kg弱。おおよそWLTC総合モードの12%減。撮影等々の燃費悪化状況も含んでの値である。また、試乗したZに対してGは燃費が約12%向上するので、Gの満タンなら700kmはちょっと注意が必要だが、600kmなら安心してドライブできる見当である。
 クルマ単体の評価ならミライは間違いなく頂点クラスセダンのトップレベルにある。レクサスLSと並び立つトヨタの看板セダンとしてもおかしくない。その魅力が現在の水素インフラでは半減してしまうのがとても残念である。

レクサスLSなどと基本的に同じGA-Lプラットフォームを採用。堂々としたサイズだ。ロングノーズショートデッキの伸びやかなスタイルだが、後席居住性も十分確保されている。

スタンスの良さを感じさせるワイド&ローデザイン。威嚇するような鋭さではなく、すっきりとスマートな印象にまとめられている。

  • システムの要となるFCスタックなどはフロントボンネット下に収められている。災害など緊急時には外部給電を行えるポートも備えている。

  • トランクリッドと左右のサイドスカートに輝くFUEL CELLのエンブレム。

  • Zの標準は19インチ仕様だが、メーカーオプションで20インチも設定されている。

試乗車はメーカーオプション設定の20インチ仕様だが、標準でも19インチを履く。これは決して見た目のためではなく、航続距離を考えて水素タンクの容量を確保するため、最低地上高を増やすことが狙いだという。

  • 華美ではないところが逆に好印象。普段使いできる上質感がある。運転席と助手席で座った時の印象が異なるのも面白い。温かみのある新意匠のカッパー加飾も似合いだ。

  • ドライバーズカーとしてもとても魅力的だ。過剰なパフォーマンスの演出こそないが、走る、曲がる、止まる、すべてにおいて心地いい。

  • 数値的には荷室容量は先代より若干減少したが、張り出しの少なさなど使い勝手は確実に向上した。残念ながらトランクスルー機能はない。

ボディサイズの割に居住空間はそれほど広くはないが、逆にそれが外界との適度な遮断感を生み、ゆったり落ち着ける空間を生み出す。シートの座り心地もまさに中庸。前後席ともにちょうどいい。

トランクリッドをスポイラー形状にすることで、ルーフ後端からの傾斜角度を抑えているのがデザインの妙。後席のヘッドルームを確保することでショーファー用途にも対応しているのだ。

  • 12.3インチ高精細TFTディスプレイ。ナビ画面とユーザー操作用画面を同時に表示できる。

  • 落ち着きと温かみを感じさせる銅の色。新意匠のカッパー加飾は心地良さと和みがとても魅力的。

  • プリウスから乗り替えても違和感ないメーター類。高揚感には欠けるが、日常ユースには好適だ。

  • 格納式後席アームレスト。写真は試乗車Z。エグゼクティブパッケージにも同じものが装備される。

  • エグゼクティブパッケージとZに標準装備される、後席のタッチ式コントロールパネル。

  • センターコンソールボックス後部にはAC100V/ 1500Wコンセントのほか、USB端子も2口設置。

取材当日は2月とは思えないような陽気。南房総フラワーラインでは菜の花も満開に近い状態だった。

  • 横浜・みなとみらいを出発した直後に湾岸線事故渋滞が発生。横羽線で回避するルートを選択。

  • 冬の空は湿度が低くて青く澄んでいる。往路のアクアラインから館山道路に向かう途中にて。

  • 帰りの富浦IC通過直前。出発直後の事故渋滞以外はスムーズだった。燃料補給のため川崎へ!

  • 富浦ICの先の南房総は春の暖かさ。新型コロナの影響がなければもっと賑わっていたはず……。

  • ひと足早く咲いた菜の花と澄んだ海がとても美しい館山の海岸。遥か彼方には霞む富士山も。

  • 復路で富浦ICに向かう途中。燃料に余裕があるが、南房総には補給所がないため少し緊張。

セルフ充填を初めて経験!

今回はセルフ充填を初めて行ってみた。運営側の規定で事前講習が必要だったが改めて可燃性ガスの危険性を認識できた。

 充填ノズルは着脱時の漏洩対策がなされているのだが、引火性の強い超高圧可燃ガスである。静電気や電子機器の火花対策など火気厳禁の徹底は欠かせない。ノズルとレセクタプル(車体側の充填具)の接続や充填中の確認作業は必要だが、充填中にノズルを支持する必要はない。充填ガスは超低温に冷却されているので、むしろ充填が完了するまでは触れてないほうが安全。初体験でちょっと緊張したが作業的には給油よりも簡単だった。

新型MIRAIの ライバルはクラウンだ!

 ベーシックのGは710万円。クラウン3.5LハイブリッドRSアドバンスと同等。装備に対するコスパでは多少負けるが先進エコカーでも最先端のモデルにしては手頃な価格。しかも、快適性や走りの質感はクラウンに勝り、車格感でも上回る。一方、レクサスLS対比ではLSの最廉価仕様よりもミライの最上級仕様のほうが270万円近く安い。プレミアムセダンとしても先端エコカーとしてもかなり買い得。高級セダン派にはイチオシ。

 ただし、水素ステーションが身近にある、が絶対条件。高速SAにあればかなり緩和されるが、現状では行動半径内の水素ステーションの充実が実用面で不可欠である。

●文/川島茂夫 ●写真/澤田和久

提供元:月刊自家用車

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グーネットマガジン編集部

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