新車試乗レポート
更新日:2021.02.09 / 掲載日:2021.02.09
【試乗レポート マツダ MX-30 EV MODEL】電気で表現された「意のままの走り」

MX-30 EV MODEL
文●九島辰也 写真●ユニット・コンパス、マツダ
マツダ初の量販電気自動車であるMX-30 EV MODEL。これまでのマツダ車とイメージが異なるMX-30には、いったいどのような魅力、価値があるのか。そして電気自動車としての完成度は? 自動車ジャーナリストの九島辰也氏がレポートする。
MX-30は大きさのヒエラルキーとかカタチの属性にとらわれない自由さがある

MX-30 EV MODEL
MX-30は不思議なクルマだ。他のラインナップとは一線を画すポジションにある。大きさのヒエラルキーとかカタチの属性にとらわれない自由さがある。その要因となるのがデザインだ。マツダが銘打つ「鼓動デザイン」を具現化したそれは、まるでコンセプトカーがそのまま一般道を走っているような気さえしてしまう。それだけ、新鮮であり他の一般的なクルマとは異質ということだ。MAZDA3をはじめとするデザインコンシャスなモデルをラインナップするマツダブランドの中にあっても異彩を放っている。
そんなモデルだけに、今回試乗したEV MODELとはマッチングがいいと思った。先に進んでいるデザインなのだから、先に進んでいるパワーソースが似合うからだ。見た目が近未来的でも中身がオールドスクールであったら少々残念な気がしてしまう。
マツダがEVを手掛けるのはこれが初めてではない。量販車という面ではそうだが、官公庁向けにかつてデミオEVなるものを提供したことがある。リチウムイオンバッテリーを積んだ2モーターのクルマだ。2モーターといっても前後のアクスルにひとつずつ装備するのではなく、駆動用と発電用という意味。ちなみに、およそ10年前だが、開発段階のそれを走らせたのを覚えている。小さなボディが力強く走り出したのが印象的だった。
そんな経緯もあってこのクルマは生まれた。開発陣も当時の経験を生かし、プロジェクトを進めている。ただ、今回は開発をノルウェーで行ったそうだ。EVに関しての規制が緩く、その比率が高い環境で走行テストを繰り返したらしい。厳しい寒冷地ではEVの特性が活かせないだけに、相当至難の技だったに違いない。
ということで出来上がったのがMX-30 EV MODEL。原動機タイプは「e-SKYACTIV」と名付けられ、リアにそのエンブレムが貼られる。マイルドハイブリッドのMX-30はe-SKYACTIV-Gなのでその辺はしっかり頭で整理しておくことが必要だろう。
コンパクトにまとめられたEVモジュール

MX-30 EV MODEL メカニズム
ではその概要だが、リチウムイオン電池はお約束通り床下一面に敷かれる。バッテリーケースを構成するフレームをボディフレームに接合するカタチで搭載された。高温になりやすいそこにはエアコンを使った温度調節が与えられる。そしてこの他にDC-DCコンバーターやインバーター、モーターがフロントに収まるのだが、ボンネットを開けて驚いた。思いのほか中がスカスカで下が見えてしまう。内燃機関と違い補器類が少ないのでそうなるのだが、そこに新たな可能性も感じてしまう。要するにバッテリーがどんどん小さくかつ軽量になれば、スペースの少ないロードスターにも活用できそう。うーん、夢が膨らむ。
MX-30 EV MODEL メカニズム
MX-30 EV MODEL 給電口
EVであっても人馬一体のドライブフィールを大事にするマツダらしい仕上がり

MX-30 EV MODEL インテリア
それでは実際に走った印象に話を移そう。スタートから感じたのはとにかくスムーズだということ。EVにありがちなドーンという急激なトルクの立ち上がりによる加速がない。いたってシームレスにガソリンエンジンに近いフィールで速度を上げていく。個人的にこの感覚は好きで、EVを評価する上でそこに重点を置いている。ガソリン世代の肌感としては、あの加速はあまり好みではないからだ。その意味で、メルセデス・ベンツEQCが自然な走り出しを感じさせる最右翼だと思っている。ガソリンエンジンを世に送り出した“自動車の父”らしいEVへの取り組みを行った。動力源が変わっても自分たちの味を追い求めているのだろう。
MX-30 EV MODELは正直その領域にあると思う。人馬一体のドライブフィールを大事にするマツダらしい仕上がりである。その辺を開発主査の竹内さんに伺うと、まさにそこを大事にしたという答えが返ってきた。マツダのクルマはどのモデルも同じような感覚で運転が楽しいと思えなくてはダメだと。開発スタッフもそこは同じことを言っていると同時に、その難しさを語ってくれた。ガソリンエンジンはファジーな部分があるが、EVはそれがないのでモータートルクを滑らかにするようつくってあげなければならないといけないのだという。確かにクルマ好きが語るガソリンエンジンの“味”はその辺のファジーさかもしれない。
MX-30 EV MODEL インテリア
MX-30 EV MODEL インテリア
MX-30 EV MODEL ラゲッジルーム
パドル操作で回生ブレーキとコースティングをコントロール

MX-30 EV MODEL メーター
ユニークなのはそんなEVの走りをさらに盛り上げる装備だ。ステアリングホイール上のパドルがそうで、加減速をコントロールできる。左は回生を強くし、右はコースティング機構を働かすというものだ。通常この手の仕組みは回生だけで行うパターンが多い。VWや三菱などがそうで、5段階に分けてまるでギアの変速のように仕上げている。が、マツダはそれにコースティングを用いた。ポルシェやメルセデスのアッパークラスにも使われるそれは、駆動源と駆動輪を切り離し、フリクションを最低限にして滑空させる技術だ。
EVであってもマツダが目指す走りを体感できる

自動車ジャーナリスト 九島辰也氏
それはともかく、MX-30 EV MODELの走りはいたって自然で、マツダ流にいうところの“意のままの走り”に完成された。個人的には最終的にもう少しパワフルさがあってもいいとも思うが、この躾けられた上品さは好みである。まぁ、そこは実際に走らないとわからないので、少しでも気になった人は試乗することをお勧めする。マツダが目指す走りを体感できるはずだ。
マツダ MX-30 EV MODEL
■全長×全幅×全高:4395×1795×1565mm
■ホイールベース:2655mm
■トレッド前/後:1565/1565mm
■車両重量:1650kg
■モーター最高出力:145ps/4500-11000rpm
■モーター最大トルク:27.5kgm/0-3243rpm
■サスペンション前/後:ストラット/トーションビーム
■ブレーキ前/後:Vディスク/ディスク
■タイヤ前/後:215/55R18